01 prologue
初めは幻聴だと思っていた。なにしろ、聴覚はずっと閉じたままにしてあって、何も聞こえないはずだったのだ。
「やあ」
だが確かに、それは誰かの声だった。顔見知りに対する気さくな挨拶のように、それは軽やかに響いた。
無意識に開かれた聴覚と憶えのない声に、私は困惑した。と言うよりも、生き物がいたことに驚きを隠せなかった。
――ほとんど、いなくなってしまったはずで。
やはり、幻聴なのだろうか。
「生きてる? 死んでる? まあこのご時世だし、死んでても気にしないけど」
気さくを通り越して生意気にさえ感じるそれは、間違いなくこの死の世界に強く息づく生命だった。