上+SELECT +B
*1*
再開された其処はただ、白と黒が敷き詰められただけの空漠とした空間。今自分が立っているのか浮かんでいるのか、それすらも判らない不安定な所に居た。其れは前回最後に見た、リバティガーデン島の穏やかな景色とはあまりにも懸け離れていた。
小波の音が聴こえない。あの青い『自由の灯台』 の影も見えない。だから、最初こそ不具合(バグ) だと思っていた。
けれど――――――・・・。
「・・・・・・・・・」
足元を見る。其処に自分の影は無い。影も見えない程高い場所に居るのかそれとも、 もう影など存在しないのか。
頭上を見上げる。何も無かった場所にひとつ、紅い光。その前にはジバコイルの様な大きさと形をしたロボットが浮遊していて、左右のアームに取付けられた赤と青のランプが交代しながら点滅している。暫く眺めていると、そのランプが二色同時に三回瞬き、紅い光が広がって、消えた。ロボットも背景に溶けるように、消えていった。
目線を元に戻す。気がつけば翠や蒼、白や金といった様々な色の光がロボットと一緒に浮かび、先程と同じように次々とまた、消えていく。
直感は正しかった。やはり此処は―――・・・
「・・・・・・消去区画(デリートエリア)」
呟く、そして。
何かが反応したのだろうか。目の前の白と黒が歪み始める。程無くして歪みから出現したそれは、他の光の前に浮遊していたものよりひと回り程大きく、左右にはアームとランプの代わりにスピーカーの様な箱がついていた。
ジジ、と音がしたかと思うと、
『やーやーやー大せーかーい!!ボクは『アイレス』、よろしく!にしても、よく此処が消去区画だって判ったね!』
男とも女ともつかない声がスピーカーから大音量で発せられた。多少戸惑いながらも何とか答える。
「は、はい・・・・・・まぁ、操縦士(プレイヤー)の意志・・・・・・ですから」
『!ふぅん、操縦士・・・・・・ねぇ』
朗々とした声が一転、鬱屈なものに変わる。

この世界・・・・・・もとい、『ポケットモンスター』 と銘打たれたゲームの世界の住人は、自分の存在やとる行動すべてが組み込まれたプログラムの上にあることを知っている。
『操縦士(プレイヤー)』というのは世界の主人公となる少年少女を分身として物語を進める者達の総称。
その名前は物語を始める際に付けられ、其れはタイトルだったり操縦士の名であったり、好きなモノの名前や或いは全く関係の無い名前や造語だったりと様々で、消去区画に来るまでは其れを自らの名前とし生活する。

嵐虚 珀桐 ( 2012/03/10(土) 17:52 )