ルカリオ冒険記 - 時を超えた出会い編
運命の歯車
第一章;変革の章、開幕!!


 波動の勇者現れしとき、南に漆黒の覇者、北に雪の君現る
 
 そのとき世界は照らされ、闇の時代は終わりを告げる






部屋に目ざまし時計の音が鳴り響く。下からは、母親が早く起きなさいと叫ぶ声が聞こえる。少年は眠たそうに目をこすった。
「ああ〜また今日も学校か…めんどくさいなあ〜」
彼の名はルカリオ。サッカーが大好きなごく普通の高校生。ルカリオは名残惜しそうに布団から出ると部屋のカーテンを開ける。いつもはやわらかなはずの太陽の光が、朝ではこんなにもつらく感じるものなのか。外から差し込んでくる光に目を細めながら、大きく伸びをし、下へ降りるため階段のほうへ向かう。

1階では、母が朝ごはんを作って待っていた。
「全く、相変わらずお寝坊さんね。朝ごはんさめちゃうじゃない」
母は呆れたように笑って言った。いつもは右隣で新聞を読んでいる父の姿がない。今日は、父は出張で一足早く家をでたのだ。
朝ごはんは母の大好物、目玉焼きだ。そのためか、台所で食器を洗う母の後ろ姿がいつもより楽しげに見える。鼻歌まで歌い始める始末だ。

(どんだけ目玉焼き好きなんだよ…朝から母の音痴な鼻歌聞かされるオレってかわいそうな息子…)
そんなことをぼんやりと考えながら、ルカリオはご飯を食べていたが、ふと何かを思い出す。
そういえば今日何か忘れてるような…そうだ、宿題をやってなかった!
昨日は練習試合などがあり、つい早く寝てしまったのだ。
「やっちゃた…なんとかばれないようにしないと…」

ご飯をいそいで食べ、ルカリオは家を出た。きちんとドアを閉め、母からの行ってらっしゃいの声にもこたえる。外では、親友であるジュプトルが待っていた。彼とは家も近くて、クラブもクラスも一緒で、行きも帰りも一緒だった。
「おそいよルカリオ、遅刻しちゃうぜ。またお母さんに引っ張り出されたのか?」
ルカリオは朝に弱いため、普段は母にベッドから引っ張り出されていた。ルカリオとジュプトルはもう小学校からの付き合いだから、相手の癖や生活習慣などは知り尽くしていた。

「いや、今日は珍しく目覚まし時計で起きたんだ」
と、ルカリオが笑いながら答える。

「へー、珍しいな。ルカリオが自分で起きるなんて天地がひっくりかえるよ!」
ジュプトルが大げさに驚いてみせる。

彼らの通う学校は徒歩で20分くらいのところにある。朝からは雀の鳴き声が聞こえ、仕事へと向かう人、子供を見送る母親など、さまざまな人々が道に出ていた。時計に目をやると、8時35分。
「やべ!あと10分で遅刻だ!]

2人は思わず顔を見合わせて、急いで学校へと向かった。

 時計の針は八時四十分を指している。何とかぎりぎり間に合ったようだ。正門には人影がまばらにしか見えない。もうほとんどの生徒は教室に入っている。正門に立っていた教師が急げと2人をせかす。
教室に着くと、ルカリオが息をきらしながら言った。
「すまねえけど、今日の理科の宿題写させてくれないか?昨日早く寝ちまってやるの忘れてたんだ」

「お前が宿題忘れるなんて!今日は珍しいことばっかだな!」




 最終下校のチャイムが鳴り、徐々に校門からクラブを終えた生徒たちが下校する姿が、ちらほらと見える。クラブ活動に入っていないものや大学受験に備えて塾に通うものは、すでに下校している。
 ルカリオも部室で帰る準備をしていた。そのとき、廊下を慌ただしく走る足音が聞こえ、何事かと振り返ってみると、ジュプトルが息を切らせながら部屋に滑り込んできた。
「おい、そんなに急いでどうしたんだよ?」

 ルカリオの問いに、彼は目を輝かせて興奮気味に言う。
「お前、今日クラスで幽霊マンションのこと聞いたろ?夜になると幽霊が出るっていう話をさ。そのビルに今から行ってみないか?オレとお前で真相を確かめるんだよ。」
 確かに、教室では最近幽霊マンションの話を耳にすることが多かった。
話によると、そのマンションができてから、工事をするときに作業員が事故に会ったり、原因不明の病で倒れたりと奇妙なことが起こり始めた。作業員たちはみな怖くなり、当然工事中止となった。マンションはそのまま放置で、現在では近所の悪ガキどもの遊び場となっている。

ルカリオはそのマンションにもいつかは行ってみたいと思っていたが……極度の怖がりである彼が行けるはずもなかった。
「やめとかない?…夜は暗くてアブないし…」

 親友が引き気味に言うとジュプトルはバカにすような口調で諭す。
「はは〜、お前幽霊が怖いんだな?いがいと意気地なしなんだな。」

親友の言葉に、ルカリオはとても腹が立った。
「怖いわけねェだろうが!そんなの大丈夫に決まってんだろ!」

思わず声を荒らげるルカリオに、ジュプトルはにやりといたずらっぽい笑みを浮かべた。
「じゃあ、今からマンションに行けるんだな?だったら今すぐ行こうぜ。」
ルカリオが挑発に乗ってくることを知ってジュプトルはわざとバカにするような口調で言ったのだ。しまった、と思ったときにはときすでに遅し。怖がりのレッテルを張られることを防ぐには、ついていくほかなかった。


「ここが幽霊マンションか…」
幽霊マンションはこの時刻でも、青いシートに街灯の明りを映して、妙に安っぽく光って見えた。さびれた姿はまるで見たものに同情を求めるようであった。幽霊マンションは住宅地の真ん中に位置し、比較的目立つところにある。

「近くで見ると結構すごいな……さ、中に入ろうぜ」
2人は中に入り、階段を上っていく。ときおり風が吹き、夜の寒さがあらためて身にしみる。手すりはさび付いており、もうずいぶんと人の手が加わっていないことをうかがわせる。時折壁に落書きがしてあるのは、近所の暇な悪ガキたちがいたずらに書き残していったものだろう。しーんと静まり返った雰囲気の中、2人の階段を上る足音だけが響く。

「本当に幽霊が出るのかよ…」
 ジュプトルがぼそっと不安げにつぶやく。ジュプトルはなにか起こることを期待しているようだが、ルカリオは、このまま何も起こらないように、とそっと心の中で願っていた。
 そうこうしているうちに、あと少しで屋上というところまで来てしまった。

ジュプトルはがっかりしたように言う。
「なんだ、結局いねえじゃん。つまんねえの。ルカリオ、オレ先に屋上いってるぞ」
少し下にいるルカリオに声をかけると、有り余った元気でさっさと行ってしまった。

「階段のぼるのアイツどんだけ早いんだ…」
息を切らせたルカリオは、いったん階段に座り込む。どれだけ登ったのかーー。確かめようと横を見ると、ふと一つの部屋が目につく。不思議に思い覗き込むと、奥に扉があるのが見えた。内側から青い光が漏れている。

「なんだあれ?こんなところに扉なんてあったのか…」
ルカリオは扉に近づいていった。扉はルカリオより一回り大きく、見事な彫刻がなされていた。
ルカリオはそっと近づくと、扉は案外大きいことが分かった。なんでこんなところに扉が……。

「どこにつながってるんだ?」
不思議に思った彼は扉を開けた。扉の中からは光があふれてーーーーー



気がつくと空にいた。いや、空にいたのは一瞬のことですぐに地面へと落ちて行った。
「うわ!」
叫び声とともに、ルカリオは落ちていった。
小石のようにまっしぐらに、地上に向かって落ちてゆく。飛びすぎてゆく周囲の風景は、あまりのスピードにぼやけた影にしか見えない。明るさだけしか感じられない。さらにスピードがましてゆく。
どすん!と、背中から着地した。あんなに上から落ちたのに怪我ひとつしていない。そんなことありえるだろうか…

 そんなことより、ルカリオは青空の青さに驚いた。まるで吸い込まれそうな青だ。現世ではこんなきれいな空はきっと存在しないだろう。
(ほんとにきれいな青だ……)
 しばらくすると、ルカリオの頭が正常に回ってきた。
「ここはどこなんだ…?」
不安げにまわりをみわたすが、一面じゅう砂漠しか見えない。本当に砂しかないところだ。

「とりあえずは人を探さないと…」
まわりには生き物の存在すら感じなかったが、ルカリオはとりあえず人を探すことにした。
この状況では分からないことが多すぎる。

ルカリオが歩き出そうとした途端なにかが地面から飛び出してきた。
「な、なんだこれ?」
それが宙に躍り上ったとき、4本の足と長い尻尾が見えたので、ルカリオはそれを犬だと思った。
だがその姿は犬ではなかった。それは体は犬だけど、頭が犬じゃなかった。
その頭はなるで…コークスクリューだった。こいつの頭はそんな頭だった。

そのモンスターは吠えると口を開けた。というより、ネジネジ頭全体をふくらませながらてっぺんを向けたのだ。

 キャっと叫んでルカリオは逃げた。右に走ると3歩ほど先に渦巻きができつつあることに気付いた。左に走ると新しい渦巻きができて、新手のネジネジが出てきた。あっという間に囲まれてしまった。絶体絶命である。

両手で顔を覆ったとき、何かに襟を掴まれた。体が浮いた。
 気が付いたらルカリオは空を飛んでいた。ルカリオの第一声は、なんでオレ空飛んでるの?だった。
そんなに高くは上がっていない。スキー場でリフトに乗っているみたいだ。
 ネジネジは今や五匹に増えていた。盛んに吠えながら足に噛み付こうとしている。
「ねじオオカミの群れに飛び込もうなんて、正気とは思えねぇ!」
 ルカリオの頭の上で甲高い声がした。

「オレが通りかからなかったら、あんたエサになってたぜ」

どうやらこの声の持ち主がルカリオの命の恩人というわけだ。今のところは。
 「どうもありがとう。おかげで助かりました。」

「いやいや、礼には及ばんよ。ところであんた、あそこでなにしてたんだ?」
上から聞いて来た。砂が目に入ってくるせいで、顔は見えないが、おそらくトリポケモンだろう。
「まさか、逃亡者じゃないだろうな?」
 逃亡者というインパクトの強い言葉にルカリオは返事に困ってしまった。

「あの岩場に降りるぞ」
言うが早いが、そのトリは左手の岩場を目指した。岩場が近づくと、ぐっと高度を下げてルカリオを放り出すようにして降りたった。
「痛っ!」
ルカリオは岩場から転げ落ちそうになった。
ルカリオの前にはなんと、トリポケモンではなく現世では普通に野生動物としているような鳥が話してきた。
体は混じりっ気のない朱色で、大きさは二メートルくらい。顔はワシのような顔立ちだ。
翼をたたんだ鳥は、カクンと首を下げてルカリオを見下ろした。

 ルカリオはどもりながら困った。だってこいつ鳥だよ。鳥なのに言葉を話してるなんて……。

「で、お前はここで何をしていたんだ?まさか本当に逃亡者か?」
また分からない質問が出てきた。トウボウシャってなんのことだろう?

「あの、すいません。逃亡者ってどういうことですか?僕はただ道に迷って…」

それを聞いてトリは不思議そうな表情を浮かべる。
「道に迷った?じゃあお前は旅をしていたのか?」

「旅人じゃないんですけど…そうだ!記憶をなくしたんです。自分がどこから来たか覚えてなくて…」
ルカリオはとっさに思いついて言った。

必死なルカリオの様子を見て、だんだん鳥の顔が真剣になってきた。記憶をなくした?ますます怪しいな…そもそもあの砂漠でなにをしていたんだ?
考えれば考えるほど、疑問が浮かんでくる。
 しかし、こいつをそのままにしておくわけにはいかない。たぶんこのままほっといたら、ネジオオカミどもの餌になるのがオチだろう。そうなりゃ、せっかく助けたオレの苦労も水の泡だ。

「あまりよくわからんが、逃亡者ではなさそうだな…。ひとまず、ポートタウンに行くとするか。おいお前、今からもうひとっ飛びするぞ」

「え?ちょっと待ってください。今からどこに行くnってうわああ!」
ルカリオが言い終わらないうちに、鳥がルカリオを掴んで空に舞い上がった。
地面がどんどん離れていく。




リア ( 2015/04/11(土) 21:24 )