B18 緑巽の戦い(No Limit)
[Side Fause]
「っくあぁぁっ! 」
「目覚めるパワー、ドラゴンクロー! キノト君! 今助けるから! 」
えっ…? あの“ビースト”、あんなに早く動けたのね…。“緑巽の祭壇”に着いた私達四人は、交互に入れ替わるようにして標的と戦っていた。戦法の関係でフライにはキノト君と組んで戦ってもらっていたけど、ちょうど今戦況が悪い方向に変わってしまうかもしれない。私は今一端退いて三十メートル離れた場所に自力で飛ばされているけど、そこから見た感じだと、急接近する“ビースト”をキノト君は“避術”でかわそうとする。だけど効果時間が切れたのか“ビースト”が大きすぎるのか…、目が悪いせいでどっちかは分からないけど、かわしきれずに弾き飛ばされてしまっていた。
キノト君に一番近い場所で滑空していたフライは、飛ぶスピードを緩めずに急旋回する。使い物にならない目で見た感じだと、フライは反時計回りに進路を変え、百五十度ぐらい廻ったあたりでキノト君を受け止める。そのまま一週回りきる間に、フライは手元に紺と黒、二色のオーラを纏わせる。いつも通りなら連撃を仕掛けるはずだから…。
『ミウさん! 』
「わかってるわ! 」
「――っ! 」
「電光石火! 」
ミウさんに合図を送り、背中に乗せてもらってから急行する。技を発散させて飛ばしていた勢いもあったから、少し負担をかけてしまったかもしれないけど…。だけど何事もなく受け止めてくれたから、そのままフライ達の方へ…。ミウさんがスピードに乗るのと同じタイミングで、私は予め漆黒のエネルギー体を口元に集めておくことにした。
『フライ、キノト君は…? 』
「…大きな怪我はないと思うけど、今のでやられたみたい」
「うそ…、かすっただけなのに」
「・・・! 」
「――、――! 」
たったあれだけで…? そうなると、今回も一筋縄ではいかないかもしれないわね…。牽制で二発撃ってから訊いてみたけど、フライは若干うつむき気味で首を横に振る。まだキノト君本人を直接見たわけじゃないけど、少なくとも気は失っていると思う。そうなると早めに処置をしないといけないけど、この状況ではそうはいきそうにない。牽制で放った二発をかわした“ビースト”が私達の方に接近してきたから、慌てて冷気と落雷、同時に発動させて進行を阻害…。同時にフライとミウさんの二人も、高度を十メートルぐらい上げることで回避してくれた。
「
あれだけでキノト君を…―なんて、許さない…! 」
「…! 」
「…ミウさん? 」
ミウさん、何を考えて…。“ビースト”は私の氷雷に構わず突っ込んできたから、二人ともがそれぞれで回避行動をとる。フライは斜め後ろ上方に飛び下がり、ミウさんは右斜め前の方に進んでやり過ごす。…だけどキノト君が倒されたことで相当精神が堪えているのか、聞き取るのがやっとのぐらい小さな声で何かを呟いてる気がする。…もう少し注意深く聞きたかったけど、ミウさんが急に元の姿に戻してしまったから、私は彼女の元を離れざるを得なくなってしまう。咄嗟に作り出した紺色の球体を内側から分解し、エネルギー保存則に基づいて発生する突風で私自身を飛ばす事で、何とか彼女から飛び降りた。
「――、――――」
「…“亜…”…」
『ミウさん! 』
まっ、まさか…、“チカラ”を使うつもりじゃあ…。もう一度同じ事を繰り返し、今度は私自身を真上に吹き飛ばす。横方向に勢いがついていたから斜めになったけど、フライが直接手で受け止めてくれたから何とかなった。…私はどうにかなったけど、見た感じではミウさんがそうではなさそう。急に空気が張り詰めてきたから、何かとんでもないことをするつもり、ほぼ直感的に私はそう感じたから私は…。
「――――! 」
「っ! 」
やむを得ないけど、膨大なエネルギーを解き放とうとしているミュウの彼女を、強めの力で拘束した。
「シルクちゃん、放して! 」
「ミウさん、落ち着いてください! 」
「落ち着ける訳ないじゃない! 」
「・・・! 」
「――、―! 」
…フライ、ごめんなさい。ミウさんの事は頼んだわ。ミウさん自身にサイコキネシスをかけたから、当然彼女は私に対して抗議してきた。大技か“チカラ”を無理矢理中断させられたせいで苛立ってるからだと思うけど、強めの口調で言い放ってくる。だから私が彼女の事を説得したかったけど、“ビースト”が黒い球体を四発放ってくるのが見えたからできそうにない。口元にエネルギーを溜め始めてからフライが口を開いてくれたけど…。
「こういう時だからこそですよ! 」
だから私はミウさんの事を相棒に託し、目の前の標的に集中する。まずはじめにサイコキネシスの影響範囲を広げ、提げている鞄の中から“依属の針”を四本取り出す。
「ミウさんの気持ちは分かりますけど、今は耐えてください! 」
「――、――…」
一瞬意識が飛びそうになったけど、そこは何とか耐えて別の技を発動させる。フライに抱えられていて前足が自由になってるから、そこにドラゴンタイプの目覚めるパワー、口元に冷凍ビームを準備する。
「怒りに身を任せて突っ込むと、ミウさんまでやられてしまいます! 」
「私が倒される? ここまで本当の力出してなかったけど、そこまで私は弱―」
十分に溜めたところでサイコキネシスで拘束し、その状態で針に纏わせる。
「――くはない…。あの事件から私も強くなっ―」
「―、―…―」
間髪を入れずに、今度はシャドーボールと雷で同じ事を繰り返す。
「・・・・! 」
『…準備する時間すらもらえないのは、当然よね…』
「ミウさんの本気がどのぐらいかは分からないですけど、
今ミウさんが倒されたら困るんです! 」
だけど流石に時間が足りず、ヘビーボンバーらしき技を仕掛けてきた。フライとミウさんが口論してるからその隙を狙ってるんだと思うけど、私がそうはさせない。
「――――! 」
「っ! 」
「
キノト君が倒された今ミウさんまでやられると、タイムパラドックスが起きてしまいます! 」
紺と水色の針、黄と黒のエネルギー体を同時に向かわせ、大ダメージを狙う。
「…ケホッ…! っ…! ――――っ! 」
『こんな時に、また…。だけど今は…! 』
「
本来いないはずのボクとシルク二人だけで“ビースト”を倒す事になる…。七千年代の“太陽の次元”では、間違っても二千年代の住民だけで時空に関わる行動をしてはいけないんです! 」
辛うじて命中して軌道はそらせたけど、あと一歩遅かったら危なかったかもしれない。サイコキネシスを発動させっぱなしの状態だったけど、私は急に咳き込んでしまう。そのせいで集中が途切れ、維持していた技全てが解除…。同時に口の中に鉄の味がしてきたから、間違いなく吐血してしまったと思う。幸いフライにもミウさんにも気づかれてなかったから、右の前足で拭いながら見えない力で落下する四本の針を拘束し直した。
「・・・・! 」
『きっ、効いてない? 』
「…そう、よね…」
「――、――…、――――! 」
拘束させ直しながら確認したけど、“ビースト”が堪えている様子が全くない。表情というものが読めないから、メガネをかけていてもまともに見えていないから、だと思うけど、目で見える手応えというものが無い。今まで何度も強敵と戦ってきたけど、流石にここまで歯が立たないのは初めて…。だから焦ってきてる、自分でもそう感じてきてるけど…。
「…わかったわ。ここは大人しくしてるわ」
「ありがとうございます」
…こうなったら、どのぐらいもつか分からないけど、あの方法を試すしかなさそうね…。
「で、私はどうすれば…」
「じゃあキノト君の手当をお願いします」
「キノト君ね? 」
「ケホっ…! っ…! 」
…私に残された時間、あまり無いのかもしれないわね…。そうなると、やっぱり…。
『“絆により、我らを護り給へ”…』
一気に決着をつける、それしかなさそうね…。立て続けに氷と電気、竜の三属性で迎え撃っても、“ビースト”が止まる気配が全くない。まだ属性を配合して攻撃してはいないけど、この感じでは大して変わらないと思う。…だからって事で私は、この状態では使いたくなかったけど奥の手を講じることにする。手始めに精神レベルを最大まで高め、“絆の加護”を発動させる…。
「…シルク、ごめん! 一人で戦わせて」
『構わないわ。お陰で討伐の見通しも立ったから』
「えっ、本当に? 」
『ええ…』
…だけど相手が相手だから、あえて誰も護る対象には入れない。いつもならフライにかけるところだけど、“参碧の氷原”で戦った時、“ビースト”に“加護”が破られた。だから今回は、いわゆる空発動。そもそもフライなら護らなくても大丈夫なはずだから、最初からかけるつもりは無かったけど…。…ともかく、フライにはまだ私の考えを伝えてないから…。
『短い時間で決着をつける。…だからフライ、“証”を外すから、もしもの時は頼んだわ』
短い言葉、でも一番わかりやすい単語を選んで作戦を語る。
「“証”を外すって…、まさかシルク! “チカラ”を暴走させる気じゃないよね? 」
『ええ、そのまさかよ』
「――…」
当然分かってくれたみたいで、彼は予想通りの反応をする。“証”を外すって事は、私自身の“チカラ”の制御をなくす事に繋がる。そのことをフライはよく知ってくれているから、彼が私を問いただしてくるのも納得できる。…だからこそ私は、彼に…、いえ、彼にしか
私を止められないから、頷きながらその通りの行動をする。“ビースト”が方向転換している間に、私はサイコキネシスで首元に結んでいる“絆の従者の証”を解く。
「――っ! 」
「っ分かったよ、そこまで言うなら…」
同時に抱えてくれているフライの手を振りほどき、虚空に自らの身を投げ出す。
「――、――…」
間髪を開けずに尻尾に目覚めるパワーを準備し、直接そこでエネルギーを分解する。そうする事で後ろから突風を吹かせ、迫り来る“ビースト”に自らを向かわせた。
「・・・! 」
『フライ! 』
「うん! ストーンエッジ! 」
「――っ」
今の状態だと、何分もつかしら…。私達が攻勢に移った事に気づいたのか、向こうも本格的に攻撃する態勢をとる。エアスラッシュか何かだと思うけど、“ビースト”は空気の刃を私に向けて飛ばしてくる。…だけど特殊技を私に向けてくるなんて、わざわざ敵に銀の針を一本手渡してくれるようなもの…。フライが打ち上げてくれている岩群を次々に跳び移りながら、当然私はソレを見えない力で拘束した。
『まずハ両肩を狙って、地上に叩キ落とすわヨ! 』
「肩だね? じゃあボクは右をいくから、左は頼んだよ。…目覚めるパワー! 」
『分かッタわ』
「――! 」
やっぱり本調子じゃないと、“狂乱状態”の侵食が激しいワね…。戦法を短ク伝えると、彼は私が動きやすいように岩ヲ増やしてくれる。それに合わせて跳び移るタイミングをずラして、向かってくる“ビースト”ノ上手を陣取る。まだ二十メートルぐらい距離がアるから、足下の岩を浮かせてその場に留まる。フライも標的を挟んダ反対側に移動してくれたから…。
「――っ」
次の一撃のタメの準備をする。マズはじめに心を無にし、相手の出方を伺ウ。同時に尻尾を強く意識し、そレを力に変えテいク…。そうスる事で“月の次元”の技ノうちの一ツ、“尾術”を発動させル。成功しタらしク、私ノ尻尾に薄紫色のオーラが纏わり付イタ。
「シルク! 」
『えエ! 』
横目で合図を送ると、彼は小サク頷いテクレる。
「・・・っ? 」
その後すぐに私は岩から飛ビ降リ、フライモ同じタイミングデ急降下を始める。そして…。
「――ァッ! 」
「地震! 」
真下に来た標的に、ソレゾレの尻尾を思いっきり叩きつける。フライは尻尾の先にエネルギーを集中させ、ヒットした瞬間ニ大地を揺るがス大技を発動。私自身は一歩間違エレバ相手の骨を粉砕しかねない異世界の技ヲ命中サセル…。
「・・・っ! 」
これには流石ニ堪えタラシク、“ビースト”ハ凄い早さデ地上に墜落シテいく…。
「ドラゴンクロー、目覚めるパワー」
「――、ゥッ――、――! 」
『フライ、一気ニ攻メルワよ! 』
私も地上に向ケテ落下シナガラ、連続で雷、冷凍ビーム、シャドーボールを撃ちダシテイク。ちょうど今“ビースト”ガ墜落シタ影響で砂煙ガ上がってるケド、今はソンナトコ、関係ナイ…。タダ、技ヲ命中させて倒すダケ…。
「もっ、もちろんだよ! 」
「――っ、ガぁっ…」
…ソロソロ決着をツケナイト…、マズイワネ…。
「・・・…」
「これで――」
…今ガチャンス…、カシラ…?
「…がぁァッ…! ――…! 」
…目覚メルパワー、シャドーボール…。ただ、タダ…倒ス…、前ノ敵ヲ…。
「―決める! ドラゴンクロー! 」
「ぐるルルぅっ…」
倒ス…、倒ス。
倒ス倒ス倒ス…!
前ノ奴ハ…、皆倒ス…!
「シルク! …シルク? 」
コイツハ…、モウイイ…。次ハ…。
「まさか…、でもまだ十分も経ってないはずじゃあ…」
アイツダ! 「ガぁァァッ! 」
「…シルク、ごめん」
「ッ! 」
マッ…前ガ…見――
「ドラゴンクロー、目覚めるパワー! 」
「
ァァッ! 」
ツヅ…―