壱壱 考古学者の実力
零・玖
みなさん、こんにちは〜。今回は僕のコースに参加してくれてありがとね〜。
一応確認だけど、このコースは探検隊の見学じゃないけど、大丈夫かな〜?
…うん、大丈夫みたいだねぇ〜。
それじゃあ改めて、このコースの概要を説明するね〜。
このコースは、探検隊以外の視点で、僕達の世界を見てまわる事を目的としてるんだよ〜。
見学場所は…、ええっと、そうだねぇ〜、一つの島に限らず、色んな所を巡るって感じかな〜。
その途中でダンジョンとか遺跡に行く事になるけど、安心して〜。何かあったら、僕が守るから〜。
…それじゃあ、そろそろ行こっか。
まずは、皆さんを水の大陸、ワイワイタウンにお連れしますね〜。
皆さんに、真実の導きが有らんことを願って…。
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…
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壱 考古学者の実力
[Side Wolta]
「ええっと、確かワイワイタウンであってたよね〜? 」
街の中でも一番大きな建物だ、って聴いてるけど、中々見つからないなぁ〜。
ここは水の大陸、ワイワイタウン。大陸の玄関口となってるこの街では、行き交う人々だけでなく、情報も頻繁に出入りしている。僕自身はこの街に来るのは四回目だけど、別の街への中継点としてしか寄った事が無いから、詳しくは分からないけど…。分からないなりに知っていることと言えば、デンリュウが代表を務める、調査団の拠点がある、っていう事ぐらい…。
そんな賑やかな街で一言、右の前足で持つメモを見ながら呟いたのは、ミズゴロウの僕、ウォルタ。ギルド協会公認の考古学者として活動している僕は、ちょっとした用があってこの街を訪れている。どんな用事かは後で言うとして、この街では故郷に帰省している弟子と合流するつもりでもいる。
「確か調査団のギルドだったよね、キノトと合流する前に済まさないとね」
協会からの使いだから、あまり時間はかからないと思うけど…。僕は手元のメモと辺りの景色を視線で往復させながら、その場所を捜索する。地図を買っておけばよかった、そんな思いも心のどこかであるにはあるけど、あったところで大して変わりはないと思う。…というより、職業柄遺跡に潜入する事が多いから、いわゆるマッピング作業は一般の人よりは慣れているつもり。その関係でダンジョンにも単独で潜る事が多いから、自信はある。…隊に依頼せずに潜るのは、僕ともう一人ぐらいしかいないらしいけど…。
『ウォルタ殿、そちらは問題なさそうですな? 』
『あっ、うん。シロの方も、“志”の二人には会えた〜? 』
『左様』
なら良かった〜。っていう事は、残りは“理想”の二人だけだね。理想の峠の方にはいなかったから、見当がつかないけど…。ここで僕の頭の中に、別の誰かの声が響き渡る。その声の主はというと、僕と“心”の大半を共有している彼…。“真実の化身”と言われている、レシラム。僕自身、十七代目の“真実の英雄”として伝説に関わっている。…と言っても、僕の代では今のところそれらしいことは起きてないから、ほぼ地位的なものだけだけど…。そういう訳で僕は、共有している“心”を通して、レシラムのシロと離れていても話す事ができる。他にも色んな出来る事、出来ない事があるけど、またの機会に話す事にするよ。
『チカラは完全には覚醒していないようだが、“加護”を発動させられる段階まできているそうだ』
『そっか。それなら、あと一、二年ぐらいで完全覚醒しそうだね』
僕も三年ぐらいかかったから、逆算するとそのぐらいかな? 僕はシロから教えてもらった情報から、自分の事と照らし合わせながらこう考察する。同じ伝説の当事者の事だから、会ってなくても何となくは見当がつく。僕も二回ぐらい会った事があるけど、彼女は…。
「…っと」
「あっ、ごっ、ごめんなさい」
シロと心で会話していた僕は、辺りへの注意を怠ってしまっていた。そのせいで僕は、通行人の誰かと危うくぶつかりそうになってしまった。体格的には僕の方が小さいけど、向こうの方が驚きで跳び退いてしまっていた。その彼に僕…。
「しっ、シルク…? 」
僕がぶつかりそうになったのは、薄手の白い服を羽織ったエーフィ…。驚いて取り乱している姿が、二千年代の親友にして師匠である彼女と重なってしまう。だから僕は、思わずその彼女の名前を口走ってしまった。
「んーと、ひと違いとちゃうかな? 」
「そっ、そうですよね〜。ごめんなさい、僕の知り合いにもエーフィがいて、似ていたから…」
「ううん、気にせんといて。世界には自分のそっくりさんが、三人おるって言われとるみたいやしね」
そうだよね〜。その彼女がこっちの時代に来ているなら、僕が知らないはずがない。案の定僕の思い違いで、このエーフィさんは僕の親友ではなかった。そもそもこのエーフィさんは男の人で、性別が違う。証である水色のスカーフも身につけてないし、同色のアクセサリーも着けていない。だから僕は、その彼にぺこりと謝る。そこ彼はちょっと訛りがキツイけど、気さくに答えてくれた。どんな人かは分からないけど、悪い人ではなさそう、これが、僕の彼に対する第一印象、かな?
「ですよね」
「せやな。…おおっと、すまんけど、この後急用があるで、そろそろ行かせてもらうで? 」
「あっ、はい。時間をとらせてしまって、ごめんなさい」
「気にせんといて! もし良かったら、僕の友達がこの街で商いをしとるで、寄ったってな! ジャランゴが経営しとるで」
この後で用事があるなら、悪いことしちゃったかなぁ…。軽い笑みを浮かべる彼は、ここで何かを思い出したらしい。ほんの少し焦ったような感じで、港がある東の方にチラチラと目を向けていた。申し訳ない事をしちゃったからすぐに謝ったけど、彼はううん、っていう感じで首を横にふる。その代わりに、とでも言いたそうに、知り合いの店を紹介…。後ろめたいことがある手前、済んだら寄ってみようかなぁ…、僕はこう思った。
「その時は、寄らせてもらいますね〜」
「うん。そんじゃあ、またどこかで」
その彼は数歩そっちの方に向けて歩き、すぐに僕の方に振りかえる。右の前足を上げて、会釈する。そのまま彼は服の裾を靡かせて、ラプラス便のある港の方へと駆けていった。
「エーフィさんの知り合いの店、かぁ〜。後で行ってみようかな。…その前に、協会からのお使いを済まさないとね」
ひとまず、これを終わらさないとね。キノトも待たないといけないし。エーフィさんの後姿を見届けてから、僕も目的地へと急ぐ…。とはいったものの、そこまでこの街の地理を知っているわけじゃない。隣町のアクトアタウンなら、親友が親方をやってるギルドがあるから知ってるけど…。
「とりあえず…、ええっと、すみません、ちょっといいかな〜? 」
結局どこにあるのか分からないから、訊いた方が早いかな? こう言う結論に至った僕は、一番近くにいた二人組に声をかけた。地元の人かどうかは分からないけど、もし違っても、その時はその時…。場所が分からない今は、少しでも情報を仕入れることが先決。例え違っても、それが何かしらのヒントになる事だってある。
「ん、わたしたちの事? 」
目の前にいたって事もあって、二人のうち、アシマリの彼女が僕の呼びかけに気がついてくれた。
「うん。この街に調査団のギルドがあるって聞いたんだけど、どこにあるのか教えてもらっても、いいかな〜? 」
「俺は構わないよ。…ってか、俺達が所属してる団だから」
「えっ、きっ、きみ達が? 」
うっ、嘘でしょ? こんな偶然って、あるの? 僕が偶々話しかけたのは、ニャビーの彼曰く、まさかの二人組…。例の調査団の、団員だった。見た感じでは僕よりも年下だとは思うけど、それでも結構若い方、だと思う。ベリーが探検隊になったのは十三の時だけど、多分この二人は、それよりも小さいと思う。まさかの事に驚く僕に対し、全く動じることなく答えてくれた。
「うん! わたし達、まだ半年しか経ってない見習いだけど、きみも入隊しに来たの? 」
「ううん、協会からの使いでね、クチートのアイナさんに用があってね」
それと伝説の関係で、個人的にジラーチさんと会ってみたいから、かな? それに半年って事は、まだ駆け出しなのかな?
「協会? 」
「うん、探検隊協会。僕も考古学者でね、その関係かな〜」
何か勧誘されそうになったけど、ひとまず僕は、手短に用件だけを彼女達に伝える。だけど僕の説明不足なのか、二人は頭上に疑問符を浮かべ、こくりと首を傾げる…。流石にこれだけでは伝わらなかったかなぁ、って思った僕は、もう少し詳しく自分の事を伝える。ここでようやく僕の役職が分かったらしく…。
「考古学者? 俺達と殆ど変らない、子供なのに? 悪いけど、俺は目で見たものしか信じないタイプでね、進化もしてないのにアイナさんと同じ考古学者だなんて…、信じられないね」
…、ちょっとその言い方、凄くイラッときたんだけど…。表情的にアシマリの彼女は分かってくれたみたいだけど、ニャビーの彼はそうじゃなかった。それどころか、僕の事を見た目で判断された…。これまで色んな事があったけど、そのうちの何と比べても、外見だけで判断されるのは大嫌いだ…。この世界で進化しているって事は、相手に自分の大まかな年齢を伝える最も簡単な手段…。そうとは分かっているけど、それだけは譲れない。
…だけどこうして自分から訊ねた、年上である手前、感情的になるのは大人げないと思う。本当ははらわたが煮えくり返ってはいるけど、それを無理やり抑え、何とか平生を装う。口元を若干引きつらせながら…。
「それなら、確かめてみる? きみが思う真実と、実際の僕の真実を…」
静かな炎を燃やし、彼に提案する。
「おぅ、やってやるよ! これでも俺達は、ダンジョンに潜って鍛えてるんだ」
「なら話しが早いね。…折角だから、アシマリのきみも同時にかかってきてよ」
「えっ、わたしも? 一対二になるけど、いいの? 」
「寧ろ、その方がハンデになるかな〜」
「そこまで言うなら、やってやるよ! レーヌ! 」
「うっ、うん…」
「火の粉! 」
この子、感情的になりやすいタイプかな…? 売り言葉に買い言葉って言う感じで、彼は僕の挑戦に乗る。相方の彼女に呼びかけるなり、すぐに一歩跳び下がる。そのまま彼は口元にエネルギーを蓄え、炎の粒として僕に撃ちだしてくる。だけど…。
「なるほどね」
仮にチカラで強化されていなくても、僕には止まって見えていたと思う。弟子のキノトにも言えている事だけど、この一発を見た感じでは、彼は初心者が陥りやすい罠にはまっていると思う。威力だけを最優先にして、技の性質と狙いを疎かにしている…。彼の場合、広範囲じゃなくて、僕がいる一点、正面を狙って放ってきている。なので簡単に、右に跳んでかわす事ができた。
「外れた? 」
「狙いが甘いよ〜」
「それなら、レーヌ、あれいくぞ! 」
「うっ、うん」
「炎の牙! 」
「アクアジェット」
連携技、かぁ。技が外れたから、今度は僕を挟み込む様に彼は移動する。彼は相方に声をかけ、手短に意思疎通する。発案者の彼が先陣を切り、小さな牙に炎を纏わせながら僕に向かってくる。直接目では確認してないけど、アシマリの彼女も、水を身に纏って僕との距離を詰めてくる。この感じだと、多分二人の技はほぼ同時に命中すると思う。狙いは、悪くない。
「いい連携だね。…だけど、それだけで倒せるほど、僕は弱くないよ〜」
「なっ…」
「えっ…、きゃぁッ! 」
「っく…! 」
だけどこの程度なら、簡単にかわすことができる。四肢に力を込め、すぐに解放。そうする事で真上に跳び、三次元的に回避する。その途中で彼の頭を踏み台にし、バック宙の要領で彼女の方も飛び越す。そのせいで対象を失った彼らは、自身のパートナーに技を命中させてしまった。
「正面からは、ダンジョン以外ではあまり攻めない方がいと思うよ〜。ハイドロポンプ〜! 」
背中が地面と平行になった辺りからエネルギーを溜め始め、前足と後ろ足、両方が地面に着いてから水の属性に変換する。
「うっ、嘘だろ? 」
「きっ、消え…、…えっ? 」
その状態で喉に力を込め、ブレスとして解き放つ。だけど僕が狙ったのは、彼らの背中じゃなくて、蒼く広がる空…。ほんの少しだけしか溜めてないけど、耐えられる保証は無いから、わざと真上を向いて撃ちだした。
「…どう? 僕の実力、解ってもらえたかなぁ〜」
「本当、だったのかよ…」
僕の水柱を目の当たりにしたニャビーの彼は、へなへなと腰を抜かしてしまった。これでようやく分かってもらえたらしく、こんな感じで呟いていた。
続く