ルカリオ冒険記 - 時を超えた出会い編
貴族ってやっぱ大変なんやなぁ byホウオウ
?「今回誘拐するのはあの有名な貴族の娘、ティエリアだ」

??「ティエリアってあのディアンシーの?」

?「そうだ。ディアンシーには宝石を作る力があるといわれている。それを利用すれば……」

??「ギラティナの奴にも見返せるってもんだ!」

?「ああ。オレたちを捨てたこと…後悔させてやる!」



サーナイトはたまたま目の前の公園を通りかかったとき、奇妙な光景を見た。高校生くらいの2人の男がブランコに座っている少女に絡んでいる。
「おいガキ。ここをただで通ろうなんてええ度胸やないか。ん?」

「ここはな、オレらシャークスの領地やねん!遊ぶんやったら金出せやコラァ!」

脅されているにも拘わらず少女はまったく怖がらずに、上品に首をかしげる。
「シャークスってなんですの?食べられるんですか?」

「食べモンちゃうわ!不良のグループ名や!…あ、自分で不良って行ってもうた…」

もう一人の男が気を取り直して言う。
「とにかく有り金全部出せってゆうてんねん!さっさとしろや!」

これはヤバい。何とかして助けないと!そう思ったサーナイトはとっさに彼らのもとへ駆け寄る。目の前で困った人がいると放っておけないのだ。
「ちょっとあんたたち!なにしてんの!」

突然の見知らぬ者の登場に、不良は少しぎょっとした表情を浮かべたが、すぐにメンチを切る。
「なんやお前?」

「ガキはあっちいってろ!」
しっしと言うと、少女のほうに向きなおる。
ガキ。その言葉がサーナイトの導火線に火をつけた。

「ガキはテメエらの方だろうがあっ!!」
サーナイトの怒りの鉄拳が男どもの頭に直撃する。彼女は細身な外見であまり力はなさそうに見えるが、実はものすごい怪力を持っているのだ。
男はよろめき、尻もちをつく。もう一人は完全にのびている。
「くそ!覚えとれよ!」
男は苦し紛れに叫ぶと、のびている相方をおぶって公園から去っていった。
サーナイトはペッと唾を吐き捨てた。
「青臭いガキがナンパなんて100年早いんだよ」

「あ、あの!」
立ち去ろうとするサーナイトをよびとめる。
「先ほどはありがとうございました!」

「いーのいーの。ガキって言われたの腹立っただけだし。それより…」
サーナイトは少女を改めて見る。服装は市民が着るものにしては高価に見えるし、仕草も上品だ。
「あなた、どこから来たの?」

「あそこです」
少女の指差した方向を見ると、遠くに王族が住む城が見える。この国の象徴とも取れるシンボル。え、ちょっと待って。もう一度見直すが…やはり城をさしている。
「あなたお城に住んでるの!?」

サーナイトがすっとんきょうな声をあげると、少女は優雅に微笑む。
「正確に言えば、屋敷に住んでいるものです。わたくし、ティエリア・ルミナスアークと申します。あなたのお名前は?」

「…えーと、私の名前はサーナイト。でも貴族の方がどうしてこんなところに?」
サーナイトが尋ねると、ティエリアは少し困った顔をする。
「実は困ったことがありまして……」

「力になれるならなんでもするわよ!」
サーナイトが言うと、ティエリアの顔がぱっと明るくなった。

「では…街を案内していただけませんか?」





照り付ける灼熱の太陽。セミの鳴き声が耳に張り付いて中々離れない。心なしか道行く人も、いつもよりは少ない気がする。暇な人は、今頃自宅で休んでいることだろう。そう、警察の仕事はこんなときでも休みはない。
さすがに鬼神と呼ばれる男でも、夏の暑さにはかなわないようだ。警視総監のバクフーンは自動販売機の取っ手から、めんどくさそうに水を取り出す。
「あっちー…ったくよ…なんで警察の制服はこんなに厚着なんだ?まわりはどんどん薄着になっていくってのによ…。てかなんでこんなクソ暑い中人探しなんかしねえといけねえんだ?」
バクフーンは腹立だしげにつぶやくと、水を一杯飲む。
その後ろにさわやかなルックスをした青年が立っていた。
「暑いなら僕が冷たくしてあげますよ。ハイドルカノウ!」
「うおっ!?」
シャワーズが放ったハイドルカノウをすんでのところでかわすバクフーン。食らったら致命傷だ。
「あーあ、かわしちゃダメですよ。せっかく人が親切でやったんですから」
シャワーズが残念そうに言う。思わずバクフーンが突っ込む。
「どこが親切!?危うく別の意味で冷たくなるとこだったわ!」

「おーいお前ら、調査の方はどうだー?」

「ニドキングさん!」
二人が声のした方を振り返ると、ニドキングがよう、と手を振りながら歩いてくる。人懐こい笑顔を浮かべるニドキングを見て、バクフーンがため息をつく。
「調査もなにも、犯人探しならまだしも、こんな暑い中人探しだ。こんな写真一枚で見つけろなんて、上も無茶言うぜ…」

ニドキングはガハハと豪快に笑う。
「まあそう言うな。この少女はある貴族の娘で、王家の大事な客人だそうだ。これにはオレたち警察の顔もかかっている。何としても見つけないとな!」

「しっかし立場が変わると人間変わるもんだなぁ。お嬢様の悩みなんて、僕には想像もつかないや」
シャワーズの言葉に、ニドキングは腕を組み考え込む。

「貴族といっても年頃の娘であることに変わりはない。悩みはたくさんあるもんだぞ?例えば…最近お父さんの目がいやらしいとか、最近お父さん臭いとか」

「お父さんばっかじゃないすか」

バクフーンが鋭い双眸で写真を見やる。
「何故貴族の娘が屋敷を逃げ出したんだ?」
バクフーンがタバコを取り出し吸おうとした瞬間、シャワーズが止めてあったパトカーから、愛用のロケットランチャーを取り出した。
「はいドーン」
シャワーズの打ち込んだロケットランチャーが、バクフーンに直撃する。近くにあった自動販売機も粉々になっている。
「ちょっとォォ!なにやってんのォ!」
ニドキングが真っ青な表情を浮かべるが、やった本人は平然と答える。
「だってニドキングさん、昨日から禁煙令出されたばっかでしょう?」

「いややりすぎだから!」

煙の中から、バクフーンが物凄い表情を浮かべながら出てくる。
「シャワーズゥ!今日こそ我慢ならねぇ!」

「あらら、怒らせちゃった…」

「待ちやがれェ!」
逃げるシャワーズを般若のごとき形相で追いかけるバクフーン。そんな二人を、ニドキングは呆れた顔で見ながら呟く。
「全く…どこにいるんだか…」






「…で、なんで貴族のお嬢様とサーナイトがオレんとこに来るんだ?」
ぶっきらぼうに言うルカリオの向かい側には、サーナイトとティエリアの2人が椅子に座っている。
「案内してって言われたから、ルカリオならいい場所知ってるかなって思って」

平然と言うサーナイトに、ルカリオは慌てて言う。
「いやいや、オレここにきたの三ヶ月前だから。サーナイトの方が知ってるって」

「あのー…この方は?」
ティエリアがおずおずと尋ねると、サーナイトが説明した。
「彼はルカリオっていって、三ヶ月前にこの街に来たの」

「そうでしたか!お初目にかかります」
ティエリアは礼儀正しく頭を下げ、ルカリオもどうも、と軽く頭を下げる。やっぱお嬢様って違うなあ〜となりの奴と違って。
「てことだから。あんたも行くわよ?」

「え、ちょっと待って。なんでオレも行くことになったの?」

「だって大勢の方が楽しいじゃない」
平然と答えるサーナイト。

「わあ、ありがとうございます!」
嬉しそうに目を輝かせるティエリアをみて、ルカリオはとても無理とは言えなかった。こうしてルカリオも半ば強引に連れていかれることとなった。



三人が来たのは最近できた人気のカフェ。(ルカリオからしたら入りにくい感満載だ)
店員の案内で三人は席に座る。ティエリアはというと、今まで屋敷からでたことがないものだから、珍しそうにあたりをきょろきょろと見ている。おそらくこういった店に入るのも初めてだろう。
「さて、なにから食べる?」
メニューを広げながらサーナイトが言う。

「食べるものは選べるのですか?」

「そうだけど…どうしたの?」

サーナイトが尋ねると、ティエリアが恥ずかしそうに言う。
「実は屋敷では今まで給仕が出したものしか食べてこなかったので…」

「大丈夫よ。徐々に覚えていけばいいんだから。こういう店では、メニューから自分の食べたいものを選んで食べるのよ」

「サーナイトさんはなんでも知っていらっしゃるんですね!感心いたしますわ!」
ティエリアが感心したように言うと、ルカリオが訂正しようと口を挟む。
「いや、これくらいは誰でも知ってることでーーいてっ!」
言い終わらないうちに、サーナイトが思い切りルカリオをどつく。サーナイトの顔が、イランことは言うなと言っていたので、ルカリオは口をつぐむ以外になかった。





「ふう〜おいしかった!」

「本当ですわ。庶民の方々はああいったものを食べていらっしゃるのですね!」
2人が楽しそうに話している間、ルカリオはげんなりしていた。
(結局オレが食ったのってパン一つだけじゃん…。余裕でパン屋さんで買った方が安いだろ…)
そんなルカリオの気持ちを知るはずもなく、2人は次の目的地を決めている。ああ、やっぱり貴族っていっても普通の女の子なんだなあ、とルカリオは妙に感心してしまった。そのうれしそうな顔は、貴族のお嬢様ではなく普通の女の子の表情だった。
三人はそれからいろんなところへ行った。花屋さんやケーキ屋さん、釣りをしに川まで行ったり、森の中へ入ったり。どれも屋敷の中にいては体験できないことばかりだ。生き生きと輝くティエリアの表情を見て、ルカリオは案外こういう日も悪くないのかも、とふと思う。

が、しんどいものはしんどい。ルカリオは疲れ切ってベンチの背もたれにもたれかかっている。三人はベンチに座って休憩していた。
「屋敷の生活ってどういう感じなの?」

「そうですね…。主に礼儀作法や茶道のお稽古、城で週に一回開かれるパーティーに参加したりする日もありますね」

「へえ〜やっぱりお嬢様ってすごいのね!」
サーナイトが感嘆した声を上げるが、ディアンシーの顔がふと暗くなる。
「…いいえ、そうでもありませんわ。たしかに生活に困ることはありません。ですが…わたくしにできるのは、屋敷から見える遠い町に思いをはせることだけ…。あの下町の娘のように自由に生きたい、自由に走り回りたい!そう思っているうちに…気が付いたら屋敷を逃げ出していました。私がいなくなれば、大勢の方に迷惑をかけてしまうのに…」

「その通りです」
三人がはっとして声のしたほうを見ると、鋭い双貌をした男が立っている。サーナイトは、男が警察の制服を着ていることに気が付いた。
(この紋章にタバコ…間違いない、あのバクフーン警視総監だ)

バクフーンはふうっと煙を吐くと、ゆったりとした口調でいう。
「さあ、早く帰りましょう。ご家族の方が屋敷で待っていますよ」

ティエリアの中で二つの感情がせめぎあう。帰りたくない。2人とこのままずっと遊んでいたい。だが…帰らなければ多くの人にめいわくをかけてしまう。現に目の前の警察官も、上層部直属の命令で自分を探していたのだろう。もし自分が帰らなければ、この警察官の首も危うい。
ティエリアはためらったが、やがて決心を決め2人のほうに向きなおる。
「サーナイトさん、ルカリオさん。今日は本当にありがとうございました。あなた方に会うことができてよかったです。では…わたくしはこれで…」
立ち去ろうとするティエリアの腕を、サーナイトがぎゅっとつかんだ。
「?サーナイトさんなにをーー」
サーナイトは黙って地面を見つめている。バクフーンはいらただしげに言う。
「おいお前、一体なんのつもりでーー」
「ティエリアは私の大切な友達。だから…警察になんかに連れて行かせない!」
サーナイトはキッと目の前の警官をにらみつけると、ティエリアの腕を引っ張って道を走り出した。突然の行動に、ルカリオも慌てて後を追いかける。

バクフーンは舌打ちをすると、大声で指示を出した。
「前方、方位!」
指示とともに、建物の陰から警察が飛び出してくる。三人はあっという間に警察にまわりを囲まれてしまった。
「くそ、囲まれた…」
ルカリオが悔し気にうめく。相手は大人でしかも警察だ。それが何十人もいる。闘ったところで勝ち目はないだろう。抵抗をやめるか。そう思われたその時ーー
サーナイトがまわりをにらみつけると、技を繰り出した。
「サイコキネシス!」
衝撃波が襲い、まわりの警察達が吹き飛ぶ。バクフーンは突風に耐えながら苦々しげに言う。
「まさかガキが警察相手に攻撃してくるとはな…」
サーナイトはティエリアの腕をつかむと、思い切りジャンプして建物の屋上に飛び上がった。
「あのガキ、屋上まで飛び上がりやがった!」
「何者なんだ!?」
あまりの出来事に、若い警官たちが驚きの声をあげる。




「お前なにしてんだよ!相手は警察だぞ?これで逮捕なんかされたらどうすんだよ!ティエリアさんはオレたちなんかと違って、貴族のお嬢様なんだ。ここは言われたとおりにすべきだって!」
ルカリオが必死に言うが、サーナイトは頑として聞き入れない。
「私、もっとティエリアと遊びたい!もっとなかよくなりたい!それに…ティエリアを自由ににしてあげたい…」

「サーナイトさん…」
ティエリアは下を向いてうつむく。

ルカリオは必死に考えた。ああ…まじで最悪だ…。あのとき出かけときゃよかったんだ…。なんで警察沙汰になってんだよ!?この時代ってちゃんとした法律あったっけ?なんかハンムラビ法典みたいなやつじゃないといいけど…。この時代に警察を統括する法律ってあんのか!?
さらに追い打ちをかけるように、下のほうから声が聞こえてくる。
「おーい、おとなしく出てこーい。でないと誘拐罪でしょっぴくぞー。聞いてんのかー!?」

まったく動きがないのを見て、バクフーンはため息をついてニドキングの顔を見る。ニドキングが辛そうな表増を浮かべる。
「子供たちにこんなことをするのは心苦しいが…仕方がない。彼らを呼べ」

バクフーンはうなずくと、懐からトランシーバーを取り出した。
「SAPに出動要請願います」




「あれ、静かになった?」
攻撃態勢でも取っているのだろうか。なおさらヤバい。
ルカリオのもともと青い顔がさらに真っ青になる。
「これマジでヤバいって!いま逮捕するって言ったよね!?オレたちもう完全に犯人扱いになってるよ!」

サーナイトは何も言わない。ぎゅっと口を閉ざしている。ティエリアは2人の顔を見つめる。わたくしのせいで2りは危険な目に会っている。離れたくはない。またあの不自由な生活に戻りたくない。だが…
ティエリアは決心すると、立ち上がった。
「2りとも、今日は本当にありがとうございました。わたくし、あなた方のことは一生忘れません。お二人と離れるのはとてもつらいことです…。もっと2人と仲良くなりたい!もっと一緒に遊びたい!すごく楽しかった…まるで自分が普通の女の子になれた気がしたから」
泣かないつもりでいたのに。どうしてだろう、次々に涙があふれ出てくる。2人と出会ったのは今日。でも過ごした時間の距離を感じさせないほど、すごく楽しかった。
友達。サーナイトがそう言ってくれた。なにより…自分に初めて友達ができたのだ。
ティエリアはぐっとこらえて、こぶしを握りしめる。
「ですが行かねばなりません。わたくしは…戻らねばなりません」

サーナイトが悲痛な声をあげる。
「どうして行っちゃうの?私はもっと…あなたと仲良くなりたい!私はあなたをーー」
ドオオン!!サーナイトが言い終わらないうちに、巨大な爆発音が響く。
三人が爆発音のしたほうを見やると、屋上にある給水タンクが爆発したことが分った。

「…?」
黒い煙の中を、一つの人影がこちらに歩いてくる。煙にまぎれて顔はよく見えない。だがーー
「SAPだ。おとなしくティエリア様をこちらに渡せ。でなければ危害はくわえない」
その声は2人が聴いたことがある声だった。

「お前は…」

「どうして…あんたがここに…?」

その人物とはーーゾロアークだった。







これはとある夏休みの日のこと。



サーナイトはたまたま目の前の公園を通りかかったとき、奇妙な光景を見た。高校生くらいの2人の男がブランコに座っている少女に絡んでいる。
「おいガキ。ここをただで通ろうなんてええ度胸やないか。ん?」

「ここはな、オレらシャークスの領地やねん!遊ぶんやったら金出せやコラァ!」

脅されているにも拘わらず少女はまったく怖がらずに、上品に首をかしげる。
「シャークスってなんですの?食べられるんですか?」

「食べモンちゃうわ!不良のグループ名や!…あ、自分で不良って行ってもうた…」

もう一人の男が気を取り直して言う。
「とにかく有り金全部出せってゆうてんねん!さっさとしろや!」

これはヤバい。何とかして助けないと!そう思ったサーナイトはとっさに彼らのもとへ駆け寄る。目の前で困った人がいると放っておけないのだ。
「ちょっとあんたたち!なにしてんの!」

突然の見知らぬ者の登場に、不良は少しぎょっとした表情を浮かべたが、すぐにメンチを切る。
「なんやお前?」

「ガキはあっちいってろ!」
しっしと言うと、少女のほうに向きなおる。
ガキ。その言葉がサーナイトの導火線に火をつけた。

「ガキはテメエらの方だろうがあっ!!」
サーナイトの怒りの鉄拳が男どもの頭に直撃する。彼女は細身な外見であまり力はなさそうに見えるが、実はものすごい怪力を持っているのだ。
男はよろめき、尻もちをつく。もう一人は完全にのびている。
「くそ!覚えとれよ!」
男は苦し紛れに叫ぶと、のびている相方をおぶって公園から去っていった。
サーナイトはペッと唾を吐き捨てた。
「青臭いガキがナンパなんて100年早いんだよ」

「あ、あの!」
立ち去ろうとするサーナイトをよびとめる。
「先ほどはありがとうございました!」

「いーのいーの。ガキって言われたの腹立っただけだし。それより…」
サーナイトは少女を改めて見る。服装は市民が着るものにしては高価に見えるし、仕草も上品だ。
「あなた、どこから来たの?」

「あそこです」
少女の指差した方向を見ると、遠くに王族が住む城が見える。この国の象徴とも取れるシンボル。え、ちょっと待って。もう一度見直すが…やはり城をさしている。
「あなたお城に住んでるの!?」

サーナイトがすっとんきょうな声をあげると、少女は優雅に微笑む。
「正確に言えば、屋敷に住んでいるものです。わたくし、ティエリア・ルミナスアークと申します。あなたのお名前は?」

「…えーと、私の名前はサーナイト。でも貴族の方がどうしてこんなところに?」
サーナイトが尋ねると、ティエリアは少し困った顔をする。
「実は困ったことがありまして……」

「力になれるならなんでもするわよ!」
サーナイトが言うと、ティエリアの顔がぱっと明るくなった。

「では…街を案内していただけませんか?」





照り付ける灼熱の太陽。セミの鳴き声が耳に張り付いて中々離れない。心なしか道行く人も、いつもよりは少ない気がする。暇な人は、今頃自宅で休んでいることだろう。そう、警察の仕事はこんなときでも休みはない。
さすがに鬼神と呼ばれる男でも、夏の暑さにはかなわないようだ。警視総監のバクフーンは自動販売機の取っ手から、めんどくさそうに水を取り出す。
「あっちー…ったくよ…なんで警察の制服はこんなに厚着なんだ?まわりはどんどん薄着になっていくってのによ…。てかなんでこんなクソ暑い中人探しなんかしねえといけねえんだ?」
バクフーンは腹立だしげにつぶやくと、水を一杯飲む。
その後ろにさわやかなルックスをした青年が立っていた。
「暑いなら僕が冷たくしてあげますよ。ハイドルカノウ!」
「うおっ!?」
シャワーズが放ったハイドルカノウをすんでのところでかわすバクフーン。食らったら致命傷だ。
「あーあ、かわしちゃダメですよ。せっかく人が親切でやったんですから」
シャワーズが残念そうに言う。思わずバクフーンが突っ込む。
「どこが親切!?危うく別の意味で冷たくなるとこだったわ!」

「おーいお前ら、調査の方はどうだー?」

「ニドキングさん!」
二人が声のした方を振り返ると、ニドキングがよう、と手を振りながら歩いてくる。人懐こい笑顔を浮かべるニドキングを見て、バクフーンがため息をつく。
「調査もなにも、犯人探しならまだしも、こんな暑い中人探しだ。こんな写真一枚で見つけろなんて、上も無茶言うぜ…」

ニドキングはガハハと豪快に笑う。
「まあそう言うな。この少女はある貴族の娘で、王家の大事な客人だそうだ。これにはオレたち警察の顔もかかっている。何としても見つけないとな!」

「しっかし立場が変わると人間変わるもんだなぁ。お嬢様の悩みなんて、僕には想像もつかないや」
シャワーズの言葉に、ニドキングは腕を組み考え込む。

「貴族といっても年頃の娘であることに変わりはない。悩みはたくさんあるもんだぞ?例えば…最近お父さんの目がいやらしいとか、最近お父さん臭いとか」

「お父さんばっかじゃないすか」

バクフーンが鋭い双眸で写真を見やる。
「何故貴族の娘が屋敷を逃げ出したんだ?」
バクフーンがタバコを取り出し吸おうとした瞬間、シャワーズが止めてあったパトカーから、愛用のロケットランチャーを取り出した。
「はいドーン」
シャワーズの打ち込んだロケットランチャーが、バクフーンに直撃する。近くにあった自動販売機も粉々になっている。
「ちょっとォォ!なにやってんのォ!」
ニドキングが真っ青な表情を浮かべるが、やった本人は平然と答える。
「だってニドキングさん、昨日から禁煙令出されたばっかでしょう?」

「いややりすぎだから!」

煙の中から、バクフーンが物凄い表情を浮かべながら出てくる。
「シャワーズゥ!今日こそ我慢ならねぇ!」

「あらら、怒らせちゃった…」

「待ちやがれェ!」
逃げるシャワーズを般若のごとき形相で追いかけるバクフーン。そんな二人を、ニドキングは呆れた顔で見ながら呟く。
「全く…どこにいるんだか…」






「…で、なんで貴族のお嬢様とサーナイトがオレんとこに来るんだ?」
ぶっきらぼうに言うルカリオの向かい側には、サーナイトとティエリアの2人が椅子に座っている。
「案内してって言われたから、ルカリオならいい場所知ってるかなって思って」

平然と言うサーナイトに、ルカリオは慌てて言う。
「いやいや、オレここにきたの三ヶ月前だから。サーナイトの方が知ってるって」

「あのー…この方は?」
ティエリアがおずおずと尋ねると、サーナイトが説明した。
「彼はルカリオっていって、三ヶ月前にこの街に来たの」

「そうでしたか!お初目にかかります」
ティエリアは礼儀正しく頭を下げ、ルカリオもどうも、と軽く頭を下げる。やっぱお嬢様って違うなあ〜となりの奴と違って。
「てことだから。あんたも行くわよ?」

「え、ちょっと待って。なんでオレも行くことになったの?」

「だって大勢の方が楽しいじゃない」
平然と答えるサーナイト。

「わあ、ありがとうございます!」
嬉しそうに目を輝かせるティエリアをみて、ルカリオはとても無理とは言えなかった。こうしてルカリオも半ば強引に連れていかれることとなった。



三人が来たのは最近できた人気のカフェ。(ルカリオからしたら入りにくい感満載だ)
店員の案内で三人は席に座る。ティエリアはというと、今まで屋敷からでたことがないものだから、珍しそうにあたりをきょろきょろと見ている。おそらくこういった店に入るのも初めてだろう。
「さて、なにから食べる?」
メニューを広げながらサーナイトが言う。

「食べるものは選べるのですか?」

「そうだけど…どうしたの?」

サーナイトが尋ねると、ティエリアが恥ずかしそうに言う。
「実は屋敷では今まで給仕が出したものしか食べてこなかったので…」

「大丈夫よ。徐々に覚えていけばいいんだから。こういう店では、メニューから自分の食べたいものを選んで食べるのよ」

「サーナイトさんはなんでも知っていらっしゃるんですね!感心いたしますわ!」
ティエリアが感心したように言うと、ルカリオが訂正しようと口を挟む。
「いや、これくらいは誰でも知ってることでーーいてっ!」
言い終わらないうちに、サーナイトが思い切りルカリオをどつく。サーナイトの顔が、イランことは言うなと言っていたので、ルカリオは口をつぐむ以外になかった。





「ふう〜おいしかった!」

「本当ですわ。庶民の方々はああいったものを食べていらっしゃるのですね!」
2人が楽しそうに話している間、ルカリオはげんなりしていた。
(結局オレが食ったのってパン一つだけじゃん…。余裕でパン屋さんで買った方が安いだろ…)
そんなルカリオの気持ちを知るはずもなく、2人は次の目的地を決めている。ああ、やっぱり貴族っていっても普通の女の子なんだなあ、とルカリオは妙に感心してしまった。そのうれしそうな顔は、貴族のお嬢様ではなく普通の女の子の表情だった。
三人はそれからいろんなところへ行った。花屋さんやケーキ屋さん、釣りをしに川まで行ったり、森の中へ入ったり。どれも屋敷の中にいては体験できないことばかりだ。生き生きと輝くティエリアの表情を見て、ルカリオは案外こういう日も悪くないのかも、とふと思う。

が、しんどいものはしんどい。ルカリオは疲れ切ってベンチの背もたれにもたれかかっている。三人はベンチに座って休憩していた。
「屋敷の生活ってどういう感じなの?」

「そうですね…。主に礼儀作法や茶道のお稽古、城で週に一回開かれるパーティーに参加したりする日もありますね」

「へえ〜やっぱりお嬢様ってすごいのね!」
サーナイトが感嘆した声を上げるが、ディアンシーの顔がふと暗くなる。
「…いいえ、そうでもありませんわ。たしかに生活に困ることはありません。ですが…わたくしにできるのは、屋敷から見える遠い町に思いをはせることだけ…。あの下町の娘のように自由に生きたい、自由に走り回りたい!そう思っているうちに…気が付いたら屋敷を逃げ出していました。私がいなくなれば、大勢の方に迷惑をかけてしまうのに…」

「その通りです」
三人がはっとして声のしたほうを見ると、鋭い双貌をした男が立っている。サーナイトは、男が警察の制服を着ていることに気が付いた。
(この紋章にタバコ…間違いない、あのバクフーン警視総監だ)

バクフーンはふうっと煙を吐くと、ゆったりとした口調でいう。
「さあ、早く帰りましょう。ご家族の方が屋敷で待っていますよ」

ティエリアの中で二つの感情がせめぎあう。帰りたくない。2人とこのままずっと遊んでいたい。だが…帰らなければ多くの人にめいわくをかけてしまう。現に目の前の警察官も、上層部直属の命令で自分を探していたのだろう。もし自分が帰らなければ、この警察官の首も危うい。
ティエリアはためらったが、やがて決心を決め2人のほうに向きなおる。
「サーナイトさん、ルカリオさん。今日は本当にありがとうございました。あなた方に会うことができてよかったです。では…わたくしはこれで…」
立ち去ろうとするティエリアの腕を、サーナイトがぎゅっとつかんだ。
「?サーナイトさんなにをーー」
サーナイトは黙って地面を見つめている。バクフーンはいらただしげに言う。
「おいお前、一体なんのつもりでーー」
「ティエリアは私の大切な友達。だから…警察になんかに連れて行かせない!」
サーナイトはキッと目の前の警官をにらみつけると、ティエリアの腕を引っ張って道を走り出した。突然の行動に、ルカリオも慌てて後を追いかける。

バクフーンは舌打ちをすると、大声で指示を出した。
「前方、方位!」
指示とともに、建物の陰から警察が飛び出してくる。三人はあっという間に警察にまわりを囲まれてしまった。
「くそ、囲まれた…」
ルカリオが悔し気にうめく。相手は大人でしかも警察だ。それが何十人もいる。闘ったところで勝ち目はないだろう。抵抗をやめるか。そう思われたその時ーー
サーナイトがまわりをにらみつけると、技を繰り出した。
「サイコキネシス!」
衝撃波が襲い、まわりの警察達が吹き飛ぶ。バクフーンは突風に耐えながら苦々しげに言う。
「まさかガキが警察相手に攻撃してくるとはな…」
サーナイトはティエリアの腕をつかむと、思い切りジャンプして建物の屋上に飛び上がった。
「あのガキ、屋上まで飛び上がりやがった!」
「何者なんだ!?」
あまりの出来事に、若い警官たちが驚きの声をあげる。




「お前なにしてんだよ!相手は警察だぞ?これで逮捕なんかされたらどうすんだよ!ティエリアさんはオレたちなんかと違って、貴族のお嬢様なんだ。ここは言われたとおりにすべきだって!」
ルカリオが必死に言うが、サーナイトは頑として聞き入れない。
「私、もっとティエリアと遊びたい!もっとなかよくなりたい!それに…ティエリアを自由ににしてあげたい…」

「サーナイトさん…」
ティエリアは下を向いてうつむく。

ルカリオは必死に考えた。ああ…まじで最悪だ…。あのとき出かけときゃよかったんだ…。なんで警察沙汰になってんだよ!?この時代ってちゃんとした法律あったっけ?なんかハンムラビ法典みたいなやつじゃないといいけど…。この時代に警察を統括する法律ってあんのか!?
さらに追い打ちをかけるように、下のほうから声が聞こえてくる。
「おーい、おとなしく出てこーい。でないと誘拐罪でしょっぴくぞー。聞いてんのかー!?」

まったく動きがないのを見て、バクフーンはため息をついてニドキングの顔を見る。ニドキングが辛そうな表増を浮かべる。
「子供たちにこんなことをするのは心苦しいが…仕方がない。彼らを呼べ」

バクフーンはうなずくと、懐からトランシーバーを取り出した。
「SAPに出動要請願います」




「あれ、静かになった?」
攻撃態勢でも取っているのだろうか。なおさらヤバい。
ルカリオのもともと青い顔がさらに真っ青になる。
「これマジでヤバいって!いま逮捕するって言ったよね!?オレたちもう完全に犯人扱いになってるよ!」

サーナイトは何も言わない。ぎゅっと口を閉ざしている。ティエリアは2人の顔を見つめる。わたくしのせいで2りは危険な目に会っている。離れたくはない。またあの不自由な生活に戻りたくない。だが…
ティエリアは決心すると、立ち上がった。
「2りとも、今日は本当にありがとうございました。わたくし、あなた方のことは一生忘れません。お二人と離れるのはとてもつらいことです…。もっと2人と仲良くなりたい!もっと一緒に遊びたい!すごく楽しかった…まるで自分が普通の女の子になれた気がしたから」
泣かないつもりでいたのに。どうしてだろう、次々に涙があふれ出てくる。2人と出会ったのは今日。でも過ごした時間の距離を感じさせないほど、すごく楽しかった。
友達。サーナイトがそう言ってくれた。なにより…自分に初めて友達ができたのだ。
ティエリアはぐっとこらえて、こぶしを握りしめる。
「ですが行かねばなりません。わたくしは…戻らねばなりません」

サーナイトが悲痛な声をあげる。
「どうして行っちゃうの?私はもっと…あなたと仲良くなりたい!私はあなたをーー」
ドオオン!!サーナイトが言い終わらないうちに、巨大な爆発音が響く。
三人が爆発音のしたほうを見やると、屋上にある給水タンクが爆発したことが分った。

「…?」
黒い煙の中を、一つの人影がこちらに歩いてくる。煙にまぎれて顔はよく見えない。だがーー
「SAPだ。おとなしくティエリア様をこちらに渡せ。でなければ危害はくわえない」
その声は2人が聴いたことがある声だった。

「お前は…」

「どうして…あんたがここに…?」

その人物とはーーゾロアークだった。








「え」

「…お前そんなとこでなにやってんの?」

「…。いやいや!それこっちのセリフだから!お前らなんでこんなとこいんだよ?オレは出動要請があったからきてーー」
ルカリオのとなりにいるティエリアを見た瞬間、ゾロアークの表情が固まった。

「…ちょっと待って。お前らのとなりにいるのってもしかしてティエリア様?」

「そうだけど…どうかした?」
サーナイトが呑気そうに尋ねる。ティエリアはバツの悪そうな顔で俯いている。ルカリオはおどおどと周りを見ていて、ゾロアークと目が合うと、ちがうよ、オレはなんも知らないよ?と目線をさっとそらす。

うわー…ちょっと待って…これまじであり得ないんだけど。てかこいつらなんで貴族と知り合いになってんの?
「誘拐犯ってお前らかよォォォォ‼︎」

「だから誘拐犯じゃないってば!私はただティエリアを自由にしてあげたくて!」
サーナイトがムッとした表情で言い返す。
だがゾロアークからしたら、訳がわからない。王族の客人が人質に取られているからと出動要請が出、来てみたら友人二人がいた。しかも警察が誘拐犯と言っていたのはその友人二人だったのだ。まじで訳がわからない。

あまりのことに呆れを通り越して、頭がふらふらしてくる。ゾロアークはため息をついた。
「あー…とりあえずお前ら、こっちに来い。警察に友達がしょっ引かれるのは見たくねェからな。オレと一緒だったら誤解も解きやすいだろうし」

ルカリオはほっと息を吐いた。良かった。どうやら警察にお世話になることはないようだ。
「サーナイト、行こう」

サーナイトは嫌だ、と眉間にしわを寄せていたが、ティエリアが頭を横に振ると、ため息をついて頷いた。
「…わかったわ」

ゾロアークも安堵の表情を見せる。が、すぐにこのあとの始末のことが頭をよぎった。故意で起こしたわけではないものの、今回の事件は大事だ。警察組織の方は、警視総監や長官といったトップの人物まで出動している。もし王族の客人に何かあれば、国際問題になるからだ。その事件を起こしたのが自分の友人だと知れたら、上から何を言われるか分からない。どうすんだこれ?まじで罷免とかあり得るかも…あー、今度リクルートスーツ買わないと。
必死に頭を回しているゾロアークの横を、ルカリオが通った。
「立てるか?」
座り込んでいたティエリアに、ルカリオが手をさしだした。



バクフーンがタバコを懐にしまいながら、ティエリアの方に向き直り尋ねる。
「ティエリア様、お怪我はありませんか?」

ティエリアは笑顔で頷く。
「ええ、わたくしは大丈夫です。あなたたちのおかげでわたくしは無事に戻ることができました。
本当にありがとうございました」

「身に余る光栄です。それでは行きましょうか」

「はい」

「待って!」

「ティエリア…行ってしまうの?」

「サーナイトさん、今日は今までにないくらい大変楽しゅうございました」
ありがとう。
サーナイト、あなたは私の初めての友達です。あなたに出会って私は…たくさんのことを知ることが出来た。たくさんの人に出会うことが出来た。

「ティエリア…」

「サーナイトさん、最後に一つだけお願いがございます」

「なに?」

「あのときは1日だけなんて言ったけれど…もしその…良かったら…これからも友達でいてくれますか?」

「当たり前じゃない!私たちはもう友達よ?」

「はい!」

その後、ティエリアは警察のパトカーで城まで送られていった。サーナイト達三人はずっと手を振っていた。パトカーが見えなくなった後も。
「ずっと…友達よ」








「え…ちょっと待って…。今回オレ出番ないの⁉︎」
ウィンディの声が虚しく響いた。


リア ( 2015/04/22(水) 00:34 )