今度はお前だ
「ねぇ、これっておかしくない?」
そういって、隣に座るビーダルが本を見せてきたのは、お昼休みのことだった。そのとき僕(ピカチュウ)は放課後提出の課題をやることに必死だった。そんな切羽詰まった状況なのにも関わらずビーダルは僕にこんな文を見せてきた。
|また外から声をかけられた。
|「こんばんは」
|どきどきが止まらなかった。
|私はおどおどして視線をまえからひだりへずらした。
|そこにはだれも居なかった。
僕はそれだけを読むと、ビーダルに言った。
「なにがおかしいんだよ?ただの怪談じゃん」
「そんなことより僕は忙しいんだ」
「僕が言っているのは内容じゃなくて、文字だよ」
「はぁ?」
「ほら、ここだけ文字が浮き上がってる、変じゃないか?」
ビーダルはそういうとペンで一文字一文字をさしていった。
「こん」「ど」「は」「お」「まえ」「だ」
「ね?『今度はお前だ』ってなるでしょ?」
と僕に尋ねてきた。
「からかってんの?強引すぎるよ」
「強引?そんなことないよ」
僕は、ビーダルの言っていることが理解できなかった。どれもみんな同じ字体で太字になっている訳でもなく、ましてや浮き上がるようになってもいなかった。
「お前、これが見えないの?」
僕は課題をやるので必死だったので、それ以上はなにも話さなかった。
しかしビーダルは翌日も聞いてきた。
|いつから、こんな血の色のをしたちらしが
|新聞に挟まってくるようになったのだろう?
「ね?『いつ、こちらにくる?』って見えるでしょ?」
僕はビーダルをにらみつけた。
「お前の冗談に付き合っている暇はないの」
「だってそう見えるんだもの…」
ビーダルがどんなに訴えかけようと、僕は取りあう気がなかった。なぜならビーダルは、この学校ではオカルト好きポケモンとして名が通っていた。ビーダルがオカルト好きな理由はみんな分かっていた。ビーダルはのろまで出っ歯なのでクラスの女子に気持ち悪がられていた。勉学も運動も最下位なので、誰かにかまってほしいのだ。写真を見せれば霊が写ってるなどといい、みんなの注目を一時的に集めていた。
僕はビーダルにこう言ってやった。
「お前さ、怪談ばっか読んでるから幻覚が見えるんだよ」
「え?怪談なんか読んでないけど?」
「はぁ?『恐怖の新聞配達員』って怪談じゃないか」
「あれれ?僕、こんな本持ってきてないのに」
僕はもうそれからビーダルを無視するようになった。
それからというもの、ビーダルは独り言をするようになった。
「まだいやだ」とか「ハイドロポンプを覚えたら」とか
まるで本と会話しているようだった。
それでも僕はビーダルを放っておいた。
どうせ気を引くためだろうと思っていた。
時が経つにつれてビーダルは痩せていった。あんなにふくれていたお腹も引き締まって、顔も細くなっていた。それ以降ビーダルはどんどん痩せていった。病院で検査を受けるほどにやつれてしまっていた。しかし、いつも「異常なし」という診断結果だった。
ビーダルは授業中以外、魅入られたように怪談を読んでいた。
そして一人で泣いたり、笑うようになった。
そこまでなるとあまりの気味の悪さに僕も話しかけられなくなってしまっていた。無論、クラスのみんなもそうである。
最後に僕があのビーダルを見たのはその授業のときだった。
先生がきのみの効果を説明していると突然ビーダルが立ち上がった。
「知ってる?霊はあちこちにいるんだ」
「どうしたんですか?ビーダルくん?」
先生の心配の言葉を無視して彼は続けた。
「そして、霊のなかには僕たちと話をしたい人たちもいっぱい居るんです。だからみんなで怪談を読みましょう。怪談を読むことであの人達と仲良くなります。そしてあの人達の世界へ誘われるまでになりましょう。ふふふふふ。ははははは。はーっはっはっは。あは。あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
ビーダルは狂ったように笑い始めた。
あまりの異様さに先生が言った。
「ビーダル君!?落ち着いて!」
しかし、ビーダルは窓へ一散にかけていった。
ビーダルは窓枠に足をかけると、みんなにこういった。
「じゃあお先に。」
ビーダルの体はふわりと外へ投げ出された。
教室中で悲鳴が上がった。僕たちの教室は5階にあった。
ビーダルがどうなったかは言うまでもない。
これが、僕があのビーダルについて知っているすべてのことだ。もう何年も前のことなのだが、話そうと思ったのは訳がある。先日、僕の母校で飛び降り自殺があったらしいのだ。もしかしたらその本の中で文字が浮き上がるのを見たのかもしれない。僕は今でも後悔している。もしあのときに彼の言うことをまともに聞いていたら彼を助けられたのではないか。僕はずっとその思いに苦しめられてきた。
こんなことは、に
どとあって
はならない。僕は、そんな自分の思いに
おとし
まえをつけるため、このヒミツを皆さんに教えたつもり
だ。僕はみんなにも今度はお前だなんていう物騒な文字が浮き出ていないことを願っている。ましてや後ろに知らない人がいるなんてことはないだろうが。