こんな話を聞いた
さあ、こちらがお客さんのお部屋ですよ。
何のお構いもできない、辺鄙な村の古い宿屋ですが、今夜はゆっくり旅の疲れを癒して行ってください。
そう言えば、お客さんは確かポケモントレーナーでしたね。
いかがです? 珍しいポケモンは見つかりました?
えっ。それは本当ですか。
本当に、シャワーズではなくてイーブイを見たのですか。
――いえいえ、驚かせてしまってすみません。そうですか、イーブイを見たんですか。
お客さんは知っています?
野生でイーブイが見つかるのはめったにないことなんだそうですよ。
たまに見つかるのは、進化形ばかり。
人に飼われているならともかく、野生で生きていくにはイーブイはか弱い。
生き残るために早く進化しようとするのか、進化した子だけが生き残るのか。
何にせよ、お客さんは幸運でしたね。
――ええ、ここの近くの川にはシャワーズが住んでいるんですよ。
数個体だけ、川辺に暮らしています。
彼らは……同じ母親から生まれた、兄弟達なんです。
母親は、もう十年以上前にひょっこりと現れました。
どこから来たのかはわからない。
もしかしたら、人に飼われていたのかもしれませんね。
進化する条件が整っていたのか、生まれた子達も皆シャワーズになりました。
お客さんは、ポケモンを捕まえて、戦わせるのがお仕事でしたよね。
勝手なお願いではありますが、あのシャワーズ達はそっとしておいてやってくれませんか。
今までにも、彼らを捕まえようとしたトレーナーさんもいらっしゃいました。
追い詰めてみても、川の水に溶けて消えてしまったそうですけどね。
――あの逃げ足には敵わない? ははは、そうかもしれませんね。
……あの母親の姿を誰も見かけなくなって、もう数年になります。
寂しいことですが、そう遠くない将来、この近くの川でシャワーズを見かけることも出来なくなるのかと思っておりましたが……。
そうですか。お客さんは、イーブイを見たのですか。