B8 VS心失せし真実
[Side Fif]
「…フィフちゃん、体の方は大丈夫? 」
『ええ。薬で誤魔化してるけど、この程度で倒れるほど私も弱ってはないわ。ミウさんも、その様子だと問題なさそうね』
これからが本番だけど、流石ミウさんね。結構飛ばしたけど、あまり息切れはしてなさそうね。保安協会を発った私とミウさんは、そこで一度アルタイルさんと別れる。話が長くなるから割愛するけど、彼女はベガさんとデネブさんにも協力してもらうためにデアナ諸島に向かった。それに対して私達は、一足先に行動を開始した。まず初めにという事で、ミウさん達が先に計画していた“ビースト”の討伐。全部で九ヶ所ある出現地点のうち、“オアセラ”から一番近い“赤兌の祭壇”に向かう事にしていた。幸い天候も安定していたから、本調子じゃない私でも楽に突破する事ができた。だからペースを速めて進んだって事もあって、陽の傾きからすると午後三時ぐらいには抜けたと思う。今はダンジョン地帯を抜けているけど、ユキメノコの姿のミウさんに訊かれたから、私は心配ないわ、って感じで言葉を伝えた。
「姿変えてるから全力は出せないけれど、何とかなったわ。…ええとこの辺りが、例の“祭壇”のはずよね」
『そう聞いてるわ』
「サードの話によると、赤い砂煉瓦の…」
確か他の八ヶ所にも、目印に小さい祠が建ててある、って言ってたわね。赤いガラス質の砂を踏みしめる私は、訊いてきたミウさんにこくりと頷く。“祭壇”って言われるとすぐに思い浮かぶのは、“参碧の氷原”で見たあの祠…。今日になって知った事だけど、その祠も出現地点の一つで、あの筋肉隆々の生物も“ビースト”だった。流石に種族名までは分からないけど、あの時、“青震の祭壇”の“ビースト”は異常なぐらい硬く、パワーもかなり強かった。…だからこれから討伐する“赤兌の祭壇”の“ビースト”も、少なくとも何かのステータスが…。
「…ァァアアグ」
「ふぃっフィフちゃん、今の何? 」
『分からないわ! “祭壇”の方から聞こえたけ…』
「誰かが“ビースト”にやられたかもしれないわ! 行ってみましょ」
『えっ、ええ』
この声量…、何かがあったのは間違いないわね! 多分ミウさんは例のポイントの事を再確認しようとしていたけど、その途中で異様な叫び声が聞こえてくる。それもただの声でなく、命絶える瞬間の断末魔のような…、そんな感じ。この絶叫にミウさんも気づいたみたいで、珍しく取り乱しながらも私に尋ねてくる。だけど私も分かってないから、ただ首を傾げながら答える事しか出来ない。…それでも方向だけは分かったから、ミウさんを先頭にその方向、“赤兌の祭壇”の方へと駆けだし…。
「…だと、思います…。だっ、だけど、殺…」
「ちょっ、ちょっと一体何が起きてるのよ! 」
『わっ、分からないわ。けど、誰かが“ビースト”を真っ二つに斬り裂いたのは…、間違いなさそうね…」
「だっ、だけどフィフちゃん、そんな事ってあり得るの? 」
私も信じられないけど、そうとしか考えられないわ! すぐに着いたけど、そこには目を疑う光景が広がっていた。赤い砂原に祠が建ち、そこが史跡という事を物語る。その場所には先客がいたらしく、茫然と立ち尽くすエネコロロと、棒立ちする事しか出来てないイワンコが、ある一点に目を向けている…。ここまではいいんだけど、それ以外に私、ミウさんも、思わず声を荒らげてしまった。何故なら彼女達が向ける視線の先には、躰の一点を真っ赤に染めたナニカ…。パッと見何かの生き物らしいけど、その種族は全く分からない。おそらくは腰にあたる部分で完全に切断されたばかりらしく、深紅の血が滝のように切断面から溢れ出している…。サードさんの話しとこの状況から考えると、元が白い種族の遺体は討伐対象の“ビースト”で間違いなさそう…。だけど、あまりに血生臭い光景で、思わず私は吐きそうになってしまう。だけど見た以上スルーする訳にもいかないから…。
『…そこのあなた達、ここで何が起きたのか…、詳しく教えてもらえないかしら? 』
こみ上げる吐き気を無理やり抑えながら、一部始終を見ているはずのエネコロロの彼女達に尋ねてみた。
「えっ? うっ、うん。ウォル…、ウォーグルがあの白い生物…」
「“ビースト”の事ね」
ウォーグルって…、もしかして、ウォルタ君? テレパシーで話しかけられるのが慣れていないのか、ただ単に急に話しかけられて驚いたのか…、どっちかは分からないけど、エネコロロの彼女はすぐに答えてくれる。赤いスカーフを首に巻いた彼女は、そのまま遺体を挟んで反対側に降り立ったウォーグルに目を向ける。メガネをかけていてもよく見えないけど、平均的なウォーグルよりもかなり大きいと思う。一瞬エネコロロの彼女は名前を言いかけていたから、私はその一言で誰なのかピンときた。
「“真実”の彼が“ビースト”を倒したのは見れば分かるわ」
ちゃんと前が見えているミウさんも気づいたらしく、間接的にエネコロロの彼女に答えていた。
「ゆっ、ユキメノコさん? なっ、何でししょーが“真実の英雄”って分かっ…」
「
があァァーっ…! 」
「えっ…」
「なっ、何? 」
『ウォルタ君? 』
うぉっ、ウォルタ君? どっ、どうしたの? ミウさんが訊いたら、何故かイワンコの彼が凄く驚いた様子で声を荒らげる。彼とウォルタ君がどんな関係なのかは分からないけど、彼の地位を知ってるって事は、少なくとも親しい関係なんだとは思う。取り乱していて聞きとりにくかったけど、忙しくて会えなかった二年間の間に出来た関係、なんだと思う。…だけどその割に歳が離れすぎてる気がするから、私にはどういう関係なのかいまいちわからなかった。
彼との関係は後で訊こう、そう思いかけた丁度その瞬間、急にありえない声量の絶叫が響き渡る。あまりに急すぎてとびあがってしまったけど、私はその声の主が誰なのかすぐに分かった。…本当は分かりたくは無かったけど、よく知った弟子の声だったから、思わず私は言葉にならない声をあげてしまった。何故ならその声の主は、この時代の“真実の英雄”、ウォルタ君だったから…。
「ウォルタ君! どっ、どうしちゃったの! 」
「ぁがぁぁァっ…! 」
「――っ! 」
まっ、まさかウォルタ君、“証”を外して戦ったんじゃあ…。明らかに様子がおかしいウォルタ君は、光の無い眼でイワンコの彼を睨む…。その目は虚ろなような血走ったような…、何とも言えない感じ。この時ようやく見えたけど、私と同じで肌身離さず身につけているはずの白いスカーフ…、“真実の証”がいつもの場所に着けられてなかった。この時ようやく、ウォルタ君が何をしたのか…、何をして“ビースト”を倒…、殺したのかが嫌というほど分かった。
…だけど分かったその瞬間、“チカラ”の制御が効いてないウォルタ君が急に動き出す。彼は即座に翼に光を纏わせ、一気にイワンコの彼を狙い滑空してくる。このままだと彼が殺られる、本能的にそう感じた私は、咄嗟に二種類のエネルギーを口元に蓄え、球状にして撃ちだす。完全に見切られてかわされたけど、何とかイワンコの彼を守る事は出来た。
「ししょー…、何で…」
「これってもしかして…、“狂乱状態”…? 」
『“証”が無いから、それで間違いないわ…。信じたくは無いけど、完全に“チカラ”の制御が出来てないわ』
「…そうよね」
『ええ…』
師匠…? って事はもしかして、ウォルタ君の…、弟子? 急に狙われた彼は、信じられない、って感じで呟く。相当ショックだったらしく、この世の終わりでも見たような表情になっている…。一方のミウさんは、一度同じ状態を見せたから、すぐにウォルタ君の置かれている状況を察してくれた。便宜上私が呼んでいるその呼び方を口にし、私に目で尋ねてきていた。
だから私は、最悪の状態だけど淡々と答える。今のウォルタ君の状態、“チカラ”の制御が効かない“狂乱状態”の危険性は私が一番知っている。あの状態になって数分はまともに動けるけど、徐々に“自分”というものが失われていく…。“証”が無い状態が三十分以上続くと、もう二度と自分に戻る事が出来なくなる…。まともな状態でいられるのは慣らせば延ばせるけど、今の私ではせいぜい十分が限界…。だけどこの様子だと、多分ウォルタ君はもっと短いはず。このまま続くと、ウォルタ君は…。だから…。
『…そこの二人、ミウさんも、一度しか言わないからよく聞いて』
親友…、いや、彼の師匠として、普段通りの彼を連れ戻す。そのためにはまず、ウォルタ君と一緒にいたこの二人に、今のウォルタ君の事を話さないといけない…。
『ウォルタ君…、ウォーグルは今、“証”を失って“チカラ”の制御が出来てない状態…。それも自我を失いかけて凄く危険な状態になってるわ』
「自我が、って…。ししょーは…、ししょーはどうなっちゃうんですか! 」
「気持ちはわかるけどイワンコ君、落ち着いて! 」
イワンコ君、あなたの師匠を失わせはしないわ! 大切な事を失う事の辛さは…、イヤというほど分かる…。だから、誰なのかは分からないけど、あなた…、いや、あなた達に私と同じ想いはさせないわ!
「だっ、だけどエーフィさん、あんな状態なのにどうす…」
『そんな事、私が一番よく分かってるわ! 』
だから私が、どんな方法を使ってでも、彼を連れ戻す! そのためには…。
『…制御を失った当事者を止める方法はただ一つ、三十分以内に気を失わせて“証”を着け直すこと…。…だから私が、彼の
師匠として、同じ方法で戦う』
「おっ同じ方法? フィフちゃん、もしかしてフィフちゃんも“狂乱状態”に…」
今のウォルタ君がどのぐらいの実力かは分からないけど、並大抵の実力…、今の私では勝てないのは間違いなさそうね。意を決した私は、ミウさんと二人に淡々と語りかける。途中ミウさんがあり得ない、って感じで声をあげたけど、そんな事は分かりきってるから構わず語り続ける。…だけどこの様子だとそうもいかなそうだから…。
『じゃないと私がやられるわ! 』
かなり強めに言葉を念じ、他二人にも聞こえるように言い放つ。そうでもしないとウォルタ君は連れ戻せないし、最悪の場合私、もちろん弟子の彼…、ここにいる全員の命の保証は出来ない。そのためには…。
『…そういう事だから、もしもの場合は…。最悪間に合わなかったら、私達を殺してでも止めて』
私自身が犠牲になってでも、止めなければならない…。サイコキネシスで荒れ狂うウォルタ君を弾きながら話したけど、これだけでも結構厳しい。ただでさえウォルタ君は“チカラ”で素早さが強化されてるのに、対して私はメガネをかけていてもまともに前を見る事が出来ない…。メガネがあれば輪郭とぼんやりと顔ぐらいは認識できるけど、何らかの形でメガネが外れたら、本当に何も見えないぐらい視力が落ちてしまっている…。こんな状態だから、私自身も“チカラ”を暴走させないと互角には戦えない。それも制限時間付きのシビアな状態だから、二人揃って生還できる確率は、かなり低いと思う。仮にウォルタ君の自我を取り戻すことが出来ず、暴走する私も止められなかったら、ここにいる三人以外にも被害が及ぶことは目に見えてる…。そうならないためにも少しでもマシな状態で止める必要があるから、この方法…、暴走している側が自ら死ぬしか防ぐことが出来ない…。…だけどもちろん、そんな最悪には、ならない…、
…させない! 『ウォルタ君、“絆”の名に賭けて、絶対にあなたを連れ戻してみせるわ! 』
「――、―――! 」
“絆により、我らを護り給へ”…。護る三人の方をチラっと見てから、私はサイコキネシスで“絆の従者の証”を外す。同時に出ない声、それと心の中でも強く発動のきっかけとなる文句を唱え、“絆の加護”を発動させる。唱え終わってから外れるようにしたから、多分ちゃんと発動出来ていると思う。こうすれば三人を守れるのもそうだけど、万が一間に合わなくても一発私に攻撃を当てれば、気絶させることが出来る…。
「がァぁーッ! 」
「サイコキネシス。…フィフちゃん、しっかり受け取ったわ」
だけど唱え終わった直後に、“狂乱状態”のウォルタ君は何のためらいもなく私めがけて滑空してくる。さっきみたいに翼に光が纏わりついているから、多分ゴッドバードで私を殺めるつもりなんだと思う。だから私は、咄嗟に紺色の弾丸…、ドラゴンタイプの目覚めるパワーを準備し、弟子の彼の眉間を狙って撃ちだした。
「――、―――ッ! 」
「かァァッ! 」
あまり時間が無いけど、少しでも範囲を広げられるこれで攻めた方が良いかもしれないわね。私が放った牽制球は、“心”を失った弟子に容易くかわされてしまう。強化されている関係で私より素早いウォルタ君は、きりもみ回転でひらりとかわし、二十メートルの距離から私を狙って滑空してくる。対して私はかわされてる事が分かりきっていたから、背負っているバッグから八本の針を超能力で取り出す。内訳はカチオン性の誘雷針が一本と、残り七本がアニオン性。私の周りに浮かせるように待機させ、同時に別の技を準備する。実戦では初めて使うけど、元々使えたものより強く痺れるイメージを全身に行き渡らせていく。それを基にエネルギーレベルを高め、この状態で電気の属性に変換する…。最後にこの技を命中させる相手…、じゃなくて発生させるポイントを強く意識する。これまでに六メートルぐらい詰められてるけど、そのまま私は電気タイプ最高峰の技、雷を発動させた。
「ぁっ…? 」
『…フィフちゃん、いけそう? 』
「――」
『五分五分、ってところね…』
本調子なら勝てると思うけど、今は際どいわね…。狙った位置に天空から電撃を落とせたけど、またしてもスレスレのところでかわされてしまう。今の所十メートルの距離があるけど、ウォルタ君のスピードなら一秒もあれば余裕で飛びきると思う。このままいくと何らかの攻撃を食らう事になるけど、当然私が何の準備もしていない筈がない。発動させたのは攻撃のためじゃなくて、これからの準備のため…。私の周りに漂わせていた針のうち、正の電荷を持つものだけを敵の方へと向かわせる。同時に私は右に跳び、その場から退避する。
「がァっ? 」
『来たわね! 』
すると獲物を狙う鷹の後ろに落ちているはずの雷撃が、急に進路を変え追いかけ始める。鷹を挟んで反対側にある針に導かれるように、一直線に乾いた空気をかき分ける。途中でウォルタ君に追いついたけど、本能で察知したのか浮上する事で回避する。だけどその代わりに、私はカチオン種の針に雷を纏わせることに成功した。
「ぅガァぁぁッ! 」
「――ゥァ―! 」
このタイミングで使われるとは思わなかったけど…。相手は十メートルぐらいの位置から私を狙い、急降下してくる。この感じからすると、両脚で蹴って私に大ダメージを与える、そのつもりなのかもしれない。だから私は、残りの七本の針で相手を取り囲み、降下してくる標的と並走させる。その状態で電気を纏ったカチオン種を活性状態にし、超高圧の電撃をアニオン種に向けて発散させた。
…だけどそこで、私が予想していなかった事が起きてしまう。予め技を準備していたらしく、七本の針の先が中心に向いたタイミングで、彼は両翼に光を纏う。カチオン種から七岐の電撃が放たれたところで、彼は体を捻って横回転する。本来ならアニオン種を刺して電気を流す予定だったけど、そのせいで針が散り散りに弾き飛ばされてしまう。だから電撃が明後日の方向に拡散し、私の彼に対する有効打を完封されてしまった。
「ガるルるルゥッ…! 」
これは…、マズいかもしれないワね…。私の雷撃ヲ完全に防いだウォルタ君は、そのままも勢イで旋回し始めル。速すぎててよく見えなイケど、この感ジだと多分、地上スレスレヲ滑空してゴッドバートで仕留める、そのつもりナのかもしれなイ。ソれに対して私ハ、彼に対して効果的な手段を見切らレ、荒れ狂う彼のスピードについてイけナい状態…。おまけに“狂乱状態”を抑えきれなクなり始めてるから、私自身も時間的ナ限界が近づイてイル…。
「ぐオぉぉッ…」
こうなっタラ、一か八カ、あの方法に賭けルしかなイわね…。旋回し終エて私と向き合う様ナ位置になったカら、彼はついたスピードヲ更に上げテくる。翼も光ニ包まれ始めタカら、技の準備モ出来テいるンだと思う。私のあてにナラない目算だト、多分十三メートルぐらいの距離があると思ウ。旋回しテる間に針はかキ集めタけど…。
「――ヵぁっ…」
「ガアァァぁッ! 」
来たワネ…。ぼやける視界デタイミングヲ見計らいナガラ、私は四肢に力を溜めてイク。経験だけを頼りに溜メた力を解放シ、真上ニ一メートルぐらい跳び上がる。その高サハ、丁度ウォルタ君の翼が通り過ギル位置…。横方向でも左ノ翼とぶつかるけド、私は構わズ、その翼に狙いヲ定める…。
「―――! 」
この作戦に…、賭ケル! 音速に近イスピードで滑空スル相手は、当然あっという間にこの距離を飛ビキル。渾身の力を込メタ左翼を、私に叩きツケヨうと狙イを定めル…。
対して私ハ、サイコキネシスを維持したママ、相手の到達ヲ待ち構エル…。だけどただ待ツダケでなく、力を溜めながら。ソシテ…。
「ガぁっ? ゥああァァッ…! 」
口を大きク開け、迫っテきタ彼の翼に思いッキり噛みつく。“狂乱状態”になッた事デ解放さレる通常攻撃で食らイツき、彼ニ僅かだけどダメージを与えル。それもタダ噛ミツクだけでなくて、スグに噛みツいたまマ頭を思いっきり振リ下ロス。そうする事で彼を地面ニ叩きつけ、地上に無理ヤリ引きずり下ロス…。力任セニ地面に叩キツケた瞬間バキッ、と何かガ折れル鈍い音がしたけど…。
「――、―――ッ! 」
ウォルタ君、ごめんナさイ…、無傷デ元に戻してアげられナくて…。あの音カラするト絶対に折レテるけど、私ハ無理やリそノ考えヲ頭かラ追い出シ、エネルギーを活性化サせる。地面に叩きつケた反作用を利用シて跳び下がリ、彼カラ三メートルグライ手前に着地すル。その位置で技を発動サセ、彼がいる場所ニ雷を落とし、同時ニ口元に紺色ノ球体ヲ作り出ス。相性的にハ雷ダケデ十分かもしれないけど、それは相手ガ野生か他の飛行タイプ、アルイハ水タイプならの話…。だから念ノタめ作り出しタ目覚めるパワーヲ発射シ、翼が折レテ飛び立てナいウォルタ君に命中さセル…。
『フィフちゃん、“証”を…! 』
『えッ、エエ! 助かルワ! 』
ミウさン、ベストなタイミングネ! 竜属性の弾が彼に着弾した瞬間、私ノ頭の中ニ一ツノ声が響き渡ル。それが合図ニナッタカノヨウニ、私の背後カラ一枚の白イスカーフが飛んデキタ。見なくても分かっタケド、これはミウサンがサイコキネシスで渡シてくレた、ウォルタ君ノ“真実の証”…。私モ同じ方法で受け取リ、リレー形式で元の持ち主に着ケテあゲ…。
「フィフちゃん! 」
「――! 」
『ミウさン…、助かッたわ』
彼ニ着けてあゲタ丁度その時、私のすぐ目の前ヲ水色の布が通り過ギル。ソレハ一人でに…、じゃなくてミウさんの技で私ノ首元に移動し、丁度いいキツさで結ばれる…。
「フィフちゃん、ウォルタ君は…」
『ギリギリだっタけド、何トか間に合っタワ」
すると私を侵そうとしていた負の力が急に治まり、すぐに“私”というものが戻ってくる…。その時にはウォルタ君にも同じように結んであげれていたから、ふぅ、と力を抜いてからミウさんに答える。ウォルタ君が“狂乱状態”になってからの時間は分からないけど、少なくとも私がなってからはギリギリ十分以内だから、多分大丈夫なはず…。だけど変に間を開けて心配させる訳にもいかないから、振り返ってからこうミウ達三人に言葉を伝えた。
続く