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僕は、自分の能力を心の底から呪った。背中の穴は、とんでもないものを吸い込んだ。
痛くて、苦しくて、辛くて、頭がおかしくなりそうだった。
僕の片割れはこの穴から出ていったが、その時に蓋の一つでもしてくれればよかったのだ。そうすれば、僕は己の抱える闇に苦悩するだけの存在でいられたはずなのに。もともと同じものだったのだから、僕の気持ちくらいくんでほしかった。
片割れは自業自得だと笑うだろうか。だが、ヒロトがヒロトの兄と一緒に公園で歩いているところを一目見たときから、高揚は抑えきれなくなっていた。しかたがないのだ。付随物が異常だったことが不幸だったのだ。
この、人間の形をした悪魔が持っていた魂は、この世の黒色をすべて集めて凝縮したように真っ黒な色をしている。そんなものが僕のうつろを満たすものだから、たまったものではない。ともすれば、僕の体はばらばらに引き裂かれて飛散してしまうような気がした。体が痙攣し始める。
触角の片方がぼろりと取れた。
「しっかり……し……」
ヒロトが、僕の体を揺さぶる。何のために? 心配の感情? そんな莫迦な。解せない。
一度僕の中に取り込まれ、疑似的に死を味わい、あまつさえ兄から刃物で刺され出血しているのに、それでもなお僕の心配をするのか。
ヒロトの顔が歪んでいる。涙で汚れている。
――皮肉なものだ。僕の中にひそむうつろな闇は、僕の望むものを誰からも引き出すことはできなかった。だが、僕自身が傷つき、意図的ではないにしろヒロトを救うことによって、望んだ表情が見られた。
痙攣が激しくなる。
「……ヌ……ン……」
それはヒロトが僕に勝手につけた名前だろうか。よく、聞こえない。
悪意の塊が暴れる。無垢な子供を三人も殺したあげく僕の目の前で地中に葬り、人間でない僕も殺しの対象とし、さらには自らの弟を凶刃に絡め取ることさえ厭わなかった残虐な魂が、僕の中から飛び出そうとする。
抑えつけろ。渾身の力で。さっきの状況に逆戻りはしたくない。僕なんかよりずっと酷い形をしている化け物がヒロトを傷つけるなんて耐えられない。
ヒロトは僕のものなのだ。誰にも渡さない。僕だけが、ヒロトを傷つけられるのだ。
この不本意な結果を、いつか絶対に覆す。僕の力だけで、ヒロトの顔を恐怖に染めてやる。僕には、この生き方しかできないのだ。
それまでは――この凶暴な魂を内に留めておこう。
「しっかりして、ヌケニン……」
しばらく、眠ろうか。これをあの化け物に還すのは、ずっと先のことになりそうだ。