*第一話・「時は、満ちた」*
ふ、と。
唐突に目が覚めた。
大分長い間眠っていたのか、体がとても重い。すぐに前のように動けるとは到底思えなかった。
強張った体を解す意味も込め、立ち上がり洞窟から外へ出る。
周りの様子は、眠りにつく前とはあまり変わっていない。まぁそれも、当たり前のことだ。こんな辺鄙で痩せた土地、好き好んで訪れる者などはいないだろう。
何となく空を見上げてみる。
詳しい時間は分からないが、きっと今は真夜中だ。だって鏤められた星々と、あんなにも綺麗な。
「…………………そろそろ、か」
沸々と力が湧き上がるのを感じながら、ゆっくりと口角を吊り上げる。
眠る前に蒔いた種は、成長して大きな波紋を生み出しているだろう。定期的に届いていた便りに因れば、5年の歳月が経過していて、けれどその間も『計画』は順調に進んでいたようだ。
両腕を広げ、仰ぐように空を見る。やっと、待ち望んでいた日が来た。
「…時は、満ちた。今度こそ、世界は我が物となる。二度も邪魔などさせるものか…!!」
吊り上げたままの口の端からくつくつと笑い声が漏れそれは次第に高笑いへと変わる。
空に浮かんでいる筈の月は、夜と同じ色をしていた。