参壱 真実への志
[Side Wolta]
「時間的に際どいけど、ギリギリかな〜」
陽が沈みそうだけど、このスピードで飛べば何とかなりそうだね。キノトとシオンさん、ライトさん達と別れた僕は、目的地に向けて力いっぱい羽ばたく。シロから突然知らされて入った予定だけど、目的地…、というより合流する人物が見えてきたから、ひとまず一安心。磯の洞窟近くの岬に大きくて白い陰が見えてきたから、僕はより一層羽ばたくスピードを早める。
「…シロ〜、お待たせ〜! 」
“心”を通しても伝わるけど、声が届く距離まで来れたから、僕は敢えて喉に力を込めて大声で呼びかける。夕日に向かって飛んでるから、眩しさで思わず目を細めちゃったけど…。
「…ウォルタ殿、来ましたな」
「あっ、ウォルタくん、ひっさしぶりー! 今日はウォーグルの姿で来たんだね? 」
「久しぶりだね」
うん。シロとは会ったばかりだと思うけど、僕は一か月ぐらいになるかな〜? 一番大きくて白い彼、レシラムのシロがすぐに答えてくれる。三メートル以上ある彼は僕の方に振り向き、右の翼を上げて会釈してくれる。夕日で色づいて朱く見えるけど、周りの景色と調和しててどこか風情があるような気がする…。その足元では、ハク以上に弾けた声、いつも元気なエネコロロの彼女と、ぎこちない敬語のテラキオンの彼が出迎えてくれた。
「うん、そうだね〜」
「ウォルタくん、シロくんから聴いたよー! 何か凄いとこに連れてってくれるんだよね? 」
「某は初めてですから、少し緊張してますよ」
「あはは…、あそこは中々慣れれる所じゃないからね〜」
もう何回も行ってるけど、空気とか雰囲気が独特過ぎて今でも畏縮しちゃうからなぁ…。エネコロロの彼女、“志の賢者”のシャトレアさんは本当に楽しみにしていたらしく、待ちきれないよ! とでも言いたそうに声をあげる。ここまでテンションが高いとベリーを思い出すけど、彼女とはまた違った明るさが彼女にあると思う。僕が地上に降りて翼をたたんだタイミングで駆け寄ってきてくれて、前足をぶんぶん振って握手しそうな勢いで、好奇心とかが溢れてるような気がした。
そんなシャトレア…、シャトさんに少しひいてるのかもしれないけど、テラキオンのヴィレーは控えめに声をかけてくれる。彼はシャトさんとは真逆で、どこか強張ってるような…、そんな気がする。“心”を読めるシャトさんにはバレバレだと思うけど、その“チカラ”が無い僕にでさえガチガチなのが伝わってきてる。…これから会うことになる人達のことを考えると、無理はない気もするけど…。
「そうですな。当事者以外には行きつけない、“聖域”ですからな」
「“聖域”…、聴いただけでもワクワクするよ! 」
「だね。集まる全員が伝説の当事者だからね。伝説の種族が一番集まる場所だと思うよ〜」
毎回人数はバラバラだけど、そこそこ集まるしね。シロの言う通り、その場所は“聖域”に相応しい場所だと僕は思う。伝説の種族といないと辿りつけない場所だし、そもそも伝説の当事者以外には知られていない。ダンジョンに例えるなら、時限の塔とか光の雲海みたいな、幻のダンジョンって言っても過言じゃないかもしれない。
「某そう聴いています。某もテラキオンですからね、少しでも早く慣れたいですよ」
「ヴィレーさん、そんなに気合いを入れなくても大丈夫だよ〜。…ええっと、陽も沈んだから、そろそろ説明しておいた方がいいね〜」
「そのようですな」
空が朱くなってから陽が沈むまではあっという間だからね、流石にもう言っておいた方が良いよね? そうこうしている間に太陽が水平線に飛び込んでいったから、僕は適当なタイミングで本題を投げかける。丁度話も途切れたから、ピッタリのタイミングだったのかもしれない。…ただヴィレーさんは気合が空回りしてるような気がするから、肩の力を抜くことを勧めてあげる。ヴィレーさんの方が三つ年上だけど、シャトさんと“心”を共有してるからかな? 溌剌な気風が少しだけあるとは思う。
「これから僕達が入る場所“承伝の回廊”は、僕達がいる場所とは少しズレた空間にある」
「ズレた場所? 」
「そうだ。よく知られている場所で言うなら、幻の大地と類似した空間にある、といったところでしょうな」
「そうかもしれないね〜」
「特殊な空間故に、拙者でさえ行動に制約がかかる」
「制約、ですか? 」
「うん。上手く言葉に出来ないけど、意識だけそっちに行くような感じだからね〜、喋ったり聴いたりは出来るんだけど、身動きはとれなくなるんだよ〜」
あの感覚、未だに慣れないからなぁ…。
「意識だけ? 面白そうじゃん! 」
「その例えが最も分かりやすいでしょうな。そして拙者からも一つ…。“承伝の回廊”…、“伝下統領会議”が始まってからは、互いの事を“地位名”で呼ぶことになる」
「僕とシロはまとめて“真実”、シャトさんとヴィレーさんは“志”って呼ばれることになるよ〜」
シャトさん達を入れて何人かは直接会った事があるけど、これも慣れるまで結構かかったからなぁー。何度も出席した事がある僕とシロは、交互に補足しながらシャトさんに説明していく。これといって注意することは無いような気もするけど、厳粛な場所で暗黙のルールもあるから、それも交えて教えてあげた。
「…あっ、そうそう。さっき特殊な空間だ、って言ったけど、同じ入り口…、僕達なら磯の洞窟の岬かな〜。同じ入り口以外から入った人はシルエットしか見えないから、気をつけてね〜」
「“会議”が設けられた当初、拙者はクロ殿をよく間違われましたからな」
「だってレシラムとゼクロムって、大きさとか外見、似てるしね〜。…ゼクロムは本でしか見た事無いけど」
シルク達の時代は覚醒してたみたいだけど、僕達の七千年代はしてないからなぁー。僕はふとある事を思い出し、短く声をあげてからこう付け加える。僕も初めて出席した時にビックリした事だから、補足みたいな感じで付け加えておく。多分これが一番現実離れしてる事だと思うから、初めて出席するシャトさんも多分そうなるはず。…だから出席し慣れた立場として、僕は彼女達に教えてあげた。
「って事は、影しか見えないんだね? 」
「そんな感じかな〜? …じゃあシロ、そろそろ準備しよっか〜」
「そうですな」
他にも細々としたことがあるけど、時間も迫ってるから、これだけ話せば十分かな。大雑把な説明で分かってくれたのか、それとも僕かシロの“心”の声を聴いたからなのか…、どっちかは分からないけど、シャトさんはそうなんだー、っていう感じで頷いてくれる。分かった、っていうよりは楽しみ、っていう方が強いかもしれないけど、分かってくれたなら大して気にしなくても良いかもしれない。パッと見た感じだとヴィレーさんも理解してくれているみたいだから、とりあえず一安心。
そうこうしている間に日没からそこそこ時間が経ったから、僕はシロの方を見上げ、こう話を持ちかける。準備といっても大したことはしないけど、一応公的? な場だから、気持ちを切り替えるためにも…。会議というよりは遠足、っていう気分でいるらしいシャトさんはある意味未知数だけど、一歩下がっているヴィレーさんなら、彼女を何とかしてくれると思う。シロもすぐに応じてくれたから、僕は右の翼で彼女達を手招きし…。
「シャトさんにヴィレーさんも〜」
「うん! 」
「あっ、はい! 」
僕…、というよりシロの近くに集まってもらう。そして…。
「では、参ろうか。…! 」
全員いる事を確認してから、シロは何かの“チカラ”を発動させる。すると僕達を白い光が包み込み、すぐに収縮する。そこから暗い空に向けて、一筋の光が一瞬のうちに駆け抜ける。まばたきをするかしないかの短い時間でそれは消え、その場は始めから何も無かったかのような静寂に包まれた。
続く