【6】そらゆめがたり
梅雨の季節には、なんだか憂鬱な気分になる。そりゃあ、毎日毎日雨が続けば、誰だって気分が
鬱ぐだろうけど。
俺の場合は、梅雨の時期に出会ったある人物のことを思い出すせいなんだ。俺の実家がこの『六ノ島』で宿屋をしていた頃のお客なんだが、まあ、何と言えばいいのか……一言でいうと変な人だったよ。
もうずいぶんと昔の話だし、俺もまだガキだったから、誤解が混じっていたり、ところどころ記憶が曖昧だったり、捩れて繋がっていたりするだろうから。
ここから先は、話半分に聞いてほしい。
◇◇◇
六ノ島は、謎の多い島だと言われている。幾何学模様の『しるしの林』、誰が残したかわからない文字を刻んだ『点の穴』、何のための遺跡かもよくわかっていない『変化の穴』等々。
元々の人口もそう多くはなかったが、最近本土に渡る人が増えてどんどん人が減ってきているのは寂しい。寂しいし、何より俺の家の宿屋にお客が来なくなったら困る。
島で生活ができなくなったら、俺らの家族も島を捨てて本土に渡ることになるのだろうか。
何にせよ、人間にとって不便極まりないこの島の過疎化は進んでいる。やがて一つ、そしてまた一つと人家の灯りが消えていく。
あと数十年もすれば人間は誰もいなくなって、町だったところさえもそのまま自然に飲み込まれてゆきそうな勢いだ。
そうなれば、人が住んでいた名残は大昔の遺跡だけ。島はかつてのように木々が鬱蒼と生い茂る野生ポケモンの楽園になるのだろう。
自分も、自分の家族も、知っている人も誰もいなくなって、蒼い海に浮かぶ翡翠のような小島に響くのは獣の啼き声だけ。
緩やかな坂道を下るような滅亡を、いつの間にか想像していた自分に嫌気がさした。
自分の心が酷く屈折していることに気がついたのはいつの頃からだったろう。
俺はたびたび、自分の中に棲みつく怪物の気配を感じ取っていた。悪意に染まった真っ赤な目と、黒い影を纏った醜悪なバケモノだ。
そいつはビロードの毛皮を被って自分の本性を巧みに覆い隠す。弱く無害なふりをして外面良く振舞いながらも、着実に育ち力をつけていく。
通常の、意識的な思考の流れが枝分かれした河川のようなもので、根もとの部分で無意識の海に続いているならば、怪物はきっと淡水と海水の混じり合う汽水の領域あたりに潜んでいるんだろう。
そうして、いつか俺の意識を喰いつぶしてしまおうと虎視眈々と狙っているんだ。
潰れかけた宿屋に、奇妙な旅人が訪れたのは、ちょうど俺がそんな愚にもつかない想像を浮かべていた頃のことだった。
「おじさん、ポケモンを見せてよ」にいっと笑って話しかける俺に、旅人は溜息を一つ吐いて答えた。
「またかい。ゴーリキーがそんなに珍しいのかね」
「うん。六ノ島にはいないからね。それに、ゴーリキーだってきっとボールから出て遊びたいはずだよ」
「やかましい小僧だ。いちいちちょっかいを出せれては仕事にならん。いっそこの宿を出て、ポケモンセンターにでも止まるか」
「それでもいいけれど、おじさんの好きな広い浴場のある宿屋は、六ノ島にはウチしかないよ。いいの?」
「む……」と彼は舌打ちをした。
彼の名前は、確かオモダカといった。
本土からナナシマにある遺跡を調査しに来た自称研究者で、六ノ島と七ノ島にある遺跡を調べている。
いかめしい顔つきの、ひどく気難しい男で、宿にいる時はいつも不機嫌そうに自分の集めてきた標本を調べているような風変わりな人だった。
島の外から来た人が長く宿屋に居つくことは珍しかった。大抵はナナシマを見に来た観光客か、ポケモントレーナーである旅人が一晩か二晩、長くて一週間ほど泊まって去ってゆくだけだ。
俺は、そんな彼に興味を持った。母に知られるとあまり良い顔はされないのはわかっているので、彼が部屋で調べものをしている時、こっそりと訪ねて行った。
彼は始めうるさそうにしていたが、やがて諦めたように色々な話を聞かせてくれるようになった。
本土の歴史、遠い地方の神話、ナナシマの遺跡の話。彼の話は、まるでどこか遠い世界の物語のようで、心惹かれるものがあった。
「おじさんは、ナナシマの外の人なんだよね」
「何だ。今さら」
「ナナシマの外の世界はどんなところなの?」
「……まるで、ナナシマが"世界"に含まれていないような物言いだな」
「しかたないじゃないか。俺は六ノ島から出たことがあんまりないし、ナナシマの外の人と真面目にしゃべったこともないんだ。ナナシマの外のことは、テレビで見るだけさ」
「そうか。それは気の毒に」そこで一つ咳払いをして、「結論から言おう。お前の質問に真面目に答えたところで、あまり意味などないんだよ」彼は、酷薄な表情を浮かべ、重々しい口調で語り始めた。
「ワシの見る世界とお前の見る世界は微妙に違うだろう。ワシらだけじゃない。全ての人間はそれぞれ違う世界を見ている。ポケモンの見る世界ともなればワシらには想像もつかない。それらは完全に重なり合うことは無いだろうし、また重なり合わなくてもいいんだ。そもそも、お前はどういう答えを聞けば満足するんだ。世界はどこまでも美しいと言ってほしいのか、捩れ歪んで醜いと言ってほしいのか。それを聞いて、お前は果たして納得できるのか? 人の見ている世界は、とても言葉で表現しきれるものではないよ。そいつの見たもの、聞いたもの、触れたもの――生きてきた経験の全てで構築されているものだからな。仮に言葉に出来たとして、とても一朝一夕に語りきれるものでもない。そしてワシが誠心誠意、世界についてお前に説いてやろうとしたところで――」
「お前は、途中で寝るだろう」
「眠ったりしないよ」
「嘘をつくな。もう眠たそうに見えるぞ。さあ、子供は帰った、帰った」
彼の話は面白いが、時々よくわからなくなる。
その時はそのまま自分の部屋に戻った。後になって「『おじさんは』世界についてどう思うの」と聞き直しておけば良かったと思った。
ある日、七ノ島に調査に出かけていたオモダカ氏が、予定していた時刻よりずっと早く宿に戻って来た。
どうやら昼前からぽつりぽつりと降り出した雨が本降りになり、フィールドワークを中止せざるを得なくなったようだ。
むすっとした顔で部屋へ戻る彼の背中を見送った。
昨日のラジオでも雨が降るって言っていたのに、気にかけていなかったのかなぁ。変なところで無頓着である。
これからナナシマも梅雨入りだ。遺跡の調査は難航するだろう。
雨に濡れた研究機材の故障の有無を調べている彼に「いま、遺跡でどんなことを調べてるの?」と訊ねてみた。
「今は遺跡に刻まれている言葉を調べている。古代の人々が使っていた言語を」と彼は答えた。
「言葉? 言葉を調べて何になるの?」
「ある言語を理解するということは、その言語を使う人々を理解する鍵になるからな。言語は、世代を超えて受け継がれるものだ。もちろん世代が変われば、言語は変化する。違う民族が交流すれば、言語は混じりあい、有用な単語が取り入れられることもあるだろう。だが、文法の根本的な部分まで変わってしまうことは滅多にない。その地域で話される言語が撲滅されてしまうのは、文化的な侵略があった時くらいさ。……ある意味、言語というものの振る舞いはDNAと似ているとワシは思っている。小僧、DNAを知っているか」
「多分、聞いたことくらいなら、ある」
「DNAというのは、生命の設計図のようなものだ。この生命はこうあるべき、と生まれつき決めている。その設計図は、ヒトの身体を構成する六十兆もの細胞ひとつひとつに入っていて、その細胞が今何をすべきかまで制御しているのさ。DNAは何もないところから新しく生み出されたりはしない。必ず自らを鋳型にしてレプリカを作る。こんなところが言語と性質が似ているだろう。DNAは世代を経るごとに、親から子に忠実に複製されて渡される……はずなんだが、たまにエラーをおこして親とはちょっと違ったDNAを子が持つことがある。突然変異ってやつさ。突然変異が積み重なって、生命の進化というものは起こるらしい。突然変異の数の違いを調べることで、生物の進化の全体像たる"生命の樹"の正体を探ろうという研究もある。……元々、すべての生命は一つだったのさ」
「おじさん。わからないことがあるんだ。おじさんは、言葉は受け継がれるもの、変化することはあっても、根本的に変わってしまうことは無いものといった。でも、世界には幾つもの言語があるのに、人間の根源は一つだ。辿って行けば一人の最初の人間に行き着く。矛盾しているじゃないか。……どうしてなの?」
「それは難しい質問だな。生命が先か、世界が先かという問題と同じくらいに難しい」
「世界が先に決まってるでしょ。世界があるから、生命が生まれることができたんだ」
「ふん。だがな、小僧。遠い地の神話によれば、世界は、ある生命によって創造されたというぞ」
所詮神話と言われればそれまでだがな、とおじさんは呟くようにいった。
「その問題は、おじさんにとっても難しいの?」
「ああ、難しいさ。とても難しい。もし、この問題を一点の曇りもなく証明できたなら、そいつは世界で最も権威ある賞の表彰台にだって立てるだろうよ」
「表彰なんかされたって、大して嬉しくはないけどね」
俺が答えると、オモダカ氏は実に苦々しい表情で、「ふん、所詮はガキか」と吐き捨てた。
その後、彼はぶつぶつと何やら呟きながら資料を漁り始めたため、妙に重苦しい空気の中でその日は別れを告げた。
雨は降り続き、その間オモダカ氏は遺跡の調査に出られなかった。いつにも増して不機嫌そうに眉間にしわを寄せて、宿の廊下を歩いてゆく彼の姿を見かけた。
もうじき予定していた調査期間が終わり、宿を引き払わなければならないのを俺は母から聞いて知っていた。
毎年この季節になると、宿屋には閑古鳥が鳴く。観光客も、好き好んで梅雨真っ盛りのナナシマに来たいとは思わないんだろう。きっと自分もそう思う。
オモダカ氏は何故、よりにもよってこんな時期にフィールドワークなんか始めちゃったんだろうなあ、と少し呆れた。
客観的に見て、オモダカ氏が尊敬するべき偉大な人間と言い難いことは、島の大人達が彼を見る視線からもなんとなく想像がついた。
遠巻きに、少し焦点を外すようにしてちらりと見る。そして見ていることを気づかれていないとほっとする。
島の大人達は、旅人と争うことは基本的にしない。彼らがいずれいなくなることを知っているからだ。
宿の場所を訊ねられれば丁寧に教えるし、その日の天気の移り変わりについて朗らかに、のんびりと話しているのをも時々見かけた。
けれど、それは他所の人間をあるがままに受け入れる暖かさとは少し違う、ような気がした。
言うなれば、火薬を積んだ荷車とすれ違うときに道を譲る類のものだ。
わずかな晴れ間を縫うように彼は遺跡に出かけてゆく。調査が予定より大幅に遅れていることに焦りを感じているようだった。現地で完全な調査することを諦め、山のような写真を撮ってきては自分の部屋にこもって解析を続けていた。
天候の変化を読み、前日に万全の準備をして出かけても、突然の降水により全てが徒労に終わったことも一度や二度ではない。
そんな時、彼はもはや苛立ちを隠そうともしなかった。日を追うごとに、彼の纏う気配はより一層、人を寄り付かせないものになっていった。
オモダカ氏の印象として、今でも一番強く残っているのは、この時期の排他的な雰囲気だ。
俺とオモダカ氏の関係にある転機が訪れたのも、嫌な雨がしとしと降り続く日のことだった。
その日、彼はどことなく疲弊した面持ちで廊下を歩いていた。
「こんにちは、おじさん」と俺が話しかけると、彼は俯き気味の視線をこちらに向け「なんだ、小僧か」と呟いた。
久しぶりにゆっくり話をしてみたいと問いかけてみると、彼は意外にもあっさりと了承してくれた。
久しぶりに訪れたオモダカ氏の部屋は、山と積まれた写真や研究論文、何に使うかわからない大きな機材などが無造作に置かれていた。前に見た時の整然とした感じはすっかり失われている。
何を話したものかと俺が迷っていると、オモダカ氏の方から唐突に話を切り出してきた。
「小僧、お前はナナシマを美しい土地だと思うかね」
何を意図した質問なのか、さっぱり見当もつかなったが、誤魔化す意味もないので俺は素直に答えた。
「もちろん。六ノ島も七ノ島も、自然に囲まれて美しい。おじさんも大好きな、古い遺跡もあるでしょう? あまり行ったことはないけれど、他の島だってそれぞれ素敵なところだと思うよ」
そうだ。六ノ島は自然に溢れている。人が減って活気がないのも否定しないが。
「ふん、島の子供は暢気だな。いや、暢気なのは大人も同じか。ナナシマは、お前たちが思っているほどのどかで平和な土地ではないさ。むしろ、仄暗い歴史を残す、闇の深い土地だとワシは思うがね」
「どういうこと?」怪訝に思い問いかけた俺に、オモダカ氏は無表情に語り始めた。
七ノ島に『アスカナ遺跡』という遺跡があるだろう。あれは古代人が造り上げた遺跡だ。彼らは、独特の文字を持っていた。二十六字の表音文字で言葉を表す文化をな。
アスカナ遺跡が造られたのは千五百年以上も前だといわれている。今のナナシマの人々は本土に近い一ノ島から順番に移り住んだと言われるが、それも高々数百年前だ。遺跡を造った古代人とは何の繋がりもないのだろうよ。
アスカナの言葉を受け継ぐ人々は今はもうどこにもいないが、同じ文字が刻まれた遺跡ならこの世界の各地に残っている。
ジョウトの『アルフの遺跡』、シンオウの『ズイ遺跡』、そしてこのナナシマだな。遺跡の壁に刻まれた文字が、彼らの生きていた証しだ。
文字という高度な文化を持ち、後世に残る遺跡を創った彼らが、何処から来て何処へ行ったのか。彼らの言葉はどうして滅んでしまったのか。わからないことだらけだ。
ただ、このナナシマから彼らが消えた理由としては、一つ面白い仮説があるのだよ。
六ノ島にも遺跡が存在する。『点の穴』という遺跡だ。あれも古代の人が造った遺跡だが、遺跡に使われている文字はアスカナ遺跡のものとは全く違っているのだよ。
点の穴の文字は、六つ一組の点の凹凸で表記されているんだ。この文字も言葉の音を表わしたもののようだが、アスカナの文字とは形も文法も全く異なっている。
ワシの見立てでは、点の穴の遺跡の方が、アスカナ遺跡よりも古い時代のもののようだ。しかし、彼らの子孫もまた、現在のナナシマには暮らしていない。
ナナシマに栄えた二つの文明が、二つとも跡形もなく消えている。
奇妙なことだと思わんか?
おそらく二つの文明は、何か大きな異変か災害によって滅んだのだろう。ナナシマは大洋に浮かぶ孤立した列島だ。何か起こっても外界の歴史に刻まれる可能性は低い。
問題は何がそうさせたかという事だが、ワシはその糸口は『アスカナの鍵』という石室にあると予想している。アスカナの鍵が異変の原因にかかわっているのか、異変の結果アスカナの鍵が造られたのかまではわからんがね。
ワシはナナシマに起こったことのすべてを知りたい。たとえ過去の悲劇を繰り返すこととなろうとも、ワシはアスカナの鍵を解いてやるさ。
その時まで俺は、六ノ島の遺跡を作ったのは自分たちの遠い先祖であると思っていた。誰に言われたわけでもないが、漠然と信じていた。
それをあっさりと否定されたばかりか、「お前たちは神聖な遺跡に住みついた墓荒らしだ」とでも言われたようなショックを覚えた。
俺がナナシマに対して抱いていた思い。それは例えるなら発達途上の子供が家族に対して思う感情と似たものだった。
奇妙に思われるだろうが、具体的に言葉にするのなら『愛着』と『嫌悪』――近しいからこそ感じ得る矛盾した二つの感情の混じり合ったもの。
ふたを開けてみれば、心にしまい込んだ箱の中に入っていたのはそんな赤黒い感情だった。
「その鍵を開けたら、ナナシマはどうなるの? 良くないことが起こるかもしれないんでしょう?」
「その時になってみなければわからんよ。ワシはただ、謎を解き明かしたいだけだ。謎というものは、解かれるためだけに存在するのさ。解いた後がどうなろうが、ワシの知ったことか」
故郷を侮辱された怒りと、裏切られた悲しみと、ごちゃごちゃしたものが胸の奥から湧きあがってきた。心の中に住みついている真っ黒な怪物が赤い火を吐くように、言葉が喉から飛び出した。
その時、俺は何と言っただろうか。酷いと叫んだのか、大嫌いだと喚いたのか。あるいはもっと過激な罵声を浴びせたのか。よく覚えていないが、思い出したくもない。
「おい、小僧、待たんかっ」その言葉を背中に聞きながら、俺は部屋を飛び出して階段を駆け上った。
それが、彼と言葉を交わした最後だった。
それから数日、俺は極力彼と顔を合わせないようにした。廊下でやむなくすれ違っても、ぷいと目をそむけた。背後に感じた、嘲笑混じりの溜息も知らんぷりだ。
彼の方は、小僧がつまらない意地を張っているくらいにしか思ってなかっただろうし、実際その通りだった。
息の詰まりそうな日が続き、そろそろ仲直りしてやってもいいかなと小生意気なことを考え始めた頃だった。
オモダカ氏の部屋の前を通りかかると、扉が開き、中から布団を抱えた母が出てきた。
部屋を覗き込むと、彼の持っていた研究資料や機材はすべて跡形もなく消えていた。
オモダカ氏はどうしたのかと母に訊ねると、もう部屋を引き払って出ていったのだと言う。
片付け途中の部屋の、開け放たれた窓からは、穏やかな風が吹きこんでいた。
綺麗に片付けが終わった後には、そのうち新しいお客が泊まるんだろう。
挨拶くらいして行けばいいのにと思ったが、よく考えたらそんな義理はなかったか。
寂しいような、ほっとしたような、複雑な気持ちだった。
ふと窓から外を見ると、じめじめした気分とは裏腹に、からりと晴れた夏の空が広がっていた。
――いつの間にか、梅雨は明けていたのだ。
あれから彼が再び宿屋を訪れることはなかったし、風の噂にさえ聞くことはなかった。
俺の実家の宿屋業はいろいろあって廃業してしまったから、訪ねて来ように来られなかったのかもしれないけどな。
実を言うと、俺は彼の顔を、もうよく覚えていないから、会ったところでおそらく互いにわからないだろう。
梅雨の季節になると、今でも時々考える。
彼は、まだ遺跡の研究を続けているんだろうか。雨の中を這いずりまわって、ナナシマを破滅させる鍵を探し続けているんだろうか。
だけどいくら考えても、「嗚呼、今もこうしてナナシマが平和だってことは、まだ彼の夢は叶っていないんだな」と、いつも同じ結論になってしまうのだ。