新しい人生は新米ポケモントレーナー - 1章
ギフトボックス

「かわいいなぁ〜〜〜〜」
「み!」
 公園でミミッキュのミックの写真をこれでもかと撮っていると元気になったのかぽてぽてと歩いてくるシアンが視界に入る。
「おーい、シアン。もう大丈夫なのかー?」
「……昨日は全部夢だったってことにするです」
「それがよさそうだな……」
 シアンの精神衛生上これ以上引きずるのはよくない。
「ムウマはどうしたんだ?」
「もー諦めてボール投げたらそっこー捕まったですよ……。まわりをふよふよされるよりはマシだです」
 ついに折れたか。見せられたボールにはムウマが嬉しそうな顔でこっちを見ているのがわかる。ミックもボール嫌いじゃなければなー。

「ていうか、ヒロ君手持ちどの子か外さねぇといけねぇじゃないですか」

 一瞬、シアンが何を言っているのかわからなくて柄にもなく小首を傾げてしまう。
 そして数秒の沈黙の後にその意味を理解して、駄々をこねる子供のように転がった。
「いやだああああああああああ!! 誰も外したくねぇ!」
「そんなこと言ったってレギュレーションだと6匹が基本ですよ」
 いや常識的な問題は重々承知しているんだけど俺のかっこかわいい6匹を一時期とはいえ俺の手元じゃない場所に預けるとかそんな非道なこと本当にしなければならないのか?
 足元のミックとイヴがじっとこちらを見てくる。つぶらなひとみで見つめられると俺はもう何も考えられない。
「どうしよう……世界の終わりだ……」
「大げさですねぇ……」
「……あれ、ヒロ君?」
 後ろから声をかけられたので振り向くときょとんとした顔のシレネがそこにいた。シレネは俺の顔を見た途端駆け寄ってくる。
「ヒロ君……!」
 ぱあっと頬を紅潮させるシレネが俺の腕に抱きついてくる。……無言でそっと引き離すと残念そうな顔をされた。
「ヒロ君、照れ屋さん、なんだね……」
 都合の良い解釈された気がするけど俺はそろそろフラグを建てない方針でいきたいんだ。
 いやここ最近シレネといいナギサといいちょくちょくフラグ立ってる気がするんだけどどうも手放しで喜べないというか、仮に告白されたとしても即オーケー出せるかというと多分ないなというか。
「ところでなんでここに?」
「お仕事でちょっと……でも今はすることないからお散歩してて……偶然ヒロ君見かけたから、つい……」
照れたように髪の毛をくるくると弄るシレネは見た目も相まって可愛らしいのだがこう、なんだろう……。異性として好意を持てるかと言われると微妙なラインだ。
「仕事……あっ、そうだシレネ。俺の手持ち一匹預けてもいいか?」
 俺の場合、実家に預けるか預かりシステムを利用するかの二択なのだがシレネという育て屋に預けるという選択肢を思い出し、前に言っていた話も交えて相談してみる。
「ほら、ネットでできるってやつ。今ちょうど7匹目手に入れたからどうしようかと思ってたんだ」
「うん、大丈夫、だよ。どの子に、する?」

 20分くらい悩んだ。その間もシレネは笑顔で待ってくれるがシアンは途中で飽きてカモネギと戯れていた。

「グー……必ず迎えに行くからな。ちゃんと飯食えよ。寂しくなったらシレネに言うんだぞ」
「ぐー……」
「たかだか預けるくらいで大げさですよ」
 涙の(一時的な)別れをしてシレネにグーを預ける。
「うん……大事な子、お預かりします……なんてね。連絡くれれば様子も送る、から……いつでも連絡してね……」
「それにしてもヒロ君はモテますねぇ」
 後ろでシアンが他人事のように呟くとシレネの目細められる。別にやましいことしていないのに恐怖でぞっとする。
「モテ……? それはどういう……?」
「いや、ホント全然モテないから。シアンも変なこと言うのやめ――」

「そこの君たち、あーぶなーいぞー!」

 後ろからの大声に振り向くとなぜかタマゲダケの大群が俺たちに迫ってきている。慌ててシアンとシレネの腕を引っ張って突撃してきそうなタマゲダケたちを回避するとエンペルトを出して指示をする。
「エンペルト! 凍らせて動きを止めろ!」
 一瞬のうちにタマゲダケたちが凍りついて動きが止まる。それを見て拍手を送ったのは先程俺たちに声をかけた人物だった。
「おーおー、やるねぇ。協力サンキュー。いやー、ちょっと目を離したら逃げちまってさ」
 紫色の髪を緩く結った女性はどこかのんびりしているようで隙のない動きでタマゲダケたちをボールに戻していく。
「ひ、ヒロ君! こ、この人!」
「え?」
 シアンが目を丸くして服を引っ張ってくる。伸びる伸びる。
 振り向いたその人は俺を見て手を差し出してくる。握手を求めているその手に応じるとにやぁと不気味な笑顔を浮かべた。
「あたしはギフト。ま、どこにでもいる薬屋さ。せっかくだし礼もしたいから店にくるといいよ」
 爽やかとは縁遠い粘ついた声。多分本人に悪気はない。というかこの町の人間かなりの確率でのんびりかねっとりした喋り方してるな。手渡された名刺の裏には店の地図があり、すぐそこにあるのがわかる。
 ギフトさんの背中を見送っているとシアンが口をぱくぱくさせて指をさす。
「あ、あの人! 元四天王のギフトさんですよ!」
「……は?」
 どうして俺はこうも四天王関係者と縁があるんだろうか。
「……四天王……」
 シレネがギフトの背中をじっと見たかと思うと俺に花がさくような笑みを浮かべ、預けたグーのボールを大事に持って言う。
「それじゃあヒロ君……グー、しっかりお世話するから、連絡して、ね……?」
「ああ、もう行くのか?」
「うん……私も、お仕事、しないと……だし」
 名残惜しそうに背を向けたシレネを見送る。最後、少しだけ違和感があるものの、引き止める理由もないのでさっきのギフトさんの店に向かうことにし、シアンとともにこの場を後にした。




――――――――


 シレネは人気のない場所にたどり着くと通信機で連絡を取った。
 通話に応じたのは5人。自分を含めたチームの全メンバー。


『こちらリジアです。どうかしましたか、シレネ』
『んだよ。こちらキッド、根暗女が何の用だ』
『はい、こちらサイク。どうかしたかい?』
『んあー、こちらココナ。要件は手短に』
『こちらメグリ。何?』


「――連絡です。元四天王、毒舌女のギフトと接触しました。事前の打ち合わせ通り乱入が予想されます。各位、気を引き締めてください」


 レンガノシティに潜り込んだ6人の下っ端たちが密かに蠢いていた。



――――――――



 さっそくギフトさんの店につくと閉店中の札があり、どうしようかと悩んでいるとドーラが興奮したようにボールから飛び出して扉をカリカリしはじめる。
 それに気づいてかギフトさんが扉を開けて俺らを見た。
「あー、悪い悪い。さっき急いで店飛び出したときに閉店中にしてたの忘れてた。まあ入んなよ」
 中へと導かれると棚には薬やらが並んでいるがひときわ目立つのは漢方薬や薬草類だろうか。
 ドーラは店の中の雰囲気が落ち着くのかやけにリラックスしており、ギフトさんもドーラを見て目を輝かせる。
「あ〜いい感じに育ってるペンドラーじゃん〜。なあ、ちょっと触ってもいい?」
「俺はいいですけどドーラが……」
 確認の意味を込めてドーラを見ると「まあ、少しならいいよ」と視線を向けてくれる。
 それを見たギフトさんは恍惚とした表情でドーラのトゲに触れないように絶妙な触り方で撫でくり回す。
「はあ……やっぱ最高だな……毒タイプこそ究極の美……」
「ど……どらー」
 ドーラが若干困惑してるっていうか引いてる。
「まあヒロ君も大概ですがあの人の方がちょっときめぇですし」
「きめぇとか言うな」
 聞こえたらどうするんだよ。しかし、ギフトさんは全く気にしてないのか聞こえてないのか幸せそうにドーラを撫で続けている。
「自分で育てたポケモンがやっぱり一番だけど〜他人のけづやの違うポケモンもたまんねぇ〜……あ、やばい……体液欲しい……なあなあ、ペンドラー、体液ちょっと――」
 受け付けなかったのかドーラは素早く飛び退って俺の後ろに隠れてしまう。
 だが俺は気づいてしまった。この人、多分俺と同じタイプの人間だ。ポケモンへの愛情が時々暴走してしまうだけで悪人ではない。
「ちぇー。にしても随分といい感じに育ってるなぁ。君、トレーナー歴どんくらい?」
「まだそんなに経ってないですよ」
「でもボクより随分と強くなってきたですよ、ヒロ君」
 まあ主にイオトとエミのおかげで他の新人よりはずっとレベルあがるチャンスが多いのも確かだ。
「ふーん。ジムとか巡ってんの?」
「えっと、ワコブシティとハマビシティのジムバッジは手に入れました」
 バッジ収納ケースを見せると「おー」と感心したように手を叩き、何かに気づいたような顔で指を鳴らした。
「君、もしかしなくてもあのアリサの弟?」
 なんで俺、姉の関係者にめちゃくちゃ知られてるんだろうか。しかもこの人現役じゃなくて元なのに。
「前にリーグで引き継ぎ関連で出向いたときにアリサと話してたらしきりに弟の話されてさー」
「すいません、姉が本当にすいません」
 今度俺の話を外であんまりすんなって言っておこうと強く思った。恥ずかしい。
「まああれの弟なのにこの歳まで旅に出ないのは珍しいなー、地域柄があるにしても、とは思ってたから。滑り出しは順調って感じか」
 改めてバッジを見てギフトさんはしみじみと呟く。
「よかったな。最初のジムリーダーと2番目があいつらで」
 そういえばジムって本来順番とかないから好きなところから挑戦できるんだっけか。下手すればケイが最後のジムリーダーっていうトレーナーもいたりするんだろうか。
「他のジムリーダーはろくなのいないからなぁ」
 なんかちょくちょくチャンピオンがひどいって話は聞くけどジムリーダーも駄目なのか……。
「まあ何? 付き合いもあるから人柄とかもわかった上であえてジムリーダーとしての評価を下すならあいつらはどいつもこいつもジムリーダー失格レベルだよ。実力はそれこそ折り紙付きだけど」
「ちなみにどういった理由で……?」
「ケイとナギサ見たならわかると思うけど、あいつらは新人に対しては特に真摯な対応をするやつらなんだよ。育成に重きを置いてるからな。でも他のやつらは違う。あれらは自分たちが楽しければいい。新人だろうと教え導く気が限り低い。自分のことで手一杯やつらばっか」
 確かにそう考えると最初に当たったのがあの二人で幸運だったのかもしれない。ナギサには敵わなかったけどあれはもう仕方ないことだし。
「でも少なくともこの地方は実力至上主義だからな。強ければいい。そういう理由でこの町のジムリーダーは現ジムリーダーの中でも最長の記録を持ってる。あいつも大概面倒なやつだけど四天王に迫る強さを持ってるから許されてんだよ」
「実力至上主義かぁ……」
 そう考えるとポケモンバトルの強さが基準っていうのも厄介な気がしてきた。世の中にはただ可愛がりたいだけのトレーナーもいるだろうに。
「ま、その極地が今のチャンピオンだ。あたしはあれの下につくのが無理だったから四天王を引退したんだけど……」
 写真立てをチラりと見て少しだけ寂しそうな表情を浮かべたギフトさんは珍しく普通の微笑みを見せる。
「あいつがなー、ジムリーダーになった途端アレだもん。変に力なんて持つもんじゃないね、まったく」
 アレ、と言われてシアンは表情を曇らせた。前々から思っていたがシアンにもその一件で思うことがあるのだろうか。
 クロバットに頬ずりするギフトさんは「まあ辛気臭い話はやめとこうか」と話題を切り替え、店に並ぶ漢方薬やら薬やらを見せてくれる。
「さぁて、さっきの礼だ。本当はタダで、と言いたいところだけどこっちも一応商売してるからな。特別にここにあるやつは全品半額だ」
 ずらっと並んだものはかいふくのくすりやまんたんのくすりなどの高いものからなんでもなおしのようなものまで一式揃っており、漢方薬も当然だが並んでいる。よく見るとPP回復アイテムまである。これは半額だろうとめちゃくちゃ高額だが。
「漢方薬、気になるか?」
「効果はすごいですよね」
「まあなー。でもすっげぇ苦いからたいていは嫌がるんだよ」
 苦笑して「あたしは結構気に入ってるんだけど」と付け足し、俺が選ぶのを待つようにカウンターによりかかる。
 とりあえずせっかくなので高い回復薬と漢方薬を一通り選んで買い込んでおこう。げんきのかけらも安く抑えられたのは幸運だ。
 イヴが漢方薬をくんくんと嗅いで「ぶふぇぇ……」と嫌そうな顔をしている横でドーラはそういうのが好きなのかリラックスしてむしろおやつにしたい勢いで眺めている。買ったけどおやつ代わりにするにはちょっと贅沢品だから我慢して欲しい。
「お買上げありがとよ〜。次からは定価だけどよーろしくー」
 ギフトさんに手を振られながら店を出て、シアンとともにポケモンセンターへと向かうと大型テレビである施設が中継されていた。

『イドース地方最大の施設、バトルフロンティアの開設を記念して行われる一大イベント! ジムリーダー対抗戦、前夜祭! ジムリーダーズの紹介及びデモンストレーションの解説を務めさせていただきますはこの私! 今をときめくメルティちゃんです!』

 露出過多な衣装の女性がテンションの高い様子で画面に映る施設を示す。
『それでは今宵、アマリト地方よりお越しになられたジムリーダーズをご紹介!』
 煙とともにステージが開いて8人の人影が現れる。

『クールな拳に込めるは熱い闘志! ワコブシティジムリーダー・ケイさん!』
 歓声が鬱陶しいのか気だるそうに立つ姿はよく知るケイだった。流石に公の場でジャージはまずいと判断したのか着物姿である。

『水も滴る浜辺のセーラー少女! ハマビシティジムリーダー・ナギサさん!』
 カメラに向かって屈託のない笑顔を向け美少女にのみ許される決めポーズをするナギサにケイのときより一際歓声があがる。主に野太い声だが。

『不気味に微笑むゴーストレディ! レンガノシティジムリーダー・リコリスさん!』
 黒いゴシックドレスを身にまとい、長い前髪で顔の半分を隠した女性が恭しく一礼し、帽子にについた顔を覆うヴェールが揺れる。その姿はまるで葬式にでも出るような姿で、その次に豊満な胸に目が行ったのは俺だけではないと思いたい。
 彼女が出るなりポケモンセンター中から「リコリス様だー!」と声が上がった。地元のジムリーダーが出るとテンションがあがるのだろう。
 この人が次に挑む予定のジムリーダーか。明日戦う姿が見られるらしいし、できれば観戦したいものだ。

『大地とともに生きる穴掘り名人! グルマシティジムリーダー・コハクさん!』
 ポニーテールの元気そうな女性が作業着を着崩した姿で現れカメラに向かって意気揚々とピースしている。肩にかけた上着が風で翻り、健康的な色気が醸し出されている。

『才色兼備、乙女の味方、花の貴公子! ラバノシティジムリーダー……キャアアアアアッ! アンリエッタ様ー!』
 紹介役のアナウンサーがつい素で叫ぶほどの美形がそこにいた。なんというか、整っているだけでなく立ち振舞いも気品溢れ、カメラへとウインクすると会場が女の歓声で一段と盛り上がる。ポケセン内も女性トレーナーたちがとても盛り上がっているようで女性人気は圧倒的なようだ。
 ……いやでも、この人女、だよな? 男物を身に着けているが胸はあるし。

『輝く叡智、ミスタージーニアス! アケビシティジムリーダー・オトギさん!』
 メガネをかけた大人しそうな男が控えめに登場し、言ってしまえばほかと比べて地味という印象だ。

『寡黙な電流、迸る職人魂! ロードネシティジムリーダー・イヅキさん!』
 ゴーグルを首から下げた男が無表情で立っており、さっさと終われという顔を隠しきれていないのが見て取れた。

『そして最後はこのお方! 元アマリトチャンピオンにして最強の代名詞とも謳われた鋼鉄の女傑、ユーリ様です!』
 最後に姿を表した人物は小柄な少女か少年にしか見えない人物。中性的だが目鼻立ちが整っており、幼い風貌でも謎の貫禄を漂わせている。不機嫌そうに帽子を深く被り直すと風でケープがはためいて風格さえ感じさせた。

「元チャンピオン……」
 画面に映るその人物に思わず釘付けになり、隣でシアンが複雑そうな顔をする。
「元っていうけどまだ子供じゃ――」
「あれはとっくにアラサースレスレですよ。昔っからほんと老けねぇやつです」
 アラサーと聞いて思わず二度見する。どう贔屓目に見ても俺より歳下にしか見えない。
「……もしかしてあの人?」
 シアンの同性婚約者云々を思い出し、知ったような言い方といいもうほぼ確定だろうが改めて確認すると顔芸一歩手前の嫌そうな表情で頷かれ、なんとも言えない気分になる。
 男とか女以前にそりゃシアンの好みにそぐわねぇな。筋肉もなければ背も小さいし。
「ボクの婚約者(仮)かつボクとケイの野郎の姉弟子で更に言えばさっきのジムリーダーにいたアンリエッタお姉の従姉妹でもあるですよ」
「濃すぎる」
 ゲームだったらめちゃくちゃシナリオに絡んでくるタイプの濃さだ。
「ていうかアンリお姉も一応兄弟弟子ですからねぇ。ボクはほとんど接点なかったですが。ジムリーダーに同門が多いから笑っちまうですよ」
「俺も道場に所属したいんだけど」
 なんかもう、ジンクスでもあるんじゃないかってくらい関係者多いな。
 テレビではイドース地方のジムリーダー紹介なんかをしているが、そちらに注目する前にイオトが戻ってくる。
「なーにみてんの」
「イオ君も見るですか? 明日のジムリーダー対抗戦」
 イオトもテレビを見ると「あー」と面倒そうな顔をする。
「俺はパス。こういうのってだいたい結果読めてるし」
 イオトは意外なことにこういうことにはあまり興味がない。
 シアンがつまらねぇですーとぼやいているとポケモンセンターの窓から見覚えのある姿が見えた。
 エミと、白衣の男が何やら会話している。エミの表情からしてあまり楽しい話ではなさそうだが――。
 様子を見に外へ出るとエミがぎょっとした顔で俺を見て、話していた男はそれに釣られるように振り返った。
「ン? 例のお友達かナ?」
 メガネをかけたおっさんは地味な外見に似合わずテンションが高い。
「うるさいなぁ。もういいだろ。帰れよ」
「エミ、その人は?」
 口調からして親しい間柄のように思えるがあまり接点を見出だせない。
 すると男は肩をすくめてわざとらしく言った。

「せーっかく息子に会いに来た父親を邪険にするだなんて……ひどい親不孝者だと思わないかネ?」

 父親、と聞いてエミと男を交互に見る。
 それこそ少女めいた童顔女顔のエミと、地味でこれといった特徴のない男。

 ――に、似てねぇ!



とぅりりりり ( 2017/11/20(月) 20:42 )