C9 リバーサイド(リバーテラス)
「…どう? 」
「簡易的に二人をスキャンしてみたけど、中々に面白い結果が出そうね」
面白い? って事はやっぱり、“陽月の被染者”だからかな? “伍黄の孤島”のリバーサイドに入ってから戦いっ放しだけど、キノト君達が率先して戦ってくれてるから私、ラティアスのライトさん、グレイシアのフィリアさんは殆ど闘ってない。キノト君とさっきオオスバメに何故か進化したシオンちゃんに一応聞いてみたけど、今のところ私が思ってる答えは帰ってきてない。キノト君はシオンさんが頑張ってるからぼくもまだいける、って思ってるし、シオンさんももっと強くなりたい、っていう思いで戦い続けてる。…だけど気持ちだけで体がついていけていないらしく、野生の波が治まってる今はゆっくり休んでもらってる。
それでその間に、Zギアの副社長のフィリアさんが気になる事があるから、ってキノト君達二人を調べてる。Zギアを使って何かを調べてたみたいだけど、この感じだと今終わったところみたい。今はライトさんから降りているけど、何か満足そうにキノト君達に言ってる。何でなのかちょっと気になったから、私はフィリアの事を少し強く意識してみる。
『ライトが見たら何て言うかしら? …考えない方が良いかもしれないわね』
すると私の頭の中に、フィリアさんの声で考えていることが流れ込んできた。
「そうなの? 」
「ええ。違う部分もあるけど、アーシアちゃんと同じ部分もあったわね」
「同じ? その人とですか? 」
「そうよ」
『元人間…、これって言うべきなのかしら…? 』
『アーシアちゃんと同じって事は、やっぱりフィリアさん、気付いてるのかな? 』
フィリアさん、多分みんな知ってると思うし、ライトさんも、フィリアさんは気づいてるよ? 私は適当に受け答えしながら、独り心の声にコメントしていく。心を読める事はキノト君にしか言ってないから、私は職場仕込みのポーカーフェイスを貫き通す。シオンちゃんが元々人間だったなんて初めて知ったけど、“陽月の被染者”だった時点で凄く驚いていたから、今更驚く事でもないのかもしれない。…確かに進化した時はビックリしたけど、“陽月の穢れ”の状態だからそうなってもおかしくない、って思ってた。そもそも“穢れ”は異世界の住民とか“空現”を通った人の特徴、って代表から聞いてたから、何となくそんな気はしてたけど…。
「へぇー。って事は、その人も“陽月の穢れ”の状態だったりするんですか? 」
『何か凄く知ってそうな感じだから、“月の次元”から来た人じゃなさそうだね』
「何て言ったらいいか分からないけど…、ある意味シオンちゃんと同じ、かもしれないわね」
『ウォルタ君の弟子のはずだけど、ウォルタ君は話してないのかしら…? 』
そのアーシアさん? って人、ウォルタ君が連れてきてほしいって言ってたけど…、フィリアさんも知ってそうな感じだね、きっと。
「わたしと? それってどういう…」
「ゥァァァッ…」
「…と、話している時間は無さそうな感じだね」
“陽月の穢れ”のデメリットって事は分かってるけど、ここまで多いと嫌になっちゃうよね…。偶々休憩していたのが段丘の頂上だったからなんだけど、心を読みながら話を聞いていた私は、ふと下の方の動く影が目に入る。まだまだ四段分の余裕があるから問題無いけど、戦闘になりそうだから念のため警戒のレベルを高めておく。…だけどこの感じだとフィリアさん以外は気づいてないみたいだから、注意を促すためにも一言、みんなにこう教えてあげる。するとそれを待っていたかのように、下の方で唸り声がいくつも聞こえ始めた。
「えっ、もう? 」
『まだ休み始めたばかりなのに、もう来たの? 』
「うん。私も今見えたけど、ワンリキーとかイシツブテが中心かな? 」
『キノト君とシオンちゃん、バテてるから…、私がいくべきだよね? 』
「そのようね」
「うん。…だけど、ここは私がいくよ」
この後“ビースト”と戦う事を考えると、ライトさんは温存しておいた方がいいよね? 私が知らせたって事もあって、座り込んでいたキノト君、それから羽をやすめていたシオンちゃんも、慌てて起き上がる。ライトさんはずっと浮きっ放しで降りてきてなかったけど、この感じだとすぐに闘うつもりなのかもしれない。…だけど左目が見えなくても技だけで実力がある、って事は分かるから、出来れば今はライトさんには闘って欲しくない。もしウォルタ君がここにいてもそうするはずだから、臨戦態勢をとろうとしているライトさんの前に立ち、右目で振り返ってからこう名乗り出た。
「えっ、私が戦うつもり…」
「知ってるよ。…だけどここは私に任せて! 」
それから私は今いる最上段からぴょんと跳び下りてから、大声で四人に呼びかける。声をかけてから目を閉じ…。
「…“我が志に、希望あれ”! 」
疲れるからって事で解除していた“志の加護”を発動させ直して、気持ちを慣れないバトルに切り替える。“陽月の被染者”だからキノト君とシオンちゃんには付与出来ないけど、発動者の私にも一応メリットはある。“漆赤の砂丘”で初めて分かった事だけど、発動している間は音とか光系の技に過敏に反応してしまう代わりに、五感が凄く研ぎ澄まされる。素早さとか守りには変化はないと思うけど、その分回避率とか…、そういう事には関わるとは思う。
「ガルルルァッ…! 」
「…さぁ、ここまで来たからには、私を楽しませてくれるんだろうね? 」
閉じていた目を開け、答えは返って来ないと分かっていても目の前のワンリキーに語りかける。
「ガァッ! 」
「じゃあ思う存分楽しませてもらうよ! 思念の頭突き! 」
空中に目の赤い残像を残しながら、私は目の前の敵に向けて一気に駆け出した。
「ゥガァッ! 」
私は走りながら強めに年念じ、それを全身の力に変えていく。すると当然向こうも、手刀を作りながらこっちに走ってくる。多分この時の距離は六メートルで、もう一秒としないうちにぶつかり合うと思う。
「グルアァ…ッ? 」
「なんだ、その程度? そんなひょろひょろのチョップじゃあ、私には勝てないよ? 」
二メートルになった時に相手は手刀を振り上げてきたから、当然私は咄嗟に足に力を入れて踏みとどまる。すると私の目の前スレスレを敵の指先が通り抜け、虚しく空気を切り裂いていく。これで出来た隙に後ろ足で思いっきり地面を蹴り、ガードがお留守の胴に頭から突っ込んだ。頭を下げて突っ込んだから、当然私の攻撃は相手の首筋辺りに命中。それもエスパータイプの物理技だから、相手は耐え切れずに吹っ飛んだ。
「グオォッ…」
「猫の手…、体当たり! 」
今度はイシツブテかぁ。まずは一体倒したけど、まだまだ戦闘は終わらなさそう。次々に崖を登ってくるから、私も立て続けに技を発動させる。右の前足にエネルギーを送り込み、同時に上段にいる仲間四人の事をイメージする。すると何かの技のイメージが流れ込んできたから、私はその通りに力を蓄える。これは多分キノト君の技だと思うけど、軽く力を溜めて、目の前のイシツブテに突っ込む。…だけど“チカラ”の効果で強化されていても、相性は最悪だから大してダメージを与える事が出来なかった。
「…ちょっとはやるみたいだね? …だけど、これならどう? 」
「ッ! 」
それならって事で、私はすぐに相手との距離を開ける。四メートルぐらい連続で跳び下がってから、その場で別の姿を強くイメージする。すると私は激しい光に包まれ、光ごと形が変化する。四、五秒するとそれが治まり…。
「…跳び跳ねる! 」
サクラビスとしての私が姿を現す。この姿だと水中じゃないから息が出来なくなるけど、姿を変える前に思いっきり息を吸ったから少しは我慢できる。でもあまり時間の余裕はなから、すぐに尾ヒレを地面に叩きつけて、跳ねるように大きく跳び上がる。ある程度勢いよく跳び上がったから、私はすぐに姿を元に戻す。
「グオオォォッ! 」
当然相手もただ待ってる事はしない。私は大きく跳び上がったから、多分撃ち落とすか何かを発動させたんだと思う。地面から二十メートルの高さにいる私に向けて、五センチぐらいの石ころが飛んできた。
「…猫の手、アイアンテール! 」
誰も言ってなかった技だから…、これはフィリアさんのかな? すぐに味方頼りの技を発動させ、イメージ通りにエネルギーを活性化。尻尾にエネルギーを送り込んだから、その部分全体が硬質化する。だけどこのままだと撃ち落とされるから、咄嗟に私は赤い残像を残しながら空中で前転する。
「…ァガッ? 」
「この程度の技で私を撃ち落とせるとでも思ったの? 」
四メートルぐらい落ちたところで石が尻尾に当たり、前者が粉々に砕け散る。多分これがアイアンテールだったからだと思うけど、もし違うタイプの技だったら、私は競り負けてたと思う。…だけどこのチャンスを逃す訳にはいかないから…。
「…アクアテール! 」
“チカラ”の効果で使う事が出来る、サクラビスが覚えられる物理技を発動する。相手にとっては弱点になる水を尻尾に纏わせ、更に前回転を速めていく…。
「ガゥァッ…ッ! 」
回転し過ぎて目が回ってきたけど、飛沫を飛ばしながら思いっきり尻尾の中心を相手の脳天に叩きつける。
「…イシツブテなんだから、石らしくそうして地面に埋まってる方がお似合いなんじゃない? 」
勢いの乗った重い一撃を相手にお見舞いし、その反動で私は平たんな地面に跳び下がる。体を捻って正面を向くように着地してから、地面にめり込んでる相手に皮肉たっぷりにこう言い放った。
続く