ドダイトスの丘
ある広い野原に、一匹の大きな大きなドダイトスがいました。
どれぐらい大きいかというと、それはもう、こうらだけでバンギラスが見あげるほどで、あたまからしっぽまでアーボを10匹は並べるぐらいでした。
ずしん、ずしんと野原を歩いて見回りしながら、柔らかな草と土を食べたりするのがドダイトスの日課でした。
ドダイトスは大きいので、一歩歩くごとに野原がちょっとふるえます。
ひなたぼっこしているとムックルたちが飛んできて、こうらの上の木に止まってぴちぴちさえずっても、ドダイトスは好きにさせています。
小鳥たちが飛んで行くと、今度はヤナップたちがやってきてこうらの上で鬼ごっこを始めました。
さすがに騒がしいのでドダイトスが身震いすると、ヤナップたちははしゃいでまたこうらの上を走り回ります。
仕方ないなあ、と思いながらドダイトスはまたずしん、ずしんと歩きはじめました。
野原の真ん中には、古くて小さなお墓が立っていて、その周りにはドダイトスの好物のクローバーがいつもたくさん生えています。
そればかり食べているとすぐになくなってしまうので、そのクローバーはドダイトスにとっては大切なデザートでした。
野原をぐるりと回っておなかがいっぱいになってくると、お墓のところまで行って、少しずつクローバーを食べます。
日当たりの良い野原の真ん中に生えるクローバーは甘くてやわらかくてとてもおいしいのでした。
ドダイトスは何十年も何百年も生きているので、もう自分が小さなナエトルだった頃のことはあまり覚えていません。
飼い主だった人も随分昔にいなくなってしまいました。
それから何人かの人間がドダイトスを捕まえようとしましたが、ドダイトスは誰にも捕まることはありませんでした。
ドダイトスはクローバーを食べながら、ぼんやりと飼い主だった人のことを思い出していました。
最近はその人のことをよく思い出します。
その人がどんな顔だったか、どんな声だったかはもう随分と昔過ぎてわすれてしまいました。
もう、その人といた時間よりもドダイトスがひとりきりでこの野原にいる時間のほうがずっとずっと長いのでした。
覚えているのは、小さなナエトルの双葉をなでる小さなやわらかい指が、ナエトルがハヤシガメに成長していくのといっしょに大きくなっていって、最後には節くれだったシワだらけの手になっても同じように優しくドダイトスの背をなでていたこと。
あのひとがいなくなってから墓石に刻まれた文字がかすれて見えなくなるぐらい長い間、ドダイトスはこの野原にいました。
ふわ、と暖かい風が吹いて、ドダイトスの背中の木をさやさやとゆらしました。
気持ちのいい、やさしい風です。
ドダイトスはなんだかねむくなって、お墓の隣にずしぃん、と音を立てて横たわり、目を閉じました。
そして、もう二度と目を開けることはありませんでした。
ある広い野原の真ん中に、小さな丘があって、そのてっぺんには大きな木が生えています。
その丘の直ぐ側には、古びてこわれかけたさなお墓があります。
丘とお墓のまわりにはたくさんのクローバーが生えていて、丘のてっぺんではいつも小さなポケモンたちが遊んでいます。
その丘はなんだか亀の形に似ているので、誰かがドダイトスの丘と呼びました。
おしまい