新しい人生は新米ポケモントレーナー





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番外編
シアンのコンテストチャレンジ!

「みんなー。コンテスト出るですよー!」

 シアンの突然の宣言に俺たちは真顔で顔を見合わせる。コンテスト……意味はわかるがシアンと結びつかない。
「ボディビルダーのコンテスト?」
「格闘タイプのコンテスト?」
「大食いのコンテスト?」
「ちげぇですよ。おめーらボクのこと何だと思ってるですか」
 突き出されたチラシにはラヅタウンの不定期開催出張コンテストのお知らせ。

『どなたでも参加できるコンテスト。自慢の手持ちの魅力を多くの人に披露しませんか?』

「明後日この町でコンテストが開かれるそうですよ! しかもなんと! 審査員の一人にラバノジムのアンリお姉ですよ!」
 ラバノジムのジムリーダーアンリエッタ。彼女はこの地方のコンテスト本場であるラバノシティ出身ということもあってかコンテスト関連でもたびたび特別審査員やデモンストレーションで演技をしているらしい。
 まあうちの姉の同業者でもあるってことなんだけど彼女……彼女でいいんだよな? あまりコンテストそのものに興味がないのでそのくらいしか知らないのだ。
「一番の目的は優勝賞品のサンのみ一ヶ月分ですよ! 超貴重なきのみを一ヶ月分ですよ! すげぇですよ!」
「サンのみなぁ……」
 チラシをよく見ると4位まで賞品があるらしく、人数もそこそこ多めの特殊コンテストのようだ。部門もないので好きなポケモンで参加してくださいとある。
「つっても俺たちはともかく、そのアンリエッタって人がお前を見たら気づかれるんじゃねーの?」
「……はっ!」
 気づいていなかったことにこっちが驚きたいよ。
「変装でもすればー? 意外と気づかれないものだよ」
 そう言ってエミは宴会芸で使うようなぐるぐる眼鏡を取り出す。なんでそんなもの持ってんだお前。
 いやいやそんなクソダサ眼鏡をつけてまでシアンも参加しないだろ。そう思ってシアンを見るとなぜか「天才ですよ……」などとほざいていた。




 事前登録ということでコンテスト会場予定の場所へ向かうと受付中の女性がそこそこ見える。シアンもぐるぐる眼鏡をつけて受付へ向かうと喜々として登録を済ませている。
「コンテストの何がいいんだか……」
 イオトが愚痴っぽく呟く。コンテストの話題が出てから機嫌の悪いイオトははあ、と深い溜め息をついた。
 そこに、登録を済ませたシアンが駆け寄ってくる。
「早速本番までの準備するですよー。ポロックとポフィン、どっちのほうがいいんです?」
「姉さんはポロック派だったなー。うちのきのみ何個かやるからがんばれよ」
 本業というかプロの姉はどっちも併用していたが好みで言えばポロック派らしい。というか姉のポロックづくりは本当にすごい腕前だ。ちなみにうちの店のきのみを宣伝するために姉は基本的にコンテスト用のポロックは店の廃棄分を再利用している。
「じゃあポロックにするですよ! 最近のポロックマシンは持ち運びもできるオート機能ってすげぇですねー!」

「あーら! そんな安っぽいポロックマシンで優勝しようとしてるのかしら!」

 突然、甲高い声が向けられ、ぐるぐる眼鏡のシアンが振り向く。
 見知らぬ女。妙にフリルのついたいかにもお嬢様みたいな金髪ドリルがシアンを嘲笑う。
「挑戦者のレベルが低すぎて何もしなくても優勝してしまいそうですわ。オホホホ」
「あん? 喧嘩なら言い値で買ってやるですよ」
 一方、マジモンのお嬢様であるはずのシアンの返しがただのチンピラである。
「喧嘩なんて……野蛮なこと。それに、男3人も侍らせてる貴女みたいな女はろくでもないと相場が決まってますもの。やだやだ不潔ですわ」
 俺たち3人を値踏みするように見てくる女に思わずカチンと来た。どうやらイオトもエミも同じらしい。
「言っていいことと悪いことがあるだろ!」
「品性を疑うな」
「僕らもさすがに流せないことがあるんだよねー!」
「3人とも……」

 そう、俺らの思いは一つ。

『これに手を出すほど落ちぶれてねーよバーカ!!』

「おめぇらあとで覚えておくですよ」
 シアンがぐるぐる眼鏡のせいでちょっと目が見えないが声がものすごく低い。おかしい。俺ら鼻にも悪くない。
「オホホ。まあせいぜいそのしょっぱいきのみで頑張るといいですわ。ではごきげんよう」
 高笑いをしながら去っていく金髪ドリルへの苛立ちが敵意へと変わる。

 うちのきのみをしょっぱいとほざいたかあの女。

「はー……殺そうぜあいつ」
 思わずそんな言葉が漏れる。シアンを馬鹿にするのは構わないが実家のきのみを馬鹿にされるのは許さない。
「その前にぎゃふんと言わせてやるですよ! ヒロ君! ポロック作るです!」
「おう、待ってろ。その前にちょっと実家に連絡する」
 うちのきのみを馬鹿にしたことを公開させてやるあの女。



「……なんかヒロまで盛り上がってるねー」
「……はあ、くだらね」
 少し冷め気味なエミと、心底嫌そうなイオトが遠目から俺たちを眺めていた。





――――――――



 それから2時間ほどでポケモンセンターにあるものが届く。
「これが本格ポロックマシンだ」
 実家にいくつかあるポロックマシン。その一つを貸してもらった。母は「いいわよ〜。終わったら送り返して〜」と快く速達で送ってくれた。さすがカイリュー宅配便。ついでに形が悪くて売り出せないきのみもいくつか送ってもらった。ポロックづくりに向いているきのみもあってこれはありがたい。
「これは4人で使うのが一番効率がいいやつで、最近のオート機能のコンパクトタイプより扱いは難しいけど、その分いいものもできる。ちょっと慣れが必要だけどこれであの女をコテンパンのボロクソにするぞ」
「ヒロ君ナイスですよ! 早速4人でや……あれ?」
 部屋にいつの間にかイオトがいない。代わりとばかりにマリルリさんがポロックマシーンをじーっと見てふむ、と頷いている。
「イオ君どこいったです?」
「なんか興味ないからパスだって。マリルリさんが代わりにやるってさ」
 任せろと胸を叩いたマリルリさん。いや、頼れる存在ではあるがポロックづくりはさすがにどうなんだろうか……。
「こういう時に協調性がないってどうなんだ」
「まあなんかコンテスト嫌いっぽいし仕方ないんじゃない? ほら、時間ないんだしさっさとやろうよ」
 エミの言うとおり、時間はあまりないのでさっさとやってしまおう。
 きのみを4つ入れるわけだが、ある程度方針を決めないといけない。
「参加するのはシャモすけでいいのか?」
「はいですよ! シャモすけはからいものが好きだったはずです!」
 シャモすけが後ろでこくこく頷いている。なら味はからいものが中心のきのみをブレンドしていくのがベスト。
「ノワキ2つをベースにマトマとフィラを入れてみるか」
「よーしやってやるです!」
 3人と一匹でポロックマシンを中心に座り、ブレンド開始と同時に俺とマリルリさんが集中してボタンを押す。シアンとエミはまだ慣れないのかたびたびタイミングがズレるものの、後半はコツがわかってきたのか序盤の失敗を除けばかなりいい出来だ。
「マリルリさんなんでそんなポロック作り上手いの?」
 器用っていうかほとんどなんでもできるよな、マリルリさん。
「マリマリィ……」
 ドヤァ……と効果音が聞こえてきそうな自慢げな表情。イオトがコンテスト嫌いなのによくもまあ。
「とりあえずやり方はわかっただろうしあとはいいのできるまでひたすら作る。で、シャモすけには出来のいいものだけを食べさせる」
 ポロックは与えすぎるとすぐに満腹になるので与えるものは極力選ばねばならない。姉曰く、コンテストでコンディションを整える際に一番困るのはポロック等のおやつのせいで太ってしまう――要するに体重管理が難敵らしいのだ。
「ゆっくりからどんどん早くなっていくのは慣れれば問題ねぇですよ」
「まあ、タイミングを合わせればね」

「じゃあ、更にスピードあげるか」

 上級者モードのスイッチを入れ、更に良質なポロックを作るためのスピードアップ。二人ともこう言ってるし大丈夫だろう。
「スピード上げるとか正気です!?」
「陳腐なパラエティ番組でもそんなことしないだろう!?」
「うちの家族は全員上級者モードで作るからな」
 上級者モードに慣れすぎて通常モードの速さがちょっと遅いと思ってしまったくらいだ。
「勝ちたいなら全力でやるしかないんだよ! 当日までやれることはコンディション上げくらいしかないんだし」
 今回のシアンが参加するコンテストは特殊形式。ダンスをするのか、技の魅せ合いなのか、バトルなのか。何一つわからない中、できることはコンディション上げでしかない。
「お、おうですよ!」
「えぇ……」
 なぜか若干引き気味のエミを巻き込んでコンテスト当日ギリギリまでポロック作りに専念するのだが、イオトはほとんどポケモンセンターに戻らず、妙に物足りなさを抱えながら当日を迎えるのであった。




――――――――



 一方、レグルス団のアジト。そのアジトの一室でリジアが手持ちのオーロットと向き合っていた。
「なんですかオールド」
 おずおずと差し出されたチラシ。どうやら団員の誰かがくれたものらしいがリジアはあまり興味のないコンテストのことだ。
「……出たいのですか?」
 まさかと思い尋ねるとオーロットは頷いてじっとリジアを見つめる。なんで急に、とチラシをよく見ると賞品一覧に目が止まる。
 コンテストの3位入賞がドリのみ一ヶ月分となっている。オーロットことオールドの好物だ。
「ドリのみは確かに高値ですが……」
 自分の好物くらい自分で得たいということだろうか。
「駄目ですよ。コンテストなんて。私の顔は少なくとも前回の事件である程度割れてますし」
 しょんぼりとうなだれたオールドはいじけるように部屋の隅に移動して悲しそうに揺れている。その姿を見て罪悪感というか、どうにかしてやりたいという気持ちが湧いてくるのは仕方のないことだ。
「今度安売りしてるときにでも買いに行きましょう? ね?」
「オー……」
 相変わらずしょぼくれたオールドをどうしたものかと前髪をかき上げ、そういえば、とコンテストのチラシを見る。
 元々オールドは戦闘が好きではなく、おとなしい性格だ。どちらかといえばコンテストのようなかわいらしい舞台に立つほうが憧れなのかもしれない。

「……」



 ――コンテスト当日。

「飛び入りですか? はい。空きがありますので大丈夫ですよ。お名前は――」
「匿名希望で……」

 緩やかにウェーブのかかった髪をおろして、大きめのトレンチコート、帽子とマスク、サングラスで顔を隠した不審者を怪訝そうに見つめる受付嬢は何も悪くない。
 だが、こうでもしないとコンテストに参加などできるはずもなかった。



――――――――


『ラヅタウン特別コンテスト! 司会は私、今をときめくメルティちゃんです!』
 とうとうコンテストが始まり、およそ16人ほどの参加者が並ぶステージを俺とエミは客席から眺めていた。
「勝てると思う?」
「いやー、正直何やるかわからない以上はなんとも……」
 ダンスとかなら多分無理だ。あれは土壇場でどうにかなるものでもないし。
 エミはあまり関心がないのか「ふーん」と呟いてステージを見る。ちなみにイオトはやっぱりいない。代理でマリルリさんが観客席で見守っている。
「……なんか参加者の一人に変なのいない?」
「16番?」
 帽子にマスク、サングラスと厚手のコート。完全に不審者だ。どこに出しても恥ずかしくない不審者。
 身バレ防止だとすれば有名人という可能性もあるが……。
「なんか見たことあるような……」
「あ、やっぱり? 僕もそんな気が……」
 青髪の不審者を揃って見るも、まあさすがにこんなコンテストに参加する心当たりなどあるはずもなく「気のせいか」と片付け、とうとう始まるコンテストの内容発表に耳を傾けた。



――――――――


『さて、審査員のみなさんにポケモンたちのコンディションを見てもらったところで! いよいよ今回のコンテスト詳細です! 説明は特別審査員、ラバノジムリーダーアンリエッタ様が!』
 ウキウキの司会に変わってマイクを使う長身の女性。顔立ちはかなり整っているだけあって、女性陣の大半が黄色い声を上げる。
『今回のコンテストは通常コンテストとは違う試みなのは皆さんも御存知の通りですが、日頃自分のポケモンとどれだけ心を通わせているか。それを見るためのものです』
 笑顔でわけのわからないことを言ったアンリエッタに参加者が全員困惑する。それもそのはず、コンテストらしくない内容だからだ。
『まずは4つのブロックに分け、バトルロイヤルを行ってもらいます。その中で得点の高い1人が選出され、各ブロックの選抜4人には――』
 少しだけ間を置いて、花が咲くような麗しの笑顔を浮かべたイケメン(※女)ははっきりととんでもないことを言った。

『僕の手持ちとバトルしてもらいます』

 本来ならばジムに挑戦しないと挑めないであろうアンリエッタとの手持ちとバトル。それだけでもかなり貴重な体験だというのにコンテストでバトルメインということも参加者たちを困惑させる。
『当然、これはコンテストですので技の美しさやコンボも点数になります。弱いポケモンでも創意工夫してがんばってください。少なくとも僕は勝敗で結果を決めません。日頃ポケモンと築いている絆。それを見せてもらいます』
 相当な無茶振りである。シアンすらぽけーっと放心していた。
『さて、参加者のみんな。君たちのかわいい手持ちたちとの絆を見せておくれ』
 終わり際にウインクしてマイクを司会の子に渡す。一連の仕草全てが完全に優雅で決まっていたこともあり、一部女性陣は見惚れている有様だ。

『そ、それでは! まず4つのブロックに分けて選抜を行いたいと思います! くじ引きでランダムにAからDブロック、モニターを御覧ください!』



――――――――



 司会の声によって参加者の名前……一部匿名や変な名前もいるがずらりと表示され、シアンはBブロック。あの金髪ドリル――名前はキャロライン。彼女はCブロックだ。当たるには勝ち抜く必要がある。ちなみにあの不審者みたいなのはDブロックだった。
「えー、解説のエミさん。勝てるでしょうか、これは」
「んー、そうですねぇ。地力と頭が求められますからシアン選手は厳しいんじゃないでしょうか」
 実況解説ごっこをしながらすぐに始まるAブロックの戦いを見守る。知っている人間は一人もいないが割りとバトルは成立している。が、魅せ技にこだわりすぎるとやられてしまうので結構厳しい様子だ。バトルロイヤルは一人でも落ちれば終了。皆点数を稼ぐためにポケモンたちは睨み合いながら均衡を保っている。
「まあでもシアンもなんだかんだ僕らとたまにバトルしてるし、手持ちと仲はいいからいいところいけるんじゃないの?」
「問題は点数がなぁ」
 最初のコンディション+選抜での得点+最終戦での得点で恐らく決まる。最終戦に出れたとしても得点が低いとかなり厳しいだろう。
「基本は加点形式っぽいからよほどひどくない限りはいけるでしょ」
 なんとなく、エミのその発言に嫌な予感しかしない。


――――――――



 ――その頃のワコブシティ、道場。

「なんで来たんですか」
「リコリスのところにあの馬鹿がいたようでな。こっちに来てるんじゃないかと見に来ただけだ」
 心底面倒そうに道場の縁側でくつろいでいたケイと不機嫌そうなユーリ。ユーリは遠慮せず中に入ってすぐ近くの居間のテレビを見て思い出したように言った。
「そういえばアンリのやつが今日ラヅタウンかなんかでコンテストの審査員やるとか言ってたな。せっかくだし見るとするか」
「いや帰ってくださいよ。何当然のように居座ろうとしてるんですか」
「卒業したとはいえ門下生だぞ俺は。お前どうせ茶も淹れないんだろうし戻ってくるまでにテレビつけとけよ」
 勝手知ったと言わんばかりに奥の厨房へ茶を取りに行くユーリにため息をついてケイは居間のテレビをつけに向かう。コンテストの中継はすぐにこれだとわかり、あまり興味はないがアンリエッタを見ようと見てみると、妙に見覚えのあるピンク頭が目に入ってケイは仏頂面を真顔に変えた。

『シャモすけー! いっくですよー!』
 バシャーモがブレイズキックを華麗な動きで決め、後ろのピンク頭のぐるぐる眼鏡が喜んでいるのをケイは無表情で見つめた。

 ――なにしてんだあの馬鹿……。

 仮にも家出中、しかもユーリという人物に追いかけられているというのにあの程度の眼鏡でバレないと思っているのかと本気で神経を疑った。
「ん? アンリ出てたか?」
 戻ってきたユーリが画面を見る前に素早くテレビを消し、気づかれないように電源を抜いてケイはいつもの表情で言った。
「ユーリさん。気が向いたんでバトルしましょう」
「は? お前アンリを見るって――」
「テレビは今壊れたんで」
 真顔で嘘をつきながら中庭にユーリを追いやってテレビにシアンが出ている間の時間稼ぎをしようとケイは戦いたくない相手であるにも関わらず、ユーリに稽古という名目でバトルさせるのであった。



――――――――



 4ブロックの戦いはほぼ終わり、最終戦というところで俺とエミは渋い顔で中間発表を見た。
「シアンもシャモすけも趣旨を理解してねぇ……」
「あーだめだこれ」
 Bブロック開幕、シャモすけが速攻でブレイズキックをナゾノクサに決めてバトルロイヤル終了。シアンが勝ち抜けとなったがほかの選抜と比べて点数が圧倒的に低い。


 1位:キャロライン・ビーちゃん【530点】
 2位:匿名希望・オールド【500点】
 3位:アクア・ランターン【480点】
 4位:モモン・シャモすけ【300点】


 ここからの追い上げは無理では?と思うほど点差が厳しい。コンディションの配点を見ると1位のキャロラインとの大きな差はさほどないにも関わらず選抜で点差が大きくなった以上、問題は選抜戦にあるのは明確だ。
「最終戦、どうなるかなぁ……」
「正直これで優勝したらシアンを尊敬するわ」
 絶望的な点差を見ながら、ついに始まる最終戦。


 中央に現れたのは一匹のロズレイド。

『では、美しく華麗に魅せてくれよ!』

 アンリエッタさんがそう宣言すると同時に最終戦が始まり、4匹はロズレイドを目指して一斉に襲いかかった。
 アンリエッタさんは一切指示を出さないのか悠然と微笑みながらバトルの様子を見守る。
 トレーナーたちは皆それぞれの意気込みを手持ちに向ける。
「シャモすけー! かっこよくやってやるですよ!」
「ビーちゃん! 美しく決めるのですわ!」
「ランターン! 無理はしないで!」
「オールド。その、控えめに。控えめにですよ……」
 なんか一人だけ応援の内容がおかしい気がするがまあいいか。
 一方ロズレイドは四方から飛んでくる攻撃を紙一重で躱し、まるで踊るように跳ねて距離を取る。
 図鑑を見てみると、ロズレイドはダンサーのような身のこなしで毒の棘がついた鞭を操り攻撃するとある。相性で言えばシアンは相当有利だが……。
「シャモッ!」
「ロズ――」
 ブレイズキックでロズレイドを狙うがロズレイドはまるで狙っていたかのようにフッと微笑んでそれを躱す。すると、ロズレイドに攻撃しようとしたビークイン……キャロラインのビーちゃんに直撃した。
「きゃああああ!? ビーちゃん!!」
 一撃KOとまではいかなかったものの、相当のダメージを負ったビークインに追い打ちをかけるようにロズレイドは地面に両の手の置く。
 その動作を見て何かに気づいたようにランターンとオーロットが後退し、シャモすけはそのままロズレイドを攻撃しようとする。
 が、その直前でシャモすけの動きは止められる。
 イバラがシャモすけの足を止め、フラフラのビークインを捕らえたイバラは地面から大量に伸びてくる。それは徐々に形を作ってまるで鳥かごのように二匹を閉じ込めると色とりどりの花びらがその中で二匹を覆う。
 はなふぶきで完全にダウンしたビークインは戦闘不能となり一番目の脱落。他の3人がビークインを上回る点数を取らなければまだ可能性はあるが、ほぼないに等しいので優勝は絶望的だろう。
 シャモすけはまだ戦闘不能にはなっていないものの、イバラの毒の影響か、かなり顔色が悪い。しかも身動きが取れなくて点数を稼ぐどころじゃない。
 ていうかやってることえげつなさすぎてジムリーダーの実力を改めて思い知らされる。俺いつかこの人と戦うんだよな……。
 するとイバラが動き出し、予想外だったのかロズレイドは少しだけ目を見張ってイバラの籠から離れる。
「オールド! 好きなだけ使いなさい!」
「オオー!」
 イバラを操っているのはオーロットのようで、図鑑を確認すると以下のようなことが書かれていた。
『足の先から伸ばした根を使い、ほかの木々を自在に操る』
 なるほど、これかと納得し、そういう意味では自分の手持ちの能力をよく理解しているトレーナーだと感心する。技だけでなく、こういったポケモンそれぞれの個性を把握して戦闘に活かすというのは俺もできれば見習いたい。
 審査員の方を見るとアンリエッタさんも面白そうにそれを見ていた。これは得点高いだろうなぁ。
「ああ、オールド駄目です! 倒すのは駄目です! 点が! 点が!」
 なんか慌ててるけど何がしたいんだろうあいつ……。
 すると、下がっていたランターンがロズレイドの方へ近づいていく。この中で一番タイプ相性が悪いであろうランターンだが……
「ランターン! れいとうビーム!」
 オーロットのおかげで動きがかなり制限されたロズレイドに冷凍ビーム。しかもビームは収束させてロズレイドの足だけ凍らせるように動きを止めた。
「あとは――!」
 ランターンがトドメとばかりにれいとうビームを向けようとした次の瞬間、オーロットが操っていたイバラが燃え、ついでにオーロットにまで延焼してしまい、慌てたオーロットがランターンにぶつかってしまう。
「ちょっ――」
「あ、いやすいません! わざとじゃないです! わざとじゃ!」
 トレーナー同士の争いに発展しかねないがそもそもの原因がほのおのうずでイバラの檻から抜け出したシャモすけのせいである。
「シャモすけ! 今度こそ!」
「シャーッ!」
 動けないロズレイドにブレイズキック。お前らブレイズキック大好きだな。
 が、当たる直前でロズレイドの手から伸びたイバラに捕まったシャモすけ。そのまましなる鞭のように動くイバラで地面に叩きつけられ、おまけとばかりに衝突事故を起こしたオーロットとランターンに投げつけられ、なんということでしょう。3匹同時に戦闘不能である。

 なんとなく、ジムリーダー全員ろくでもないって言っていたギフトさんの言葉がようやくわかった気がする。
 最終戦終了。怒涛の展開に司会も困惑しつつ、点数の集計に入り、戦闘不能になったポケモンたちを治すために一旦ステージから参加者が消える。
 数分して集計と回復が終わったのか、疲労困憊の四匹と、なんとも言えない表情の4人がステージに並び、笑顔で結果を発表するのはアンリエッタさん。

『それでは一斉に結果を出そうか! お願いします!』
 モニターにコンディション、選抜戦と徐々に点数が積み重なっていくバーが表示され、そして最終戦の結果が表示された。

 結果は――


『1位は匿名希望さんのオールドちゃんです!』


 会場から拍手が沸き起こり、他の3人ががっくりとうつむく中、匿名希望はマスクを外して「えぇ……」とすごい微妙な表情をしていた。

 1位:匿名希望・オールド【650点】
 2位: アクア・ランターン【620点】
 3位:モモン・シャモすけ【580点】
 4位:キャロライン・ビーちゃん【550点】

 中間発表の1位が4位に転落。これはひどい。というか完全にシャモすけの攻撃で早々にダウンしたのが原因だと思うのでお気の毒というかざまあみろというか。
『総評ですが皆さんとポケモン、それぞれ絆を確かに感じました。中でもオールドちゃんの特性や習性を活かしたあの攻撃は僕らとしても評価が高く、決め手となりました。ビーちゃんですが、果敢に自ら突っ込む姿勢は悪くありませんが、ビークインの性質上、あまり褒められたものではありません』
 単純にすぐ倒れたから評価仕様がなかったんじゃ……というのはさておき、シアンが3位になったのはちょっと意外だった。
『シャモすけくんはあまり活躍こそできませんでしたが主人との信頼感を感じたのと、諦めない根性にかっこよさを感じて3位。ランターンちゃんも冷静かつとても精密な動きをできることから主人と日頃からしっかり連携が取れていることが伺えます。惜しくも今回は優勝できませんでしたが、皆とてもよいがんばりでした』
 そう締めくくって4人に賞品とリボンが贈与される。シアンは燃え尽きた顔で受け取ったドリのみを見下ろしてずれたぐるぐる眼鏡で隠れた目元を拭っていた。



――――――――



「びえええええええ! 優勝できなかったですよおおおおお!」
「おだまり! 貴女のせいで私まで優勝できなかったじゃありませんの!」
 参加者の控室。2位のトレーナーは「まあ2も上々……」と呟いてすぐに帰ってしまった。残ったシアンとキャロライン、そして匿名希望。シアンは泣き喚き、キャロラインはシアンに怒り、匿名希望は1位の賞品であるサンのみを見ながらオーロットと見つめ合っていた。
「さ、3位を狙うって言ったのにどうして……」
「オォ……」
「びええええん! サンのみほじがっだでずぅ!!」
 ハッと匿名希望はシアンを見る。自分のサンのみと、3位の賞品であるドリのみを見てこれだ!と顔を隠してシアンに近づいた。
 とんとん、とシアンの肩を叩いて匿名希望はシアンの持つドリのみを示し、自分が持つサンのみを示して入れ替えるようなジェスチャーをする
「……ぐすん……交換ってことです?」
 泣きながらシアンが怪訝そうに聞くとこくこくと匿名希望が頷く。
「ほ、ほんとですか? 詐欺じゃないですか!」
 嘘じゃないから早く交換してくれと言わんばかりの勢いの匿名希望。シアンに損はないので泣くのを我慢してお互いの賞品を入れ替えるとオーロットがドリのみを見て嬉しそうに鳴き声を上げた。
「ひっく……ありがとですよおおおおおお」
「ちょ、ちょっと! ずるいわそんなの! 私だって――」
 逃げるように匿名希望は走り出し、ドリのみ一ヶ月分を抱えながらコンテスト会場から去っていった。
「きいいいい! 許しませんわ! 覚えておきなさい! モモン頭!」
「へへーんですよ! 僕の日頃の行いってやつですよ!」
 低レベルな争いを控室で繰り広げるシアンとキャロライン。呆れたようにシャモすけとビークインがそれを見ながら肩を下ろすのであった。



――――――――


 なぜか優勝賞品のサンのみを手にしたシアンとともにポケモンセンターへ戻ると不機嫌そうなイオトが部屋で待っていた。
「おう、おかえり」
「お前ずっとどこ行ってたんだよ」
「この町うろうろしてただけさ」
 そう言ってあくびをしたかと思うとイオトは「俺先に寝るわ」と早々にベッドに潜り込んでしまう。
 ここ最近、コンテストの一件から機嫌も悪ければ態度も悪い。
「ヒロくーん。サンのみでポロック作りてぇですよー」
「ああ、じゃあうちに返す前に作っとくか」
 よくわからないが詳しく踏み込んだところでイオトは何も語らないだろう。マリルリさんと一緒にシアンのところへ向かおうとすると、エミが部屋で何か探していた。
「ああ、すぐ行くから先行っててよ」
「おう。ついでに飯も食うから財布持ってこいよ」
 シアンからなんでサンのみを持ってるのか。その辺もちゃんと聞き出してなかったのでポロック作りのときにでも聞こう。そう考えて部屋から離れるのであった。





「――君、そんなにコンテスト嫌いなの?」
 ベッドに寝ているイオトの背に、エミは声をかける。

「弟子が原因?」

 その一言でイオトが起き上がって、エミを睨む。エミはその視線を受けてもヘラヘラと笑っていた。
「勘で言ったらマジなんだ。ま、別に嫌いなのは構わないけどそんだけ露骨だと困るのは自分だと思うよ?」
 そう言い捨て、エミも部屋から出ていった。
 残されたイオトは気だるげにベッドに倒れ、前髪を掻き上げる。
「うっせぇバーカ……」



――――――――


 自室に戻ったリジアは顔を隠していたサングラスやマスクを取り、帽子とコートをベッドへと放り投げた。
 編んでない髪をガシガシと乱しながら疲れた、とため息を吐いて脱ぎ捨てたコートがあるベッドへ腰かける。
 そんなリジアは幸せそうにドリのみを食べるオールドを見て呆れたように言う。
「全く……一日3個までですよ! 第一、特性でしゅうかくできるんだからそんなにがっつくんじゃありません!」
 運良くトレードできたドリのみをむしゃむしゃと食べるオールドにクレフはいいなーとかちゃかちゃ体を鳴らす。
「もうコンテストなんてしませんからね……」
 疲れた、とベッドに寝転がる。内心、最終戦でどうにか点数を調整しないと3位になれないと焦っていたリジアは有利なバシャーモに倒させるかランターンの順位を繰り上げるかを狙っていたのだが予想外に得点が高かったせいで1位になってしまった。
 普通のコンテストと勝手はぜんぜん違うらしいが二度とやりたくないと心底思ったリジアはため息をつく。
「まあでも……」
 幸せそうなオールドを見ると少しの苦労は仕方ないかと思えてしまうリジアであった。




とぅりりりり ( 2017/12/19(火) 21:23 )