B14 詮索
[Side Fause]
「…話では聞いていたけれど、随分と変わった所ね」
『そうよね』
「けれどフォス? 私一人で来ても良かったのだけど…」
『私は平気。ちゃんと考えがあるから』
そうは言っても、流石に予想出来ないわね…。クアラ、ケベッカ、アルタイルさんを見送ってから、私とミウさんの二人も行動を開始した。私達の目的も三人と同じで、"ビースト"の討伐と"月"の捕捉。一応"エアリシア"に潜入している時に情報は流したけど、場所が場所なだけに可能性は低いかもしれない。"エアリシア"からの距離で言うと二番目の近さだけど、今から私達が向かう場所は環境が特殊過ぎる。海中のダンジョンを越えた先にあるってことももちろんそうだけど、"紫離"は常に自分の体調の事も考えないといけない。突入口のチカク…、ピジョットに姿を変えているミウさんに乗せてもらってるから眼鏡越しになら分かるけど、辺り一帯の海が毒々しい紫色に色づいている。サードさんの話によると、見た目の通りダンジョン内では常に毒状態になるらしい。技の補正も水タイプじゃなくて、毒タイプの事を常に考えないといけない。それに水圧も尋常じゃな…。
「考え? 」
『ええ。ミウさんには私の解毒薬を使ってもらうつもりだけど、私はサイコキネシスで空気の層を作るつもりでいるわ』
「思えばあの時も、結構発動させていたわね」
水深に合わせて強さを変えるつもりだけど、どこまでもっともかしら…。維持出来ないと困るけど…。話を今の事に戻すと、私を乗せてくれているミウさんは、ふと私にこう問いかけてくる。多分最終確認のつもりだと思うけど、あまり詳しく話さなかったから分からない事があったのかもしれない。横目で見ながら聞いてくれているから、私は眼鏡を紐で固定しながら語りかける。水中での戦闘は一度もしたことがないけど、方法と注意点だけは心得ているつもり…。さっきミウさんが言った通り、彼女に任せる、それとも他の誰かにも参加してもらう事も考えた。…だけど運悪く、"エアリシア"と"パラムタウン"で保護した人の中に水か毒タイプの種族はいなかっ…。
『あの時出来ないと、ルデラ…』
『シルク! 』
「っ? 」
『よかった…、やっと繋がったわ…』
えっ、うそ? 何で彼女が? 私は数年前のあの事件、"ルデラ諸島"での事を思い出しながら語ろうとしたけど、急に聞こえてきた第三者の声に驚いてしまう。一瞬何が起きたのかさっぱり分からなかったけど、視界のぼやけてる部分に光が見えた気がしたから、その時に何となく分かったような気がする。多分ミウさんもビックリしていると思うけど、声が聞こえたのは、私が左の前足に着けているZギア…。現状で使える状況じゃない通話機能の着信、それもラスカにはいない筈の彼女からのものだったから…。
「フォス? まさかギアから…」
『そっ、そうよ! でも何で…! 』
『アーシアちゃんから聞いたわ! シルク、今どこにいるの! 』
右の前足だけでミウさんに掴まって見てみると、ギアの画面には切羽詰まった様子のグレイシア…。ルデラにいて通話出来ないはずの親友、フィリアがモニターに映し出されていた。
あり得ない事がありすぎて取り乱してしまったけど、首を傾げて訊いてきたミウさんの声で私は何とかなるかも我に帰る。慌てながらもミウには伝えたけど、私はつい、口でフィリアに状況を説明しそうになる。だけど生憎私は、喋れないから空気だけが虚しくはきだされる…。心配そうに私を問いただしてくるフィリアを小ウィンドウで見ながら、私は右前足でもギアを操作し…。
「もしかして誰かに…。でもラスカて事を思うと…」
『ん? …え、「今すぐ誰もいない場所に行って、その名前で呼ばないで」…? …わかったわ…』
グレイシアの彼女にメッセージを送信する。フィリアも特殊なZギアを使っているけど、流石にそれでもメール、音声通話、もちろんテレビ電話も出来ないはず。…だけど何故か今それができているから、私はそれを逆に利用した。すぐフィリアも読んでくれたらしく、私の予想通り驚いた声が返ってきた。
『…フィリアのこと、覚えてるかしら? 』
「ええ。DM事件の時のグレイシアよね? 」
『そうよ』
『…他にも声が聞こえるけれど…、誰かいるのね? 』
確かこの項目からココを選択して…、できたわ。
『ミウさん、繋がったわ』
いつもと勝手が違って手間取ったけど、私は通話機能を開いたまま、ギアの設定を変える。これもフィリアから教えてもらったことだけど、それと同時にミウさんに簡単に状況を説明する。確か事件の時に二人とも顔を合わせている筈だから、この説明だけで通話相手方誰なのか分かってくれると思う。一瞬間が逢ったけど、すぐにミウさんから明るい声が返ってきた。
ミウさんは普通に声で話していたから、流石にフィリアも気づいたらしい。画面越しに映る景色が変わっているから移動中だと思うけど、訊かれた事に私はこくりと頷く。チェリー達との連絡はミウさんとか…、その場にいた誰かに代わりにしてもらってたけど、聴き手が一人、って事がこんなにも不便だなんて想像できなかった。…けれど走行している間に設定し終わったから、その事をミウさんに教えてあげた。
「ありがと。ええと…、私の声聞こえてるかしら? 」
『えっええ。その声はもしかして…、ミウさんよね? 』
「そうよ。思えばあの時以来ね」
『そうなるわね。けれど…』
「フォス…、シルクちゃんの事よね? 」
そうよね…。今私って行方不明って事になってるから、フィリアじゃなくても訊きたいのは無理ないわね…。私のギアとベアリングしているミウの通信機にも同期したから、彼女もピンマイクを通してフィリアに話始める。多分今回もミウさんに話してもらうことになるけど、この間に私はフィリアに送信するための文章を入力し始める。フィリアみたいにブラインドタッチは出来ないけど、ウォルタ君以上の速さで打ち込めるつもりではいる…。
『ええ! 訊きたいのは事が多すぎて何から訊いたらいいか分からないけれど…』
「私も詳しくは分からないけど、シルクちゃんは今回来てくれる少し前に喋れなくなったらしいのよ」
『しゃ喋れなくて…』
「私もセレビィからしか聞いてないけど、そう言ってたわ」
…ふぅ、やっと入力できたわ。後はフィリア宛に送信すれば…。
『…やっぱりシルクて、無茶する辺りアー…? メール? シルクからね』
――
―
To:フィリア
From:シルク
題名:無題
順を追って話すと、私は今、行方不明って事になってる。拐われたとか色々な憶測があるかもしれないけど、私の意思で病院から脱走しているわ。最初は一人で調査するつもりだったけど、今は伝説側の立場で、ある事件、それからミウさん達が調べている事案を追っているわ。一応私は行方不明って事になってるけど、保安協会で私の事は極秘事項になってる。代表が私達側の立場だから、その関係で口止めしてもらっている感じね。
そろそろルデラでも報じられている頃だと思うけど、"パラムタウン"が壊滅した、って事は知ってるかしら? 私達は今、その事件の首謀者グループを追ってるのよ。伝説側の事案の方が関係あるけど、この事件は異世界とも大きく関わってる。詳しくはミウさんから話してもらって。
p.s.ギアの電波強度強くした?
―
――
「…まさか"ビースト"の事まで知ってるなんて思わなかったけれど、こんな感じね」
『私も大体分かったわ。…実は私も"ビースト"と他にいくつかの事でラスカに来てるけど、連絡船が運休になって暫く帰れなくなったのよ。…だから今は、ギアのルーターを設置しに来ていた"アクトアタウン"にいるわ。丁度"ビースト"の事を調べているみたいだから、あの時みたいにオペレーターとしてサポートするつもりよ』
そうだったのね。ラスカに来てる時に"非常事態宣言"が出たのは災難だけど、都合がいいなんて…、口が裂けても言えないわね。メールを送ってから、私達はお互いの情報交換をした。まさかフィリアが"ラスカ諸島"…、それもハク達のギルドにいるなんて夢にも思わなかったけど、それで何となく通話できる理由が分かった気がする。ルーターの事を考えると、多分フィリアはZAMのネットワークバーストで通信を強化していると思う。そうでもしないとローカル通信、それもセキュリティが厳しいから突破出来ないけど…、って言う前に、その相手が開発者自身だから、どうしようもないわね。
「流石といったところね。…フィリア、シルクちゃんからお願いがあるけど、いいかしら? 」
『シルクから? ええ、何でも言って頂戴』
フィリアなら大丈夫だと思うけど出来ないけど、念のためね。そうでもしないと…。
「助かるわ。…私達、特にシルクちゃんの事は、ギルドにいる全員、それから誰にも絶対に言わないで」
『…そうだったわね』
「シル…ええっ? わっ、分かったわ。私も今シルクちゃんから聞いたばかりだけれど、今フィリアがいるギルドに出入りしている、―――っていう―――になら話して良いらしいわ」
『―――の、―――ね? 分かったけど、何故その人にだけ…』
「その人だけ、伝説側の立場で調査しているそうよ」
今回はまだ会えてないけど、昨日の昼過ぎにそう言ってたわね。
『伝説の…、けれど何で』
「私もシルクちゃんも詳しくは分からないけれど、きっと本人に訊いた方が早いと思うわ」
『そうしてみるわ。…それじゃあ、戻らないと怪しまれるから、そろそろ切るわ』
「ええ、頼んだわ。…けれどフォス、思うと中々に調査しやすくなりそうね」
『そ…』
こういう時にフィリアがいてくれるから、本当に心強いわね! 親友の彼女への口止めも済んだから、私はむこう側の音が遮断されるのを待ってから、通話終了ボタンをタップする。今まで私が指揮? してきたからよく分かるけど、完璧にこなせるフィリアは本当にすごいと思う。ミウさんも似たようなことを思っているらしく、横目でチラッと見ながら声をかけてくれる。それに私は、声に出さ…。
「ぁっ…、ケホっ…」
「…咳? フォス、大丈夫? 」
『平気…よ。ちょっとむせただけだから』
…血? まさか…、反応が終わりかけてる…? あの時はまともに見えてる状態じゃなかったけど、もしかして、濃度を測り間違えたかしら…?
続く……