01
「うわあああ!!」
ばっと飛び起きた拍子に寝わらが中をまう。
まだどきどきと打っている心臓に前足をおき、深く深呼吸をした。
「また、夢か。」
そう、夢。
だけど、それは恐ろしいほどに鮮明で、実際に起こっていることのように感じられる。
音は、まるで耳元でささやかれた声のように。
光景は、くすみの一つも見えない、これでもかというほど鮮やかで。
あのときのことが・・・ビデオのように巻き戻されたような。
「まあ、夢は夢さ。君もそう思うだろう?」
なにもない空間へささやく。
気のせいか、空気が揺らいだ気がした。
しんと静まった部屋の中で、いつものリボンを首へ。
茶色いボタンと金色の飾りがあたり、少しだけ音が鳴った。
ここまではいつも通り。
だが、いつもは用意しないもの。
カバン。薄茶色の肩掛けカバン。
ところどころすり減って、年期が入って見える。
中にはパンとジャム。・・・あとぬいぐるみ。
か、かわいい趣味なんて言うなよ!
ドアを開けると、春の暖かい風がほおをなでた。
『いってらっしゃい』
そう言ってくれる家族はいない。
もうなれてしまった自分に腹がたつ。
目の前に現れたのは、いつも通りの庭。
いつも通りの風景。
いつもと違う、ブースターという存在。
「うっわああああ!!」
ブースターは倒れた僕を見下ろす。
そして、耳に当てていたヘッドホンを外し、首にかけた。
ブースターは垂れ耳で、その上に当てることでヘッドホンの形状でも音が聞けるようだ。
・・・ってそんなことどうでもよくって!
「お前がそうか。」
ブースターは口を開く。
ボクがなんだって!?
ブースターは慌てふためくボクの手を握り、引っ張った。
かなり乱暴に起こされたボクは改めてその相手を見る。
ボクより頭一つ分高い背。
気の強そうな目は、確かにボクを見つめていた。
だめだ。
ボクのそばにいては―――
まだ握られている手を、ボクは自分の方へひっぱる。
「やめて・・・!だめだよ、ボクに関わっちゃだめ!」
「お前に関わったら・・・死ぬんだろう?」
予想もしていなかった。
このブースターは。
なぜ知っているのだ?
「・・・あ・・・。」
ブースターはおとなしくなったボクを引っ張り、庭の外へ歩く。
「俺についてこい・・・大丈夫だ、たぶん、死なないから。」
今度も気のせいだろうか。
開けっ放しにされた家のドアの前で、空気が揺らいだ気がした。