肆参 突入のカギ
あらすじ
コークさんの案内で、僕達はソレイルさんが待つ陽界の神殿に案内してもらった。
“会議”以外では初めて会うソレイルさんは、こっちの方でも変わらない感じだった。
そんなソレイルさんから、今回の目的地までの通過点である“陽月の回廊”についていくつか注意点を話してもらう。
一歩間違えると大変な事になるみたいだけど、僕は何故かよく知る友達の事を思い浮かべてしまっていた。
――――
[Side Wolta]
「…次に、“月の次元”への行き方と本題についてだ」
“陽月の回廊”も中々だと思うけど、メインは“月の次元”だからね…。ソレイルさん達から“回廊”の事を話してもらったけど、その危険性に僕は言葉を失ってしまう。今まで何度も危ない目に遭ってきたけど、今回はその中でも上位三位に入るぐらいの危険度だと思う。“光の雲海”も結構危険なダンジョンだったけど、それとはまた別の危険性がある。まだ聴いただけだから体感したわけじゃないけど、“時空の壁”、っていうものが一番厄介な要因だと僕は思う。“陽月の回廊”の空気は僕の“チカラ”で防げるみたいだけど、触れただけでも記憶を失うとなると話は別。それを考えるとキノトには危険すぎる気もするけど、これも経験かな…。
「“月の次元”の様子を見てこればいいんですよね〜? 」
「その通りだ。…本題についてはその通りだが、先に往復の方法から説明するとしよう」
“会議”の時にそう頼まれたからね。話題は次の事に移って、ソレイルさんは仕切り直して、という感じで話始める。大まかな事は“承伝の回廊”で聴いているけど、肝心の行き方までは何も言ってなかった。多分“承伝の回廊”みたいに特殊な方法だとは思うけど、それもまだ分からない。ただ一つ言えてるのが、異世界に行く訳だから普通の方法じゃない…。経験と考古学者としての勘だけど、あながち間違いじゃない気はしている。だから僕は、これから突入するって事もあって、一言も聴き逃さないよう聞き耳を立てる。キノトは、まだ“陽月の回廊”の事で立ち直ってないみたいだけど…。
「コークよ、まずは例のモノを持ってきてくれないか? 」
「あの笛ですね? 」
「そうだ」
「では、すぐに取りに行ってきます」
笛…。…って事は、宝具か何かかな? 話始めたソレイルさんは、一度背後の神殿の入り口に目を向けながら、コークさんに語りかける。一瞬何の事だろう、って思ったけど、すぐに何なのか分かった気がする。話しの内容的に突入する方法を関係がある気がするけど、必ずしもそうとは限らないと思う。頼まれたコークさんは、一度ソレイルさんに確かめてから、奥に見える神殿の方に滑るように飛んでいった。
「…ええっと、ソレイルさん? その笛って、宝具なんですか〜? 」
「宝具…。って事は、ししょーの“真実の証”と一緒ですよね? 」
「まだそうと決まった訳じゃないけど、そうかな〜、って思って」
「その認識で問題ない」
あっ、やっぱりそういう種類の道具だったんだね? コークさんの姿が見えなくなってから、僕はソレイルさんを見上げてこう訊ねてみる。待っている間の時間つぶし、っていう意味でも訊いたけど、この感じだと案外話が進みそうな気がする。キノトのこの頃には立ち直っていたらしく、ウォーグルの姿の僕を見上げてから、ソレイルさんに同じような事を尋ねる。勘が当たっていたらしく、僕達の問いかけにソレイルさんはこくりと頷いてくれた。
「我が輩は“太陽の笛”と呼んでいるが、異界への扉を開くための楽器だ」
扉を開くって事は、鍵みたいになってるのかな? 笛型の。
「楽器? 」
「そうだ。この世界が“六百二十四番目”の世界と、先程伝えたな? 」
「はい。七千年代の六百二十四番目だ、って言ってましたね〜」
「コークに取りに行かせた笛には十の穴が開けれらているのだが、対応する音色を奏でる事で開く事が出来る。…だが“太陽の笛”は、ウォルタ殿は察しているとは思うが、使用者を選ぶ道具だ」
…うん、何となくそんな気はしてたよ。時々僕達が質問しながらだけど、ソレイルさんは淡々とその宝具について話してくれる。“月の次元”に行くための道具っていうのはあってたけど、僕の予想はそこだけしかあってなかった。鍵なのは確かだけど、使い方が楽器らしい、僕は率直にそう感じた。十個の穴ってなると、種族によっては指の本数が足りないと思うけど、そこは後で説明してくれるんだと思う。元のミズゴロウの姿でも足りないけど、今のウォーグルだとそれ以前の問題がある。細かい作業は足と嘴で何とかなってるけど、翼では楽器の演奏は難しい。だから最初、使用者を選ぶ、って言われたらそういう事かなって思ったけど、宝具だから別の理由があるってすぐに気付くことが出来た。
「当事者じゃないと、使う事が出来ないんですよ…」
「いいや、その逆だ」
「ぎゃっ、逆ですか? 」
って事は、伝説の当事者以外じゃないと、効果を発揮しないってことだよね? 僕は当事としての常識を言ったつもりだったけど、その途中でソレイルさんに遮られてしまう。僕にシルク、シャトさんの“証”がそうだから、僕はてっきり適応する人だけが使えるものだと思ってた。だからソレイルさんの一言に、僕は思わず声を荒らげてしまった。僕が宝具に対して固定概念を持ってたからなんだけど、よく考えたらそういう宝具があっても良い気がするけど…。
「ああそうだ」
「…ソレイル氏、お待たせしました」
「来たな? この笛が、例の“太陽の笛”だ」
「これが…? 」
僕の“真実の証”もそうだけど、どの伝承の宝具でも見た目は普通の道具と変わらないんだね? 僕が驚きで声をあげたタイミングで、神殿に笛を取りに行ってたコークさんが戻ってきた。ソレイルさんは背を向けていたけど、多分コークさんの気配で来た事を察したんだと思う。滑空してきたコークさんが持つ笛を右の前足で指しながら、その笛が言っていたモノっていう事を教えてくれた。
ソレイルさんに示されてコークさんの手元を見てみると、一見何の変哲の無い笛が握られていた。全体的に薄めのオレンジ色で、長さは三十センチぐらい。文字通り太陽を模した装飾が施されていて、笛自体の色と合わさって朝日のようなイメージを与えてくる。話が途中になってるけど、僕達側を向いている面には、等間隔で十個の、二センチぐらいの穴が開けられていた。
「“太陽の笛”の話しをされていたのですね? …ウォルタ氏、どこまで話を聴きましたか? 」
「ええっと…、伝説の当事者は“太陽の笛”を使えない、ってところまでです」
「…となると、結構話は進んでいるみたいですね」
「ああ。…話に戻るが、吹き口から見て手前から順に零、一、二…、先端が九の数字対応している。これらの穴を順に三つ、“世界の番号”…、“太陽の次元”ならば六、二、四の順に塞いで吹く事で、その世界へ渡る事が可能だ」
「って事は、塞ぐ穴の番号を変えれば、別の世界に“渡れ”るんですよね〜? 」
「理解が早く、助かる」
番号を変えるだけって事は、Zギアの通話機能と同じかもしれないね? …こっちの諸島に帰ってきてから使ってないけど…。途中からコークさんも参加して、笛の事についての話しをしてくれる。番号と穴が対応してるとなると、この諸島では普及してないけど例の端末の事が思い浮かぶ。まだそうと決まった訳じゃないけど、システム的には似たような部分がある、って率直に感じた。僕は“太陽の笛”を使えないけど、機能に触れた事はあるから何となく説明は出来そうな気はしてきた。
「うーん、ぼくはよく分からないけど…」
「ダイヤル式の南京錠は分かる〜? 」
「はい、結構売ってるから使った事はありますけど…」
「そのダイヤルが音になった、っていう感じだよ〜」
「南京錠…、その例えは思いつきませんでしたね」
「…ですけど、伝説の当事者が使えないなら、どんな風に“月の次元”に行けばいいんですか〜? 戻る時も、同じですけど…」
そもそも、僕が使えないなら“陽月の回廊”にも入れないよね? 僕の例えでキノトも分かってくれたみたいだけど、僕はその瞬間までもっと重要な事を忘れてしまっていた。何で今思い出したのかは分からないけど、僕は“英雄伝説”の当事者で、コークさんも“会議”への出席権がある種族…。ソレイルさんは“チカラ”で突入できるはずだけど、“会議”の時に捜索しないといけない、って言ってたから無理…。だから僕は、根本的な事をソレイルさんに尋ねてみた。
「ここからは我が輩が開け、“月の次元”では向こうの者の協力を仰ぐつもりだったが…、キノト、と言ったな? 」
「えっ? はっ、はい! そうですけど…」
「キノト殿に、“太陽の笛”を貸し与えようと思う」
「ぼっ、ぼくがですか? 」
「あっ、そっか。キノトなら…」
何の伝説にも関わってないから、“太陽の笛”が使えるよね? それが普通だけど…。この感じだと、多分ソレイルさんは“月の次元”の住民? に頼るつもりだったのかもしれない。ここから突入する時は大丈夫だと思うけど、戻る時は僕が説明しないといけなかったんだと思う。…だけどソレイルさんは、ふと何かを思いついたらしい。短く声をあげたかと思うと、今はこの中で一番小さいキノトに視線を落とす。急に話をふったからキノトは驚いてたけど、ソレイルさんの一言で今までにないぐらい声をあげてしまっていた。
だけど僕は、その一言で何故かモヤモヤが晴れた気がした。僕もうっかりしてたけど、この中で唯一、キノトだけは何の伝承にも関わってない一般人。笛を吹く時は少し大変かもしれないけど、三十センチならギリギリ何とかなると思う。
「キノト氏であれば、“笛”が使えますね」
一般の人だから簡単に探せるはずだけど、まさかそこで行き詰まりかけるとは思わなかったなぁー。コークさんも今気づいたらしく、納得したような声をあげていた。
続く