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*4*
「……貴方だけの空間。」
『そ!だから先刻言った通り、此処じゃ操縦士(プレイヤー)は何の意味も持たない。誰も何も干渉出来ない。故に此処に来ることが操縦士の意思であっても、此処に来てからの感情や考えた末の結果……兎に角、この場所で感じたこと全ては他の誰でもない、君のモノなんだよ』
「………」
アイレスがそう話し終えた頃、其処に他の光の姿は無かった。
静寂が漂い、無機質な機械音だけがただ流れる。
ややあって、フィーリアが尋ねた。
「この話を……どうして、私に」
『……………。……どうして、だろうね。ボクにもよく分からない、けど………重なって見えたのかな。あの子に』
「あの子?」
『うん』
アイレスの声が、ふと愁いを帯びたものに変わる。
『先刻言った「ゴールド」と同じ………でも、少し達う「世界」から来た女の子。「クリス」って名前で……容姿こそ他の主人公たちと同じだったけど、操縦士がまだ小さかったのかな。彼女の言動はとても幼いものだった』
操縦士の言動や思考回路は主人公に反映される。幼さ故に無知だった彼女は、しかしその意思に反して此処に現れたというのだ。原因は、『正規の不具合(バグ)』だった。
「正規の不具合、って……。存在するんですか?それ」
『発生確率はゼロに等しい。けれど、等しいだけでゼロじゃない。だから確実に存在する。………ま、ボクが出来てからそれで来た主人公は後にも先にも居ないけど。』
「…その、クリスという方と私が似ている、と」
『うん。他人(?)の空似か……あぁ、もしかしたら操縦士が同じ人だったのかもね!』
性格とかが大きく変わったりしてなければ、の話だけど。アイレスはそうも付け加えた。
再び沈黙が訪れる。
程無くして唐突に、その静寂を劈くサイレンが鳴り響いた。1O秒程断続的に流れた後はぷつりと途絶え、また元の静けさが戻る。
突然の事象が理解出来ないという体で、フィーリアは尋ねた。
「…今のサイレンは…?」
『……業務命令、みたいなもんかな。もう時間みたいだ』
「アイレス」の本体に取り付けられたディスプレイが、ゆっくりと文字を映し始める。
《すべての セーブデータエリアを しょうきょ しますか?▼》
《はい》《いいえ》
表示された選択肢。操縦士の意志で《はい》を選ぶ。
《しょうきょした データは もとに もどせません》
《それでも セーブデータエリアを しょうきょ しますか?▼》
最終確認の質問。これも意志に従い、《はい》を選択する。
程無くして、自らの体から弱い光が発せられるのが解った。色は、光が弱すぎてまだ判らない。
《しょうきょ しています》
《しばらく おまちください▼》
次の文章が映し出された瞬間、発せられる光は強くなり、その色は黒だと判った。同時に、自身の身体が透け始める。

嵐虚 珀桐 ( 2012/03/22(木) 21:56 )