第二話 英雄伝説と希望の探検隊
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!」
声を合わせて驚いて居るのがブイとトニ。
そしてその二匹を落ち着かせようとしているのがレイである。
二匹は一体何に驚いているのか、時は一同がブイの家に着いた所まで遡る。
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「ただいま!」
「お邪魔します。」
「おかえりなさい、どうだった?」
「見てよ、こんなにたくさん!」
リーフィアの姉にブイは自慢げに籠いっぱいの木の実を見せる。
これらはほとんどトニが独りで拾ったものだが。
「良かったわね。あら、その子は?」
姉はいつも居ないピカチュウに気付き尋ねた。
「レイだよ。森で会ったんだ。」
「お邪魔します。」
レイは丁寧に頭を下げた。
「来て!こっちが僕の部屋だよ!」
ブイの後につき部屋に入る。
部屋の半分ほどのスペースを藁の布団が埋め、あとは小さな丸テーブルと、本棚に数冊本があるくらいだった。
三匹は丸テーブルを囲うようにして座った。
すると後からブイの姉が、皿に乗せて、切った木の実を持って入って来た。
「あ、リーフさんありがとうございます。」
「どういたしまして。ゆっくりしていってね。」
そう言って姉、リーフは部屋を出ていった。
「あの人がお母さんか?」
「いや、リーフさんはブイのお姉さんだ。親切で凄く良い人だな。」
答えたのはブイではなくトニだった。
それを聞いて、確かにそんな感じがする、とレイは納得した。
「そうだ、レイはどこに住んでるの?」
「ここらへんの人じゃ無いだろ?」
二匹に問われてレイは、まだ説明していなかったことを思い出した。
少し言いづらいが、打ち明けることにした。
レイは、自分が人間だったこと、記憶が無いこと、そして森に迷いこんでからのことの全てを話した。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!」
話を静かに聞いていたブイとトニは大声を出して驚いた。
レイにとって想定内の反応だったが、信じて貰えるか不安だった。
「すごい!すごいよレイ!伝説と同じじゃないか!」
トニはまだ驚いているが、ブイは目を輝かせていた。
「...信じるのか...?」
ブイはもちろん、と大きくうなずいた。
「人間がポケモンになってやって来るなんて...伝説とそっくりだよ...!」
「信じてくれるのは嬉しいんだが...さっきから言ってる「伝説」って何なんだ?」
「英雄伝説のことだよ。」
驚きで絶句していたトニがようやく口を開いた。
「英雄伝説ってのはこの地方に伝わる伝説で、内容を要約すると、主人公が元人間を含む仲間たちと世界を救う...って感じだな。」
さらにトニは続けた。
「まあ千年以上の前の話だし、丸々信じてるやつは少ないぜ。俺もほとんどしんじてないし、知り合いで信じてるやつといったら...コイツくらいだな。」
トニはブイの方を見た。
「なんでトニは信じないのさ。絶対ホントだって!」
ブイはトニの説明に不満そうな顔をしていた。
人それぞれだから、とトニがなだめると言い返さなかったが、まだ表情は良くなかった。
「ホントならこの状況は前例ありってことか...」
「まあブイが本持ってるし後でじっくり読んどけ。」
ブイの部屋の本棚を見ると、本が三冊あり、それぞれ「英雄伝説」の一章、二章、三章と書いてあった。
後で読もうか、と考えていると、ところで、とトニが話題を変えた。
「人間の世界から来たって言うんなら、泊まるところも無いんじゃないか?」
「ご飯も無いよね。」
レイは忘れていた。
この世界には自分の家が無い。
まずは生活の心配をしなくてはならない。
「あ。それだったら、ギルドに入らない。」
「そうか。あそこなら宿も食事も確保できる。」
「おまけにお小遣いも稼げるしね♪」
この世界に来たばかりのレイに、ギルドと言われてもなかなかピンとこない。
「...なんだ?宿も食事もあって金も貰える...そんな都合の良いことがあるのか?」
「んー、まあそうなんだけど、代わりに「探検隊」に入って働かないと駄目だよ。」
ブイが説明するが、レイはまだ良く理解できないので、トニがさらに詳しく説明する。
「ギルドは慈善活動団体、みたいな感じかな。その活動拠点が街にあって、そこなら食事や宿泊ができる。」
「探検隊っていうのは何をするんだ?」
「いろんな人の依頼を受けて、なくしものを探したり、おたずね者を捕まえたり、人助けの仕事をする。」
「人の役に立つから、やりがいがあるよ。」
「ふーん、まあなんとなく解ったかな。」
しかし、この二匹、やけに詳しいな、とレイは思った。
「もしかして...お前らそのギルドの探検隊か?」
「うん、そうだよ。」
「ギルドの中にもいくつもチームがあってな。俺とブイのチーム名は「ホープ」。」
どうりでこんなに詳しい訳だと、レイは納得した。
「そうだな...条件もいいし、「ホープ」に入れてくれるなら、ギルドに行くよ。」
「やったー!新メンバーだ!」
レイが「ホープ」に入ることになり、ブイは嬉しそうだ。
「じゃあ、手続きが時間かかるし、今日はここに泊まって明日ギルドにいくか。」
三匹はブイの家で他愛もない話をし、やがて眠りに着いた。