ブラック団との接触
暇だなぁ…」
ルカリオは部屋に寝転びながら、天井を見てつぶやいた。今は冬休み中で、学校は休みだ。その代わり、宿題がたんまりとある。
「宿題あるのはいつの時代もかわんねぇんだな。年末までに、ある程度終わらさないと…
一人でやるのもつまんねぇし…そうだ!」
ルカリオはある考えを思いついた。
「ゾロアークの家に行ってみよう!」
ルカリオは、サーナイトから彼の家は森の奥にあると聞いていた。
森の中を進む途中で、ルカリオは何者かにつけられているような感じがしたが、気にせず前に進んだ。ようやくゾロアークの家が見えてきた。少し開けているところに、丘のようになっている所がある。そこに洞穴があり、扉にはゾロアークと書いてある。
「ここがゾロアークの家か…」
ルカリオは扉をノックした。が、返事がない。
「あれ?留守なのかな。おーい、ゾロアーク、いるのかー?」
「ぼうや、どうしたの?」
「うわ⁈」
後ろから突然声がし、ルカリオは驚いた。振り向くと、買い物カゴを持っている女性が立っていた。
「驚かせてごめんなさい。私はこの近所に住んでる者よ。名前はフライゴン、あなたは?」
「ルカリオです。あの…ゾロアークを知りませんか?」
「ああ、彼なら今日はいないわよ」
「え?そうなんですか?」
「あら、知らなかったの?彼、休日は城で護衛として働いてるのよ。学費を稼ぐためにね」
「護衛!?あいつ働いてたんだ…。
教えて下さってありがとうございました」
「いえいえ.どうってことないわよ
じゃあね!」
女性は優しい笑顔でそう答えると、飛び去っていった。
「ゾロアークがいないってなると…うぃんでの家に行ってみよう!」
ウィンディの家に行くには森を抜けなければならない。道を歩いている時も、やはり行きの道で感じた気配があった。後ろを振り向くが、誰もいない。
「やっぱ気のせいか」
ウィンディの家は、町の通りに立っていた。しっかりとしたレンガの家だ。ノックすると、ウィンディが扉から顔を出した。
「ルカリオじゃないか。どうしたんだ、急に。」
「いやあ、一人で宿題するのもなんだかなあと思って。それに、ゾロアークも留守だったし」
「そうか、あいつ今日任務の日だからなあ。上がれよ、ルカリオ。俺もちょうと暇してたところだ。」
ルカリオが靴を脱いで、部屋へ入ろうとすると、ウィンディがさっとタオルを差し出した。
「これ」
「え?」
「いいから、早く足と手ふけよ。汚れるだろ?」
ルカリオはよく分からなかったが、言うとおりにした。
(こいつ…もしかして潔癖性?)
部屋を見渡すと、埃ひとつ落ちていたい。ウィンディは何も汚れていないのを険しい表情で確認すると、笑顔になっていった。
「そこの椅子に適当に腰掛けてくれよ」
「あ、ああ…」
(なんだったんだ、あの豹変ぶりは…)
二人はもくもくと宿題をし、気がつくと、夕方の五時をさしていた。
「おっと、もうこんな時間だ。そろそろ母さんが帰ってくる時間だ。」
「ええ?ウィンディ、それってオレを家にいれて良かったのかよ?」
「大丈夫だよ。母さんはそんなこと気にしないから。それよりルカリオ、お前は時間大丈夫か?」
夕方の五時になると、森の中は暗くなってくる。
「そうだなー、ある程度宿題も終わったことだしそろそろ変えるとするよ。今日はありがとうな、ウィンディ。おかけで宿題がもう少しで終わりそうだ」
「こっちもありがとうな、今日は楽しかったぜ」
「じゃあ、気をつけて。また暇な時は、いつでも来いよ」
ウィンディは玄関で、ルカリオにそういった。ルカリオも笑顔で答える。
「じゃあ、また今度!」
出て行こうとするルカリオをウィンディが呼び止めた。
「そうだ!思い出したんだけど、最近ブラック団が動き始めたらしいんだ。気をつけろよ」
「ああ、分かってるよ。じゃあな」
ルカリオは道を歩いていると、向こうから来る人影が見えた。
「あれは…ゾロアークか!」
ゾロアークの方もルカリオに気がつき、駆け寄ってきた。
「ルカリオじゃねえか。どうしたんだ?こんな時間に」
「さっきまでウィンディの家に行ってたもんだから。その帰り道って訳さ」
「なるほどな、おれは任務からの帰り道だ。近くまで一緒に帰ろうぜ」
二人は暗い森の中を、いろんな話をしながら歩いた。ウィンディが潔癖性だと分かって驚いたこと、護衛の仕事は結構大変なことや、宿題が全然終わってないこと。
「戦った相手っていうのが、財宝を狙った山賊でさ。そいつらが結構強くて苦労したんだけど、結局倒してやったんだ。それでーー」
ゾロアークはふと話をやめ、歩みを止めた。
「どうしたんだ?」
ルカリオが不思議に思い、こえをかける。
「そこにいるのは分かってんだ。出て来い!」
ゾロアークが声を上げると、木から2りの人影が飛び出してきた。
一人は猫のような外観で、もう人りは白い毛皮をしている。
「やれやれ、やっぱりばれてたみたいだねぇ。ねぇ?アブソル」
猫のような外観をした人が言う。もう人りの名前はアブソルというようだ。
「私に馴れ馴れしい口を聞くな、マニューラ。元はと言えば、お前がのろいからだろう」
マニューラと呼ばれたほうは、機嫌を損ねたようだ。
「なにさ?あんた、あたいが足手まといだっていうのかい⁈」
「そんなことも分からんのか。だからバカが相手では困るのだ」
「なんだと⁈…まあいい。あんたのことは後だ。確かあたいらの任務は、こいつらの力量観察と、サンプルを取るってことだね?」
「その通りだ。さっさと終わらすぞ」
二人は戦闘体制を取ると、ルカリオ達の方に向き直った。
「その黒い紋章は…ブラック団か?」
ゾロアークが聞くと、マニューラはにんまりと笑った。
「その通り、よく分かったね。てことはあんたがゾロアークか。で、そっちの青いやつがルカリオって訳か」
「!どうして俺たちの名前を知ってる?」
ルカリオが驚く。
「我等も舐められたものだ。すでに貴様らのことは調査済みだ。ルカリオ、お前が未来から来たことも」
「な…」
信じられない。まさかこいつらは、そんなことまで知っていたのか?
ゾロアークは信じられないといった顔でルカリオを見る。
「ルカリオ…一体どういうことなんだ?」
マニューラが高笑いをする。
「まさか、誰にも言ってないとはね!こりゃ、失礼なことをしたね」
「口を閉じろ、マニューラ。お前もさっさと終わらせたいだろ?」
「そりゃそうさ。さっさと…」
「おわらせようじゃないか!」
来るぞ!ゾロアークの声に、二人は戦闘体制をとる。
「さざめけ、アイスローズ!」
マニューラの声とともに、ルカリオたちの足元の地面からみるみるとたくさんの氷の華が現れ、どんどん大きくなっていく。するとだんだん足元が氷で覆われていく。このままでは地面が氷に覆われてしまう。ゾロアークは素早く上に飛び上がると、炎の魔法を繰り出した。巨大な炎の竜巻が現れ、地面を覆う氷の華を燃やしていく。
「ルカリオ、お前はアブソルの相手をしろ!おれはこいつをかたずける!」
「分かった!」
ルカリオはアブソルに向き直った…のはいいが、どうやって技を使えばいいのかわからない。自分が使えるのは簡単な技だけだ。どうしよう…オレが使えるのって小学生でも使えるやつだぞ!?そんなの通用する相手かよ!でも…やってみるしかない!
ルカリオはふーっと自分を落ち着けるため息をはくと、決心して眼前の敵を見据える。当たって砕けろだ!
アブソルもルカリオの攻撃に身構える。
(こいつ…一体どんな技を出すつもりだ?)
ミュウツー様によると、このガキは予言の波動の勇者。未来から来た者。一体どんな技を使ってくる…?
ルカリオがアブソルに向かって走り出した。
様々な攻撃パターンを頭の中で考えるアブソルだったがーーールカリオが繰り出した魔法に彼は唖然とする。
「はどうだん!」
ルカリオの呪文とともに、強い衝撃波が現れアブソルに襲い掛かるが、簡単にかわされてしまった。
「次は…こちらから行かせてもらう!」
アブソルは目を細め狙いを定めると、目にもとまらぬ速さで駆け出した。目で追えず、一瞬見失いかける。アブソルは白い体毛をたなびかせ太陽を背に飛び上がり、ルカリオの視界を奪う。
アブソルの頭の刃が鋭くなり、思い切りルカリオにたたきつける。
「があ!」
ルカリオは鋭い斬撃を受け、地面に叩きつけられた。
後ろで起こった強い衝撃に思わずゾロアークが振り返る。
「大丈夫か、ルカリオ!」
「よそ見してる暇はないよ!」
彼の放った電気を帯びたクナイをかわしながら、マニューラが隙を与えない。
「くっ!」
ルカリオは立ち上がると、青い剣を出現させ、手に持つと、アブソルに向かっていく。
「受けろ!ボーンラッシュ!」
だが、アブソルは素早く避けると、ルカリオの腹を蹴り、足を蹴りとばす。
「ぐわぁっ!?」
ルカリオは勢いよく吹っ飛んだ。彼の体は岩におもいきりたたきつけられ、土ぼこりが舞う。岩に亀裂が入り、ルカリオは地に伏した。
アブソルはぴくりとも動かないルカリオをつまらなそうに見やる。波動の勇者などと聞くから一体どんな相手かと思えば、ロクに魔法も使えんただのガキだったな。こんな奴はわれらの脅威にもなりえんだろう。
「マニューラ、任務も終えたしさっさと戻るぞ。こんな弱いやつを相手にいつまで戦ってもつまらんだけだ」
マニューラはアブソルの言葉に不服そうに、しばらく黙っていたがやがてあきらめたようにため息をついた。これ以上戦っても無駄だと判断したらしい。
「それもそうだね、さっさともどっちまおう」
「待ちやがれ!」
ゾロアークが声を荒らげて呼び止めるが、マニューラは後ろを振り返り鋭い瞳でゾロアークを見た。
「ゾロアーク、今度あったときはたっぷり相手をさせてもらうよ。それまで戦いはお預けだ」
「行くぞ、マニューラ」
ブラック団の幹部達は、姿を消し、あとには二人だけが残された。焼き焦げた地面、大きな亀裂が入った大岩などが戦いの激しさを物語っている。ゾロアークは敵が去ったのを確認して、ようやく呼吸を落ち着けることができた。
「!ルカリオ!」
ゾロアークはルカリオに急いで駆け寄った。
「おい、しっかりしろ!大丈夫か?」
呼び掛けるが、反応はない。ルカリオは、ぐったりとしていて、かなりのダメージを受けているようだった。
「ひとまず、どこかに移動しないと…」
ゾロアークは、ルカリオを背負うと、とりあえず自分の家に向かった。
ルカリオは傷の痛みに目を覚ました。体を動かそうとするが、痛みに動かすことが出来ない。目だけゆっくりと開けると、ゾロアークがルカリオに気づいて、ベッドのそばに歩いてきた。
「お、目が覚めたみたいだな。大丈夫か?」
「ゾロアーク…。ここはどこなんだ?」
「ここはオレの家だ。安心しろ、ある程度の傷は治しておいたからな」
ゾロアークの家…。自分はいったいどうなって…そうだ、あのときアブソルに強い斬撃を受けて…そこから記憶がない。ぼーっとしたままのルカリオをゾロアークが心配そうにのぞき込む。
「大丈夫か?」
彼の声にはっと現実に引き戻される。ルカリオはなんとか礼を言った。
「すまねーな、ありがとう」
安堵した様子で、ほっとゾロアークが息をついた。しばらく部屋の中を沈黙が漂う。時を刻む時計の音だけがやたらとはっきり聞こえた。
すると静寂を破るように、ゾロアークがためらいがちに聞いた。
「なあ…ルカリオ」
「ん?なんだ?」
ルカリオが顔を向けると、ゾロアークはじっと蒼い瞳でルカリオを見つめ続ける。やがて彼は、決心してゆっくりと息を吐くと言った。
「さっきブラック団の奴らが言ってた…未来から来たっていうのは…一体どういう事なんだ?」
ドクンと心臓が音を立てる。いつかは言わなければ鳴らないと思っていたが…まさかこんなにも早く来るなんて。ゾロアークだけではない、サーナイトにも、ウィンディにもいつかは言わなければ鳴らないだろう。そして彼らは一体どう思うのだろうか?
ルカリオは深く息を吸い込むと、全てを話す決心をした。
「…本当の話だ」
ゾロアークが息を呑む。
「オレは未来から来た」
ブラック団基地
奥の広間では、マニューラとアブソルがミュウツーに報告を行っていた。
「…以上が報告です」
「そうか、報告ご苦労だった。私からもギラティナ様に伝えておく。それと…」
「サンプルはしっかりとったのか?」
「はい、もちろんです」
部下の答えに、ミュウツーは薄笑いを浮かべると、ギラティナに報告するため、広間を出て行き、あとにはアブソルだけになった。彼は窓から見える満月を見上げるど、遠い過去のことを思い出した。
「待ってろよ、リーフィア。必ず生き返らせてやるからな…」