湖の番人エムリット
学校にて。
ルカリオたちは6時間目の理科の授業を受けていた。先生はハッサム先生である。
彼は授業もおもしろく、何よりもその誠実な人柄で、生徒たちから人気があった。
その上イケメンなので、女子生徒からは特に人気があった。
「生物は単細胞生物と多細胞生物に分かれている。ここまでの説明で、なにか質問がある人は?」
ハッサム先生は誰も手をあげていないのを確認すると授業を続けた。
「ねえ、ハッサム先生っていつ見てもかっこいいわよね。」
グレイシアが斜めの席にいるギャロップに言った。
「確かにそうね。でも私はレオン先生のほうがタイプかも。」
「ええー!ウソでしょ!あんなゴリゴリのおっさんがかっこいいの?」
グレイシアが意外な答えに驚きの声をあげた。
「そこ、今は授業中だから静かに!」
あまりに大きい声だったので、2人は先生に注意されてしまった。
グレイシアは先生に注意されないように、あきれた様子で静かな声で言った。
「あんた、すごい趣味してるわね…」
6時間目終了のチャイムが鳴り、帰りのホームルームが終わると、生徒たちは一斉に下校し始めた。ルカリオはちょうど掃除がある班だった。
教室をホウキで掃いていると、サーナイトが駆け寄ってきた。
「ねえルカリオ、放課後時間空いてる?」
「空いてるけど…どうしたんだ?」
ルカリオが不思議そうに聞くと、サーナイトは目を輝かせて言った。
「お前に合わせたい人がいるの!」
「合わせたい人?誰なんだそれは?」
「それはあってからのお楽しみよ。」
サーナイトはこの後楽しいことがあるかのように浮き足立って言った。
そのとき、ゾロアークがものすごい勢いで2人に駆け寄ってきた。
「ダメだろサーナイト!もし他の人にバレたらどうすんだよ…」
「大丈夫よ。ルカリオはそんな人じゃないし、私もこのままルカリオが記憶をなくして、悩んでるの放っておけないの」
サーナイトはゾロアークをなだめながら言った。
「いや…別に悩んでなんかないけど…」
ルカリオが言うが、二人は全く聞いていない。
「いいや、大丈夫なんかじゃない。もしあいつがブラック団に見つかったらどうする?捕まったら取り返しがつかないんだぞ!」
ゾロアークはすごい剣幕でどなった。
「私だってそんなことくらいわかってる。でもルカリオがずっと悩んでるの放っておくっていうの?」
「確かにそうだけど…」
ゾロアークは心配そうな顔をするが、ルカリオが悩んでいるのをほっとけないといった感じだった。
そんなゾロアークを横目で見ながらサーナイトは言う。
「そうとなれば決まりよ。あとで図書館前に来て、待ってるから!」
サーナイトはそう言い残すと、風のごとく去っていった。
何が何だかわからないまま、ルカリオはゾロアークとともに図書館前に行くことになった。
掃除を終え、ルカリオがサーナイトと共に図書館前に行くと、ゾロアークが待っていた。
「遅せーぞ、ずっと待ってたんだからな。」
「ごめんごめん。で、見せたいものってなんだ?」
ルカリオが聞くと、ゾロアークは自信有りげに言った。
「そうあせんなよ。見せるのは湖についてからだ。」
3人は校門を出て近くの湖に向かった。(ウィンディは掃除のときに花瓶を割って先生に怒られていたため、時間がかかりそうなので置いていった。)←ひどい
森の中を歩きながらルカリオは呟いた。
「近所に湖なんてあったんだな…」
「ああ、その湖は他の奴らはあんまり知らないところなんだ。ま、いわゆる隠れスポットってとこだな。」
2人が話している後ろで、ゾロアークは相変わらず文句を言っていた。
「全く…バレても知らねえからな…」
ルカリオはふと思って言った。
「そういえばゾロアーク、お前が最初オレを助けてくれたとき、なんで鳥の姿になってたんだ?」
「オレが化けてたのは、大鳥って鳥さ。空飛びたい気分だったから鳥になって空を飛んでたってワケだ。そしたらルカリオ、お前がネジオオカミの群れに追いかけられてるところに会ったってこと。あのときはホントびっくりしたぜ。」
彼は答えた。
「ふーん、そうだったのか…」
森をしばらく歩いていると、湖が見えてきた。湖の水はとても綺麗な水で、見ていると吸い込まれそうな青だった。
「きれいな湖だな。」
ゾロアークが見とれて言うと、サーナイトが首をかしげて言った。
「あれ、あなたここきたことなかったっけ?」
「あるに決まってんだろ。相変わらずきれいだなって思っただけだよ。」
ゾロアークがむきになって言った。まだ怒っているようだ。
「なあサーナイト、合わせたい人って誰なんだ?」
ルカリオが少し苛立って言うと、サーナイトはあっと言った。どうやら完全に忘れていたようだ。
「ごめんごめん。ねえルカリオ、このことは誰にも言わないでくれる?」
「当たり前だろ、言うわけないよ。」
その答えを聞き、彼女はほっとしたように言った。
「なら良かった。じゃあ少し下がってて。」
ルカリオとゾロアークは湖の岸辺から離れた。
「一体何が始まるんだ?」
「見てればわかる。あんまりびっくりしないようにな。」
サーナイトがなにか呪文を唱え始めた。
すると周りの水がまるで反応するように、盛り上がり始めた。ゴウっと音がして、地面が揺れ始めた。
「な、なんだ?」
サーナイトの声が大きくなるにつれて水も高くなる。
「私よ!エムリット!」
サーナイトが叫ぶと、水柱が次々と上がり水が別れ、中に洞窟が現れた。
「わお…すげえな…」
ルカリオが唖然として言った。
サーナイトは振り返ると2人に言った。
「ルカリオに合わせたい人はこの中にいるわ。行きましょう。」
3人は洞窟の奥へとはいっていった。
3人はひたすら暗く長い洞窟の中を歩いていった。
洞窟の壁には宝石のようにきれいな石がいくつも埋まっており、その石が放つ、青や赤、ピンクや黄色といった光が、洞窟内をてらしていた。足音が、岩壁に反響する。
「なあサーナイト、どうしてオレをばれたらマズイ人にわざわざ合わせてくれるんだ?」
ルカリオは不思議に思って聞いた。
「うーん、なんていうか…あなた記憶をなくしたって言ってたでしょ?だから何か力になれたらなあって思って。それにあなたは人にばらすような人じゃないから。」
サーナイトは前をまっすぐ見て言った。
ルカリオはふーんと言いながら不思議に思った。
(どうして会って3日のポケモンをここまで信じられるんだろう。たしかにオレはばらしたりなんかしないけど…もし他のポケモンだったら危なくないか?)
しばらく歩いていると、大きく開けているへやに出た。中央の天井には大きな水晶がぶら下がっている。
「着いたわよ。ここが湖の番人のいるところ。」
ルカリオはまわりを見渡したが、誰もいなかった。
「?誰もいないけど…」
「今は姿を隠しているんだ。サーナイトが呼びかけるから、黙っとけよ。」
ゾロアークはそっと囁くとサーナイトへ目をやった。
ルカリオもサーナイトを見ると、彼女は呼びかけているところだった。
「ねえエムリット、今日は相談事があって来たの。大丈夫、いい人だから。出てきてちょうだい!」
すると洞窟全体から声が聞こえてきた。どうやらエムリットというポケモンの声のようだ。
「本当?いいひとなのね?だったら今いくわ。」
その声が消えるとともに、ルカリオ達の前にピンク色のポケモンが姿を現した。
「!あなたは…」
ルカリオは驚いた。何しろその姿は自分が聞いていた伝説のポケモン、エムリットと同じ姿をしていたからだ。
(エムリットって言ってたから、伝説のポケモンと同じ名前だなあと思ってたけど…まさか本物だとは!)
ルカリオの驚いた顔を見て、エムリットはクスクス笑った。
「そんなおもしろい顔しなくても…私はエムリット、湖の番人よ。サーナイト、この子は?」
「彼はルカリオ。彼のことであなたに相談に来たの。ルカリオはどうやら記憶をなくしたみたいで、どこから来たのか覚えていないの。唯一覚えていたのは自分の名前だけよ」
エムリットはルカリオのまわりをぐるっと回ると、サーナイトに聞いた。
「この子とはどこであったの?」
「放浪の砂漠で会ったんだ。オレが大鳥に化けて空を飛んでたら、ネジオオカミに襲われてるルカリオを見つけたってわけ。」
ゾロアークが後ろから顔を出して口をはさんだ。
エムリットはゾロアークの顔をみた瞬間、後ろへ飛び上がった。
「ああ!あんたは!」
「よう、久しぶりだな。」
ゾロアークはニコニコしながら言った。
そんなゾロアークに対して、エムリットはキッと睨みつける。
「どうしてあんたがここにいるのよ?二度と顔を見せるなって言ったでしょう、この野郎!」
今まで上品な言葉を使っていたエムリットの変わりように、サーナイトとルカリオは言葉を失って立ち尽くした。
そんな2人をよそに、エムリットとゾロアークの言い合いは、まだ続いている。
「バカ野郎!こんなとこでそんなこと言うんじゃねえよ!」
「バカはどっちよ!あんた、また私のエネルギー奪いに来たの?」
「違うよ、今日は付き添いできただけだ。別に奪いにきたんじゃねえ。」
ゾロアークは、少し焦ったようにエムリットをなだめながら言った。なんだか様子がおかしい。
固まっている2人を見て、エムリットは焦りながら冷静を装う。本当は心の中は煮えくり返っていたが。
「フン、それが本当だといいわね。」
エムリットは2人の方に向き直って、いつもの上品なエムリットに戻った。
「ごめんなさいね2人とも。さあ、話をしましょう。全くあの化け物め…」
最後の方に何か聞こえたのは気になったが、2人は聞いていないことにした。
エムリットは、ふうっと息を吐く。
「そうねえ、記憶をなくしたポケモンというのは聞いたことがないわ…」
その言葉を聞きサーナイトは少し困惑した表情で、ルカリオの顔を見やる。
しかしエムリットは、こう言った。
「でも伝説なら聞いたことがあるわ。ただの言い伝えだけどね。だからまあ、話してもムダか…」
その言葉を聞いたとたん、3人はエムリットを見た。
「お願い!その話を聞かせて!」
「聞かせてください!」
「おい、聞かせろ!」
3人が同時に言うので、エムリットは少し驚いていたが、話し始めた。
「わかったわ。この伝説の題名は波動の勇者。まあ伝説というより、予言なんだけどね」
「予言?」
ルカリオが聞き返すと、エムリットは頷いて話を続けた。
「そう、予言よ。予言にはこうあるの。『波動の勇者時を超え現れしとき、南に漆黒の覇者、北に雪の君現る
そのとき世界は照らされ、闇の時代は終わりを告げる』ってね。」
話を聞いたゾロアークは、不思議そうに首をかしげる。
「なんか難しいな…」
サーナイトもわからない様子だった。
そんな2人の様子を見ながらエムリットは、にっこりと笑って言った。
「まあ私もなんのことかはわからないけど、覚えておくといいかもね。この予言は伝説ポケモンしか知らないから」
「そんな大切なことを話してくれてよかったの?」
「別にかまわないわよ。覚えていないやつもいるし。まあ伝説ポケモンにあったらこの予言のことを聞くといいわ。何かしってるかも」
3人はエムリットに礼を言うと洞窟を出た。
彼らが岸辺に着くと、洞窟は再び湖のそこに沈んでいき、湖ははじめの状態に戻った。
「結局あんまり分からなかったな。」
ゾロアークが、湖の水面をじっと見つめながら言う。
「いいえ、そんなことないわ。予言のこと聞けたじゃない」
2人の会話を聞きながらルカリオは思った。彼の頭の中には予言のことがぐるぐると回っていた。
(あの予言…時を超え現れしって言ってた。もしかしてオレがこの時代にきたことは、あの予言となにか関わりがあるんじゃないか?)
「おい、ルカリオ?どうしたんだ、さっきから」
ぼんやり考えていると、きょとんとした顔でゾロアークが言った。
「ああ、ごめん。なんでもない…」
サーナイトとは途中で二手の道に分かれた。途中彼女はルカリオががっかりしていないかと心配になっていたが、大丈夫かと何度も尋ねてはルカリオがそのたびに大丈夫だと答えたので、ようやく彼女は安心した表情を浮かべて帰っていった。
ゾロアークとルカリオは森へ続く道を歩く。月はちょうど彼らの頭上にあり、道を照らしている。ときおり風が吹くと、道の両脇に生えている草や梢が揺れた。2人はただ黙々と歩いていたが、ルカリオは気になってとうとう口を開いた。
「なあゾロアーク、さっきの予言ってなにか関係があるのかな?」
「あれはただの予言だ。ルカリオお前、予言なんか真に受けるタイプだったのかよ?」
ゾロアークはルカリオの真剣な表情をおもしろそうに見ていたが、やがて彼が本気で言っていることだと気が付くと、ゾロアークも真剣な面持ちになる。
「まああれだ。あんまりわからなかったが今日は予言のことも聞けたんだ。本当かどうかオレには分らんが、まだまだ時間はたくさんある。これからゆっくり思い出していけばいいさ」
「うん……。あ、そういえばさ」
ルカリオはあることを思い出した。
「なんだ?」
「ゾロアークって前にエムリットとあったことあんの?エネルギーがどうたらって聞こえたけど……」
ルカリオの言葉を聞いた瞬間、ゾロアークの目に一瞬驚きの色が浮かんだが、それは束の間のことで陽気な笑い声をあげながらルカリオの肩をたたいた。
「いやー、エムリットには少しお世話になったことがあってねー。それから知り合ったんだー」
ぎこちないしゃべり方をするゾロアークを見て、ルカリオは不思議そうな表情を浮かべる。彼の額には汗が浮かび、笑顔もぎこちない。まるで何かを隠そうとしているようだ。
「…そうなんだ」
ルカリオは深くは追求はしなかった。誰にでも他人に話したくない秘密の一つや二つはあるだろう。
ルカリオの家の前まで着くと、ゾロアークはまた明日、と言い残し、走り出したと思うと茂みの中へ消えていった。
ルカリオはベッドに寝転びながら考えた。布団の上に寝転ぶと、1日分の疲れが取れていく気がした。
(考え過ぎか…ただの予言だもんな。明日は早いし、さっさと寝るとするか)
布団にもぐりこみ、眠ろうとしたルカリオの頭にエムリットの声が響いてきた。テレパシーだ。
「今週の満月の夜、もう一度湖に来て。あなたに伝えなければならないことがあるの」