第3話
その夜。レオはセレンが用意してくれた寝床の中でこれからの事を考えていた。
(なんとかセレンに信じてもらえたはいいけど、これからどうすればいいんだろうか...そして、自分はなぜニンゲンからポケモンになったのだろう)
考えれば考えるほど思考はぐちゃぐちゃになる。過去を思い出そうとしても、深くそこの無い谷を覗き込んだ気分だ。
もう考えるのはよして、明日のために寝よう。そう思った時だった。
「う...うぁ...!...あ...あぁぁぁ!」
(セレン!?)
レオは飛び起きてセレンの部屋のドアを思い切り開ける。セレンは汗だくでうなされていた。何か悪い夢でも見ているのだろうか。
「嫌だ...嫌だぁぁぁ!」
「セ...セレン!大丈夫!?」
「うっ...ぁ...!あああぁぁ!」
「セレン!!」
「...レ...レオ...?」
「大丈夫?酷くうなされてたみたいだけど...」
「だ...大丈夫。...ありがとう...」
と言ってセレンはもう1度眠りに落ちたようだ。いきなりの事でびっくりしたが、毎晩セレンはうなされているのだろうか。レオには分からなかったが、セレンが夢の中で何かに抵抗しているようにも見えた。
次の朝。少し寝すぎたのか、起きるともう既に外は太陽が登っていた。セレンが朝食を出していってくれたのだろうか。部屋のテーブルには、リンゴとパンのようなものが用意されていた。
レオはリンゴとパンで素早く食事を済ませ、セレンの部屋に向かった。セレンの部屋の扉をノックしたが、返答はなかった。台所にもいる気配はない。おそらく外へでも行っているのだろう。そう思い、レオも小屋の外へ出ることにした。太陽が気持ちいい。こんなに朝日は素晴らしかったのか。もう何日も外に出ずにいた感覚だった。
辺りを見回していると、奥からセレンが手を振ってやってくるのが見えた。
「やっと起きたのねー」
「あの...朝食用意してくれたんだよね?...ありがとう」
「全然どうってことないわよ」
「...昨日大丈夫だった?」
「あぁあれね...最近多いのよねー...ま、あんたがそんな気にしなくてもいいわよ。ちょっと夜中にうるさいかもしれないけど」
そう言ってセレンは持っていた食材などを部屋の棚に持ち込んでいく。
「買い出し?」
「まぁそんな所ね。なかなかこの近くではきのみくらいしかないし」
そこでレオはふと思った。彼女は仕事のような事をしているのだろうか?いや、そもそもこの世界にはそんなものは存在しないのだろうか?
「セレンって仕事してるの?」
「してるわよ...って言ってもそんなに毎日ある訳じゃないんだけど」
「どんな仕事?」
「うーん...簡単に言ったら、お尋ね者退治かしらね」
『お尋ね者』。初めてこの世界で聞く単語だった。こそ泥のようなポケモンなのか、それとももっと重犯罪の様なことをするポケモンのことなのか。
「お尋ね者って言っても色々なレベルがあって、カクレオン商店の商品を盗む程度から、もっと凶悪な強盗犯罪まで大きくまとめてお尋ね者って呼ばれてるの」
「ポケモンもやっぱり、いいポケモンばかりじゃないんだね...」
このレオの反応に、レオ自身は気づいていなかったが、セレンは少し思い詰めたような顔をしていた。そしてその応答にも困っていた。
「...罪滅ぼししてるのよ」
「え?」
彼女がなにか過去にしたということだろうか。
「数年前まで私はお尋ね者だったのよ。だから今はこうやってお尋ね者捕まえて罪滅ぼししてるわけなの」
「何をしてそんなお尋ね者に...?」
彼女は少しの間呼吸を整えて言った。
「......私ね、ポケモンを殺してたの」