B9 惨劇(口戦)
[Side Tetra]
「…だから、
逃げて! 」
「…うん」
「…終わッたか」
「
フラッシュ! 」
相手がシアちゃん狙いなら…、私が何としてでも食い止めないと! 無理してでも残ろうとしたシアちゃんを説得した私は、頷いたのを確認してから左右のヒラヒラにエネルギーを蓄える。すぐに高く掲げて右側を爆ぜさせると、思わず目を瞑ってしまうぐらいの閃光が放たれる。シアちゃんは多分毒状態になってるから分からないけど、私のフラッシュ二発分なら倒壊寸前の本部ぐらいからは脱出できると思う。ここでもう一発発光させてから、私はシアちゃんが逃げるための時間稼ぎのために行動を開始した。
「くっ…、閃光弾カ…。しかシ自らが囮になるトは、敵ながら大したものだ」
「毒状態の仲間が狙われてるんだから、当然でしょ? 時間さえ稼げれば、逃がす事だって回復してもらう事だってできる。だか…」
「…ふっ、回復、か。無知が故の足掻きカ」
「…何が言いたいの? 」
ここまで緊迫した状況は初めてだけど、逃がすための時間をつくるぐらいなら…、訓練してるからどうにでもなる…! 光が治まったから目を開けると、敵のキリキザンは目を擦って瞬いていた。あの様子だと直視したんだと思うけど、様子見のためにも闘うつもりは無いから、とりあえず放置…。何か感心したように声をあげているから、私は声のトーンを落として答える。シアちゃんが逃げる時間を稼ぐのが目的だから、長々と遅めの口調で話すことにした。
だけど私が言った事が面白かったのか、相手は腕を組んで小さく吹き出す。何か嘲笑うように見えた気がしたけど、私はイラッとした感情を抑えながらも、とりあえず訊ねてみる。
「話す義理ナど無いが、俺の部下を下した褒美だ。特別に教えてやろう」
部下…、って事は、この人は敵勢ではそこそこの上層部…?
「本来貴様ニ使う予定だっタが、この際だ…。あの“導かれし者”の小娘…、アイツはじキに死ぬ…」
「……」
死ぬ…、って…、嘘でしょ…?
「…何であんたが毒なんか使えるのか知らないけど、…そんな簡単に殺める事なんて…」
何でそんな残忍な事が…。相手は淡々と話してくれたけど、私はその言葉に絶句…。こんな恐ろしいことがサラッと出てくる事も怖いけど、私にはそんな根拠のない事が信じられなかった。…だけど私はこの想いを無理やり心の奥の方に押し込んで、何とか無表情で平生を装う。仲間の一人にこういう時は表情を表に出さない事が肝心だ、って教わってるから、それを実践する…。
「…逆上すルと思ったが、まぁいい。我がルノ…、今ハ“月の次元”より持ち込んだ“エアリシア”の技術か…。体細胞を破壊し尽し、“退化”サせる…。鍛え抜かれた軍人デ無い限り、毒が消える前に死に至る」
「…随分ペラペラと喋るんだね」
“エアリシア”…、確かハクさんの故郷だったような…。って事は、この人達が殺人事件の犯人…?
「…それで、その毒で“導かれし者”といる、邪魔な私を殺すつもりだった…。そういう事だね? 」
「物分かりが早ク敵なガラ助かる…。…しかし俺モ一軍人だが、悪魔やテロリストではない。そこでアルビノのお前、ここは一つ取引といコうか…」
「取引…。…でもその前に、何でシア…、“導かれし者”を狙ったの? 」
どこか遠くの軍人で、侵略でもしに来たってことは分かった。…だけどそれだと…。湧き上がってくる感情を抑えるのに苦労してるけど、私は何とか、時間稼ぎを兼ねて相手の情報を引き出そうとしてみる。思った以上に話してくれて驚いているけど、キリキザンは私に使おうとしていた毒の効果だけでなくて、本拠地まで教えてくれた。何で話してくれたのかは分からないけど、シアちゃんに盛られた毒は技の毒じゃない、そういう事は分かった。相手は私を脅すために嘘をついているのかもしれないけど、相手の情報を引き出すために、私は更に相手に問いかけてみた。
「…俺ら同様
異世界の者は特別強力だと聞く。俺の君主の話によレバ、中でも“導かれし者”は各段に特異だそうだ」
「それで、強いから捕まえて戦力にする、と…」
「ご名答ダ。加えて先住の統治者が強い者、権力ニ目ガナイらしい…」
「…うん、狙う理由は分かった。それなら何で、ここを襲ったの? 」
「簡単な話、“太陽の次元”ノ主機関を潰し、俺ら“月の次元”が主権を握ル事だ」
…つまり、侵略するため、って事だよね…。…そうなると、野放しにすると大変な事になるよね…、本当にそのつもりなのかは分からないけど…。
「……」
「…ドウダ、これで満足したか? 」
「…うん。…じゃあ、私は何をすればいいの? 」
「俺からの要求は二つに一ツ。…一つはお前が“導かれし者”を連れてくる代わりに、“導かれし者”を解毒。一つは部下を下したお前が俺の隷となる代ワリに、“導かれし者”を解毒する…。どうだ、“導かれし者”を救いたいお前としテも好条件とは思わナいか? 」
…要は私かシアちゃん、どっちかを敵に差し出す。そうすれば、シアちゃんの命は保障する…。そういう事だよね…?
「……」
…でもそうは言ってるけど、本当は確実に私を殺める気なのかもしれない。さっき倒した五人、それからこのキリキザンの話しを聞いた感じだと、敵は他の世界からの侵略者で、その世界では私みたいな色違いは迫害の対象になってる…。森でもそうだったけど、あの感じだとゴミのように扱われて、無残な殺され方をする…。条件を呑んで私の身を差し出しても、情報を聞くだけ聞いて殺されるに決まってる…。それにいくら助けてくれるって言っても、シアちゃんを敵に売るなんて事は絶対に…、死んでもしたくない! だから…。
「さぁ、ドウスル? 」
「…そんなの、決まってるでしょ? 侵略者のあんたを倒して、“導かれし者”を救わせる。それであんたを保安協会に差し出して、事件の真相を全部話させる…」
「…交渉決裂だナ」
「そんなあんた達にしか得のない条件なんて、訊く訳ないでしょ? だから断って当然だよ! 」
「ふっ、そうか…。ならば俺らの秘匿を知ッタ以上、生かして返す訳ニハいかんな。…いいだろう、お前の望み通り、
二人諸共地獄の底に叩き落としてくれる! 」
「
私だって、あんた達の思い通りになんて絶対にさせないからね! 」
続く