自分が正義とは限らない
不在のはずのジムリーダーが登場し、人質たちを次々と解放して俺とリジアの方へと歩いてくる。
「はぁい〜。みんなぁ、慌てず騒がず走らず避難してねぇ〜」
イオトの方はもう終わったんだろうか。そう思ってるとこちらにきたイオトが困ったような顔でリコリスさんを見た。
解放された人々はジムリーダーが来たと言うのになぜかどよめいている。
「じ、ジムリーダー様!?」
「やべぇ逃げろ! 巻き込まれたら死ぬ!」
「呪われるぞ! 目を合わせるな!」
悪の組織よりもジムリーダーに怯えている気がする住人たち。しかしジムリーダーの言うことに従って走らず、やや早足で逃げていく。なんかレグルス団の襲撃よりビビってないだろうか。
イオトは肩を竦め「まああっちの野郎二人は動けないし大丈夫」と呟いた。
「そこの君ぃ、大丈夫かしらぁ? まあまあまあ……随分と散らかってるわねぇ」
俺達の周りは戦闘のせいであちこち壊れたりひしゃげたり凹んだりしており、汚れなんて考えたくもない。
リジアは「なぜジムリーダーが……」と呟きながら身構えており、既に俺は眼中外のようだ。
「あらあらあらやだ……おいたがすぎるわぁ」
寒気がしたときにはもう既にジムリーダーの手のひらの上だったことに気づいてリジアは慌てて飛び退くも、追い詰めたと思っていたら自分が追い詰められていたという状況に陥っていた。
「私の管轄でこんな……ふざけたことをするなんてねぇ……よかったわねぇ、犯罪者にも人権があって。ちゃあんと取り調べもしないといけないし、命までは取らないわ」
怖い怖い、ナチュラルに恐ろしいことしか言っていない。
「というかぁ――非常事態だし我慢するけどとても不愉快なのよぉ」
室内の至る所がスモッグのような黒い霧に覆われていく。それはゴースのガスだ。
リジアは顔を腕で覆って呼吸を止める。しかし、この状況で逃げ場はもうない。
だが、ここで新手が登場した。
「ドクケイル、きりばらい!」
どこからともなく白衣の少女が現れ、ゴースのガスを吹き飛ばし、繭石を見やる。
「リジア! 解析機は!」
「繋げてあります!」
「5秒稼げ!」
繭石の方へと駆け寄った白衣の少女を止めようとリコリスさんが手持ちに支持しようとして背後からの攻撃を避ける。
「やっと抜け出せたァ!」
そこにはイオトが止めたはずのキッドとサイク。ボロボロだがまだ動ける余裕はあるようだ。
イオトが「は、なんで!?」と驚いてトドゼルガを出すがリコリスさんが「引っ込んでて!」と強くイオトに言い、イオトは黙ってリコリスさんの背を見る。
ひとまず、ここで俺も下手に手を出したら邪魔になりかねないので手持ちを一旦集め、俺にできることを考える。
白衣の少女が繭石のセキュリティを破ろうとしている。リコリスさんはリジアを相手にしながらキッドとサイクを再び封じるので手一杯だ。数が多すぎる。
「レン! スパーク!」
白衣の少女に電撃を纏って駆け寄るレン。それを見た少女はヒッと声を上げてわたわたとボールを投げた。
「バクガメスぅ! うちを守って!」
攻撃に怯えながらも機械をいじるのを止めない。バクガメスは頑丈なのもあって主人を守りきり、ピーッという音とともに繭石を守るケースが開いた。
「獲った!」
少女が繭石を掴んでユンゲラーにテレポートさせようとする。しかし、失敗に終わり、焦った少女の顔色が真っ青になる。
「なんで!?」
「逃がすつもりがないからよぉ」
リコリスさんがキッドたちの相手をしていたのは逃さないという手があったということなんだろう。
――それは怪しく見開かれるゲンガーの目。
「テレポートで脱出? この子の目が黒い内は逃さないわ」
文字通りくろいまなざしで脱出手段を封じていた。少女が慌てて繭石をしまおうとするとリコリスさんがヤミラミを繰り出した。それに気づいたリジアがハッとして慌てて少女の方を向く。
「ヤミラミ、トリックよぉ」
「ニャオル、トリック!」
ほぼ同時に、繭石を引き寄せようと手持ちに命令するが競り勝ったのはリジアのニャオニクス。
「チッ、そっちもいたずらごころってわけ」
リコリスさんが舌打ちするとリジアはニャオニクスから受け取った繭石をアギルダーにに渡す。
再度トリックで繭石を奪い返そうとするリコリスさんだがトリックが失敗し、口元が引き結ばれる。
「ねんちゃく――小賢しいわねぇ!」
優に15匹は超えそうなゴーストタイプの大群をボールから出すとレグルス団の3人組はダッシュで逃げ出した。
逃すまいと追うリコリスさんだがリジアがけむりだまを放ったことにより視界が封じられ、同時にそれはけむりだまの効果でくろいまなざしの効果も失せたということ。
「キッド君、サイク先輩、ココナ。アギルと一緒に逃げてください。私は時間を稼ぎます」
「らじゃーッス!」
「了解! 君も撤退するように!」
「あーもー! ついてない!」
リジアのアギルダーとともにイオトが破壊した天井から逃げようとする3人を追いかけようとするリコリスさんだったがリジアによって阻まれる。
「よそ見はいけませんよ」
リコリスさんは忌々しげに強くヒールを床に打ち付け、カツンと大きく響かせた音に反応してゴーストポケモンたちがキッドに一斉に群がる。
「今です、ネネ!」
何かしようとしていることに気づいたリコリスさんは慌てて「みんな下がって!」と叫ぶ。攻撃を警戒したリコリスさんだったがそれは違う。
下っ端3人とアギルダーがネイティオに掴まれた瞬間テレポートでその場から掻き消えたのだ。消える直前、キッドが驚いたような顔をしていたことから恐らく予想打にしていなかったことだろう。
「おや、残念です。せっかくジムリーダーのポケモンをまとめてアジトに送るチャンスでしたが」
「――あなたぁ、自分が逃げることを捨てたわねぇ?」
降伏するように両手を掲げたリジアを見てリコリスさんは爪を噛む。結果的にはポケモンをどこかに飛ばされるという惨事は避けられたが逃してしまったことを悔しがっているようだ。
「でも残念だったわね。あの繭石は偽物よぉ」
その言葉を聞いてはさすがに驚いたのかリジアの目が揺れた。
「――は、だとしても、私の役目は果たしましたから」
「そう」
リコリスさんによって、リジアは捕獲され、博物館襲撃事件は一旦幕を閉じた。
そう思っていた。
――――――――
「改めてぇ、ジムリーダーのリコリスよぉ」
ドタバタしていたもののリジアを捕縛し、一般人でありながら戦った俺らは事情聴取兼リコリスさんとの話をしていた。ジムのすぐ近くの建物でお茶を出されているがどうも気まずい。
「まあ、本当はぁ、危ないから無茶しちゃだめよぉ」
「はあ……」
決して怒っているわけではないが暗に「余計なことするな」と言われている気がした。今回はよかったが下手に首を突っ込んで事態が悪化することもあるし仕方ない。今回は何もないからリコリスさんも控えめに注意するだけなのだろう。
エミも裏から入ろうとしたらしいが失敗し、終わった後に合流してきたので今は一緒だ。というかシアンだけがいない。
「噂の新米君でしょ? ケイ君とナギサちゃんから聞いてるわぁ。あとアリサちゃん」
「すいません、姉が本当にすいません」
下手したらジムリーダー全員俺の顔知っててもおかしくない。四天王は多分全員に知られてる気がする。知られて困ることはないがどうも恥ずかしい。どうせ姉のことだから自慢の弟だとか適当なことを言っているに違いない。
「やだぁ〜かわいい〜。うちに来てくれたのにこんな状況でごめんなさいねぇ」
「あの、ところでリジアは……」
ほぼ無抵抗で捕まったリジアはここにはいない。警察とジムが協力体制で見張っているらしい。取り調べも予定しているそうだがリジアのことだし何も言わない気がする。
「ああ、アレ? とりあえず取り調べして折を見て刑務所行きかしらぁ。あ、でもレグルス団のことはデリケートだから普通の刑務所じゃないかもしれないわねぇ。今その件についてもリーグ側に問い合わせしてるし明日には今後が決まると思うわぁ」
「……面会とかってできますか」
刑務所等に行ってしまったらもう会えないだろう。会いに行こうと思えば会えなくはないだろうがリコリスさんも言うとおりレグルス団のことはデリケートな問題で、面会そのものが許可されるかも怪しい。
「んん? よくわからないけどアレと話がしたいってことかしらぁ?」
両隣でイオトもエミも「度胸あるなこいつ」という顔で俺を見る。なんだその目は。
「ちょっとだけでいいのでお願いできま――」
「それ以上調子に乗ってるとぉ……呪っちゃうわよぉ?」
ドスのきいた声とともにリコリスさんの背後からシャンデラが出現する。先日の地下のこともあってか俺らは全員揃ってびくっと肩を揺らす。
「あのねぇ、あなたたちは一般人。今回は仕方ないけれど本来は首を突っ込むなんていけないことなの。話がしたい? して何をするのぉ? 尋問? それは警察や私達の仕事よぉ」
ジムリーダーは自分の町での事件ならば警察とほぼ同等の権限を行使できるらしい。
リコリスさんは目元が見えないのもあって低い声が不気味に浸透していく。
「身の程をわきまえなさい」
俺だけでなくイオトとエミにも顔を向けると甘ったるい声は剣呑としており吐き捨てるように彼女は言う。
「こっちは危うく死人が出るところだったのよ。全く……アレが実行犯かもしれないしこっちだってピリピリしてるんだからぁ」
死人と聞いて「えっ」と思わず身を乗り出す。博物館の人質は怪我はしたものの知る範囲で死ぬような怪我を負った人はいないと聞く。何か別のところであったのだろうか。
「ああ、そうそう。その件もあってヒロ君を呼んだのよぉ」
リコリスさんが思い出したように指を鳴らす。なぜか懐からわざマシンを取り出して机に置いて更に写真を数枚取り出した。
「ギフトがね、何者かに襲われて意識不明の重体」
写真は血溜まりで汚れたギフトさんの店の様子。本人は写っていないがその血の量にぞっとする。
「ヒロ君あなた、ギフトと知り合いでしょお?」
「昨日確かに会いましたけど……」
「これね、ギフトの店にあったんだけどあなた宛だったから渡しておこうと思って」
先ほど机に置いたわざマシンにはメモが貼ってあり「ヒロに渡す用」と丸っこい字で書かれている。
「ギフトの字で間違いないしこれに事件と関係のあることはないから安心しなさぁい」
「……ギフトさん、大丈夫なんですか?」
「聞かないほうがいいわよ」
お茶を飲み干したリコリスさんの声は暗い。恐らくよくないのが察せられた。
「教えて、もらえますか」
「出血がひどかったのもあるけど、恐らくゴーストポケモンによる呪いが付与されててひどい状態。治るかどうかはまだ未知数よぉ」
昨日出会って、少し会話しただけの人だがとても苦しかった。自分の知ってる誰かが事件に巻き込まれるという恐怖もだが、ポケモンの力をそんな風に悪用する人間がいるという事実にも。
「ま、その辺はプロに任せるしかないわぁ。私もゴースト関連ならできることはあるしねぇ」
お茶のおかわりをしているとリコリスさんの後ろのシャンデラはクッキーの箱を空にしており、リコリスさんが「こら」と叱りつける。
「一応話は以上かしらぁ。他になにかあるぅ?」
「あ、いえ、特には……」
「そう。じゃあその両隣の可燃ごみを連れてポケモンセンターに戻るといいわぁ」
可燃ごみ。イオトとエミを見ると二人して気まずそうな顔で目をそらす。なんで初対面でそこまでボロクソ言われるんだお前ら。
「まったく……見たくもないツラ見せるんじゃないわよ」
リコリスさんが小さくぼやく声はほとんど聞こえなかった。多分だが二人のことが気に入らないらしい。
頭を下げて部屋から出ようとすると「あ、ちょっと待ってぇ」とリコリスさんが呼び止める。
振り向くと吐息がかかる距離まで顔を近づけられていた。
「ていっ」
可愛らしい掛け声に似つかわしくない重いデコピンを食らってよろめいてしまい、額を抑えながらリコリスさんを見た。
「なんですか!?」
「え? なんだか呪われてるっぽいから解いてみただけだけどぉ……」
え、何、俺呪われてたの?
別に不調とかを感じていなかったのでいつ呪われていたのかすらわからない。
「見る人間が見たらわかるレベルで他者からの干渉……記憶かしらぁ。頭のほうが何かよくないものついてたから取ってみたのよぉ。何か忘れっぽかったりしない?」
忘れっぽいと言われるとあの日から前の記憶が曖昧なことしか心当たりがない。まさかそれが呪いのせいだというのか。
「まあ呪いって言い方も違うかもしれないけれどぉ、エスパーとかの力で影響受けてたりとかもあるからぁ、そっちかもしれないわねぇ。でも、恨みでも買ってるのぉ? 随分と執念を感じたわぁ」
恨まれるようなことをしていなので全然わからない。そうえばハマビシティでもそんなこと誰かに言われた気がする。
「まあ、解いたばっかりだからぁ、そのうち徐々に思い出したりするんじゃないかしらぁ」
「はあ……ありがとうございます……?」
実感がないので適当なこと言われただけかもしれないが一応礼は言って退出する。するとずっと黙っていたイオトとエミが「あ゛ー!」と叫びだした。
「つっかれた!」
「だから嫌なんだよなぁ……」
「ど、どうしたんだよ……」
真っ青な顔をして足早に建物から出る二人を追う。寒さで震えるように自分の二の腕をつかむエミが早口でまくしたてた。
「あの女の圧がやばい。喋るなってオーラばりばりだった」
「一言でも声出したら殺すって勢いだったよな……」
俺はそんなの全然感じなかったが二人には随分と圧力がかけられていたらしい。
「はー。いやだいやだ。さっさと帰ろ」
「災難だったよなー」
ポケモンセンターまでの僅かな時間、俺はリジアのことを考えていた。
もうこのまま会えないんだろうか。
ようやく気づけたというのに、有耶無耶になってしまうのだけは避けたい。
どうにかしてリコリスさんを説得できないだろうか。
何かいい案はないかと考えているとあっという間にポケモンセンターにつき、共同スペースでだらだらとテレビを見ているシアンが目に入る。
俺らが大変なときにこいつは何くつろいでやがる。
「あれ、お帰りです。なんか疲れてます?」
「めちゃくちゃ疲れてもう今日は何もしたくねぇ」
陽も暮れてきたが早めに夕飯にしてさっさと寝たい。
「ジムリーダー対抗戦、面白かったですよー! 途中でアマリトのジムリーダーが一人いなくなって大変だったですが――」
「俺ら疲れてるんだってば……」
放っといたら語り続けそうなので黙って欲しい。また余裕あるときにでも聞くから。
シアンは「もう夕飯ですか」と少し不満げに食事に付き合い、これが終わったらさっさと寝ようとぼんやりと外を見る。
明日、リジアのこれからが決まる。それまでに俺は何か行動に移したい。
だが、俺に何ができるんだろうか。
――――――――
「――それで、偽物掴まされた挙句リジアが逃げそこねたと」
レグルス団のアジトの一室。幹部のテオが下っ端5人が横一列に並んでるのを睨みながら机に置いた偽物の繭石をコンコンと叩いた。
5人はそれぞれ表情が暗い。キッドは真っ青でサイクも悔しそうに表情を歪めている。一方でシレネは自分は悪くないとそっぽを向いており、ココナは今にも泣きそうだ。メグリは表情から感情を読み取ることができない。
「なぜよりにもよってリジアなんだ……」
テオが頭を抱え、これからの行動について思案する。
「テオ様! お願いします、リジ姉を見捨てないでほしいッス! リジ姉は俺たちを助けてくれたんスよ!」
「わかっている。というかあいつのことだし、なんの算段もなく捕まったとは思っていない」
テオはリジアのことをよく知っていた。付き合いの長さもあるが元々やり取りする機会も多かった。
「どうせ今夜あたりにでも逃げ出すだろうし念のために迎えに行くぞ。こいつはこっちだしな」
リジアのネイティオとアギルダーがしょんぼりとうなだれる。主人の指示とはいえ置いていってしまったことに罪悪感があるのだろう。
すると、シレネとココナの表情が曇る。
「ほら……そうやってリジアばっか」
「あーもーお気に入りはいやだいやだ……」
リジアを助けることに乗り気じゃないのか二人のぼやきは上司でもあるテオに聞こえるように呟かれ、テオもそれを咎めはしない。テオも特別扱いをしている自覚はあった。だが、それ以上にテオにはそうしなければならない理由がある。
「シレネ、ココナ、メグリ。お前たちは本物の繭石を奪え」
「……ああ、リジア奪還を陽動にするつもりですか」
メグリが納得し、一応は了承するもののシレネとココナの方が嫌そうな顔を隠さない。
「命令なら……仕方ありません……でも、やっぱりそういう贔屓は、よくないと、思います……」
「テオ様こんなこと言いたかないけどこれ、うちが逃げそこねたら助けてくれなかったでしょ」
「――そんなことはない」
微妙な間にココナは「まあわかってますからうちは危ないことしませんし」と返事して3人で繭石強奪の作戦を練り始める。
「サイク、キッド。お前たちは俺の支援だ」
「……テオ様。前々から気になっていたのであえて聞きますが、なぜリジアちゃんに甘いのですか?」
サイクの言葉にキッドが「パイセンまでなーに言ってるんスか」と不思議そうな顔をする。この中でリジアの扱いに疑問を抱いていないのはキッドだけだった。
「あれは今後重要になる。だから大事にしているだけだ」
駒として、まだ失うわけにはいかないとテオは言う。サイクはそれを聞いてもう何も言わない。幹部たちには幹部たちの考えがあり、その全貌は下っ端には知る必要のないことだからと。
ふと、テオの表情がまるで苦いものをくちにしたかのように難しい顔になる。
「あとリジアを見捨てると俺がイリーナに殺される」
幹部であるイリーナはリジアを大層気に入っている。まあ、これがシレネやココナから嫌われる原因である依怙贔屓なわけだが――。
もしかしなくても一番の理由がそれではとサイクが内心思うも口にはしない。イリーナを怒らせたときの危険さはよく理解していたからだ。
「だが今夜取り戻せないならばチャンスはないと思え。失敗は許されない」
「ですが、元四天王だけでなくジムリーダーが戻ってきています。そう簡単に……」
「何を言ってる? お前らがあのギフトを排除したんだろう?」
サイクとテオが向かい合って首を傾げ合う。微妙に話が噛み合わない。
「……僕らは元四天王ギフトに一切関与してませんが」
「だがあいつは今意識不明だぞ」
携帯端末のニュース一覧をテオが開いてサイクに見せる。
『元四天王ギフト氏、何者かに襲撃される』
記事には同時期に起こった博物館襲撃を行ったレグルス団による犯行とみて捜査中とのこと。
博物館襲撃のニュースは任務の目的の一つなので問題ないが覚えのないことにサイクだけならずキッドも首を傾げた。
「なんか俺らのせいになってるってことッスか」
「偶然、にしてはタイミングができすぎてますよねぇ……」
サイクが考える素振りをしてチラりと女性陣三人を盗み見る。
(あの三人が独断で? だとしてもなぜ報告してない……?)
テオが三人に確認するも全員知らないと答える。これでは堂々巡りだ。
「……まあ今はいい。それよりも今夜のことだ」
もやもやと不可解なことを後回しにして目先のやるべきことに集中することとなった。