B3 合流
[Side Til]
「…ふぅ、やっと着いた」
距離的にはあまり離れてないはずだけど、結構かかったからなぁ…。セレビィのシードさんと時の回廊を発った俺は、元々降り立つはずだったトレジャータウンへと進んでいた。俺達はいくつかあるルートのうち、ツノ山、沿岸の岩場を経由する道を選んだけど、ダンジョンで予定以上の時間を取られてしまった。まず最初に潜入したツノ山では、拾っていたなけなしの道具が全部ダメになり、危うく空腹で倒れそうになった。ギリギリ耐える事はできたけど、食料探しに手間取って、突破する頃には日が暮れてしまっていた。ダンジョンの外だから問題無かったけど、拾った木の枝を俺の炎で燃やして一晩を明かした。…だけどシードさんはそんな様子は無さそうだったけど、岩場っていう事もあってもの凄く寝辛くて体中が痛かった。
それで今日は今日で、昨日以上にダンジョン突破に時間を取られてしまった。水タイプが多いダンジョンだから俺にとっては不向きだけど、草タイプのシードさんがいるからそこは何とかなった。…そもそも両方ともサイコキネシスを使えるから問題無かったけど、肝心なのそこじゃない。何しろ突入早々モンスターハウスに足を踏み入れてしまって、そこから連戦続き。一人ひとりは大して強くは無いけど、同時に十何にんも襲いかかってきたらそうはいかない…。極力エネルギーを温存して戦ったけど、それでも昼ぐらいには一度底を尽きた。得意の武術で凌いだけど、技を使わない分効率は物凄く下がる。…おまけにそういう時に限って、ピーピーマックスとかそういう類のアイテムが見つからない。鉢合わせになったお尋ね者? は持久戦に持ち込んで何とか勝てたけど、流石にその時は骨が折れた。バテていたシードさんを守りながらだったから、俺自身も思うようには動けなかった。…唯一の救いが、くっつきスイッチが無かった事ぐらい…。
「ですね…。僕がもうちょっとしっかりしていたら…」
「ううん、あれはシードさんの責任じゃないですよ」
シルクでも予想出来なかったみたいだから、仕方ないですよ。日がすっかり傾いた頃に、俺達はようやく、目的地であるトレジャータウンに辿りつく。二日間ぶっ通しで戦ってた、っていう事もあって、アーチをくぐったら、俺は思わずへたり込んでしまう。シードさんも疲れが溜まっているみたいで、フワフワと浮かずに地面に降りてきている。それだけじゃなくて、シードさんは“時渡り”した時のアクシデントの事を凄く気にしているらしい。時の回廊を出発した時からそうだったけど、表情もずっと暗くて、自分を責めているような感じがしていた。その度にそんな事はないですよ、って宥めてみたりしてみたけど、殆ど効果が無かった。これは俺の勝手な勘だけど、ライトとシルクと合流するまでは、何を言っても無駄かもしれない…。
「…兎に角シードさん、やっと着いたから今は泊まる宿を取りましょう」
「そう、ですよね。それなら僕は、先にギルドに挨拶に行ってきます」
「じゃあ、お願いします」
それなら、俺は町の方だね? このままだと俺まで気分が沈みそうな気がしたから、無理やり話題を変えてシードさんにこう提案する。座り込んでいても何も始まらないから、俺は膝に手をつき、勢いよく押すことで立ちあがる。すぅー、と深く息を吸い、炎が出ないように注意しながらゆっくりはく。シードさんも体を浮かせて立ち直ってくれたように見えから、彼に会釈で返事した。
「…七千年代は三年ぶりだからなぁ…、ええっと確か…」
旅館は第二区画、だったっけ? ギルド方はシードさんに任せて、俺は四つの区画に分かれたトレジャータウンの市街地に足を向ける。夕暮れ時で空も朱くなってるけど、トレジャータウンは割と遅い時間まで店は開いているらしい。旅館のチェックインの時間も十一時ぐらいまでみたいだから、今から行っても多分大丈夫だと思う。今いるのはショップが多い、ギルドからも一番近い第一区画だから、居住区とか旅館がある第二区画は南に行けばあるはず…。久しぶりだからうろ覚えだけど、俺は
篝火が灯る商店街を歩きはじ…。
「…だけど、ゲームの世界と同じなんてビックリだよ」
「ゲームの世界? 」
「うん。どんな話だったかは覚えてないけど」
「って事はシオンちゃん、そのことも抜けて…」
えっ? この声は…、…うん、絶対にそうだよ! 曖昧な記憶を頼りに南の方へ向かおうとした時、俺はその方向から聞こえてきた声に気付く。誰かと話しているみたいだけど、俺はその声が誰なのかピンとくる。…いや、そのもそも俺はこの彼女を聞き間違える筈がない。丁度区画の交差点にさしかかってるから、俺はその彼女の名前を声を大にして言い放つ…。
「…ライト! 無事だったんだね! 」
「てぃっ、ティル? うん! ティルも何ともないんだね! 」
ライト! ライトはちゃんとトレジャータウンに来れてたんだね! その彼女とは、俺にとっては何にも変えられない大切なパートナー…。左目を失ったラティアスのライト。一緒にいるスバメの彼女は知らないけど、はぐれたパートナーと再会できたから、俺はやっとのしかかっていた何かが少し軽くなったような気がする。丸一日行方が分からなかったパートナーだから、溜まっていた疲れも一気に吹き飛んだ気もする。俺は我慢できず、人目も憚らずにその彼女の元に駆け寄った。
ライトも俺の呼びかけに気付いてくれたらしく、ハッとこっちを見る。彼女から見て俺は右側にいたけど、もし左側でも声で分かってくれたと思う。もちろんライトも俺の方に飛んできてくれて、すごく嬉しそうに答えてくれる。体勢を上げてくれたから、俺は彼女の両手をとって硬く握手を交わした。
「うん! ライトは予定通りにトレジャータウンに“渡れ”たんだね? 」
「ううん、わたしは砂の大陸のラムルタウンだったよ。ティルは? 」
「俺は草の大陸だったけど、森の高台の時の回廊だった」
砂の大陸、かぁ…。となると、結構ズレたんだね…。“時渡り”の時にライトは別々になったから、俺はてっきり予定通りの場所に降り立ったんだと思ってた。だからこう訊いたけど、ライトは右目だけで違う、って答える。ライトと一緒にいるスバメの女の子は少し居辛そうにしてるけど、とりあえず俺は、パートナーから返ってきた質問に答えてあげる。“時の高台”って言ったら、スバメのこの子が少し反応したような気がするけど…。
「“時の回廊”? ライトさん、“時の回廊”って、セレビィが“時渡り”するのに使ってたやつだよね? 」
「うん」
「ええっと、ライト? この子は…? 」
そういえばこの子、誰なんだろう…? ウォルタ君とか一部のひとしか知らないはずだけど…。僕が感じた事は気のせいじゃなかったらしく、スバメの女の子はライトの方を見上げ、核心に迫る。ライトの事を知ってるから一緒にいるんだと思うけど、俺はいまいち、この子の事情とかが全く分からない…。だから俺は、気付いたらその事を右目の彼女に問いかけていた。
「あぁシオンちゃん? 昨日知り合ったんだけど、スバメのシオンちゃん。元人間で、アーシアちゃんと似たような感じ、って言えばいいかな? 」
「シアさんと? …って事は、シアさんと同じ世界の出身? 」
シアさんと一緒なら、俺達ポケモンがいない世界から来た、って事だよね? この感じだと“渡っ”てきてから知り合ったんだと思うけど、ライトはすぐにその子の事を教えてくれる。昨日知り合ったばかりだって言ってたから、そこまで深くは知らないはず…。だけどライトは、俺の予想に反して最高機密とも言えそうな事まで教えてくれる。元人間、それも別の世界の出身って言ってたから、数カ月前までの俺なら驚きで飛んでも無い事になってたかもしれない。だけど仲間のひとり、シアさんがそうだから、俺はそこまで驚きはしなかった。…だけどこの世界にはブラッキーのふたり、シアさんとラテ君しかいないと思ってた。だからそれなりにはビックリしたけど…。
「シアさん…、アーシアさんの事? 」
「えっ? シアさんの事を知って…」
「うん。シオンちゃんもアーシアちゃん、それとテトラの事も知ってるよ」
「てっ、テトラまで? 」
嘘でしょ? でも何で? この子との共通点があるから、俺はライトが言った仲間のひとりの名前を復唱する。だけどそれがまた気になったのか、思いがけずスバメのこの子、シオンさんに訊き返される。俺はテトラが呼んでるあだ名でしか言わなかったけど、彼女はその本名まで言い当ててしまう。更にライトがテトラの事まで知ってる、って言ってたから、俺はここまでの驚きも含めて頓狂な声をあげてしまった。
「そうだよ。ここに来る途中の船で合流できてね。途中まではウォルタ君も一緒だったんだけど…」
「途中の町で別れたんだよ、港町でね」
「港町…、カピンタウン…、だったっけ? 」
うろ覚えだけど、確かそんな感じの名前だったはず…。…だけどまさか、先にライトがテトラ達と合流してるとはね。聴くまでは何が何だかさっぱり分からなかったけど、途中で一緒になったのなら、納得できる。ライトの事だから何となくそんな気はしてたけど、とりあえずは状況は分かった。ライトは説明してくれている途中でシオンさんに遮られてたけど…。…兎に角、教えてもらったから、俺は三年前の事を思い出しながら、パートナーの彼女に同じように問いかけた。
「そうだよ。…ええっとライトさん? さっきから気になってるんだけど、この人は? 凄く仲良さそうだけど」
「あっ、そういえばまだ紹介できてなかったね? 」
「言われてみればそうだね。シオンさん…、だったっけ? 聴いてるかもしれないけど、俺はマフォクシーのティル。シオンさんの世界で例えるなら、最初のポケモン、パートナーだよ」
シアさんと同じ世界の出身なら、こう言ったら分かりやすいかな? ライトと出逢ったのも研究所だったから、結局は似たような感じだったし…。シオンさんに言われるまでうっかりしてたけど、俺はスバメの彼女に対して自己紹介する。シアさんと同じ世界って事は、こういう説明の方が分かりやすいと思う。シアさんから向こうの世界の事は聴いた事があるから、その通りに話してあげた。
「最初のポケモン…? 」
「そうだよ。ライトは元の時代では人間の姿に変えてね、一応トレーナーとして旅をしてるよ。本業の傍らで地方のジムを巡りながらね」
「本業? 」
「うん。言いそびれてたけど、今は療養中で休んでるけど、地方の治安維持活動もしてるよ。左目の怪我で中断してるけど…」
「組織の昇格試験の真っ最中。こんなとこかな」
「そうだね。…あっ、そうだ、ティル? 」
「ん? 」
大雑把に言うと、こんな感じだね。途中からライトの経歴も入ったけど、俺は簡単に俺達の事をシオンさんに教えてあげる。シオンさんとシアさんがいた世界の事を全部知ってる訳ではないけど、こういう感じで言えば分かってくれるはず。ライトがどこまで言ってくれてるのかは分からないけど、パッと見た感じだと、何となくは分かってくれていると思う。ライトがトレーナーとして活動してる、そういってもビックリしていなかったから、本人の口から聴いていたのかもしれない。
途中からライト自身も補足? をしながら語り通す。するとライトは途中で何かを思い出したのか、あっと短く声をあげてから、右目で俺に話しかけてくる。
「シルクの事なんだけど、シルクはハクさんと合流して、そこにいるんだって」
「ハクさん? 確かシルクとフライの親友のハクリュー…、だったっけ? 」
「そうだよ。明日ハクさんのギルドの手伝いをするみたいなんだけど、明後日ぐらいに預けてる荷物を取りにここに来るつもりなんだって」
「って事は、明後日には全員揃いそうだね」
「全員? ってことは…」
「うん。俺は何とかシードさんとはぐれずに済んでね、今頃ここのギルドに挨拶にいってるはずだよ」
そっか。場所が分かってるなら、一安心だね。いつどんな風に知ったのかは分からないけど、ライトが思い出したのは、俺達と一緒に導かれたエーフィの行方…。忘れてた訳ではないと思うけど、すぐに彼女の事を教えてくれる。そのハクさんのギルド? がどこにあるのかは分からないけど、明後日に来てくれるなら、それで全員揃うことになる。俺自身もこの流れでシードさんの無事を伝えられたから、今度こそ不安とか色んな重荷が肩から降りたような気がした。
続く