時を超えた出会い編
夜明けとともに


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「ちょ、ちょっと待ってくれ…。お前、頭大丈夫か?」
 ゾロアークがとまどったようにルカリオを見る。ルカリオのことを完全に頭がいかれてしまったと追っているようだ。
 (たしかにこんなこといきなり言われても信じられないよな…)
 自分がもしゾロアークの立場でもそうだろう。

「でもお前、記憶をなくしたんじゃないのか?」
 
 ゾロアークの問いに、ルカリオはためらいがちに口を開いた。
「…あれは嘘なんだ。こんなこといきなり言えるわけないだろ?」

「そうだけど…」
 ゾロアークはなにか考えたような顔になったが、思いついたように言った。
「サーナイトとウィンディを呼ぼう。2人も聞かなくちゃならない」


〜30分後〜
 ルカリオがどうやってこの世界にきたか、そしていつの時代にいたかを話し終えたあと、2人はしばらくぽかんとした顔だった。
「突然すぎてなにがなんだか…」
 ウィンディも、突然のことに驚きを隠せないようだった。
 ふと、サーナイトが口を開く。
「ねえ、ルカリオ。今の話は本当で、あなたは未来から来たのね?」
 
 彼女の言葉にルカリオがうなずく。そのことを確認すると、サーナイトは意を決して言った。
「わかったわ。私はルカリオの話を信じる。2人ももちろん信じるわよね?」
「「ええっ!?」」
 
「…なによ、あんたたちまさか信じないっていうの?」
 
「いや…そういうわけじゃないけど…」
 ゾロアークがためらいがちに言う。
「ありえないだろ?ポケモンが未来からくるなんて…」
 ウィンディもうなずく。

サーナイトがあきれて言った。
「あんたたちねえ…ルカリオが本当だって言ってるんだから、信じなさいよ。それとも友達が言ってること信用できないの?」

彼女の言葉に、ウィンディは困惑した表情で落ち着きなく部屋を歩き回っていたが、突然ゾロアークが立ち上がり、ふいに外を見つめてつぶやく。
「オレ、ちょっと外出るわ」

「ちょっと!待ちなさいよ!」
サーナイトの制止の声も聞かず、ゾロアークは部屋を出ていく。ウィンディは気まずそうに肩をすくませる。扉が閉まる音がし、部屋はふたたび気まずい沈黙が流れる。

そんな彼らを見ながら、ルカリオはため息をついた。
「…いいんだ、サーナイト」

「でも…」

「こんな話、信じられなくて当たり前なんだから。それに…」

「オレは本当はこの時代にいちゃいけないポケモンなんだ。ブラック団もオレをねらってるから、これ以上オレに関わるとお前らも危なくなるーー」
「ちょっと待て!お前がブラック団に狙われてるってどういうことだ⁉︎」
ウィンディが、驚いた声を上げる。

「それは…」
全部話そう。話さなくちゃならない。ルカリオは大きく息を吐くと、話す決心をした。
「言われんだ、エムリットに。オレは波動の勇者で、この世界を救うために、この時代に来たんだって。ブラック団は予言を食い止めるために、オレを狙うだろうって。だから、お前らがこれ以上オレと一緒にいたら危険なんだ。これ以上は…オレに関わらないでくれ」

「!そんなこと…」

「これでいいんだ。オレは誰とも出会わなかったし、誰とも関わらなかった。だからお前らはオレのことは何も知らない。これで…いいんだ」
怒涛のように、彼らと過ごした思い出が、ルカリオの心に押し寄せる。ネジオオカミの群れから、助けてもらったこと。街を探検したこと。伝説のポケモンと出会ったこと。
そして…彼らと初めて出会ったこと。
ああ、どうして思い出しちゃうんだろう。これじゃあ、別れるのが辛くなるじゃないか。

「ふざけないでよ…」
空白。そしてサーナイトはルカリオに飛びかかってきた。目には怒りと悲しみが入り混じり、ルカリオの胸倉をつかむ手に力がこもる。
「どうして?何でよ?どうしてあたしたちが、あんたと関わっちゃいけないのよ?何が危険よ!あたしたちは仲間じゃなかったの?あんたは、あたしたちと出会わなかったら良かったと思ってるの?どうして、ルカリオはそんな意地悪なことを言うの?」

「意地悪してるわけじゃない」

「してるわよ!」
サーナイトはルカリオを突き飛ばした。ルカリオは椅子から転げ落ち、思い切り尻餅をついた。

「サーナイト!」
ウィンディが声を荒らげたが、サーナイトは声など全く耳に入っていない様子だ。なおも飛びかかろうとするサーナイトを、ウィンディは必死で押さえつけた。
「落ち着け!今争ったところでどうにもならない!」

「分かってるわよ!でも…どうしたらいいのよ…」
彼女の腕がわなわなと震えている。ウィンディはサーナイトを一旦落ち着かせると、ルカリオに目を向けた。
「お前はそれでいいのか?本気で一人で立ち向かうつもりなのか?」

ウィンディの問いかけに、ルカリオは一瞬答えを詰まらせる。
「…ああ。ブラック団の狙いはオレだ。お前らが怪我をするのは嫌なんだ。それに……本当はお前らとは出会わなかったはずなんだから」

「オレはな」
声の調子が少し変わった。目はまっすぐルカリオを見つめている。
「お前の言い訳がききたいんじゃない。お前の本当の気持ちを聞いている。歴史が変わるとか、危険だとか、そんなことをきいてるんじゃない。ルカリオはどうしたいのかを聞いてるんだ」
夜の暗闇が空の明るみを差し招き、席を譲り始めた。ウィンディはルカリオに向き直ると、ルカリオの目をまっすぐに見つめた。ルカリオは耐えられなくなって、目をそらしてしまった。
「でも……歴史が変わったらだめだし、お前らを危険な目に合わせる訳には行かないんだ」

「オレはそんなこと聞いてるんじゃない。本気でお前一人で勝てると思ってるのかと聞いている」
確かにそうだ。でも…仲間を巻き込む訳には…。そんなルカリオの心を見透かしたように詰め寄る。
「誰でも一人じゃ生きられねえんだ。そのために仲間がいる。おれたちは仲間じゃねえのかよ?もっとオレたちを頼れよ…」
ウィンディは悲し気に目をそらす。ルカリオはその空気の重さに耐えきれず、思わずその場に座り込んだ。
ウィンディは再度、ルカリオの眼を見つめる。
「オレはお前みたいに、他人を頼れないやつをよく知ってる。そいつはなんでも一人で背負おうとして、周りを悲しませて…。そいつは一番強いように見えて結局はーー」
「一番弱かったんだ」
突然声がし、振り返るとゾロアークが立っていた。開け放たれたドアから差し込む夜明けの光が、ゾロアークの青い瞳を輝かせる。
「オレの家族はブラック団に殺された」
唐突な告白だった。うなだれていたルカリオはゾロアークを見た。
「もう10年前の話だけどな。だからな、ルカリオ」
ゾロアークは青い澄んだ瞳で、ルカリオを見つめる。知らなかった。ゾロアークにそんな過去があったなんて…。
「お前一人が抱え込む必要はねえんだぜ。お前はオレたちを頼っていいし、オレたちもお前を頼る。それにお前だけがブラック団と戦うのは許さないぜ。オレが今まで生きてきたのは、奴らに復讐をするためだ。それだけは絶対に譲れないからな」
ウィンディも頷く。
「やるなら全員でだ。おっと、お前に心配されなくても大丈夫だぜ?オレたち、そんな弱くねえからよ。な?」
彼が笑いながら、ゾロアークを見る。
「当たり前だ。弱かったら強くなりゃ良いだけの話だ」
弱ければ、強くなればいい。その言葉が、ルカリオの頭に響いた。
「…ルカリオ」
サーナイトが気まずそうに声を掛ける。
「その…さっきはごめん。あたしも熱くなりすぎて…」

「オレもごめんな。お前らに…あんなこと言って」
ルカリオはしっかりサーナイトの方を向いて話した。今なら、しっかり前を見ることができる。
「もう一度問うぜ、ルカリオ。お前は本当はどうしたいんだ?」
自分はどうしたいのか。答えは自分の中にある。ルカリオは仲間たちを見つめると、大きく頷いた。3人とも、笑顔で頷き返した。
強くなろう。仲間を守るために。
やっと夜が明けた気がした。







〜ブラック団本部〜
 奥の広間では、幹部の一人、マニューラ・チャーチとアブソル・スミス、ユキメノコ、そしてミュウツーの4人がいた。
「およびでしょうか、ミュウツー様?」
 アブソルが問うと、ミュウツーが無表情のまま、淡々と言う。

「2人を呼んだのは、今回新たにブラック団に入るものを紹介しようと思ってな…。入れ」
ミュウツーの言葉とともに奥の扉がゆっくりと開かれる。黒い翼をもったその男は、自らの歩みによって、一踏みごとに周囲の空気を震わせた。
 室内の装置や、壁が、その男の足音に合わせ、原子を小刻みに震わせる。
 まるで、男の纏う鬼気におびえているようでもありーーー
男の圧倒的な力を、原子そのものが賞賛しているようにも見えた。

「紹介する。この者の名はーー」
「サザンドラ・ギリアスだ」
 男はミュウツーの言葉をさえぎって名乗った。

 さえぎられたことを気にすることもなく、ミュウツーは話を続ける。
「この者は圧倒的な強さゆえにギラティナ様に力を買われた。よってこのものにはーー」
「マニューラに代わって幹部に入ってもらう」

「な!?」
 マニューラは耳を疑った。アブソルも驚きを隠すことができない。
「ちょっと待って下さい!なぜこの男があたいの代わりに!?あたいはーー」
 マニューラは反論しようとしたが、ミュウツーの鋭い眼光ににらまれ話を続けることができなかった。

「ギラティナ様直々のご命令だ。それにマニューラ、お前はゾロアークというガキを倒せなかったようだな?」
 
「っ!あたいは倒せなかったんじゃありません!倒さなかったんだ!」
 
「同じことだ。それとも貴様、ギラティナ様に反抗しようというのか?」
 ミュウツーの言葉に、マニューラは従わざるを得なかった。
「…いえ、なんでもありません…」

「ならいい。わがブラック団に力のないものはいらぬ。よってサザンドラ、お前をブラック団幹部に任命する」
 マニューラはぐっとこぶしを握り締めた。瞳に憎しみの炎をたぎらせながら。
 サザンドラはマニューラのそばを通ると耳元で囁いた。
「よろしくな、元幹部さん」
「…ッ!」
 
 アブソルはそんなマニューラを横目で見ながら心の中で呟く。
(…マニューラ、まさかお前にこんな日が来るとはな。お前は今…何を考えている?)

 サザンドラはアブソルの前で立ち止まり、あきらかにマニューラのときとは違う態度で接した。
「よろしくな、アブソルさん」
 アブソルはそんなサザンドラに厳しい顔をして言う。
「…あまり馴れ馴れしくするな。でなければ…」
 アブソルは背中にかけてある刀を引き抜くと、すばやくのど元につきつけた。
「殺すぞ」

 こんな状況であるにも関わらず、サザンドラは冷や汗ひとつかかずに平然としている。
「わかったわかった。あんたには十分気をつけますよー。ったく…人が親切にしてやってんのによお」
 彼はぶつくさ文句を言いながら、ミュウツーのもとに行った。

 アブソルは、部屋を出て行ったマニューラのことを案じながら、ミュウツーの元へと向かう。いくら力で成り立っているとはいえ、長年ともにやってきた関係だ。さすがのアブソルも気にかけずにはいられなかった。
 ユキメノコはミュウツーに声をかけた。
「そろいました、ミュウツー様」
  
「…そうか。ギラティナ様、準備が整いました」
 ミュウツーの声とともに、闇に赤い目が2つ浮かび上がる。
彼は伝説のポケモンとしてはあまりに礼節が足りぬと言われーー
彼は戦士としてはあまりに粗野と言われーー
彼は力としてはあまりに扱いずらいと言われーー
それでも、圧倒的な強さでブラック団をまとめ上げていた。

反転世界の王であり、反逆者であり、ブラック団真のボスーーギラティナ。
「我が目的は世界の統一。それを邪魔するものに容赦はいらぬ。ついに我が目的を成すときがきた…」

「私が王となるときが来た!」



〜七賢人〜
かすかな動きを感じとり、アグノムがアルセウスに近寄る。ここでは七賢人たちが集会を行っていた。
「アルセウス…今のは…」
 彼の言葉に、アルセウスがうなずく。
「…ああ。とうとうブラック団が動き出したか…」

 突然スイクンが駆け寄ってくる。ずいぶんと急いでいるようだ。
「アルセウスさん!大変です!」

「どうした?そんなに急いで…」
 スイクンはあわてた様子でいう。
「どうしたもこうしたもないですよ!ブラック団が北の帝国と手を結んだんですよ!」
 彼の言葉に、まわりの伝説、幻ポケモンがはっとした。

「北の帝国と?そいつはまずいな…」
 フリーザーが不安げに尋ねる。
「手を組んだら…どうなるんですか?」

「今の状況でははっきりと言えないが…最悪の場合はーー」
 戦争がおこる。アルセウスが言わなくても、頭の中に声が響いてくるようだった。りんとした声で、アルセウスは宣言する。
「ついに我らが動くときが来た。かつての友、ギラティナが北の帝国と手を結んだ。七賢人の名にかけて、必ずとめねばならぬ!それぞれ、自身が治めている地域に目を光らせよ!」

アルセウスの声に、七賢人たちは動き出した。ある者はそらをとび、ある者は海を渡って向かった。
アルセウスは地平線を見つめる。遠い昔、別の道を歩いた、かつての友を思いながら。

 



リア ( 2015/08/01(土) 22:34 )