B2 ショッピング
[Side Unknown]
「ええと、ここから南東に行けば、港がある街に着くって言ってたっけ」
「そうだったと思うよ。ここはミストタウン? だから…」
ジョンノエタウンが一番近い…、のかな? うっすらと霧がかかる街の中で、キョロキョロと辺りを見渡しながら歩く影が二つ…。あまり慣れない、霧がかかってる、って言うのもあるけど、視界が悪い中で、私達は貰ったメモを頼りにその場所を目指す。その街が最終的な目的地じゃないけど、ひとまずは港で定期便に乗るのが、今日の目標。私と一緒に来ている彼女がこう訊いてきたから、私は一回メモに視線を落としてから、こう答えてあげた。
「ジョンノエタウンっていう街の定期便に乗って、草の大陸、っていう所に行けばいいはずだよ」
「そうですよね。シードさんもそう言ってたから」
時間的に考えると、その街で泊まる事になるのかな? メモを見直した時に読み取った事を、私はブラッキーの彼女に教えてあげる。シアちゃん…、アーシアっていう彼女は、二足で歩きながら続けて三日前に聴いた事を話してくれた。
シアちゃんは私と同じで五千年前? の世界から来てるけど、私達と出逢う前は、諸島は違うみたいだけどこの時代で活動していたらしい。それに私にはあまり実感が無いけど、彼女は元々別の世界の人間だったらしい。私自身はシルクからチラッと聴いただけだから詳しくは分からないけど、シアちゃんはあるじんぶつに導かれて、この世界に来たんだとか…。三年ぐらい前のらしいけど、その時に同じ境遇の人とか色んなひとと協力して、ある組織を相手に戦って事件を解決したんだとか…。その仲間のうちのひとりがシルクで、彼女の誘いで私達の時代に来て、仲間になってくれた。
それで今回…、というより私は初めてだけど、シアちゃんとかみんなの誘いで、普通ならピンクの部分が青くなっている私、ニンフィアのテトラも、この時代に来ている。今日はこの時代に連れてきてもらってから三日目で、ここまでにシアちゃんから、この時代の事を色々教えてもらっていた。一応来る前にライトとティル、それからシルクとフライさんから聴いてたけど、やっぱり聴くのと見るのとでは全然違うね。ダンジョンでのバトルとか空気はまだ慣れないけど、その代わりに旅立ったあの時みたいな、ドキドキとかワクワクがあって凄く楽しい。
「うん。…だけどその前に、ちょっとだけ何か買っていかない? 」
「いいねっ! あまり離れてないみたいだけど、向こうだと混んでるかもしれないですしね」
シードさんからしか聴いてないけど、港町だから、時間的にも混むかもしれないって言ってたからなぁ…。話に戻ると、ひと通りが少し多い道を歩きながら、私はシアちゃんにこう提案してみる。一応宿もチェックアウトしてすぐにでも出発できるけど、そのひとの話しによると結構ひとでごった返すらしい。だから私は、昨日ダンジョンで使った物とかの補充も兼ねて、ここで先に買っておいた方が良いかもしれない。トレーナー就きだから、ニンフィアの私がする事はまずないから、またしたい! って思ってるのはここだけの話しだけど…。
内心こんな事を考えながら聴いてみたけど、シアちゃんも私の提案に乗り気みたい。にっこりと笑って頷いてくれて、チラッと進む方向を見てから私に目を向ける。シアちゃんは今二足で歩いてるから目線が高いけど、それでも見上げるほど…、ではないのかな? だからシアちゃんがこう答えてくれたから、私は右のリボンを彼女の左手に巻きつけて、軽くひっぱりながら駆けだした。
ちなみにこの時代に連れてきてくれたシードさんは、三日前は同族の集まりがあるからって言ってすぐに分かれた。その後の予定は聴いてないけど、今日にはライト達と合流してこの時代に“導い”てくれているはず。本当は三日前にみんな揃って連れてきてもらった方が良かった気がするけど、シードさんは一度に四にんまでが限界みたいで、シルク達も都合がつかなかったから、こうなった。あれだけ大きな怪我を治療してもらったばかりだから、ライトとシルクの事が凄く心配だけど…。
「でしょ? …ええっと、すみません! 」
「はいいらっしゃい! 」
確かこの店が、ダンジョンでいるものを売ってるところだったかな? シアちゃんと喋っているうちに、私達は目的の店の前を通りかかる。話しに夢中で危うく通り過ぎそうになっちゃったけど、威勢のいい声が聞こえたから、そこでピタッと足を止める。この三日間で覚えた事だから、すぐにくるりと向きを変え、その店の中にこう呼びかけた。
するとその奥から、店のひとらしいベロリンガが出てきて、セールススマイルで応じてくれる。ジムとはまた違った威勢の良さで、あまり経験がない私の胸が自然と高まる。シアちゃんも私に遅れて、その店に足を踏み入れた。
「おや、この辺じゃ見かけない顔だね? きみ達は依頼か何かでき来たのかな? 」
「一応私はプラチナランクですけど、こっちの諸島での活動権は無いから、観光です」
「プラチナ…? 私達と逢う前にしてたっていう、救…、何だったっけ? 」
「救助隊ですねっ」
「…と言う事は、ニンフィアの彼女もそうなんだね? 」
「うーんと、私は違うけど、似たようなもの、なのかな? 」
チラッとしか聴いてないけど、結局は同じような事、してるみたいだし…。店員のベロリンガさんは物珍しそうに、私達ふたりにこう訊ねてくる。店が店だからかもしれないけど、多分このひとは、何かしらのチームとして活動している、そう思ったんだと思う。私にとっては間違いじゃない気もするけど。、シアちゃんの方はあってたのかもしれない。別の諸島、って言ってたけど、そこではそこそこ名の知れたチーム? なんだとか…。
それでシアちゃんはすぐに答えたけど、店員さんの質問に首を横にふる。プラチナランク、っていうのがどのくらいの位置づけかは分からないけど、店員さんの反応を見た感じだと、それなりに上の方、なのかな? シアちゃんがそうだって言ったから、多分店員さんは、シアちゃんと私のふたりで活動している、そう思ったみたいで、私の方を見ながら質問してきた。同じチームだから間違ってないけど、この時代での意味とはちょっと違うから、少し考えてからやんわりと否定した。
「そうかもしれないねっ。…ええと、オレンの実とプチ復活の種、それからピーピーマックス、あります? 」
「あぁはいはい! ありますよー! それにもう一セット買うと、リンゴも一つ付けておきますよ」
「本当に? じゃあそれでお願いしようかな? 」
「かしこまりましたー! お代は八百七十三ポケになります」
「んーと、あったあった」
「はい毎度ありー! 」
ちょっと予算オーバーだけど、宿代ぐらいはあるかな? セールストークに乗せられた気がしなくもないけど、この時代の事をよく知ってるシアちゃんが、足りないものを順番に挙げ、店員さんに訊ねてくれる。普段から仕入れてるのかたまたまあっただけなのか…、どっちかは知らないけど、あったらしく、よく通る声でこう答えてくれる。それから店員さんは、ついでとばかりに同じ物をもう一セット勧めてくる。それもおまけ付きっていうお得な内容だったから、私はシアちゃんをチラッと見てから即決してしまう。頷いてくれてからシアちゃんがお金を出すと、店員さんはすぐに商品を出し、私達に一つずつ手渡してくれた。
続く