C8 惨劇(艶月)
[Side Archia]
「…んーと、プラチナランクですので、“ラスカ諸島”ではウルトラランクになります」
「ええっとシアちゃん? このランクって、ベリーちゃんと同じだったよね? 」
「そうですっ」
“ルデラ諸島”と“ラスカ諸島”だとランクが違うけど、こっちでも結構高いランクになるんだね。シリウスさんに救助隊連盟の本部まで連れてきてもらった私達は、そのまますぐに受付の方まで行って、書類を貰ってから必要な事を書いた。こっちに戻ってくる前の癖でかな文字を書きそうになっちゃったけれど、書き始めだったから修正する事は出来た。…だけどテトちゃんはまだこっちの時代の文字…、足型文字はまだ覚えてないみたいだから、私が代わりに書いてあげた。それからあと何枚かの書類を書いてからは、窓口の方に提出して色んな注意事項とかの説明をしてもらう。…実は“ラスカ諸島”に来てから何回かダンジョンに潜入しているのだけれど、どっちかの隊に入っている人は、安全のために潜入する前に届けを出さないといけなかったみたい。そう思うとシルクさんを救出する時に潜入した“弐黒の牙土”での事が心配だけれど…。
「これで説明は以上になりますね。後はこちらの方で処理をしておきますので、明日からの三週間、依頼の受注が可能になります。…もし分からない事があれば、各地にある支所の方へお越しください」
「はい、ありがとうございますっ」
三週間も依頼ができるのですね。色々説明してもらって頭がいっぱいになりそうだけど、話してもらった事が纏められたパンフレットをもらったから、忘れる事は無いと思う。こういう書類は“ルデラ諸島”だとシリアルナンバーを入力してZギアで見るのだけど、“ラスカ諸島”ではそうじゃないみたい。Zギアの機能自体も制限がかかっていて、今いる“パラムタウン”でしか全部は使えないらしい。Zギアと言えばフィリアさんとライトさんを思い出すのだけれど…。
「ありがとうございます! …シアちゃん、申請も終わったし、これからどうする? 」
「これから? うーん、何も考えてなかったけれど…、テトちゃんは? 」
「私? 私も特にないかな? 」
え、テトちゃんも? 窓口のオオタチさんにぺこりと頭を下げてから、私達はとりあえず歩き始める。けれどこれと言って何も考えてなかったから、これからどうしよう、私は一瞬行き先に迷ってしまう。先に待ち合わせ場所に行ってシリウスさんを待とうかな、て考えたけれど、二つぐらい寄るところがある、て言ってたから結構な時間待つことになるかもしれない。そう思うと一、二時間ぐらい時間が無駄になっちゃうから、何かしたい、て言う気持ちもある。
こう思っているとテトちゃんが訊いてきたから、私はちょっとだけ考えてから答える。けれどやっぱり何も浮かばなかったから、今度は逆に私が訊き返してみた。やっぱり同じ答えが返ってきたから、本当にどうしようね、ってなっちゃう。思った事を口にしたら声が揃ったから、私達は揃って笑…。
「ひゃっ…」
「えっ…っ! なっ、何? 」
なっ、何が起きたのです? 私もテトちゃんも笑いあったのだけれど、急に起きた事に驚いて…、というより、何が何だか分からなくなってやめてしまう。私達はロビーの真ん中の方まで歩いてきてたから良かったのだけれど、さっきまで私達がいた場所…、窓口の方が何故か沢山の瓦礫で散乱してしまっている…。何でこうなったのか本当に分からないのだけれど、耳を塞ぎたくなような轟音とか衝撃がきたから…、もしかすると外から何かがぶつかったのかもしれない。けれどそんな大きな物は無かった気がするか…。
「しっ、シアちゃん! これってマズくな…」
「うわっ…、なっ何者? 」
「くぅっ…! 」
「まっ、また? でも何で…」
こっ、これって絶対に攻撃されてますよね? 最初は何かがぶつかったのかと思ったのだけど、この感じは絶対に違う。あの一回だけじゃなくて何回も同じ事が起きているし、そのぶつかってきている物らしいのが全然ない…。そう思うと攻撃されてる、信じたくはないけれどそうとしか考えられない。ロビーにいる人たちがパニックになっちゃっているし、壁の倒壊に巻き込まれて身動きがとれない人だって出てきている…。
「分からないです! とっ兎に角、私達も避難した方がいいですよね! 」
「うん…! シア…、ムーンフォース! 」
「え…」
本当にどうなってるのです! 救助隊員としても巻き込まれた人を助けに行こうとも考えたのだけど、その間にもどんどん壁が破壊されていってる…。あっという間の事で理解が追いついていないのだけど、このままだと私達も巻き込まれる、ほぼ本能に近い感じで、こう感じる。こう思ったからやっと我に返ったのだけど、ここで私はテトちゃんに強めに声をかける。すぐにでも走りはじめないと閉じ込められそうだから、私はすぐに両足に力を入れて走りだそうとする…。だけど一歩跳び出したタイミングでテトちゃんが急に後ろ…、出口とは反対の方に振りかえり、ピンク色の球体を二発飛ばしていた。
「シアちゃん、これって絶対に襲…」
「スピードスター! 」
「ちっ…」
何でテトちゃんが技を発動させたのか分からなかったのだけれど、急ブレーキをかけて振り返ったら納得する事が出来た。そこは砂煙で見にくかったのだけれど、空中でテトちゃんのムーンフォース、二つともが相殺されていたから…。打ち消されたて事は誰かが攻撃した…、そうとしか考えられないから、私はすぐに動けるようにエネルギーレベルを高めておく。テトちゃんもバックステップで私の隣まで下がってきたから、誰が攻撃したのか…、探るために目の前に注意を向ける事にした。
けれどそうしたのも束の間、私は砂煙の中で何かが動いたのに気付く。種族までは分からなかったのだけれど、四メートルぐらい先で誰かが技を発動したような気がした。するとすぐに発動者…、ダゲキが砂煙の中から跳び出してきた。それも私達を狙って殴り掛かってきたから、咄嗟に私は準備していたエネルギーを技に変え、三発の星として解き放った。命中する寸前でかわされたのだけれど…。
「魔術師か…」
「代われ、俺が殺る! 」
「ふっ、二人? ムーンフォー…」
「“太陽”の連中、まさかここまで平和ボケしていたとはなぁ! 」
「くぅっ…」
「テトちゃん! 」
「…ギガインパクト! 」
「ぐぁぁっ…! 」
かっ、囲まれた? 襲いかかってきたダゲキに気をとられていて、私は他の相手に気付くことが出来なかった。テトちゃんもそうだったみたいで、慌てながらも何とか、左右のヒラヒラに桃色の球体を準備する。けれどその間にも新手がきてしまって、私達は二人…、じゃなくて五人に囲まれてしまう。すぐに私も応戦しようとしたのだけれど、相手の動きが早くて間に合いそうにない…。ほんの一瞬反応が遅れて、テトちゃんは声を荒らげたダーテングに思いっきり叩かれてしまう。そのせいでムーンフォースの発動に失敗してしまったのだけれど、咄嗟に力を溜めて、捨て身でダーテングに突っ込んでいた。
「ちぃっ…」
「…もしかしてあんた達が…」
「アルビノが、汚らわしい…。口を慎め」
「…っ! うるさい! あんた達の目的は何なんなのか知った話しじゃないけ…」
「黙れ! アルビノの貴様の発言を許した覚…」
「ちょっと、敵だけど酷すぎません? あなた達が何者かは分かりませんけど、テトちゃんにそんな事言うなんて…」
「“太陽”のクセに“月”の俺達に口答えする気かぁっ? 」
「あんた達こそ、どうせ殴るだけしか能が無…」
「アルビノは黙ってろ! 耳が腐る! 」
「黙る?
それはあんた達の方なんじゃないの? …ムーンフォース! 通常攻撃しか出来ないクセに、よくそんなに自信満々に言えるね? …それとも技なんて使えないから、口でしか私達を打ち負かせない、って思ってるんじゃないの? …まぁどう足掻いても、どうせあんた達に私達を倒せないのは目に見えてるけど」
テトちゃん…、完全にキレてる…。あれから私達は言い合いになったのだけれど、それでも相手は攻撃の手を止めない。爪で斬り裂いたり牙で噛みついたりしかしてこないのだけれど、私が見た感じでは結構な威力があると思う。私の見間違いなのかもしれないけれど、敵の五人全員に薄いオレンジ色のオーラが纏わりついているような気がする。
「
アルビノの分際で声をあげるんじゃねぇ! 貴様ら“太陽”は俺達“月”の前では跪く運命なんだょ! 大体アルビノの貴様を野放しにする“太陽”の根性が気に食わねぇ! これだから平和ボケした…」
「
さっきからアルビノアルビノって何なの? どうせあんたらは知らないだろうけど、私にもテトラ、っていう名前があるんだけど? そもそも建物を散々破壊しておいて何なの、その態度。私には他人の事を考えずに破壊し続けるあんた達の方がクズだと思うんだけど! 反吐が出るよ!」
「
何だと? 」
「おいおい、お前もいい加減落着け。昔からそうだが、その様子だとお前は足元の宝に気付いてないようだな? 」
「
…何が言いたい? 」
「俺ら精鋭隊の攻撃を防いでいるのもそうだが、よく見てみろ。あのブラッキーの小娘、ジク殿の言う“導かれし者”だ」
「え、何で私の事を…」
「なるほどな。こいつを殺さず捕えれば…、武勲を挙げれるという訳か。そいつぁ名案だなぁ! 」
「…ふん、アルビノ、命拾いしたな? “導かれし者”、貴様は俺らに敗れ、隷となる事を光栄に思う事だな! お前ら、いくぞ! 」
「どの口が言うか…、まぁいい。…かかれぃ! 」
「シアちゃん…! …フラッシュ! 」
「はいですっ! 剣の舞…、アシストパワーっ! 」
まっまさか、私を狙って…? 言いあいが終わったかと思うと、囲んでいる相手五人は一斉に動き始める。円を狭めるように迫ってきているのだけれど、相手の狙いは多分、私…。何で私を狙うのか分からないのだけれど、少なくとも相手は私の事を知っている。そう思うと敵の五人は、ウォルタさんとシルクさんが書いた“導かれし者達の軌跡”を読んでいることになる。まさかこの本がきっかけで狙われるなんて夢にも思わなかったのだけれど…。
けれどこのままだと攻撃される事になるから、もちろん私達はすぐに迎え撃つ。まだ怒りが治まってないだけれど、テトちゃんは背中合わせになっている私に短く合図を送ってくれる。二千年代でよくもらっていた合図だから、私はすぐに目を閉じてテトちゃんの作戦に備える。今頃強い光で見る事もままならないはずだから、その間に私は士気を高めておく。心の中で十秒数えながら私も技の準備をして、十一秒目に敵がいる一点…、ダゲキがいる場所に大量のエネルギーを送り込む。それから強く念じる事で、エスパータイプの気柱でダゲキを思いっきり突き上げた。
「ちっ、殺られたか…。…だがこれならどうだ? 」
「四人同時にかかってきても同じだよ! …ギガインパクト! 」
「っあぁっ…! 」
「電光石火…、からのアイアンテールっ! 」
「ぐぅっ…」
「お前らま…」
「シャドーボールっ! テトちゃん! 」
この間に力を溜めていたらしく、目を開けるとテトちゃんは丁度技を発動させ、正面のクリムガンに向けて走っていっているところだった。この間に私は包囲網から抜け出したのだけれど、特性の効果で弱点を突いたから、凄い勢いで突き飛ばされるクリムガンはボロボロの壁に叩きつけられて気を失っていた。
形勢逆転しそうな感じだから、このチャンスに私も一気に攻勢に移る。テトちゃんのフラッシュでまともに前が見えてないはずだから、私は一気にアギルダーとの距離を詰める。三メートルぐらい手前で高く跳んで、ここで一度技を解除する。けれど勢いだけは残っているから、そのまま尻尾を硬質化させて思いっきり叩きつけた。
更に私は着地してから、二足で立って空いた手元にエネルギーを集中させる。ゴーストタイプに変換してから丸く形成し、四発連続で残った敵のうちの一人を狙う。このぐらいの時間になるとテトちゃんは技の反動から解放されているはずだから、撃ちだしながらテトちゃんに合図を送る。
「うん! ムーンフォース連射! 」
「スピードスターっ! 」
「…っ! 」
「うぅっ…。こんな…、小娘なんかに…、俺達が…」
丁度私とテトちゃんで挟み撃ちにするような位置関係だから、この場所から同時に攻撃を仕掛ける。テトちゃんが高い威力の技で体力を削って、私が沢山の星を確実に命中させる…。この作戦が成功したみたいで、残った二人もその場で崩れ落ちていた。
「…ふぅ。結局何者なのか分からなかったけど、とりあえず倒せたのかな? 」
「そう…、なのかな? けれどテトちゃん、何…」
「フッ…、油断したな」
「テトちゃん! 」
「えっ…」
まっ、まだいたの? でっでもこの距離だと…。
「…死ネ」
「電光石火っ! 」
だっ、だめだ…間に合わない! だけどここまで近づけたら…。
「…守る! 」
シールドで押し出せば、間に合…。
「しっ、シアちゃん! 」
「
っくぁぁ…っ! 」
「…庇っタか」
なっ何なの…、この攻撃…。五人倒せたから、私、テトちゃんも、つい気を抜いてしまう。それが命取りになって、私達は新手のキリキザンの接近を許してしまった。おまけに相手が狙ったのは、完全に背を向けているテトちゃん…。私は視界に入ったから少し早く気付けたのだけど、このままだとテトちゃんが危ないから、私は大急ぎでテトちゃんの方に走る。何とかテトちゃんの所まで間に合ったのだけれど、相手は爪を振り下ろしている最中…。八十センチぐらい距離が足りなかったから、私は咄嗟に緑のシールドを出現させる。これで何とかテトちゃんを弾き出すことが出来たけれど、…っその代りにシールドが破られてしまう。それでも止まらなかったから、その軌道上にある黒い毛並みを斬り裂く…。当然無防備な状態の私は…、何の抵抗も出来ず…、まともにこの斬撃を…、食らってしまう…。だけどテトちゃんを…、守る事が出来たから…、わた…。
「シアちゃん! うっ、嘘…」
「だっ…、大丈夫…。っぁっ…」
「…まだ立つカ」
「…それより…、テトちゃんは…」
「わっ、私は大丈夫だけど…」
…何か…、寒く…、なってきた…。それに…、頭痛も…。もしかして…、毒…?
「…くぅっ…」
「そノ紋章、“導かれし者”カ」
「…あんた、シアちゃんに何をしたの! 」
「…貴様二語る義理ナど無い」
「まさか…。…シアちゃん」
「…テトちゃん、私なら…、大丈夫…、だか…」
「相手の狙いは多分シアちゃん…。だからシアちゃん、私が時間を稼ぐから、その間に逃げて! 」
「だけど…、それだと…、テトちゃん…」
「私なら大丈夫。相性は最悪だけど、こんな奴なん・にやら・・程弱くはないよ。だ・ら、ねっ? 」
…彼女は、心配しないで…、…て言いたそうに…、…にっこり…、笑いかける…。
「・・ら、
逃げて! 」
「…うん」
「…終・
・・か」
…耳まで…、聞こえにくく…、なってきた…。けれど…、ここは…、…したくは…、ないけれど…。
「
フラッシュ! 」
……
逃げなきゃ! …けれど…
…テトちゃん…
…ごめんなさい…
…私のために…
続く