参参 太陽からの調査依頼
あらすじ
“承伝の回廊”に立ち入った僕達は、“会議”が始まるまでエムリットのアルタイルさんと話し込んでいた。
予定通りの時間に“会議”が始まったけど、臨時で開かれているから、“虹”が言うには集まりはかなり悪かったらしい。
それでも“太陽”の宣言で始まり、その人の口から事態の重大さを伝えられる。
説明を交えながらも話は進み、ひとまずは解散となる。
その直前に僕達と“太陽”は“虹”に呼び止められ、“会議”が終わってからも暫く残る事になった。
――――
[Side Wolta]
「…“真実”、何か呼ばれ…」
「ヴィレーさん、もう“会議”は終わったから、名前で呼んでもいいですよ〜」
「あぁはい。指名されてましたけど、何かあったのでしょうか? 」
「それは拙者にも分からないですな」
だよね。“太陽”も一緒に呼ばれてたから、今回の議題に関係する事だとは思うけど…。“会議”には七つの地位しか出席してなかったけど、ひとまずは閉会した。分からない言葉が多かったけど、いつもの事だからシロに“心”で訊きながら参加していた。今回の議題は千三百年…、五千七百年代以来みたいだったけど、その事態の重さが分からないなりに何となく分かった気がする。最近異世界から侵入した、って言われるとシオンさんの事が気になるけど、多分彼女は“空現”だけじゃなくて“時現”も超えてるから違うと思う。だけど少しは関係がありそう、シロにしか伝わってないと思うけど、今回の“会議”で僕はそう感じた。
「…それにしても、“虹”…、アークが拙者等を呼び止めるとは、珍しいですな」
「だよね〜」
「我が輩が言える事ではないが、アークよ、公には言えない事情があるようだな? 」
「如何にも」
“会議”の時に言わなかったぐらいだから、何かマズイ事でもあるのかな? “虹”に指名されていない“志”、シャトさんとヴィレーさんも残ってるけど、シロはその人の方に目を向けながら呟く。この時には緊張を解いていて、シロは普通に砕けた話し方に戻っていた。僕は名前と種族を知らないけど、“太陽”のこの人も僕達と似たような事を思っていたらしい。言い出しっぺの“虹”、ホウオウのアークさんにこう問いかけていた。
「ウォルタくん、この人は? 」
「“会議”の時は“虹”って呼ばれてたホウオウのアークさん。何でかは分からないけど、シロが昔から仲がいいみたいでね、それで普段から良くしてもらってるんだよ〜」
「七十代ほど前の“絆”に、“常席員”になる前の“炎”が救われたらしく、アーク自身も助けられたそうだ」
「五千年ほど前になるが、貴女等には世話になったからな。その代の“絆の守護者”が拙者に弟子入りして以来、代々気にかけているという訳だ」
初めて聴いたけど、五千年前の“絆”といえば、シルク…。“炎”は確かエンテイで、ライトさんが左目を失った時に戦ったのもエンテイ、って言ってた。そんな偶然は無いと思うけど、何かあったのかもしれないね。シャトさんが僕に問いかけてきたから、すぐにアークさんの事を教えてあげる。五千年前のアークさんと“炎”に何があったのかは調べれてないけど、アークさんの話に何故か聞き覚えがあるような気がした。その話と今日…、なのかな? “承伝の回廊”は時間の流れが違うから分からないけど、僕の感覚では何時間か前に聴いた話といくつか同じ部分があった。
「拙者もアーク殿からしか聴いてない故、詳しくは存じてないですがな」
「我が輩も把握してないが、相当の恩があるようだ。…さてアークよ、本題に入ると
しようか」
「ですな」
「うん。同じ伝承だから気になるけど、話が逸れてましたからね〜」
そもそもシロって、覚醒するのって“英雄”に依存してるからなぁー。レシラムのシロは例外だけど、不老不死のアークさんは懐かしそうにその時の事を思い出していた。“太陽”のこの人は前に聴いた事があるような感じだったけど、“覚醒期”と“転生期”を何回も繰り返して生きてきているから、少し忘れてしまってるのかもしれない。けど大体の事は記憶しているみたいで、シルエットだけしか見えないけどこくりと頷いているような気がする。そしてその人はズレていた話題を戻し、アークさんに多分目を向けながらこの場を仕切り直してくれた。
「…急を要する事態だ。議題に出た“月の次元”と“月”の件、ウォルタ殿に頼んでみてはどうだ? 」
「ぼっ、僕がですか〜? 」
「然り」
「我が輩自身が探るのが賢明だが…、生憎のこの事態。我が輩は“月の次元”より侵入した輩の捜索に徹せねばならん故、アークに賛成だ」
つっ、“月の次元”って事は、僕が“空現”を越える、ってことになるよね? アルタイルさんが“会議”中に訊いてくれたから分かったけど、僕はあまりの事に素っ頓狂な声をあげてしまった。僕が聴いた事が正しければ、“陽月の間”っていう所を通って、侵入者みたいに別の世界に行く事になる。僕達がいる場所とは別の世界がある事は知ってたけど、まさか僕自身が立ち入る可能性があるなんて夢にも思わなかった。
どういう伝承とか“チカラ”があるのかは分からないけど、この議題を話すために召集しているから、少なくとも“太陽”のこの人は“空現”を越える事が出来るんだと思う。“会議”を聞いた感じだと“空間”にも出来そうな感じだったけど、アークさんが呼ばなかったから、少し違うのかもしれない。この人はどんな風に考えてるのか…、“読心術”を使えるシャトさんは既に読んでるのかもしれないけど、僕には分からない。けど分からないなりに何となく事情は分かってるつもりだから、この人がアークさんの提案に乗った理由が分かったような気がした。何で僕なのかがさっぱり分からないけど…。
「…しかし何故“真実”の彼なのだ? 」
「拙者も気になりますな」
「つい昨日思い出した事だが、十八代目の“絆の従者”に、七千年代で何かが起きたら十七代目の“真実の英雄”を頼ればいい、と言われていてな。拙者もウォルタ殿を深く知るが故、そう思ったという訳だ」
「“絆”の十八代目…、我が輩の記憶が正しければ、確か“真実”の八代目の頃だったか…」
「然り」
きっ、“絆”の十八代目って…、絶対にそうだよね? “太陽”この人も僕と似たようなことを思ったらしく、アークさんに多分首を傾げながら問いかける。シロも気になっていたみたいで、その人に続く。するとアークさんはすぐに話してくれて、そう思った経緯を細かく伝えてくれた。だけどそれは予想外の…、あり得ないって思って事だから、僕は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。最初は聴き間違いかと思ったけど、“太陽”のこの人も同じことを言ったから、そうじゃなかった。それに十八代目の“絆の従者”の事を、弟子の僕が間違える筈がない。彼女達とは偶然に偶然が重なって…、そもそも今の僕は彼女達がいないと存在してないけど、運命的な出逢いをしている。常識的に考えるとあり得ない事だけど、これが僕にとっての“真実”。それに“星の停止事件”が一段落してから聴いた話だけど、“時”が言うには、僕と“絆の従者”の彼女が出逢ったのは偶然じゃなくて必然だったらしい。もし偶然だったら彼女達にとっての未来が変わっていて、“タイムパラドックス”で僕達の七千年代、ラテ君の五千百年代、シリウスの三千百年代も、全部消滅してしまう。だけどちゃんと存在しているから、…。…話を元に戻すと、アークさんの話しで、僕の中にあった断片的な史実が繋がったような気がした。
「“真実の英雄”としての“チカラ”の全てが覚醒し、“真実の加護”の発動が可能なウォルタ殿であれば、“陽月の回廊”を害無く通過できる。万一不測の事態が起きようとも、ウォルタ殿の実力であれば対処可能、そう感じた次第だ」
「ぼっ、僕はまだ師匠の足元にも届いてないのに…。でっ、でも、“真実”の名を冠する以上は…」
“陽月の回廊”は危険、みたいな話し方をしてたけど…。だけど、アークさんが言うなら、僕の“チカラ”で何とかなるのかな…? 分からないけど、頼ってもらえてるから…。
「僕で良かったら、引き受けます! 」
その頼み、引き受けてみよう! アークさんは僕の事を良く見すぎな気もするけど、僕は評価してくれていることが凄く嬉しかった。今の僕はまだ師匠の彼女には追いついてない、そう思ってるけど、彼女と面識があるのかもしれないアークさんがそう言ってくれているから、頑張ってみよう、そうも思えてきた。だから僕は、いきなり重大な事を頼まれて動揺したけど、アークさんの頼みに大きく頷く。自分に言い聞かせるためにも、僕は大きな声で返事した。
「“真実の英雄”のウォルタと言ったか…、汝の決意、感謝する。急を要する事態だ、明くる日の出、二時間後に使いの者を向かわせる。その者と共に我が元に出向いて頂きたい」
「“太陽”…」
「すまない、“半常席員”の汝には名乗ってなかったな。我が輩は“太陽の統治者”、ソルガレオのソレイル。以後お見知り頂きたい」
「はい! …ソレイルさん、明日の朝、僕はどこで待っていればいいんですか〜? 」
「我が輩の一存だ、汝の飛び発ち易い地点で構わない。詳細は当日、我が輩から直接伝えるとしよう」
「“陽月の回廊”では何が起きても不思議ではない。ウォルタ殿、ダンジョンではないが万全の態勢で挑んでもらいたい」
「回復用具さえあれば、問題ないでしょうな」
ダンジョンじゃないなら、それさえあれば大丈夫そうだね。事態が事態だから何となくそんな気はしてたけど、明日の朝ならすごくありがたい。一日あれば十分に物資を揃えられるし、キノトとか皆、探検隊協会にも事情を話しに行くことが出来る。それに待ってる場所がどこでも良いなら、時間さえ間違えなければどうにでもなる。“太陽の統治者”…、ソルガレオのソレイルさんの気遣いに感謝しつつ、僕はもう一度大きく頷いた。
「それさえあれば十分だ。…では、その吉日に」
「はい! 」
これで要件が全部済んだらしく、ホウオウのアークさん、ソレイルさんも、順番に“承伝の回廊”から退出していった。
続く