新しい人生は新米ポケモントレーナー





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2章
落ち行く先は

 互いの存在に気づいた俺らは臨戦態勢だが、リジアだけまるでこの世の終わりとばかりの顔で後退り、それに気づいたキッドがリジアを庇うように前に出た。
「リジ姉、下がってッス!」
「このトンチキやろー! よくボクの前に顔出せたですよ! 今度こそぶっ飛ばしてやるです!」
 シアン、地味にキッドをライバル視してるな。というかシアンの罵倒の語彙力どうなってんだ。
「ネギたろう! で――」
「グラエナ! かみなりのキバ!」
「――あいがしらぁー!」
 グラエナより先にネギたろうのであいがしらが決まる。おお、結構いいダメージ入ったっぽいな。
 ヨツハ曰く、ネギたろうは飲み込みが早かったらしく、もうシアンの手持ちではメモにあった教え技と遺伝技を覚えきったらしい。
 ていうかカモネギってであいがしら覚えんの? 元々前世のときカモネギにそこまで興味なかったから知らないけどほとんどグソクムシャの専用技のイメージだったから驚きだ。
「トドメ! きりさくですよ!」
「舐めんなピンク! グラエナ、ふいうちだ!」
 グラエナのふいうちによる反撃をネギたろうが食らうかと思いきや、間にエミのコジョンドが割って入る。ほぼエミが参戦したことにより結果は見えた。
 正直前から思ってたけどエミとイオトの二人が段違いに強すぎて相手がちょっとかわいそうになるんだよな。まあ相手も悪いことしてるからしょうがねぇんだけどさ。
「ふんっ」
 気に入らないとでも言うようにリジアが鼻を鳴らすといつの間にか出ていたネイティオがコジョンドに迫り、更にはニャオニクスもグラエナをサポートするように控えていた。
「キッド君、サポートします」
「リジ姉ありがとッス!」
 リジアは害悪パだから普通に単体より妨害に徹されると厄介なんだよなぁ。俺必要?とエミに視線を送るが目で逆に邪魔だから出てくるなと言われた気がする。イオトもそれを察してかこの状況だと言うのに呑気に様子を見てあくびをしていた。
 シアンとエミ、キッドとリジア。この狭くはないが障害物の多い洞窟内でのバトルは振動がよく響いてくる。
 まあたしかに俺が入る余地がないというか……今割り込んでも洞窟内だし、フレンドリーファイアになりかねない距離なのでとりあえず成り行きを見守っておこう。
「きゃー、怖いー! ヒロく〜ん」
 あんまり怖がってなさそうな声でヨツハがまた腕に抱きついてくる。マジでなんなの。そういう思わせぶりはよくないと思います。
 すると、後方でキッドのサポートをしていたリジアがこちらに視線を向け、俺のことをまるで汚物を見るかのように睨んでくる。
 誤解されているというか死ねばいいのにという気持ちが嫌になるほど伝わってくる視線に慌てて弁明しようと口を開くもその前にリジアは吐き捨てるように言った。
「へえ、そうですか。他に女がいるなら私に何も関係ないですね。どうぞお好きに。できれば私の視界に映らないでください」
 マジで想像通りのこと言ってる。誤解です。というかやっぱりリジアわかりやすすぎる。
「違うって! 俺が好きなのはお前だから!」
 ヨツハを引き離して無実を主張するが相変わらずゴミを見る目のまま、冷たい声音で言われる。
「で? だから何。私に関係あります? それ」
「関係も何も当事者!」
 死ぬほど鬱陶しいそうにながーいため息をつかれ、ちらりとキッドの方へと視線を向ける。エミが相手してる時点で勝率はほぼないだろう。エミの顔は真面目なのでふざけてる様子もないし、現にコジョンドの流れるような動きでキッドの手持ちであるグラエナは避けるのに必死で恐らくだがもう戦闘不能寸前だ。
 ふと、リジアを見て違和感に気づく。
「ていうか服変えた?」
 一応すぐ近くが戦っている状況なのだが短い丈のズボンから長いズボンに変わっていたリジアの服装が気になって思わず空気の読めない発言をしてしまう。いつも惜しげもなく晒されていた素足が隠されたので少しもったいない。
「妙な悪夢を見ましてね!」
 舌打ち混じりにグライオンを差し向けられるがこちらがエンペルトを出す前にイオトのマリルリさんがそれを阻止する。
「まりっ!」
「ぐらぁ……!」
 前々からいいたかったんだけどマリルリさん、なんで平気で相性悪いのと戦おうとするの。
 エミたちの方を見るとグラエナはもう戦えないのかキッドがワルビアルを繰り出しているのが見える。あいつ本当に悪そうというかいかついポケモンばっかだな。
「ワルビアル! じしんだ!」
「ばっ!? キッド君やめ――」
 ワルビアルにより地面が大きく揺れ、敵味方お構いなしの広範囲攻撃にバランスを崩してよろめいてしまう。リジアのニャオニクスはギリギリまもるをしたのか無傷でネイティオも飛んで回避したが完全に味方すら危ない攻撃を打ち合わせなしにするなんて――こいつやっぱり馬鹿だ。
「キッド君こんな場所でじしんなんてしたら――」
 ミシッと嫌な音があちこちからして血の気が引く。頭上から破片が落ちてくる気配とすぐ近くの地面が不安定な状況。先程まで激しくバトルしていて脆くなっていたのだろうか。
 まだよろめいたままのリジアの足元に亀裂が走るのが視界に映り、とっさに体が動く。
「リジア!」
 足元が崩れ始め、引き寄せようと腕をつかむが間に合わない。俺もろとも足場がなくなり地下へと落ちていく。

「ヒロ君!」
「リジ姉!」

 遠くで俺たちを呼ぶ声がするが落石と、どこまで落ちるのかわからないせいでそれどころじゃない。リジアは落石で頭を打ったのか意識が飛んでいる。
「チル――」
 ボールからチルを出そうとして――

 やっべ、ヨツハに預けたまんまじゃん。



――――――――



「ちょっ、ちょっとどうするですか!」
 ヒロが落盤の影響で地下へと落ちたその直後、落石でその地下への穴も塞がるというコンボのせいで4人と1人、そして取り残されたリジアの手持ちは困惑していた。
「落ち着け、岩をどかして飛べる奴らで……」
 イオトがそう言うものの、ヨツハはあまり推奨できないとばかりに難しそうな顔をする。
「不用意にここから降りたとしても、取り除いたときに落ちた岩とかで下のヒロ君に怪我させるかもしれないし、地下へのルートから迎えにいったほうが安全かも。あ、でもヒロ君、手持ちほとんどあたしが預かってるしそもそも助かってるかな……」
「縁起でもない事言うなって」
 エミがたしなめるものの、現実絶望的な状況にシアンもキッドもあわあわと青ざめる。
「ひ、ヒロ君死んじゃうですか!?」
「り、リジ姉ええええ! お、俺のせいで……」
 リジアの飛行手段であろうネイティオも、飛べるであろうグライオンもこちらに取り残されている。二人が生存できるかはかなり怪しい。
 しかもテレポートやエスパーの力でどうにかしようにも謎の磁場の影響か何かでこの鉱山でテレポートはできないらしい。どうやら座標が狂うとからしくどのみちネイティオやサーナイトに頼るのは難しかった。
「とりあえず、地下へのルートも道は知ってるからそっちに行くでいい?」
 ヨツハの提案にイオトは頷き、あわあわ継続中のキッドをエミが縛り上げる。
「とりあえずまあ、君も一緒に。はい。これで合流しても逃げないだろうし」
「こ、こんにゃろぉー! 卑怯者! 鬼! 悪魔! ドヒドイデ!」
 わめくキッドを捕まえながら地下への道を行く一行はリジアの手持ちも連れて二人の無事を願いながら少し暗くなった道を進んでいった。


――――――――



「ああああああああああ死ぬ死ぬ死ぬ!」
 リジア抱えてるし手持ちエンペルトだけだしこれは死んだ。
「ぺーっ!」
 エンペルトがボールから飛び出してくるが今この状況でお前何できるんだ!? 一緒に落ちるだけだぞ!
 そう思っているとエンペルトがアクアジェットで俺より先に落ち、俺とリジアごと片翼で受け止めたかと思うと冷凍ビームで周囲の壁を凍らせて翼を壁に突き立てた。
 宙ぶらりんな状態でしばらくいるが厚めの足場を作ってくれたのでとりあえずは落下死を逃れ、一生エンペルトについていこうと決意した。イケメン、抱いて。
 とはいえここから上に戻るのも難しく危険なのでとりあえず氷の足場を増やして下に降りることにした。幸い、そこまで下方ではないのですぐに不安定な氷の足場ともおさらばだ。
 リジアを抱えたまま降りるが目を覚まさないため不安になってくる。打ち所が悪いと命に関わるし。息はあるのだが下手に起こそうとするのもよくないだろうし対応に悩む。
 降りた先は地底湖のようになっており、静かな空間の中、俺達の足音だけが響いている。野生のポケモンの気配は今のところしないが……。
「うっ……」
「リジア?」
 辛そうな声がして意識が戻ったと顔を覗き込むとリジアが焦点の合わない瞳でこちらを見る。
 が、数秒して状況を理解したのかリジアはじたばたと暴れだす。
「放しなさい! 気安く触らないでください!」
 俺、そんなに嫌われるようなことしたかなぁ……。
 惜しいが暴れられると危ないので解放すると状況を確認してチッとわかりやすく舌打ちし、不本意そうに呟く。
「助けてくれたことだけは感謝します。でもお前が勝手にしたことですからそれ以上は何も言いません」
「別に礼とか一切期待してないからいいよ」
 そもそも絶対起きたら怒られる気はしてたし。
 が、その返答が不満だったのかリジアは更に不機嫌そうに眉根を寄せる。
「私が礼も言えない無教養な人間だとでも!?」
「リジアお前面倒くさいな!?」
 礼を言いたいのか言いたくないのかわからない。いや、期待してないだけで無教養とか一言も言っていないのだが。
「……あり、がとう……」
 顔は見えないが小さい声はこの静かな空間で確かに聞こえた。言われると思っていなかっただけに、これは思っていたより嬉しい。というかニヤける。
「ニヤニヤするんじゃありません! 気色悪い!」
「いや、だって……」
「だいたい、私のこと好きとか言っておきながらああやって女侍らせて何がしたいんですか! 私がちょっと甘いこと言えば陥落する人間だとでも!?」
「あれはマジで誤解だし俺はリジア一筋でいくから――」

 ぴちょん、と妙に水音が強く響く。

 ざわりと肌が粟立つ感覚は俺だけじゃなくリジアもあったようできょろきょろと周囲を見渡す。
 水音といえば目の前にある地底湖だが、ポケモンの気配はない。影もなく、水面も揺れないまま静かだ。
「地底湖……確かに事前の調べでは存在すると聞いていましたが道が閉ざされていて普通は入れない場所だと……それに、ポケモンが全くいないのも不自然――」
 リジアが水辺に近寄ると更に嫌な感覚が増す。
「下がれ!」
 ほとんど本能で危険だと、リジアの腕を掴んで引き寄せる。するとリジアがつい今立っていた場所に毒々しいトゲが突き刺さっていた。
 そしてその正体が地底湖ではなく、その天井であることに気づいて上を見上げるとそこにはドヒドイデと思われる存在がいた。

「ドヒドイデ――!」

「な、なんかデカくね!?」

 遠目だからはっきりとはわからないがドヒドイデの割にはデカい。少なくとも普通のドヒドイデより一回りは大きく、まるでうちのエンペルトのようだ。個体差といえばそれまでだがその大きさからぬしポケモンを連想してしまう。
 足のツメで壁や天井に上手く張り付いてこちらへ攻撃してくるドヒドイデは容赦なくトゲを飛ばしてくる。現在飛行手段がない俺らには近づくことすらできない。
「とりあえず逃げ――」
 逃げようとしたどこに通じるかもわからない道へとリジアを連れて走るがその道にドヒドイデが容赦なく毒液を放ち、近づけないように妨害してきた。
「これは……戦うしかないようですね」



とぅりりりり ( 2018/01/12(金) 21:03 )