C13 潜入拠点
[Side Rifina]
「…うん。じゃあそっちの救援は頼んだよ」
「ふぅ、これで一段落かしらね」
「フィリアさん、ヒュルシラさんも、お疲れ様です」
これで終わりなはず無いとは思うけど…、落ち着いてきてはいるのかもしれないわね。急遽参加する事になった作戦の現地、“エアリシア”に着いてからの私達は、それぞれで別の行動をしていた。私と一緒に行動しているのは夫のシラとグレイシアのフィリア、それからサンダースのコットの四人で、通信関係の事はシラとフィリアが全部してくれている。その間…っていうか着いてからの私とコットはずっとそうだけど、念のため敵が来ないか辺りを警戒してる。今のところは何事もないけど、着いて五、六分したぐらいからひっきりなしに各班から交戦してる、っていう連絡が入ってる。作戦中戦闘は避けられない事は覚悟していたけど、ぶっちゃけこんなにも多いなんて思ってもいなかった。おまけに一班が全滅して救援に向かってる組がいるぐらいだから、敵は相当の強者揃い、って事になる。…まぁ職業病なのか、怪我しない程度に一戦交えてみたい、ってのが本音だけど…。
…ってな訳で絶えず続いていた各班とのやりとりにキリがついたらしく、シャワーズとグレイシアの二人はふぅと一息…。腰を下ろして作業していたシラは画面の向こうに向けてこう締めくくり、前足を置いているホログラムのキーボードから一度離す。私は機械とかそういうのは全く詳しくないけど、確かフィリアがルデラから持ち込んだもの、って言ってたような気がする。聞いた話だとフィリアはその会社の副責任者で、たまたまラスカに来ていた時に帰れなくなって、半ば流れでこの作戦に参加しているらしい。二人に労いの言葉をかけてるコットは、どんな経緯…、そもそもどういう子なのかも訊いてないけど…。
「…にしても開始早々こんなにも連絡が入るなんて、結構な数敵がここにいた事になるわね。…ってなると、向こうも相当暇なようね」
「そうとは限らないと思いますけど…、警戒して守りを固めていたんじゃないでしょうか? 」
「S1が色々情報を送ってくれたけど、今のところはなんとも言えないねー」
情報の出所が気になるけど、マスターランクが言ってきた事だから信憑性はかなり高そうね。コットにすぐ否定されたけど、私はふと思った事を呟いてみる。よくよく考えたら敵の本拠地だから当たり前だけど、私達B1以外全部の班で報告が入ってるから、中々の数の敵が居る事になる。私達は全く移動していない…、それも袋小路になってる路地の行き止まりにいるから、他の班よりも大分出会いにくいけど…。でも作戦の本部機能を任されてる私達にとっては、その方が都合が良いって思ってる。その方が敵からも見つけられず攻められにくいし、もしそうなったとしても一方向からの攻撃を防ぐだけで良い。…まぁ私の経験論に過ぎないけど。
「確かにそうよね。…思えば今更だけど、バタバタしてお互いに紹介してなかったわね」
「あっ、僕もうっかりしてました」
「だよねー。ハクちゃんが昨日各班の交流兼休息の時間を設けた、って言ってたけど、生憎僕達は“肆緑の海域”に行ってたからなぁー」
そうそう! 私は少し前に思い出せていたけど、唐突に呟いたフィリアの発言で思い出したのか、コットはハッと声をあげる。彼とフィリアは昨日中には話してる、って聞いてるけど、生憎私達の間ではろくにソレが出来てない。…その分G4のチーム悠久の風のこと、それから一昨日リヴァナに助けに来てくれてたあの二人の事は知れたけど。
「その件は急で申し訳なかったわ」
「出かけてたのは私達の勝手だから、気にしないで。…ってな訳で自己紹介すると、リーフィアのリフィナ。生まれはデアナだけど、育ちはカピンタウン。パラムのギルドに所属していたウルトラランクの探検隊員で、今は襲撃されたけどリヴァナを拠点にして活動してた。…ざっとこんな感じね」
こういう場だから、これだけ言えば十分よね? 必要な事だけを選びながら、私は二人にこう自己紹介する。足りないところはシラがしてくれるはずだから、私は敢えて言う事はこれだけにしておいた。だって今は作戦の真っ只中だから、アクトアに預けてきてるリシルの事を話してもどうにもならない。…まぁ蛇足を入れるのが面倒だった、っていわれると図星を突かれる事になるけど。
「大まかにはね。補足するような感じになるけど、僕はヒュルシラ。後ろ足の怪我で引退した身だけど、元スーパーランクの探検隊だよー。ちなみにリフィナは僕の妻で、五歳になる息子が一人いるよ」
「むっ、息子さんがいたんですか? 」
「そう聞いてるわ。…今更なきがするけど、ウォズ副責任者のフィリア。私も一線を退いた身だけれど、数年前まではルデラで救助隊をしてい…、と一端失礼するわね。…B1のフィリア。アーシアちゃん、その様子だと…」
交戦中って聞いてるけど、何か進展があったのかしらね。シラからバトンを引き継いだフィリアも自己紹介してくれていたけど、その途中で端末から着信音が鳴る。物事を指揮する事には慣れてそうな様子だったけど、私はてっきり会社の中では責任ある立場だから…、そう思ってた。だけど元救助隊員って言ってるから、ルデラならもしかするとレイド戦とか…、そういうのも経験してるのかもしれない。確かルデラではレイドの指揮もランクアップ条件に入ってたはずだから、彼女はかなり上位の隊員だった、ってことになる。シラも引退してるから、フィリアにはちょっとした親近感があるのはここだけの話だけど…。
「連絡が入ったって事は、キュリアさん達の方は戦い終わったのかもしれませんね。…っと、まだ僕だけ出来てないからしちゃいますけど、コットっていいます。職業は…、旅人、っていったら良いのかな? 六人の仲間と一緒に、色んな所を旅して巡ってます」
「旅って、定職に就いてないようなものじゃ…」
「僕達はまだ誰も大人になってな…」
せっ、成人してないって…。サンダースの彼も自分の事を話してくれたけど、私は彼がふと言った一言に耳を疑ってしまう。彼はあどけなさがあるから進化したばかりなのかなって思ってたけど、そんなレベルじゃなかった…。二回進化する系統ならあり得るけど、私達のイーブイ系の種族は二十歳にならないと進化できない…。なのに彼はまだ未成年って言ってるから、普通に考えてもおかしい。…そういえば悠久の風のラツェルも、未成年なのにブラッキーだけ…。
「貴様等、ここで何している? 」
「さては噂に聞く侵入者だね? 」
「っと、私達も足を休めてる暇はなくなりそうね」
コットの発言で私は矛盾に気づいたけど、それを考える前に第三者に遮られてしまう。大通りの方に目を向けていたからすぐに気づけたけど、そっちの方にはギルドにはいなかった二つの陰…。一つはここからでも見て分かるぐらい大柄なガブリアスと、もう一つはその彼のせいで余計に小さく見えるマニューラ。二十メートルぐらい離れている位置から、私達四人に向けて警戒心むき出しで問いかけてきた。
「みたいだねー。…もし僕達がそうだったらどうするつもり? 」
「んなの決まってるでしょ? 倒してジクさんに差し出す、それだけだよ」
「って事は敵…、で間違いなさそうですね」
どうやらそのようね。
「んなら話が早い! 幸い地形的には俺たちが有利だ、さっさと片付けて向こうに加勢しようぜ」
一応警戒してはいたけど、この様子だと戦闘は避けられなさそう。そもそも敵陣のど真ん中だから、私は元々戦うつもりでいた。だからって事もあるけど、私は隣で相手に向き合うコットに…。
「コット、戦えるわね? 」
気を引き締めて貰うためにもこう声をかける。
「作戦に参加した時からそのつもりでいます! 」
すると彼は大きく頷き、威勢良く返事してくれた。
「旅してるって言ってたけど…」
「リフィナさんには実感無いかもしれませんけど、対人戦は慣れてます。…それよりもリフィナさん。リフィナさんってどんな技を使えますか? 」
「私の? リーフブレードと草結び、それから燕返しと光合成の四つ」
「ってことは接近戦が得意なんですね? 僕は見切りとチャージビーム。氷タイプの目覚めるパワーとアシストパワーです」
「…癖の強い技ばかりね」
そもそもどれもあまり聞かない技だけど、コットはどんな戦い方をするのかしらね? 向こうは向こうで作戦会議を始めたから、その間に私達もお互いの事を確認する。聞いた限りで彼は遠距離からの攻撃が得意なような気がするけど、マイナーな技ばかりだから全く予想がつかない。技だけで考えると後衛に多い組み合わせだと思うけど、それなら見切りよりも守るを選んだ方が良いような気がする。
「よく言われます。…じゃあリフィナさん、前衛はお願いします」
「ええ! コットも、期待してるわ」
「はい! …チャージビーム! 」
彼の戦い方は実際に目で見て確認するとして、私とコットは声を掛け合って戦闘に備える。そして彼が放つ電気のブレスを合図にするように、作戦拠点の防衛戦の幕が切って落とされた。
続く