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*5*
「………これが、消去(バニシング)………」
『そう。………………怖い?』
「………いえ。恐怖とかそういうのは……あまり無いです。貴方と話せたことで、気が紛れたのかも」
『あ、そう?それは良かった!』
アハハ、と、本当に嬉しそうな声でアイレスは笑った。
つられてフィーリアも笑う。

それから、2人は他愛もない話をした。
話し終えるのを待っているかのように、光は輝きこそしていたが、フィーリアの体を更に透明に近付けることは無かった。
アイレスの想いを、この空間が汲み取ったのかもしれない。



話が一段落した頃。

『「!!」』

フィーリアから発せられる光が一度、強く瞬いた。
それは別れの時間が来たことを知らせるもので。
『………………流石にもう、時間か』
「…………。……お別れ、ですね」
『……そうだね。でも、もしかしたらまた逢えるかも知れないよ』
何処で、とは敢えて言わなかった。
「…あ、その可能性もありますね。では、悲しむのは止めにします」
フィーリアは、何時の間にか光らせていた涙を堪え、微笑った。それは彼女が、此処で見せた中で一番の表情だった。
『ははっ、やっぱり君は、笑ってる顔が一番似合うよ!』
「そうですか?………消去って……何故か変に緊張します…(苦笑)」
『そうなの?そんなこと言ったのは君が初めてだな』
本当に緊張しているらしく、フィーリアは深呼吸を繰り返している。
それから少しして落ち着いたのか、小さく息を吐いてからフィーリアは言った。
「…あの、アイレスさん。……お願いがあるんです」
『なぁに?消去区画(此処)で出来る範囲内なら何でも叶えてあげるよ』
「いえ、そんな大したことじゃないんですけど………。……私のこと、覚えていてくれませんか?」
『え?』
フィーリアからの「お願い」は、予想だにしないものだった。
『…………それだけで良いの?』
「はい。……アイレスさんがつらくなるって………只の我が儘だ、って、解ってます、解ってるんです。…けど、どうしても…………、…こんな言い方したら失礼かも知れないですけど、…誰でも良いから、『わたし』が存在していたことを覚えていて欲しいんです」
『……なるほど。わかった、叶えてあげる。…『じぶん』を誰も覚えてないってのはちょっと寂しいからね』
アイレスは快諾した。
フィーリアは、ほっと安堵の溜め息をつく。
「……よかった…。断られるかと少し心配だったんで、す………?」
最後は何故か疑問形だった。どうしてだろうと少し考えるが、すぐに気付いた。
『……声、小さくなってない?』
「………ですね。うーん……でも半分以上体消えてますし。当然といえば当然……でしょう、ね」
フィーリアの体は既に腰の上辺り迄消えており、そこから光の欠片が霧散するように、同じく光る体を崩していく。
『…………そっか。じゃ、ほんとにこれでお別れだね』
「…ハイ」
暫し言いようの無い空気が流れる。
光の侵食が鎖骨へ到達した時、フィーリアが言葉を紡ぐ。
「…私、此処へ………強制的にですけど、来れてよかったと思ってます」
『そりゃあまた………。…どうして?』
「旅では絶対に経験出来ないことを出来たからですよ。それに、自分の意思でこんなに話したのも久し振りだったので。………アイレスさん、此処で貴方とお話し出来て嬉しかったです。ありg」




一一一一一バツッッ!!!




何かが盛大に切れるような音がした。

嵐虚 珀桐 ( 2012/05/18(金) 00:16 )