参弐 伝説の集い
あらすじ
キノトやライトさん達と別れた僕は、シロとの待ち合わせ場所である磯の洞窟近くの岬に向かった。
そこで“志”のシャトレアさんとヴィレーさんと合流し、彼女達にいくつかの注意点を説明してあげる。
話している間に時間が来たから、僕達四人は“会議”が開かれる“承伝の回廊”に足を踏み入れた。
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[Side Wolta]
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「うゎぁ、凄い! ここがそうなんだね! 」
「そうだよ〜」
「…ですけど、某はあまり…」
「ヴィレー殿も、回数を重ねればすぐに慣れますよ」
そうだね。ここってもの凄く特殊だから、初めてだと不思議な感じがするよね? シロの“チカラ”で“承伝の回廊”に立ち入ると、真っ先にシャトさんが歓喜に似た声をあげる。ヴィレーさんは少し落ち着きがないような感じがするけど、シャトさんの方が異例なぐらいで、ヴィレーさんの反応の方が普通だと思う。僕はもう慣れてるから何とも思わないけど、“承伝の回廊”には足場と言えるものが無く、空間だけが存在しているような感じ。壁らしい壁もなくて、サイコキネシスとかで浮かされている時と似たような感じ。僕もこの空間が何なのかまだ分かりきってない事が多いけど、シロが言うには普段いる所からは少しズレた場所にあるらしい。
「…その声は、ウォルタ君ね? 」
「あっ、はい、そうです〜」
「久しぶりね。ラテ君達は元気してるかしら? 」
「しばらく会えてないですけど、元気でやってると思いますよ〜」
「ウォルタ君、向こうの人と知り合いなの? 」
「あら、あんたは初めましてね。その感じだと…、エネコロロといったところかしら? 」
「話すと長くなるが、ウォルタ殿とアルタイル殿は以前から話す関係ですからな」
と、僕達が出席したのに気付いたらしく、先にいた誰かが僕に遠くから話しかけてくる。人影もまだ疎らだから、その人は僕の事を名前で呼んでくれた。入った場所が違うはずだから黒いシルエットでしか見えないけど、この人とは色々あって僕はよく知っている。種族的な見た目が似ている人が三人いるけど、この勝気な感じの喋り方から、僕はその人だと判断する。気軽に話しかけてきた彼女? は、“感情”のアルタイルさん。四年ぐらい前、“星の停止事件”の時に知り合って、その後も色々と教えてもらったりしていた関係。向こうからも僕達の事はシルエットでしか見えてないはずだから、シャトさんの事をこう訊ねてきた。
「そうだね〜。“志の賢者”のシャトレアさんと、“志の守護者”のヴィレーさん。首元に赤いスカーフが巻いてあるのが見えるでしょ〜? そして、エムリット…、“感情”のアルタイルさん」
「へぇー、エムリットっていう種族なんだね! 」
「ええそうよ。あんたらと同じ“非常席員”だけど、よろしく頼むわね」
「はい、よろしくお願いします」
「…と、そろそろ始まるみたいだから、また後で話しましょ」
「そのようですな」
みたいだね。シルエットだけしか見えないって言っても、一応例外もあるにはる。それは僕達、伝説の種族以外の当事者が身につけている、“証”。の“証”だけは、立ち入った場所が違っても認識する事が出来る。今の僕はウォーグルの姿で出席してるけど、僕とかシャトさんみたいに姿を変える“チカラ”を持つ地位があるから、そうなってるんだと思う。だから多分、アルタイルさんは僕の事を白いスカーフ、“真実の証”で、シャトさんの事は赤いスカーフ、“志の証”でも判別していると思う。…とそうこうしている間にある程度集まったみたいだから、アルタイルさんは適当なところで話を切り上げていた。
「…臨時であるが故、やはり集まりは悪いか」
「…だが定刻が来たので、始めるとしようか。…皆の者、我が輩の一存で集まり頂いた事を感謝する。“非常席員”の為にも名乗るが、我が輩が招集をかけた“太陽”だ」
「…ねぇ、さっきから言ってる“非常席員”って何なの? 」
「それ、某も気になりますね」
「一言でいうなら、世代交代する地位、って事だよ〜」
「…しかし臨時で呼びかけるぐらいだ、よっぽどの理由があるようだな? 」
「“虹”の述べる通りだ。…急を要する、事態だ。結論から述べるなら、何者かが無理やり“陽月の間”を突破し、我々の“太陽の次元”に侵入した」
「なっ…。“太陽”! “月の次元”はどうなっている! 」
「我が輩も向こうの“月”との接触を試みたが…、“空間”よ、汝も察しているだろうが、不可能だった」
「…だが拙者の記憶が正しければ、向こうの“月”は“転生期”を終え、“覚醒期”に入っているはずだが…」
「すまないが、そこ我が輩にも分からない」
「となれば、“月”の身に何かが起きた、と考えるのが自然でしょうな」
「“真実”の考えも一理あるな」
「…ええっと、水を差す用だけど、一ついいかしら? 」
「ん、“感情”よ、汝は…」
「“非常席員”の私達が知らない言葉があったから、説明頼んでも、いいかしら? 」
「僕も“陽月の間”とかが分からなかったから、お願いします〜」
「そうだったな。前回“空現”の議題が出たのは、千三百年前だったな。“陽月の間”は“空現”の一種。拙者達の住む“太陽の次元”と対となる世界、“月の次元”とを結ぶ回廊だ」
「“時”から事情は聴いているが、“真実”が知る言葉で示すとすれば、“時空ホール”、“時の回廊”と直交する“空現”の一種だ」
「“空間”の言葉に補足するが、“時空ホール”や“時の回廊”は“時現”、その“世界空間”を表し、“空現”は“時代空間”を表している」
「う〜ん、それでもよく分からないけど…」
『ウォルタ殿の身近であれば、ウォルタ殿とシルク殿が同じ“世界空間”、“時現”の出身、シルク殿とシオン殿が同じ“時代空間”、“空現”の出身という事になりますな』
『それなら…、何となく分かった気がするよ〜』
「…どうだ、これでご理解頂けただろうか? 」
「ええ、助かったわ。“虹”と“空間”の説明で、何となく分かったわ」
「…であれば、本題に戻すとしよう。…先述の“月の次元”者が、今朝頃“太陽の次元”へ侵入した。“月”から無理に“陽月の間”へ侵入した輩だ、欠席した各員への通告を含め、十分に警戒して頂きたい」
「…でしたら、この事を探検隊協会の方に伝えておいた方がいいですか〜? そうすれば、捜索はしやすくなると思いますから〜」
「では“真実”、汝等の方ま任せた」
「はい! …じゃあ、“志”は保安協会への報告は任せたよ〜」
「えっ? うっ、うん! 」
「今回の“会議”は以上だ」
「…だが、“太陽”、“真実”は“虹”の拙者と共に残ってもらいたい」
「御意」
「ぼっ、僕もですか? …はい! 」
「…では、これにて閉会とする」
続く