C2 太陽を追う双月(導者)
[Side Archia]
「…だけどベリーちゃん? 暗くなってきたけど、大丈夫なの? 」
「うん! こことアクトアタウンはあまり離れてないからね、すぐ着くよ」
もう日が沈んでるから、テトちゃんとベリーさんにはあまりよく見えてないかもしれないですよね。トレジャータウンでウォルタさんと合流した後、私はいつでも出発できるよう準備をしていた。ウォルタさんと一緒に来たワカシャモのベリーさん、それとテトちゃんと一緒に発つ事になったから、そのために…。疲れ切った様子のウォルタさんの事が心配だったれど、ベリーさんが言うには徹夜で会議に出てたみたいだから、丸一日寝ていないらしい。だからウォルタさんはキノト君の案内で、泊まっている旅館の部屋に案内されていた。
その後私達は、ベリーさんがギルドで用事を済ませてる間にショッピング。ダンジョンに潜る予定は無いみたいだけど、長い船旅になるから、ちょっとした食料を。それと一部屋分の予約を解除して、用事を済ませてきたベリーさんと一緒に町を出た。
町を出てカピンタウンに着くまでの間に、私達はお互いの事を色々と話し合っていた。会った時にも聴いたけれど、ベリーさん達はウルトラランクのチーム。三人チームで、ダンジョンでの救助活動を中心にランクを上げていったらしい。ベリーさんのウルトラランクと、その上のスーパー、ハイパー、それとマスターランクを合わせても全体で十パーセントぐらいしかいなくて、その分色んなことが認められるって言ってた。状況は違うけど、私のプラチナランクで認められている事と合わせて考えたら、多分同じぐらいのランクかもしれない。…だけど違う所もあって、こっちでは必ずしもギルドに所属しなくてもいいみたい。私はグレースタウンのギルドに登録していて、ベリーさん達はトレジャータウンの探検隊ギルド。何年か前に卒業しているみたいだけど、私は二千年代に行った今も籍を残している。戻ってくるのは初めてだけど、一応私はこっちの世界の住民、て事になっている。あの事件を解決した時、本当は私は元の世界に戻る事も出来た。けれど私は、この世界に残る、て強く誓っちゃったから、その関係で戻るための“つながり”が切れたから、人間ではなくてポケモン世界の住民になっちゃったらしい。今思うと元の世界ではずっと独りだったから…、こっちの世界で仲間と友達と一緒に居たい、て事なのかもしれない。それといろんな事を教わったこの世界、仲間に恩返しみたいなことがしたい、もしかしたらそういう事も、この世界に留まった理由の一つなのかもしれない。
…途中で私の事に話が逸れちゃったから元に戻すと、カピンタウンから船に乗って、ワイワイタウン、そしてシルクさんがいるらしいアクトアタウンに行く…、予定だったけど、すぐには行けなかった。私達がカピンタウンの船着き場に着いた時、水の大陸行きの高速船が出港したばかりだったらしい。だから二、三時間ぐらい待って、陽が暮れたさっき、水の大陸のワイワイタウンに着いたところ…。私は割と見えるけど、テトちゃんは暗い空を見上げて、心配そうにベリーさんに尋ねる。けれどベリーさんは、暗い中に輝く星みたいに、明るく首を横にふっていた。
「ですけど、着く頃にはチェックインの時間が過ぎていそうですけど、大丈夫なのです? 」
「それなら心配しないで! 私の親友が親方をしてるギルドに泊めてもらうつもりだから! 」
「ギルドに、ですか? 」
「シアちゃんから聴いたんだけど、ギルドってちゃんと所属してるひとじゃないと入れないんだよね? …なのに私達が入っても、いいの? 」
セキュリティーが厳しいから、入るのは良いかもしれないけれど、泊まるのは…。も松明の灯りが必要なぐらい暗いから、私もベリーさんに尋ねてみる。だけど何の問題もないみたいで、自信満々にこう言い放つ。言ってはいたけれど、私にはその逆で大問題な様な気がしている。ベリーさんの親友が親方なら、何とかなるのかもしれないけれど…。テトちゃんも気になっているみたいだけど、そんな私達にベリーさんはすぐに答えてくれた。
「うん! ハク達のギルド、まだ二年目だからね。所属してるチームも少ないから、結構部屋が空いてるんだよ。それに私達も、たまにバトルとか色んなことを教えてて、泊めてもらう事も多いか…、あれ? あれって…」
「ベリーちゃん? どうかしたの? 」
それなら、何とかなりそうですね? 部屋が空いているのなら、急に押しかけても泊めてくれる、私は率直そう感じる。見ず知らずの人ならそうはいかないけれど、親友、それも色々とギルドの事で関わているなら、尚更大丈夫だと私は思った。だからシルクさんもそこにいる、そう思いながらベリーさんの話を聴いていたけれど、その途中で何かに気付いたらしい。私達が歩いている方向に何かを見つけたらしく、不思議そうに首をかしげるテトちゃんに…。
「向こうの方、何か青い光が見えない? でもあれってもしかして…」
右手の爪で指しながら教えてくれる。私も二足で歩いているから、言われてそれに気づくことができた。私もそうだけれど、ベリーさんの言う青い光、最近どこかで見たような気がする。私がそう考えている間にも、その光は刻一刻と迫ってくる。こっちの方に向かってきているみたいだけ…。
「シアちゃん、あれっ…、シルク! 」
「………」
「シルク! 言っちゃ…」
ちょっちょっと待って! シルクさん、アクトアタウンにいるはずですよね? テトちゃんはその光の正体に気付いたみたいだけれど、すぐに驚いたように声をあげる。私も予想外の事でビックリしたけど、その青い光は物じゃなくて、一人のエーフィ…。何故か“チカラ”を発動させているシルクさんが全速力で走ってきている、それも何かただならない様子で…。さっき私達の前を駆け抜けていったけれど、私の目にはシルクさんは少し泣いているように見えた気がした。だから私は…。
「テトちゃん、ベリーさん、先に行っててください! でっ、電光石火! 」
「あっ、シアちゃ…」
何があったのか、シルクさんを追いかけて聴いてみる、そうする事にした。ベリーさんが何か言おうとしてたけど、私はそれを遮って声をあげる。シルクさんはそこそこ足は速い方だから、すぐにでも追いかけないと間に合わないかもしれない。そういう事もあって、私は二足で立ってる両足で一気に跳びだす。その一歩で前傾姿勢になって、前に倒れる勢いも乗せて走り始める。両手が地面につくのと同時に力を溜め、瞬間的に開放。両手で同時に地面を後ろの方に押し、蹴っていた後ろ足を前へ…。その足でも蹴り込むようにして、一気にトップスピードに達した。
「シルクさん、どうしたったんだろう…」
こっちって船着き場、ですよね? 電光石火で暗い街を駆け抜ける私は、前を走るシルクさんを必死に追いかける。まだシルクさんの姿は見えないけど、シルクさんの目の光は残っている。消えそうな青い光を追いながらだから、何とか近くにいる、ていう事だけは分かっている。けどあのシルクさんがあんなに泣いているのは見た事ないから、凄く心配。それも船着き場の方に走っていってるから、相当…。
「とっとにかく…」
シルクさんを追いかけないと! 結果的に私だけ跳びだしてきちゃったけど、このペースならシルクさんに何とか追いつきそう。船着き場に入っていったのは見えたから、私は更に走る足に力を込める。そのまま私も船着き場に駆けこんで…。
「…お待ちのお客様、まもなく、カピンタウン行きの最終…」
「わっ私も乗ります! 」
「えっ、はい! カピンタウン行きのチケットでいいですか? 」
「それでお願いします」
勢い余ってカウンターにぶつかりそうになっちゃったけど、アナウンスが聞こえたから慌ててチケットを買いに行く。減速しながら二足で立ち上がって、すぐに鞄から財布を取り出す。つい大きな声で言っちゃったからケララッパさんを驚かせちゃったけど、焦ってる私にすぐ応対してくれる。もう出向する間際だから、ケララッパさんはテキパキとチケットを準備してくれる。私もすぐにお金を出したから、もしかすると三十秒もかかってないかもしれない。
「こちらがチケットで、乗り場は二番ゲートになります」
「ありがとうございますっ! 」
もう出ちゃうから、すぐ行かないと! 受付のケララッパさんが準備してくれている間に、私は出していた財布を手早くしまう。おつりが出ない様にピッタリ出したから、また取り出さなくてもいいはず…。ケララッパさんから右手でチケットを受け取ってからは、口で咥え直してまた走りだす。建物の中だから電光石火は発動してないけど、三十メートルぐらいの距離だからそれでも間に合うはず…。
「間もなく出航…」
「のっ乗ります…っ! 」
だけど杭から繋いでいるロープを外しているのが見えたから、慌ててスピードを速める。五メートル手前で船が動く出したように見えたから、私は咄嗟に跳び移る準備に入る。後で怒られるのを覚悟で、私はタン、タン、ターン、てリズムよく跳躍…。三歩目で思いっきり地面を蹴って、目一杯両手をのばす。何とか跳び移る事ができたけど、ほんの少しだけ距離が足りなくて後ろ足をぶつけちゃったけど…。
「いたた…」
「おっ、お客様、危…」
「ごっごめんなさい! でも船が出ちゃってましたから…」
「そっ、それは申し訳ありません! お怪我の方は…」
「足をぶつけちゃったけど、多分大丈夫ですっ」
このくらいなら、大丈夫かな? 少し痛みでジーンてしたけど、三秒ぐらいしたら治まった。けど私は桟橋から跳び移ったから、やっぱり係のハスブレロさんに怒られてしまった。何となく怒られるのは分かってたから、私はすぐに頭を深く下げて謝る。訳を話そうとしたけど、その途中で逆に謝られてしまった。
だから今度は私が言葉を遮って、下げていた頭を上げる。ここで咥えていた船のチケットを右手で持ちかえて、三足で立った状態で手渡す。ハスブレロさんは取り乱しながらも受けとって、半分だけをちぎって提げているポーチに仕舞う。残りの控えの方を私に渡してきたから、今度は二足で立った状態で貰う。このまま居るとずっと謝られそうだったから、無理して危ない事をしちゃったって事もあって、私は逃げるようにハスブレロさんの元から立ち去った。
「…っと、シルクさんは…、あっいたいた。…シルクさん? …シルクさん! 」
「……! 」
よかった…、追いついて…。だけど、どうしちゃったんだろう? 船の中に入って捜してみると、空いていた、て事もあって案外早く見つける事ができた。一番前の左端の席に前足を揃えて座っていたから、私もその隣へ…。左手でシルクさんの肩のあたりを軽くたたいて呼びかけてみたけど、何か凄く落ち込んでいるみたいで、全然気づいてくれない。だから少し強めに呼びかけ直してみたら、今度はやっと気づいてハッと振りかえってくれる。けどそのシルクさんの目元は、結構な時間泣いていたみたいで赤くはれていた。
「シルクさん? 何かあったので…」
『…アーシアちゃん、私…、私…! 』
「しっ、シルクさん? 何があったのです? 」
こっ、こんなシルクさん、見た事無いよ! たっ、ただ事じゃないですよね、絶対に! 私の方に振りかえったシルクさんは、一瞬だけホッとしたような顔になる。かと思うと、我慢できなくなったかのように薄い水色の瞳からブワッと涙が溢れる。私の肩に顔を寄せるようにして、声は出てないけど号泣…。今まで見た事が無い様子だったから、私は思わず声を荒らげて訊…。
『私…、ハクに…、親友に…、あんな酷い事を…』
「ハクさん…、確かギルドの親方…、ですよね? 」
『ええ…。今日まで知らなかったけど…、親友が訊かれたくない事をきいてしまって…。そのせいで喧嘩になって…、私…、言い返された時に頭に血が上って…。気付いた時には目覚めるパワーを放った直後で…、ハクリューだから弱点なのに…、“チカラ”の抑えは、
効いてるはずだけど…。…すぐに謝らないといけなかったのに…、私…、跳びだしてきちゃって…』
「…――っ! 」
「シルクさん…」
もし喋れたら嗚咽が混ざってると思うけど、シルクさんは何があったのか、絞り出すように声を伝えてくれる。時々咳き込みながら、そして止まらない涙を流しながらだったから、私は頷きながら聴いてあげた、シルクさんの肩に軽く手を添えてあげながら…。
続く