弐肆 船上での再会
あらすじ
一夜明け、パラムタウンを出発したぼく達は、船で一度水の大陸のワイワイタウンに向かうことになった。
船の中でいろんな事を話していたけど、ししょーの勧めで船の甲板に出ることになる。
ぼくはいまいち納得できなかったけど、シオンちゃんに説得され、とりあえずは同意する。
それで外に出る途中、シオンちゃんと文字を教え合う約束をし、出た先でぼくが会ってみたかった人と偶然出くわした。
――――
[Side Wolta]
「…それで、何とか解放できた、…って感じかな」
「なるほどね〜。…って事は、ライトさんはシルク達の指示で動いてたんだね? 」
「出張みたいな感じだけど…、組織の中ではシルクの方が上だからなー、そうなるね」
へぇー。…だけど、伝説の種族も無理やり従わせるって…、この時代だと重罪だよね? キノトとシオンさんには席を外してもらったから、僕はライトさんに、事件の事を深く訊いていた。ライトさん達にとってはただの事件かもしれないけど、七千年代出身の僕達にとっては歴史的な大事件…。それも考古学者の僕でさえ知らなかった史実だから、尚更…。“真実”の名を呈してる身としては、埋もれていた歴史を発掘できそう、そういう思いが強いけど…。
「出張、かぁ〜。…ちょっと話が変わるんだけど、ライトさん? その焼かれた左目の具合はどうなの〜? 」
「左目? 」
歴史もそうだけど、やっぱり、ライトさんの目の方も気になるよ…。一通りエンテイ関係の事を教えてもらったから、僕は持っていたペンを下に置き、話題を変える。ノートをパタン、って閉じながら焼かれた患部を見、直接その事を尋ねる。…歴史の方はキノト達がいる前で訊いても良かったんだけど、目の事も訊きたかったから、こうしている。まだ経験も浅いし、キノト達には刺激が強すぎるから…。
「うーん、わたしの左目、完全に焼かれちゃったからなぁ…。移植する、っていう方法もあったんだけど、それが出来なかったんだよ」
「移植〜? 」
「うん。種族を変えれるウォルタ君なら分かると思うけど、元の姿じゃないと治療はできないでしょ…?」
「うん」
「目、っていう重要な場所な上にわたしの種族はラティアスだからね…。こっちの時代には何にんいるか分からないけど、わたし達の方はわたし以外に三にんしかいないから…。だから、膿んだり炎症を起こしたらいけないって事で、焼きただれた左目は摘出したんだよ…」
摘出…。って事は、手の施しようが無かったのかもしれないね…。僕が半ば無理に頼んだけど、ライトさんは淡々と答えてくれた。若干顔色が悪い気がするけど、それでもライトさんは、辛いはずなのに教えてくれる。思い出させてしまって胸が痛くなったけど、僕の想いに反して、ライトさんは話す口を閉じない。種族上短いから届いてないけど、左手でも、包帯で巻かれた患部を示しながら言い切っていた。
「手術は成功したから何とかなったんだけど、昨日も言ったけどまだ痛みは…、残ってるよ。だけどシルクが強力な鎮痛剤を創ってくれたから、何とかなってるって感じだね。…ウォルタ君? 」
「えっ? あっ、うん。…だけどライトさん? 摘出したって言ってたけど、種族上は大丈夫なの〜? ライトさんの種族のラティアスって、世代交代する種族でしょ〜? 」
「わたしも聴いた事無いから分からないけど、二十歳を越えて安定期に入ってるから、多分、後代には影響は出ないと思う」
ライトさんの種族の事は図書館で読んだことあるけど、そういう記述は無かった気がするから、大丈夫なのかもしれないね、きっと。少し考え事をしてたから、僕はライトさんの呼びかけに思わず頓狂な声をあげてしまう。一応聞いてたつもりだけど、申し訳ないけど、最後の方はあまり訊いてなかった。…だけど僕が聴いた手前、もう一回言って、って頼む訳にもいかないから、それを隠す為に別の質問をする。前に調べた事が合って知ってはいたけど、そのお陰で何とか誤魔化す事はできた。だけど僕は、それより…。
「なら安心だよ〜。…だけどライトさん、大丈夫? 顔色悪いけど…」
僕はライトさんの体長の方が今は心配。さっきよりも顔が青ざめてきてるから、僕が思ってる以上に無理をしてるのかもしれない。
「…ごめん。何日も乗らないから大丈夫かなー、って思ったんだけど、船酔いかな…」
そういえば酔いやすい、って言ってたっけ?
「本当に大丈夫なの〜? 」
「うん、平気。ちょっと風に当たれば治まるから…。だからウォルタ君、シオンちゃん達の方に行ってて」
「…だけど、あまり無理しないでね〜」
…体調が悪いのに、無理させちゃったかな…。ライトさんは何とか笑顔を見せてくれてるけど、気持ち悪いからなのか、その笑顔は弱々しかった。浮遊する種族のあるあるなのかもしれないけど、自分で浮いて移動するから、もしかすると自分以外の力で移動させられる事には体質的には弱いのかもしれない。伝説の種族でもそれが言えてるらしく、背中の翼も力なく下を向いている。今にも吐きそうなライトさんが心配だったけど、僕が補助してあげる前に、フラフラと身体を浮かせて船尾の甲板の方へ行ってしまう。僕に心配をかけまいとしてくれてるんだと思うけど、それが余計に僕をそういう思いにさせてしまう。…だけどライトさんに無理をさせてしまった手前、僕の我が儘? お節介? を押し付ける訳にもいかないから、空返事で頷く事しか出来なかった。
「…兎に角、先に行ってよ…」
『ウォルタ殿、今宜しいですかな? 』
『えっ? うん。丁度話が終わったところだから、大丈夫だよ』
いきなりでビックリしたけど、僕の感情も伝わってるんだろうなぁ…。一人残された僕は仕方なく立ちあがり、船首の甲板の方へと歩き始める。キノト達に合流して話そう、そうしようとしたその時、僕の頭の中に別の声が響き渡る。“心”を共有しているシロだってすぐに分かったけど、急だったから思わず驚きでとびあがってしまう。この感じも伝わっちゃってると思うけど、分かってくれてるのかここから訊いてくる事は無かった。
『それなら良かった。…要件からお伝えすると、臨時の“会議”が招集された』
『かっ、会議って、“伝下統領会議”だよね? 会期にしては早すぎない? 』
“会議”って、まだ開くには三ヵ月ぐらいはずだよね? 早急性を要する事だったのか、シロは結論から伝えてくれる。彼自身も僕と似たような気持ちらしく、共有している“心”を通して驚きとか焦りの感情が伝わってくる。本当に手短に伝えてきたけど、僕はそれだけで、その事自体、それと重大性を察する事が出来た。彼の感情に影響させたからかもしれないけど、僕も思わず心の中で声を荒らげてしまった。
『拙者も詳しくは聴いていないが、“太陽”から急な要請があったそうだ』
『たっ、“太陽”から? “虹”とか“風”なら分かるけど、何で“太陽”が? 』
最近自然災害が増えてるから、この二つとその伝承関係なら分からなくもないけど、何で“太陽”なんだろう? “太陽”と自然って、全然関係ないよね? シロは詳しい内容をすぐに教えてくれたけど、僕はその、要請した“地位”と最近のことがかみ合わなかったから、思わずシロを問いただしてしまった。“太陽”とは“会議”でしか話した事が無いから分からなけど、あの人が言うんなら、相当な事だと思う。
『それは“会議”の時に伝えられるそうだ。…急で申し訳ないが、ウォルタ殿、今晩は空いてますかな? 』
『うん。赤兌の祭壇の調査も終わったから、これからトレジャータウンに戻るつもり、だけど…』
『でしたら今晩、草の大陸の“承伝の回廊”に来てくれますかな? 』
『ええっと確か、磯の洞窟の近くだったよね? それなら、間に合いそうだよ〜』
『それなら一安心だ。…ならば拙者は、“志”の二人と落ち合ってから向かうとしよう』
『うん、それで頼んだよ〜』
シロでも行かないと分からない、って事だね? それに“承伝の回廊”なら、ワイワイタウンを経由しても間に合いそうだよ。心の中で謝ってから、シロた続けてその“会議”の日程を伝えてくれる。予定通りならシロはこの諸島のどこかにいるはずだけど、草の大陸を指定するぐらいだから、多分その近くにはいるんだと思う。それならって事で、シロは自分から、同じ伝承の二人を連れてきてくれる、そう言ってくれた。つい最近シロはその二人に会ってるから、確かにそうした方が手早く合流できると思う。だから僕は、全てを提案してくれたシロに、こう返事した。
『御意』
「…何か大変な事になったけど…」
キノトとシオンさんの事は、ライトさんに頼めばいいかな? トレジャータウンの場所も知ってるはずだし。頭の中での話し合いが終わり、僕はふぅ、って一息つく。この時にはもう甲板への扉の所に来れていたから、僕はこう考えながら扉のノブの握る。いつもならどこかの街によって、そこから一人で“承伝の回廊”に行ってる…、っていう前に、キノトが弟子入りしてからは初めてだけど…。でも信頼できるライトさんがいるから、何とかなりそう、僕は率直にそう思った。
「…っと、結局キノト達にはこの後の事は言えてなかったから、丁度良かったのかな。…あっ、いたいた〜」
ひとまず、今は気持ちを切り替えた方が良いかな? キノト達にムダな心配をかけないためにもね。僕は軽く頭をふって、重い内容で満たされていた頭を切り替える。少しふらっとしたけど、僕は何事もなく握ったノブを捻り、扉を開ける。危うく外からの突風に圧しきられそうになったけど、そこはありったけの力を込めて耐え切る。治まったところで一気に開け、先に出ている弟子たちの姿を探す。すぐに見つけることが出来たから、僕はそっちの方に駆けよ…。
「キノ…、えっ? 」
「うっ、うそ…」
「あれ? シアちゃん、知り合い? 」
駆け寄ろうとしたけど、予想外の組み合わせに、僕は思わず跳び上がってしまった。扉からは少し離れてるけど、船首の方に四つの陰…。そのうちの二つは、一足先に甲板に出ていたイワンコのキノトとスバメのシオンさん。そして残りの二つのうち、黒い方の彼女は僕がよく知っている人物。それは…。
「あっ、アーシア? こっちの諸島に来てたの? 」
「はい! 話すと長くなっちゃうのですけど、一回シルクさんの時代に行ってから、その友達と一緒に来てるんですっ! 」
向こうの諸島での事件で、一緒に行動していた仲間のうちの一人のブラッキー。あの事件以来会えてなかったけど、こんな場所で再会するなんて夢にも思ってなかったから、僕は思わずアーシアにこう訊ねていた。彼女も凄く驚いていたらしく、一瞬凄い表情になってたけど、すぐにいつもの表情に戻る。どういう理由で来てるのかは分からないけど、彼女は手短にその経緯を教えてくれた。
「ウォルタさん? もしかしてこの人達のこと、知ってるの? 」
「あっ、そっか。シオンちゃんは知らないんだよね? 何年か前なんだけど、ししょーとブラッキーさんは一緒に行動してた事だあるんだよ」
「一緒に? 」
「そうだよ〜。ニンフィア? のきみは初めましてだけど、何か月も一緒にいたんだよ〜」
「って事はシアちゃん? このミズゴロウ君も当事者なんだね? 」
一緒にって事は、シルクの友達っていうのは、彼女の事かな? シオンさんは当然不思議そうにしてたけど、それにはキノトが答えてあげていた。キノトは僕とシルクで書いた本をよく読んでくれてるみたいだから、もしかするとアーシアさんの事がすぐに分かったのかもしれない。キノトの言葉にシオンさんは首を傾げてたから、僕がキノトの説明に補足を加える。アーシアの事は話始めるとキリがないけど、大雑把に言うとこんな感じだと思う。色が違うニンフィアさんも聴いていたのか、納得したようにアーシアに訊ねていた。
「そうですっ! テトちゃんには前に話したとおもうけど、ミズゴロウのこの子がウォルタ君。出逢いは最悪だったけど、シルクさ…」
「ウォルタ君、やっと落ちつ…、てっ、テトラ? それにアーシアちゃん? 」
「らっ、ライトさん? 」
「ちょっ、直接トレジャータウンに渡るんじゃなかったの? 」
まっ、待って! 色々あり過ぎて訳が分からないんだけど! 僕の補足では十分とは言えないから、小さめのブラッキーのアーシアさんが更に付け加えてくれる。確かにアーシアの言う通り、僕の勘違いで出逢いは最悪だった。これも話すと長くなるけど、あの時の僕は冷静じゃなかった。今思うと、そういう訳であんな事をしちゃったんだと思う…。
けどアーシアが話してくれている途中で、船室の方からライトさんの声が響いてくる。風に当たって酔いが治まったらしく、彼女の声はいつものように明るかった。だけどその声に、すぐに驚きの感情が便乗してくる。それは名前を呼ばれたアーシア達も同じらしく、会ってからで一番びっくりした表情を見せていた。立て続けに色んなことが起きすぎて、僕は何が何だか分からなくなってしまった。
続く