第4話
...ポケモンを殺す?
レオは困惑した。
目の前にいるピカチュウが、過去にそんなことをしていたとは全く思えなかった。しかし、そこでふと夜のことを思い出す。あのうなされ方は明らかに普通ではないだろう。本当に過去にそんな事があったのだろうか。
「それはそれは、おっかない話だなぁ」
その声の主に聞き覚えがあり、レオははっと声のした方向を向く。
そこのにいたのは、サイドン。
「...どうせ来るとは思ってたけど、こんなに早くとは思わなかったわね。」
来ているのに気がついていたのか、セレンは呆れたように言った。
「フンッ。仲間の仇は仲間が取っていくべきだろ?」
仲間の仇?セレンがあのサイドンの仲間になにかしたのだろうか。その時レオの脳裏に「殺し」という言葉が浮かび上がっていた。
「おい、そこの青いチビは新しいお仲間さんかい? いや、おまえさんもチビだったかな?」
「それで? 私と戦いたいんでしょ? こっちもこっちで仕事があるんだから早くしてくれないかしら」
セレンはサイドンの挑発に乗ることなく冷静に言葉を返す。少しだけレオの方を向き、「下がって」と言うように手で合図をした。
次の瞬間サイドンが、あの体ではありえないほどの速さでセレンに突進していく。頭の角がセレンに触れる直前サッとかわし、アイアンテールを背中にぶつけていく。だが、サイドンにはあまりダメージが入っていないようだった。
「やはりその程度か。」
セレンは合間なくさらにアイアンテールを連続で打ち込んでいく。サイドンは余裕があるのか、それを太い腕で難なく弾いている。
セレンの種族はピカチュウだ。地面タイプのサイドンには電気技が一切効かない。先程からアイアンテールで戦い続けているのもそのせいであろう。
「そろそろ終わりにしてやろう!フンッ!」
と言ってサイドンはセレンとの間を開いた途端、思いっきり足元を両手で叩きつける。大きく地面が揺らぎ、所々に亀裂が入る。かなりの威力の地震が放たれた。レオは立っているのでさえ困難になった。セレンも同じく地面に手をつけて耐えていた。その間にもサイドンは、手に力を貯めていた。
気合いパンチ
大きな腕はセレンに狙いを定め、弾丸のように襲いかかる。
「とどめだッ!!」
ピタッとサイドンの腕が止まる。否、止められた、と言うべきだろうか。セレンに気合いパンチが命中する直前、サイドンの足と腕には、植物のツルの様なものがしっかりと巻きついていた。
「いちいちお喋りなのよ、アンタは」
草結びだった。サイドンに対しては効果抜群の技。草結びによって完全に体の自由は失われ、拘束状態へと陥っていた。
「...うっ...ぐっ!」
「解こうとしても無駄よ。」
サイドンが抵抗する度に草結びはさらに強く巻きついていく。この時点で勝敗はついていた。
「チビが相手だからと見くびっていたようだな。...オレの負けだ。もう殺すなり何なり好きにするがいい」
「アンタ、名前は?」
「ガイ、だ」
「じゃあガイ、一つ質問いいかしら。私が以前捕まえたお尋ね者。ちょっとした強盗をしていたガバイトの事なんだけど、アイツを牢に入れてからアンタみたいな盗賊が襲うようになったの。命令しているのは誰?」
「...それだけは言えないな。あの方には逆らうことだけはできない」
「ふーん。なかなか忠誠はあるのねぇ。わかったわ」
と言ってセレンはバッジのようなものを取り出し、
「とりあえずアンタもお尋ね者みたいだから、町の保安官の所に送っておくわね」
バッジをガイと名乗ったサイドンにかざすと、一瞬にしてその体は光に包まれ消えてしまった
「はぁー...また変な事に巻き込まれたわねぇ」
やっとレオがここで口を開く
「...セレンって強いんだね」
「自分の身を守れるくらい強くなくてどうするのよ」
セレンの言葉を聞き、レオはあの洞窟での出来事を思い出す。あの時自分は弱くて戦うことが出来なかったのだ。
「アンタ戦えないんでしょ?」
レオはゆっくり頷くしかなかった。
「じゃあ私が今度少し教えてあげるわ」
「い、いいの?」
「まぁアンタにその気があるなら、の話なんだけどね。別に私はいいわよ」
「...ありがとう、セレン」
セレンの顔の頬が少し赤く染まったように見えた。
「そ、そんなことより!明日、ここ出るわよ」
「出るって?」
「面倒なヤツらがまた来る前にここを去るのよ」
「小屋も捨てるの?」
「まーしょーがないわねぇ。あんたもここに籠るより外の世界見た方がいいと思うし」
そう言ってセレンは早々と小屋の中に入り、荷物の整理をし始めた。
(外の世界か...)
レオは少し興味があった。この世界に来てからまだ少しの時間しか経っていないが、もっとこの世界のことを知りたい。そして、もっといろんなポケモンと会いたいと思っていた。
「ちょっと!アンタも手伝ってよ!」
「あ、ごめん!」
セレンに呼ばれ、レオも急いで手伝いをしに小屋の中へ入っていった。その後も夕方になるまで二匹は、明日から始まる旅の準備を進めた。
もちろん今は誰も知らない。
この旅と出会いが、この世界を揺るがすものになるということを。
...モウスグ...キエル...
...虚無ノ...カタマリ...
...世界ノ...歪ミ...