B7 過去からの増援
[Side Unknown]
「…なので、今回は“刻限”のツェトさんの“時空ホール”を通って来ています。…ですけど聞いた感じでは、それでも誤差が出てるみたいですね」
「うん。シードさんが凄く慌ててたから何となくは想像できたけど…」
まさかあのシードさんでも時間がズレるとは思わなかったね…。
「…成り行きで着いてきちゃったから、僕には何のことが全然分からないんですけど…」
ボクもいまいち状況が呑み込めてないけど、・ッ・君なら仕方ないのかな…。訳が分からないまま今の状況になっているけど、ボク達三にんは今、普通の世界軸にはいない。これまでにあった事を手短に説明すると、ボクは就いていた任務が一段落して、様子を見るついでに知り合いの所に行っていた。そのうちのひとり、・ッ・君に頼まれて、彼に稽古をつけていた。だけど彼の特訓につき合いはじめて三日目の今日…、って今この状態で言えるのかどうかは分からないけど、急に今までにないぐらいに焦ったボクの知り合い…、セレビィのシードさんがボクの元に訊ねてきた。いつもとは違って誰かの“チカラ”を借りてきていたみたいだけど、急を要する事だったらしく説明されないままボク、偶然一緒にいた・ッ・君も彼に連れられて元の時代を去った。
シードさんの事だから最初は“時渡り”だと思ったけど、彼が言うには少し違うらしい。そうせざるを得ない事情があるみたいだけど、彼は“刻限”…、知り合いのディアルガの“チカラ”も借りているって言っていた。それでもシードさんが予定していた日付から誤差が出ていて、彼自身も少し混乱していた…。そんな状態だから、ボクはシードさんに話してもらってようやく、少しだけ分かったような状態。…だから多分、時代を超えるのが初めての、ボクの背中にしがみついている・ッ・君は何が何だか分からない状態、だと思う。
「その事に関しては、ごめんなさい。初めてフ・イさん達を導いてしまった時から気をつけてはいたんですけど…、僕も凄く焦っていて…」
「ううん、シードさん、今回は仕方ないですよ。ボクも今回みたいな事は初めてだけど…」
「今回みたいな? フ・イさん、やっぱり僕には何が起きてるのか全然分からないです…」
「ごめん。・ット君にはちゃんと話さないといけなかったね。会うのは初めてのはずだから、シードさんにも」
「他の時代になら・ン・ースに知り合いはいるんですけど…」
ボクは全然実感ないけど、シルクと・ット君達の種族は元々にんずうが少ないからなぁ…。非常事態とはいえ巻き込んだ事に責任を感じているらしく、シードさんはボクの前でぺこりと頭を下げる。“時渡り”とは違ってシードさんに触れてなくても大丈夫みたいだけど、ボク達の周りに張られている結界? みたいなモノの外に出ると予定外の時代に“渡る”事になって…、最悪の場合記憶も無くなってしまうらしい。…だけどその事は僕は知ってるつもりでいるから、そんな事無いですよ、と頭を下げるシードさんに言ってあげる。けど今回みたいなケースは初めてだから、ボクは続けて彼に問いかけようとした。
だけどその前に、・ン・ースの彼が不思議そうに声をあげる。いつもなら“渡る”前に説明してるけど、今回は事情が違う。なので多分背中の彼は疑問符を頭の上に浮かべているはずだから、ボクは申し訳ないと思いながら彼の問いに答える。
「一言で言うなら、ボク達は今、タイムスリップしてる…」
「たっ、タイムスリップ? タイムスリップって、あのタイムスリップですか? 」
「うん、時代を超える、あのタイムスリップだよ。ボク達…、特にシルクには凄く関係のある事なんだけど、ボク達は今、五千年後の七千年代に向かってるんだよ」
「フライさん、そんな夢みたいな話、本当にできるんですか? …ここは何か凄く綺麗な所ですけど…」
「それが本当なんだよ。ジョウト出身の・ット君なら、セレビィがどんな種族か分かるでしょ? 」
「はっ、はい…。スクールで習った事はありますけど、確か…」
こう説明したら分かってくれるかな? 訊かれたからすぐに答えたけど、常識はずれの事だから当然訊き返される。完全に取り乱した彼に訊き返されたボク…、フライゴンのフライは少ない言葉で彼にこう言ってあげる。ボク自身は何回も七千年代に行った事があるから分かるけど、何も知らない状態ならこの言い方をすれば分かってくれるとは思う。直接的な言葉で言って、前でフワフワ浮いているシードさんを見たから、今度こそ分かってくれたはず…。言葉を選んで話したから、賢い・ット君は自分が持ってる知識と照らし合わしながら考えてくれていた。
「時を超える事が出来る種族、って言われてるんじゃないでしょうか? 」
「はい。ええっと、だから…。…ええっ? って事は、本当に…」
「うん、本当だよ。多分・ット君は知らないと思うけど、シルクにライトとティル君、それから今回はテトラちゃんも行ってるはずだよ」
アーシアさんは戻った、って言った方が正しいのかな? シルクから聞いただけだから、どっちなのかは分からないけど…。
「そっ、そうなんですか? 」
「そうなんです。…ですけどサンダースさん、きみもシルクさん達の事を知ってるみたいですけど…」
「そっか、シードさんは知らなかったんだよね。ボクも初めて知った時はビックリしたんだけど、コット君はシルクの従兄弟です」
「しっ、シルクさんの? シルクさんって、小さい時に両親が亡くなったんじゃなかったんですか? 」
「僕もつい最近までそう思ってました。…それよりも僕はフライさん達の方が気になるんですけど、シードさん? とはいつ知り合ったんですか? 」
「話すと長くなるんだけど…」
シードさんとの事は一言では話しきれないからね…。今のこの状況を理解してくれたサンダース、シルクの従兄弟のコット君は、今度はシードさんの事が気になったらしい。コット君自身も何人かの伝説の種族には会っているけど、シードさんとは初対面だから気になるのも分かる気がする…。出身の地方を代表するような種族っていうのもそうだけど、何しろシードさんは、偶然とはいえボクとシルクが未来の世界と関係を持つきっかけになったひと…。シルクが話したのかどうかは分からないけど、ブラッキーのアーシアさんとも少なからず関係のあるひと。…そういう訳でボクは、目的の時代に着くまでもう少しかかるって事もあって、コット君にシードさんとの出逢いの話をする事にした。
――――
[Side Flay]
「…やっぱり、安定しないですね」
「そう、ですね」
うーん、シードさんがああ言ってたから心配だったけど、やっぱりダメだったかぁ…。コット君にシードさんとの話をした後、僕は大まかに七千年代の事をコット君に説明していた。…だけど全部話しきる前に“渡り”終わったから、全部話しきる事が出来なかった。まだダンジョンの事は全く話せてないけど、これは多分後になっても遅くはないと思う。突入した時に直接話しても遅くないから、僕はここだけの話少しだけホッとしていた。
シードさん…、と“刻限”の“チカラ”で“渡り”終わった僕達は、どこかの海の上に出てきていた。シードさんがどこに降り立つつもりだったのかは分からないけど、この感じだと多分、予定外の場所に出てきてしまったのかもしれない。
「“時現”での移動距離は問題ないと思いますけど…」
「海のど真ん中、ですよね。…フライさん、あまり実感がないんですけど、僕達って七千年代に来れたんですか? 」
「七千年代から直接繋いでもらっているので、大丈夫なはずです。ラスカ諸島には来れていますけど…、ごめんなさい、草の大陸からは外れてしまってるみたいです。詳しくは分からないですけど、どこかの空のダンジョンの突入口、かと…」
「空…? って事はもしかして、“ロードクラウド”ですか? 」
「…だと思います」
「ええっと、空の道、っていう意味ですよね? 」
「多分そうだったと思うよ。…コット君には後で話すつもりだったんだけど、“ロードクラウド”はウルトラレベルのダンジョン。敵のレベルはそれほど高くないんだけど、見ての通り足場が無いからね、それで跳ね上がってるんです。ボクは噂でしか聞いた事が無いんですけど、堕ちたらどこかの海に放り出されるらしいです」
「…何のことかさっぱり分からないですけど…」
続く