新しい人生は新米ポケモントレーナー





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2章
【エイプリールフールネタ】理想の姿
 目が覚めるといつもと違う体の感覚に首を傾げる。
 顔をこすってみるとやけにもふもふしている。なんだ、これと起き上がろうとしてもやけに視線が低い。
 きょろきょろとあたりを見回しておかしいことに気づいたのはイヴが自分より大きくなっていたのがきっかけだ。
「い、イヴ? やけに大きい……?」
「ふぃ……?」
 寝ていたイヴが目を覚ますとこてんと首を傾げながらくんくんとこちらのニオイを嗅いでからすりすりと頬ずりしてきた。
 あれ、嬉しいけどなんかおかしいぞ。
 すると、エルドが鏡を取って来てくれてベッドの上に置き、それを覗きこむとイーブイが映る。野生のイーブイでも迷い込んだのか?と手を動かすとそれに連動して鏡のイーブイも動く。

 ……認めたくない現実が一気に迫ってくる感覚。自分の体を再度確認してようやくわかった。

「俺がイーブイになってるー!?」

 ふわふわのもふもふ。茶色の体毛だがくせ毛のようにちょっとだけ毛がハネており、あわわわわと混乱しているとすぐ近くのイヴとエルドが心配そうな目を向けてくる。ポケモンの姿になったからといってイヴたちと言葉が通じるわけではないようだが――
「ヒロ? あれ、どこいったんだろ」
 エミが部屋に入ってきてぐるりと見渡すが俺の姿が変わっているせいで気づかない。
「あれ、イーブイがなんでこんな……」
「俺だよ! 俺ー!」
 声はそのままだしきっと伝わるはず、と必死に声を張り上げる。するとエミが怪訝そうな顔をしつつも近づいてきて言った。
「……あれ、もしかしてヒロ?」
「そうだよ! 起きたらこんなことにな……エミ、なんかお前デカくない?」
「ん? あれ、そういえば――」
 いつもだぼだぼの袖がいつもより短い。下手したら指先が見える。背が明らかに伸びている。寝ているときのインナーもサイズが合ってないのだろう。心なしか声もいつもより低い。総合してエミの状態を言うならいつもより男らしくなっている。
 元々中性的で顔がいいせいかなかなかの美青年に仕上がっており、これは女が放っておかないんじゃ?というほどだ。
「成長期かなって……」
「さすがにおかしいだろ! お前明らかに縦に伸びてんじゃん!」
 でも俺ほどの変化じゃないせいかそんなに驚きはない。

「うるせーですね。どうしたですよ」

 ゴッと鈍い音と同時に扉が開いてなにかが入ってくる。

 ――シアン、のはず、だが……。

「お前はなんでそういう体を張った色物にしかならないの?」

 こう、いつかの夢で見た全身世紀末じゃなくて頭だけいつものシアンなのに肉体が筋骨隆々とした普段の3倍以上はある大きさで俺を見下ろしている。世紀末と呼ぶのもおこがましい。なんだこの肉塊。壁殴り代行じゃねぇんだから。
「この美しい筋肉美に何の不満が!?」
「見苦しい……かな……」
 よくある均整の取れた筋肉美とかじゃなくて雑コラみたいな筋肉の体に頭だけいつものシアンですごく気持ち悪い。
 正直前に見た夢の世紀末のほうがまだマシだった。
「……え、何この状況……」
 困惑の声とともにマリルリさんと現れたイオトは俺らを見て困惑している。状況を簡単に説明するが、イオトだけ全然変わっていないように見えて逆に不思議に思ってしまう。
「なんでお前全然変化ないんだ……?」
「むしろお前らは何があったらそんな激変するんだよ」
 正論。本当にイオトに変化はないのかとじろじろ見ていると小さな違和感に気づく。
「イオト、ちょっとメガネはずせ」
「え? ったく、なんだよ急に……」
 渋々メガネを外すといつもより目つきが悪くなるものの、イオトの違和感ははっきりとわかった。
「お前……タレ目じゃなくなってる……」
「えっ、マジで!?」
 洗面所の鏡を見に言ったイオトが「おあー!?」と喜びと驚きが入り混じった声を上げ、しばらくして戻ってくる。
「タレ目じゃない……!」
「喜んでることにまず驚きだよ」
「俺タレ目嫌だったんだぜ!? 唯一親父からの遺伝だけど――まあそれはさておき、やっぱなんかしら変わってるんだな」

 共通点はなんだろう?

 見事に全員方向性が違う。シアンはもうとりあえず無視するとして、エミは身長や体格が成長し、イオトはコンプレックスのタレ目が消えた。そして俺はイーブイの姿。
 ……もしかして、全員なりたい姿になっている、とか?
 俺は確かにポケモンになれたらとは思うがイーブイとは思ってなかったし、そのへんははっきりわからないものの、その線が濃厚と見ている。
「俺たちだけに起こってる現象?」
「とりあえずこういうの詳しそうな人に連絡取ってみるか……」
 有力そうなのはリコリスさんあたりか。前足を使って電話をかけてみるが長いコールの後不在の音声が流れるのみで連絡がつかない。
「こういうときに頼ったら怒られそうだけどマシなのあいつくらいしか他にいないんだよなぁ……」



――――――――


 というわけでメールしたケイを待つ。イーブイ姿にはなったが待っている間に色々試すとポケモンの姿ではあるもののポケモンではないのかボールに入ることはできないし技も使えない。ポケモンと意思疎通もできないしガワだけの変化のようだ。

「よー、待たせたな!」

 妙に明るい声。ケイらしくないと思ってそちらを見るとなんか……うん。

「……あれ? なんかケイ、いつもと違……」

「ようやく気づいたかこの筋肉美に!」

 駄目だ、どいつもこいつも筋肉ばっかで頭がおかしくなりそうだ。
 といっても、ケイは普段より背が伸びて、ガタイが全体的によくなったくらいなのでシアンみたいな雑コラにはなっていない。きちんと良識の範囲内での体格で収まっている。
「15年夢見た筋肉が! 俺に! ついた!」
「見たことないくらいテンション高くて怖い」
 やや興奮気味に自分の筋肉を主張しようとしてくるけど道場関係者はみんなこうなのか?
 シアンが後ろで負けじと筋肉を主張しているがお前は少し黙れ。
「なんでお前らは筋肉ついてないんだよ! この軟弱者ども!」
「急に筋肉ついた途端元気になったな……」
「当たり前だろ筋肉は万物に効くんだからな!」
 ケイがなに言ってるのかよくわからないです。
「そうですよ。筋肉こそ世界を救う一歩。そしてなにより筋肉はあらゆる健康の元。つまり筋肉こそこの世を統べる真理なのです」
「シアンは壁でも殴ってろ」
「はーいですよ」
 無言で壁を破壊し始めたシアンを差し置いてとりあえず本題に移ることにする。
 見たこともない満面の笑顔のケイが怖いがそれは横においておこう。
「で、この異常事態をどうにかしたいんだけど……」
「は? なんで? 別にいいじゃねぇか」
「よくねぇよ! 俺ずっとイーブイモドキのままはさすがに困る! ていうか俺ポケモンみたいな姿してるけどポケモンと会話は通じないし、技も出せないし実質見た目がポケモンなだけのか弱い生き物だし……!」
「でも俺は今の自分の姿のままでいたいから協力する気はないぞ」
 そ、そんな気はしていた……。元々シアンはさておきエミもそこまで乗り気ではないし、イオトはどっちでもいいという状況。つまり、ほかにどうにかしたいやつに頼るしかない。
 が、状況が『自分の理想の姿になる』だと思われるので
 じゃあなんでケイ来たの。
「この筋肉を人に見せたいと思うのは当然のことだろ!? お前筋肉のこと全然わかってないな!」
「知らねぇよ!」
 ケイはこの通り使えない。唯一イオトくらいしか乗り気じゃないだろうしどうすればいいんだこれ……。



――――――――


 ――その頃、ヒナガリジムでは……

「ハッハー! 俺様の完璧なメタモルフォーゼがついに成ったぞ!」
 ここ数年で一番いい笑顔をしたユーリ……いや、言動でユーリとジムトレたちは判断したものの、その姿は原型がほとんどない。なんせ低身長、童顔の少女のような普段のユーリからかけ離れた高身長で大人っぽい男性になっていたのだから。
「…………えっ、えっ?」
 困惑して書類を落としたイオリが疑問符を浮かべている。隣りにいたリンドウもぽかんとしており、全然状況がわからない。
「あの……ユーリさん、ですよね?」
 困惑しつつもオルガルがユーリらしきそれに声を掛けると背が高くなったからか馴れ馴れしくオルガルに肩を組んで屈託なく笑う。
「そうだぞそうだぞ! 朝起きたらこうなっててな! いやー、ついに成長期が来たんだぞ!」
 いや成長期で男にはならねぇよ、と誰もが思ったが嬉しそうな笑顔を見て何も言えない。
 そのまま仕事に行ってしまったユーリを誰も止められず、何が起こったのかさっぱりのジムトレたちは皆一様に困惑の顔を浮かべるのみ。
「……女にならないといけないかな……」
「リンドウ、一度頭の病院紹介しようか?」
 一部、変なことを言っていた気もするが些細なことであった。


――――――――


 一方レンガノシティは――

「みんなおっはよ〜!」
 輝かんばかりに眩しい笑顔を浮かべながらリコリスがジムに現れる。リコリスの普段前髪で覆われた顔はあらわになっており、本来の彼女の素顔とはほど遠い整った顔になっている。
「……え、何……整形でもしたのか?」
 オズが困惑しながら楽しそうなリコリスに声を掛ける。リコリスは普段なら逆ギレでもしそうなものだが今回は怒る気配などなく、笑顔でオズに返事をする」
「やあねぇ! そんな一日でどうにかなるわけないじゃないのぉ! 朝起きたらこうなってたのよぉ」
「え……いやいやいや……」
「さすがにそれはおかし……」
 オズもハギも首を横に振る。しかしリコリスは聞こえていないのかウキウキした様子で仕事をしに行くのであった。
「……特に害はないしいいか」
「……いい、のかな……」




――――――――


 各地で異変が起こっており、それは四天王にも影響が出ていた。
「大変よ! アンリがいきなり背が低くなって顔がまるでロリみた……」
 知らせを聞いて駆け込んできたアリサが会議室にいる人物を見てぴたりと動きが止まる。
「ナギ……サ……じゃない、わね!?」
「なんでバレた!?」
 ナギサの姿を真似た姿のその人物は声こそ女になっているし服装も女物だが雰囲気が若干違う。
「なにやってんのよランタ! ついにあんたまで変態になったわけ!?」
「ち、違う! 朝起きたらこうなってて……」
 元々双子ということもあってか女になったランタはナギサとよく似ている。よく見れば差異は感じられるものの、よく知らない人間が見たら騙されてもおかしくはない。
「だからってその格好する必要ある?」
「冷静に考えてみろよ」
 ランタが声を低くしてキリッとした顔でアリサに言い含める。

「俺が女の格好したらほぼナギサだろ? つまり俺とナギサで双子コーデをしても合法。つまりナギサからの好感度が上がる」

「何言ってるのかさっぱりわからないわ」

 特に変化が起こっていないアリサとリッカ、そしてフィルがランタの奇行を白い目で見ながらこの異常事態をどうするべきか真剣に頭を悩ませていた。


 各地で自分の理想の姿になるという謎の現象。大半の人間は自分の望む変化のためか受け入れており、ほとんどの人間が解決しようなどと思っていないのであった。


――――――――

 誰も協力してくれないし手がかりもないので一人途方に暮れながら外を探索していると服屋から見覚えのある姿が現れる。
「ふふふ……」
 妙に嬉しそうなリジアが袋を抱えながら店から離れる。が、逃すまいと追いかけて足を引っ張ると俺に気づいて足を止めたリジアがしゃがみこんだ。
「おや、どうしましたか?」
 そう、今の俺は小動物状態なので喋りかけなければ気づかれないだろう。
 こう、リジアの笑顔が新鮮でちょっと邪心が出てしまった。
「ぶ……ぶい〜」
「ふふ、人懐っこい子ですね。主人はいないのですか?」
 首元を指先で撫でられ幸福感が高まっていく。
「野生……? 町中で野生というのも珍しいですが……」
 きょろきょろと主人がいないというのを確認したリジアは袋を片手で持ち、もう片手で俺を抱きかかえる。
「そんなに私が気に入ったならうちの子になりますか?」
 条件反射で頷きそうになるけどそういうのよくない。でも魅力的。俺自身がポケモンになることが正解だったのか……? そういう意味では俺の理想的な姿ではある。
 ていうか喋れるけど喋ったらバレるし、かといってこのぶりっ子は正直きついぞ。どうする俺。
「あー……かわいいなぁ。ほら、ボールありますよ、ほら」
 荷物を代わりにネイティオに持たせてボールを取り出すが俺はポケモンじゃないせいかうまく作動しない。その様子にさすがに不信感を抱いたのかリジアは「ん?」と疑惑の目を向ける。
「これは……既に誰かの手持ち……というわけでもなさそうですが……」
 ふと、抱きかかえられてようやく気づいたのだがリジアも一見変わっていないようで見た目に変化が起こっている。
 まず荷物を預けたことでわかったのは胸だ。こう、平均的な女性のサイズくらいはあるだろう。
 そして身長。元々高めだったが今では普段のエミくらいの大きさにまで縮んでいる。
 だから服を買いに来ていたのかと納得がいくがなんだろう、このこれじゃない感……。
「……こちょこちょ」
「っ!?」
 リジアは俺の体をくすぐり始め、そのくすぐったさで思わず声を上げてしまう。
「はひっ、や、やめ――」
「あ゛?」
 声を出したことでリジアの表情が一変する。先程の笑顔とは程遠い、見慣れた侮蔑の顔。
「お前…………ヒロですね?」
「ぶ、ぶい〜?」
「とぼけるんじゃありません! この畜生が! その姿なら私を懐柔できるとでも!?」
 くっ、ちょっと思ったから反論できねぇ。
 でも俺ポケモンとしてなにかできるわけでもないしちょっと邪心が発動してもいいじゃないか。
「ふん! 生意気な真似をしてくれますね! お前なんかこうです!」
 くすぐり攻撃を受け、助けを求めようにも非力でか弱い小動物ではどうしようもできない。
「このまま持ち帰って実験の材料にしてやりますよ!」
「や、やめろぉ!」



――――――――



「うーん……やめろぉ……」

 うなされながらヒロがベッドの上で呻いている。心配そうにイヴが寝ているヒロを見ながらゆさゆさと起こそうとする。

「ちが……違うんだ……」

 起きる気配はなく、悪夢に悩んでいるヒロを心配するイヴ。
 起こそうとしてもその後も起きないのでイヴは悪夢から解放されるまでヒロを見守るのであった。

 その様子を見るクレセリアは悪夢ではないのでどうしようもないと考えつつその場を去るのだが、ヒロに気を取られていたイヴはその姿に気づくことはないのであった。




とぅりりりり ( 2018/04/28(土) 20:54 )