A2 昔話と自分
[Side Lien]
「…そんじゃあ、また明後日来るで」
「ええ、楽しみにしてるわ」
「うん! ぜったいだよ! 」
そう約束したで、破る訳ないやろ? 一晩アリシアさん家に泊めてもらった僕は、建屋の外に出てからすぐに振り返る。別れ際に一言こう言うと、アリシアさん、リア君もすぐに頷いてくれる。特にリア君は待ちきれない、っちゅぅー感じで声をあげ、期待の眼差しも僕に向けてくれる。アリシアさんも楽しみにしてくれとるらしく、静かにやけど明るい声で応えてくれた。
「…さぁて、戻りますか」
こんくらいの時間に出りゃぁ、昼過ぎぐらいには着けるかもしれへんな。向き合っとった僕はアリシアさん達に背を向け、雪をかき分けて帰路に就き始める。去り際に横目で振り返り、右の前足で軽く手を振ってから…。そんで僕はひとりこう呟きながら、まずはウィルドビレッジの外門を目指して歩き始める。サラサラに乾いた雪やから、僕の毛に付くくらいで殆ど濡れへん。せやから僕は、雪の事は気にせんと、船の都合もあるけど予想しはじめた。
「アリシアさん達、村から出た事ない、って言っとったでなー」
連れてくんなら、どこがええやろう? 数分歩いたところで門を通り抜け、僕は一晩泊まったウィルドビレッジを後にする。出る頃には雪の深さは四十センチぐらいになっとったけど、四足で立った時の身長が八十九センチの僕には少し歩きにくい。人間やった頃も平均より低かったで、多分それも関係しとるんやと思う。
「ワイワイタウンはあんま見るとこ無いで、やっぱアクトアタウンの方がえんかなー? 」
アクトアタウンなら、喫茶店とか水中都市とか、沢山見るとこあんでな! 下り坂にさしかかって前足で踏ん張りながら歩く僕は、明後日のプランを考えながら順調に突き進む。明後日はアリシアさん達を水の大陸に招待するつもりやから、今のうちに案を練っておいた方のがええと思う。…とはいっても僕が住んどるワイワイタウンの名所はあんま無いで、僕は率直にそう思う。一応調査団の天文台もあるにはあるけど、それやと外から見て終わりになってまう。それに対してアクトアタウンは、街も広くて独特な景色も楽しめる。何より一番ええんは、街の特徴にもなっとる水路と水中区画。人間やった頃からは考えられへん造りやから、僕も初めて来た時はびっくりした。エーフィの今なら当然やと思えとるけど、ウィルドビレッジから出た事無いアリシアさん達も、多分そうなると思う。
「…あっ、そうやん。村から出る訳やから…」
とりあアレも二人分用意しといた方がええやんな? ここで僕はふと思い出し、必要なモノの事を思い浮かべる。僕もそういうイメージのが強いでうっかりしとったけど、ロコンとキュウコンが氷タイプでいられるんは、ウィルドビレッジとこの山、陸白の山麓だけ…。せやからアリシアさん達が山から降りると、自然に炎タイプに戻る。…やけどアリシアさんとリア君は知らへんはずやから、姿もタイプも変わる事に戸惑うはず。マスターランクのキュリアさんでさえそうやったみたいやから、尚更…。
「まぁ多めに持ってきとる訳やし、倉庫にあるやつ使ゃあええやろう」
研究用で採ってきたやつやけど、暫く使う用無いでな。
「そういゃあ…」
今思い出したけど…。ここでまた僕は、別の事が頭を過ぎる。何で今思い出したんかは分からへんけど、気になってきてまったし、プランも立てれたで、とりあその事を考え始めた。
僕は昨日初めて聴いたけど、何故かあの昔話が他人事やないような気ぃした。あの昔話は確か、千年ぐらい前に山の頂上に亀裂が出来て、そこか出てきた怪物に荒らされた、っちゅう話やった。その後亀裂を封印したみたいやけど…。
聴いた時はおとぎ話やと思っとったけど、よく考えてみりゃあ信じられる話しやった。記憶が曖昧でうっすらとしか覚えてへんけど、僕が長いこと彷徨っとったあの空間、あそこで見た生き物…。あれはあん時しか見てヘんような気ぃする。ポケモンは人間やった時から知っとったけど、多分僕が知っとるんはXYとかそんくらいまでやった。イーブイ…、進化してエーフィになった今なら殆どの種族は分かるけど、それでもあの生き物の事は今も分からへんし、見かけた事もない…。
それに五年前、僕がイーブイになって倒れとった白い鉱山にも、昔話に出とった祭壇があったような気ぃする…。あそこは山の神の怒りに触れて廃鉱になった、って聞いたような気もする。僕を見つけてくれた時、坑道が崩れてダンジョン化した、ってナゼルが言っとったし…。
…となると、もしかするとウィルドビレッジの昔話の怪物は、僕があの空間で見た生き物なのかもしれへん。僕が覚えとる事と同じとこもあるで、案外関係ないこともないんかもしれへん…。…せやけど分からへんのは、僕の体質。何故かダンジョンで大量の野生を呼び寄せてまうし、アリシアさんが言うには、バトルん時、僕はオレンジ色のオーラみたいな何かを纏っとるっぽい。そのお陰で沢山戦ったで、強なれたんは事実。もしかすると何でか知っとったんかもしれへんけど、記憶障害あんでなぁ…。何とも言えへんのやんなぁ…。
――――
[Side Unknown]
「…ここが噂に聴く―――か」
「・ナー・様、そのようですね」
「…ですがここまで薄暗いと、流石に俺で…」
「――ッ―! 」
「・っ、・・・! 後ろ…」
「ミナヅキ、俺の後ろが…」
「――! 」
「ブレイクク…! きっ、消えた? 」
「何事…」
「・ナー・様、私のう…」
「そこか! メタルクロー! ちっ…」
「あれは一体…、ドククラゲか…? いや、違う。それならば何…! ロックブ…」
「―――ッッ! 」
「なっ…、もう一匹…、っく! いたとは…」
「・・・! 」
「何者かは知らんが、・・・、ミナヅキ! 向か…」
「―! 」
「しまっ…! 」
「・・・! 」
続く