第二章;冬の魔女と白き雪の女王
深夜の学校で
ルカリオたちの修行がはじまろうとしていたそのころ。ほかのクラスメートたちは…




深夜だった。
ポケモンハイスクールは、当然のことながら静まり返っていた。
いやーー足音がする。廊下を誰かが歩いている。
足音は、ルカリオたちの教室の前で止まった。引き戸が開き、するりと教室に体を滑り込ませたのは、バシャーモだった。夜中だから、彼の真っ赤な体は余計目立つ。
なぜこんな深夜に彼が来ているのか。というのは実は彼、サーナイトの友人、グレイシアに思いを寄せていたのだ。が、外見に似合わずバシャーモは意外と恥ずかしがり屋で、告白する勇気がなかったのだ。手紙を机の中に入れようとしても、もし誰かに見られたら……と思い始め、どうしようかと迷っているうちに夜になってしまったというわけだ。
いつまでも迷っているわけにはいかない。当たって砕けろだ。いや、砕けてどうする。などと自分で突っ込みをいれながら、彼は決断したのだ。ついにグレイシアの机の中にラブレターを入れるということを。まあ夜だから誰にもいられないだろうという理由もあるのだが。

バシャーモはふーっと息を整えると、手紙を手に、彼女の机の中に入れようとした。そのとき。

廊下から足音が聞こえてきた。
ぎくり。とバシャーモは体をこわばらせた。まずい。こんなところを誰かに見られたら恥ずかしすぎる。もし見られたら翌朝の学校で……
ーーお前今どき手紙かよ!古っ!
ーーグレイシアがお前のこと好きなわけねェだろ!
と、さんざん言われるのがオチだ。
隠れねば、と思った。どこに?机の下?違う。教卓の下?不正解。ここは掃除道具入れがベストだ。
というわけで、バシャーモは掃除用具入れの扉を開けた。なんとか身を潜めて扉を閉めた。
それとほぼ同時に、二人目の人物が教室に入ってきた。
アンソニー(ヤナップの少年)だった。みなさんはすでに忘れているかもしれないが、彼も一応クラスメートの一人だ。登場する出番が少なすぎてほとんど空気と同じ存在になっているが。

こんな真夜中に、誰もいない教室で、地味なヤナップの少年がなにをするというのか。教室に入ると、アンソニーはまず電気をつけた。蛍光灯の白い明かりが教室を満たす。アンソニーは、手に一冊の雑誌を持っていた。手近な机の上にその雑誌を置くと、雑誌の中ほどにあった袋とじを開け始める。
袋とじの表には、こう書いてある。
『限界セクシー!今芸能界で話題のレパルダスの、ここまで見せちゃっていいのかしらスペシャル!』

なるほど。家では開けにくい袋とじを真夜中の教室で開けようということらしかった。なんというか、やることがいかにも普通だ。
ちょうどその袋とじがバシャーモの隠れている掃除用具入れから見えた。
(嘘ーー!あのアンソニーがあんなもん見んの!?あいつ家であんなもん見てんの!)
あまりの衝撃に思わず叫びそうになるが、なんとかこらえた。

さて、アンソニーがハサミを使って、丁寧に袋とじを開けようとした、まさにそのときだった。
廊下から足音が聞こえた。
やばい。どこかに隠れなければ。どこに隠れる?アンソニーはあたりを見渡した時、掃除用具入れが目に留まった。
そうだ、あそこに隠れよう!一目散にダッシュする。勢いよくあけられた扉。
が、すでにそこにはバシャーモがいた。
うおっ!?と声をあげそうになったが、すんでのところでこらえた。
なんでバシャーモが夜の教室の掃除用具入れに?てかなんでこいつまでいるんだよ?と思ったが、今は自分の身を隠すほうが先決だ。アンソニーは手でちょいちょいと、横によって、と身振りで示すと空いたところに身を潜め扉を閉めた。

(あれ?てかさっきの袋とじ、バシャーモ君に見られた?)


そしてそれと同時に三人目の人物が教室に入ってきた。またもやクラスメートのダイケンキだ。
深夜の教室に、ダイケンキが何のようだろうか。水が恋しすぎて夜中のプールに泳ぎに来たのか。いや、なら家の風呂かどっかで勝手に泳いでろという感じだ。
だがそれは違った。
ダイケンキは雑誌を一冊持っていた。近くの机の上にその雑誌を置くと、付録の袋とじを開け始める。
袋とじの表にはこう書いてある。
『これであなたも大丈夫!さんまアレルギー完治法!』
ーーいや、どんな袋とじだよ!
ーーさんまアレルギー完治法?だったら袋とじにしなくてもいいだろ!なかなかいないよ、そんなアレルギー持ってる人!
ーーそれにわざわざ夜の教室で開けなくてもいいだろ!
という突っ込みを入れたかった二人だが、声を出すわけにはいかない。
で、ダイケンキがハサミを使って袋とじをあけようとした、まさにそのときだった。
また廊下から足音が聞こえた。
ダイケンキは焦った。まずい。こんなところを誰かに見られたら、さんまアレルギーの治し方が学校中に広まってしまう。
いや、心配するポイントがちょっと間違ってるような気がしたが、まあいい、とにかくダイケンキは焦った。そして、隠れねば、と思った。
明るい教室で身を隠すには、掃除用具入れがベストだ。彼はすぐに決断すると、駆け寄って扉を開けた。
「ーーー!」
驚愕は当然である。狭い用具入れの中に、すでに二人のみたことのある顔がぎゅぎゅうずめになっていたのだ。バシャーモとアンソニー。
無理無理!もう満員!他当たれ!
2人の心の声が聞こえたが、いまさら隠れる場所の変更は無理だ。足音はどんどん教室に近づいてくる。
ダイケンキは、しょーがねえだろ!という顔で、ぐいぐいと掃除用具入れに自分の体を押し込んだ。彼がなんとか扉を閉めたところで、四人目の人物が教室に入ってきた。
エンペルト・ルドルフである。
ナルシスト野郎が深夜の教室にいったい何の用だろうか。
エンペルトは教室に入ると、手にしていた雑誌を机の上に置いた。どうやらこいつも袋とじを開けに来たらしい。
彼はハサミを使って袋とじを開けた。すると中にもう一つの袋とじが入っていた。その袋とじを開けると、なかにまた袋とじがあった。開けるとさらにまた。延々と袋とじが続く。要するに雑誌一つ丸ごと袋とじみたいな状態なのだ。
週刊フクロトジ、という名の雑誌だった。

ーーどんな雑誌だよそれ!
ーーしかも週刊て、結構なペースで出んのな!
掃除用具入れの三人は、声には出さず、心の中で突っ込んだ。エンペルトが次々に袋とじを開けているときだった。廊下から足音が聞こえた。
まずい、と彼は思った。こんなところを誰かに見られたら、袋のネズミだ。誰かに応援を呼ばれて、袋叩きにされたうえに、家に電話されておふくろを呼ばれてしまうかもしれない。いや、袋袋うるせーよ、という感じのエンペルトだったが、ともかく隠れる場所を探した。
掃除用具入れだ、と彼は即決した。掃除用具入れに飛びつき、扉を開ける。と、中にはすでに三人の男でぱんぱんになっていた。
(お前ら!)
愕然とするエンペルト。そして先客三人は激しくかぶりを振って、無理無理無理!さすがにもう無理!もう隙間ない、とアピールするが、それでもエンペルトは強引に中に入っていく。
狭いロッカーに四人である。全員が立っているのは無理だ。もう無理、お前出ろ、とアンソニーはかわいそうに外にはじき出された。そしてアンソニーのいなくなったスペースにエンペルトがするりと入り込み、扉がバタンと閉められる。
一秒後、アンソニーはパニックになった。
ーーーウソでしょー!?出てる出てる!僕、はみだしちゃってるから!見つかりそうだから!入れて入れて!
だが、掃除用具入れの扉は固く閉じられていた。
(ちょ、マズイって!来てるから!誰か来てるから!)

だがアンソニーの懇願も届かず、そこへ足音の主が到着した。
教室にはいいてきたのは、グレイシア・フォードだった。バシャーモはあっ、と息をのむ。グレイシアさんだ…グレイシアさんだ!自分の恋い焦がれているグレイシアさんだ!
グレイシアは特に反応も見せずに、アンソニーの前をスルーしていく。
「なんだ、教室の電気がついてるから誰かいるのかとおもったけど、誰もいないみたい」
彼女は自分の机に行くと、置き忘れた筆箱を持ってきたカバンの中に放り込んだ。そしてそそくさと電気を消して、教室を出ていく。

「……」
ーーいや、っていうーか!
という突っ込みはアンソニーである。
ーー僕ここにいたのに全然気づかれなかったんですけど!思い切り姿サラしてるのに、グレイシアさん、僕に全く気付きませんでしたよ!キセキの世代ですか僕の存在は!

掃除用具入れの中から三人がササっと出てくる。呆然とするアンソニーに三人はきまり悪そうな顔をしながら、教室を出ていく。もちろんバシャーモはきちんとグレイシアの机の中にラブレターを入れることを忘れなかった。
最後に教室の去り際、呆然とするアンソニーの肩をたたきながらバシャーモは教室を出た。
「……お疲れ様……」



しん、と静まりかえった教室に一人残されたアンソニー。ぽつり、と彼はこのことを思わずにはいられなかった。
「……僕の存在っていったい……」


リア ( 2015/08/17(月) 08:29 )