A6 同類
[Side Fif]
「…確かに、無関係とは言い難いわね」
『そうね。…それなら、私が合わせて調査してみるわ』
「助かる。だがそれでは…」
『覚悟の上よ』
「その目は本気ね。…だけどフィフちゃんだけを危険に晒す訳にはいかないわ。――するなら、私も同行するわ。その方が融通が利くでしょ? 」
「ミウ…」
――――
[Side Shion]
「…へぇー。ギルドって、トレジャータウンだけじゃなかったんだね! 」
「ええ。確か草の大陸に三軒、風が三、水が二、砂が一軒あったと思うわ」
ゲームはトレジャータウンしか出てなかったから、ビックリだよ。ライトさんとティルさんの三人で船旅を楽しんだ私達は、ワイワイタウンで降りて真っ直ぐ目的地に向かった。飛べるようになったから凄く楽になったんだけど、それなりの距離があったから一時間ぐらいはかかってたのかもしれない。…だけどその分いっぱい話せたから、私は結構楽しめた。昨日ティルさんに連れてってもらったダンジョンは無かったから、技の練習とかは出来なかったけど…。
それでアクトアタウンっていう街に着いてからは、街の景色を見ながらギルドを目指した。ティルさんも初めて来るって言ってたけど、何か凄く綺麗だった。街の色んな所に水が流れていて、飛行タイプじゃなかったら跳び越えれなさそうな水路もあった。ビックリしたのは建物の中にも続いていたって事で、水と生活が一緒になってるんだなー、って感じだった。
ライトさんの知り合いのギルドに着いてからは、そこにいたアブソルさんとアマージョ? っていう種類の人と話していた。だけどキノト君とウォルタさんはまだ来てないみたいだから、暇だからって事でアマージョのフロリアさんに稽古をつけてもらえる事になった。だから今は地下への階段を降りながら、フロリアさんと雑談を楽しんでいた。
「そんなにもあるんだ! 」
「そうよ。…シオンちゃん、特訓を始める前に使える技、教えてくれる
かぃ? 」
「わたしの技? 翼でうつと、電光石火と吹き飛ばしの三つだよ」
「あら、吹き飛ばし? 珍しい技使うのね」
「うん! 使えたら便利だから、って」
攻撃技じゃないけど、ダンジョンだと本当に役に立ったからね! パタパタ羽ばたいてる私は、その下で階段を降りてるフロリアさんからこんな事を訊かれる。ポケモンといえば技だから、もしかすると気になってたのかもしれない。だから私は昨日ティルさんから教えてもらった技のうち、使えるようになった三つを教えてあげる。もう一つはまだ完成してないけど、空いてる一枠じゃなくて変化技の方がフロリアさんは興味があったらしかった。
「そうね。…さぁ、ここがアタイらのギルド自慢の訓練所。先客はいるけど、水中の設備が備わってるのはココだけだよ」
「うゎあ、凄い広い! 」
だからあんなに下に降りてたんだね? 話している間に降りきったみたいで、わたしの前の景色が急に開ける。電気が点いてたから眩まなかったけど、わたしはその広さに思わず息を呑んでしまった。多分今いる場所は真ん中ぐらいの高さだと思うけど、天井まで二十メートルぐらいはあると思う。柔道場ぐらいの広さがある空間の真ん中には水が張られていて、その周りがプールサイドみたいになってる。その水の方には大きめの足場が四つぐらい浮いていて、多分そこがメインのバトルフィールドなんだと思う。
「水深も自由に変えれるから、割と自由度の高いのがココの持ち味。注意点さえ守ってくれれば、水中のバトルもし放題ってワケ。こんな好条件の訓練場は、ここ以外に無いとアタイは思うね」
「深さも変えられるの? 」
「ええ! …でもその前に、シオンちゃんは地上と空での基本を身につけてからね」
「はい! 」
「いい返事ね」
何かよく分からないけど、最先端なんだね、きっと。自慢げに話してくれるフロリアさんは、軽く準備体操をしながらプールサイドの方に歩いていく。そのまま助走をつけて跳び、一番近くの足場に跳び移っていた。パッと見白いコンクリートみたいな感じはあるけど、海水浴場に浮いてるアレみたいな感じもある。…だけど外に浮いてないから、藻とか苔は全然なくて結構綺麗。フロリアさんが移った足場は固定されてるみたいだから、波でゆらゆら揺れては無い。そこへ私も飛んでいき、バランスを崩さずに着陸する。
「…さぁ、まずはシオンちゃんのお手並み拝見、といこうかしら? アタイは動かないから、どこからでもかかっきな! 」
「じゃあ…、お願いします! 電光せ…」
バトルはやっぱり、先手必勝だよね? 正面に降りたわたしをみて、フロリアさんは挑発するようにわたしを見る。フロリアさんの種類はどんなポケモンか分からないけど、多分草タイプだと思う。わたしは飛行タイプだから心配だけど、ティルさんみたいに大きくて強そうだから大丈夫そうな気がする。だからわたしは、早速イメージを膨らませながら、一気に加そ…
「…! 」
「…あれ? 出来るようになったはずなのに、何で使えないの? 」
教えてもらった通りにエネルギーを活性化させたけど、何故かスピードが速くならない…。翼を広げて滑空しても、普通に飛んだ時ぐらいのスピードしか出なかった。
「せっ、説明し忘れてたけど、アタイの特性は女王の威厳。あっ、アタイの前では、電光石火みたいな先制技は発動できないのさ。…そんな事よりシオンちゃん、あんた、一度ダンジョンに潜入した、って言ってたわね」
「えっ、言った、けど…」
そんな特性、あったの? …何か凄くビックリしてるけど、わたしって、何かしたのかな…? 発動できなかったから、わたしは重心を右に傾けて旋回する。フロリアさんの前で旋回したから、わたしは説明を聞きながら正面に向き直る。…だけどフロリアさんは何故か取り乱しちゃってたから、わたしは降りながら聞かれるままに頷く事しか出来なかった。
「ならその時、異様に野生が来た、なんてことは無かったかい? 」
「うーん、昨日の海岸の洞窟にしか行った事しかないから分からないけど…、ティルさんが前来た時よりも多かった、って言ってたような…」
わたしでも倒せたから何とかなったけど、ダンジョンってああいうものなんじゃないの? そのままの勢いで訊かれたけど、一回しか入った事が無いから分からない。そもそも違う世界から来てるから、比べようが無いんだけど…。
「やっぱり…。…アタイだけかと思ってたけど、まさか他にいるなんて夢にも思わなかったわね」
「ぅん? 」
わたしの話を聞いたフロリアさんは、何故か腕を組んで考え始める。私には何のことかさっぱり分からなかったけど、フロリアさんはすぐにわたしの方に視線を下げて、真剣な表情で呟いていた。
「…シオンちゃん、一回しか言わないからよく聞いて頂戴」
「うっ、うん…」
「アタイは今抑えてるけど、アタイとシオンちゃんは多分同じ…。シオンちゃんは他の世界か、セレビィの“チカラ”を借りずにここに来たんじゃないかい? 」
「ええっ、なっ、何で分かったの? 」
「シリウスとハク…、このギルドの親方達にしか話した事無いけど、アタイもシオンちゃんと似たようなものなのよ。元々アタイはこの世界の三千百年代の出身…。直前と直後の記憶が抜けてるけど、気付いたら“緑巽の祭壇”という場所で気を失ってたのよ」
「フロリアさんも? 」
わたしとフロリアさんが、一緒? それに記憶が抜けてるって…、わたしと同じ…?
「シリウス達が言うには…、そうらしいわ」
「そう、なんだ…。わたしも“赤兌の祭壇”っていうところで倒れてたみたいなんだけど…」
真剣な顔で話してくれたけど、わたしはその内容に思わず言葉を失ってしまう。何故ならフロリアさんとは違う部分もあったけど、そのほとんどがわたしと同じだったから…。フロリアさんは記憶が抜けてる、って言ってたけど、それは私も同じ。学生証で思い出せたけど自分の事をわすれていたし、今も元の世界の友達とか先輩とか…、色んな人の事を思い出せない。それにキノト君とウォルタさんに見つけてもらったぐらいの事も、ぼんやりしてて思い出しにくい。赤い砂の砂漠、心配そうに訊いてくるキノト君、何かを知ってそうな感じのウォルタさん…、それぐらいしか…。
続く