弐参 異世界への興味
あらすじ
大浴場で逢ったライトさんと話すぼく達は、彼女の怪我の事聴いて唖然としてしまう。
左目を失ったって言ってたけど、それは仕事とか伝説の種族に関係する事らしい。
こんな事を話しながらお風呂を出たぼく達は、お互いの事を改めて紹介し合う。
だけどその時ライトさんが過去、五千年前の出身って聞いて、ぼくはまた驚いてしまった。
――――
[Side Kinot]
「…へぇー、やっぱり時代とか世界が違っても、同じものってあるんだね」
「みたいだね。…だけどわたしは、シオンちゃんの世界では空の方が多い、っていうのにビックリしちゃったよ」
うん、ぼくも驚いたよ! あの後ぼく達は、ロビーで話し込んでから部屋に戻った。…だけどその後は、ライトさんは一人で来てるって事で、ぼく達の部屋で寝るちょっと前まで話し込んでた。ただでさえ伝説の種族な上に過去の世界の出身だから、知り合い…、っていうより兄弟弟子のししょーも、色んなことをライトさんに訊いてた。流石にぼく、それからシオンちゃんも、途中から難しい話になってて全然分からなかったけど…。
…で、一夜明けた今日は、ライトさんと四人で船に乗ってる。ししょーだけじゃなくてライトさんがいるから飛んでも行けるけど、ししょーの提案で乗ることになってる。ぼくも実家に帰る時往復分貰ったんだけど、ししょーは探検隊協会から割引券を支給されてる、って言ってた。だけどししょーは変身すれば飛べるから、結構な枚数の割引券が余ってるらしい。ラムルタウンが始発じゃないけど、そういう訳で船で目的地に向かうことになった。行き先は、船を乗り換えるワイワイタウン、って事しか聴いてないけど…。
「ぼくもそうだよ。…だけどシオンちゃん? 人間って空は飛べなかった、って聴いた事があるけど…」
「うーん、何て言ったらいいのかな? 船みたいに乗り物…、に乗って移動するんだよ」
「へぇー。そこはわたしの時代と似てるね? 」
「そうだね〜。シオンさんとライトさんの世界は違うけど、時代は同じだからね〜。似たようなところがあるのかもしれないね〜」
ですね! …だけど不思議だなぁー。世界も時代も違うのに、こんなにも同じ事があるんだね? 違う世界、違う時代出身の三組? が集まってるって事で、ぼく達はそれぞれの世界の事で盛り上がっていた。ぼくは過去とか異世界の事にも興味があるから、この話は凄く楽しい。シオンちゃんも興味深そうに訊いたり話したりしてるから、僕と同じ気持ちなのかもしれない。五千年前の世界出身のライトさんは、特にシオンちゃんの世界の事を真剣に聴いてそうな感じだった。
「…あっ、そうだ。キノト、シオンさんも、折角の船旅だから、甲板の方にも行って来たらどうかな〜」
「甲板、ですか? 」
「あっ、そうだね。わたし、船に乗った事無かったから、一回潮風とかを感じてみたかったんだよ! 」
ししょー? 急にどうしたんだろう? 話の話題が切れたって事もあるけど、ししょーは何を思ったのか、いきなりぼく達にこう提案してくる。シオンちゃんは乗り気みたいだけど、ぼくはいまいち、その訳が分からなかった。だからぼくはすぐに訊き返し、ししょーにそのワケを尋ねようとした。だけどししょーが答えてくれる前に、シオンちゃんのワクワクした声に遮られてしまっていた。
「それも船旅の醍醐味だもんね! 油断すると酔っちゃうから、ちょっと苦手だけど…」
「意外だよ〜。…だけどライトさんって飛ぶ種族だから、何となく分かる気がするよ〜。…とりあえず、僕達もすぐ行くから、先に行ってて」
「あっ、はい…」
そっか。ライトさんは飛べるから、船に乗る必要なんてないもんね? ししょーの提案にはいまいち納得できてないけど、それはそれで考えがある、ぼくはそう言い聞かせて、何とか自分を納得させる。そうしてる間に、ライトさんが明るい声でシオンちゃんに続く。包帯が巻かれていて左の方が見えないけど、もし何ともなかったら、そっちの方も笑顔で緩んでると思う。船酔いしちゃう事には何となく親近感を感じたけど、ぼくとシオンちゃんは、早々に甲板の方へ追いやられてしまった。
「うん! キノト君、いこっか」
「うっ、うん」
「きっとわたし達の前では話せない事とかが…、あるんじゃないかな? 」
「そう、なのかな…? 」
話せない事って言ったら、協会の秘匿事項とか、未公表のダンジョンの事ぐらいしか思い浮かばないけど…。ぼくは何でか気になって考え込んでいたから、シオンちゃんの呼びかけに思わず変な声を出してしまう。シオンちゃんの方が背は小さいけど、ボーっとしてたから左の翼で腰の辺りを軽く叩かれる。されるがまま、っていう感じで甲板に出る扉の方に歩き始めてるけど、それと同じような感じで、ぼくはシオンちゃんに説得される。何故かは分からないけど、まだモヤモヤするけど、何となくは納得できた? ような気がした。
「わたしなら、そうすると思うから。だから、ねっ? 」
「そう、だよね。うん! 」
「でしょ? …あっ、そうだ。キノト君」
「ん、なに? 」
「向こうに着いたら、この世界の文字、教えてくれる? 」
ぼく達の? …あっ、そっか! にっこりと笑いかけてに言ってきたから、ぼくからもシオンちゃんにつられるように笑顔がこぼれる。シオンちゃんの笑顔を見てると、何故か安心できる気がする。何でかはよく分からないけど、多分、初めて会った時に倒れてたから、元気になってくれて安心してる、からだと思う。
こんな事を考えていると、シオンちゃんは何かを思い出したかのように声をあげる。何なんだろう、率直に沿う感じだけど、シオンちゃんがすぐに答えて…、じゃなくて言ってくれる。はじめは何でそんな事を知りたいんだろう、そう思ったけど、よく考えたら、シオンちゃんはこの世界に来てまだ二日目。文字はもちろん、この世界での常識を知らないはず。それなら…。
「いいよ! …じゃあ一緒に、シオンちゃんの世界の文字も教えてよ! 」
「わっ、わたしの? 」
「うん。ししょーのノートで一回だけ見た事があるんだけど、シオンちゃんが持ってたカード? に書いてあった文字と似てたんだよ。だから、一緒に教え合えば早いんじゃないかなーって思って」
そうすれば、一緒に勉強できるよね? 交換条件、じゃないけど、ぼくもシオンちゃんにこう提案してみる。ちょっとびっくりされちゃったけど、ぼくにとっても、いい事だとは思う。だってそうすれば、同じ意味の文字を比べながら知ったり教える事が出来る。移動とかで時間も限られてるから、そのほ…。
「いいよ! だってそ…、うわっ! 」
「シオンちゃん! 大丈夫? 」
「うん、ありがとう。キノト君が支えてくれたから、飛ばされずにすんだよ」
よかった…。話している間に外に通じる扉の所に来れたから、シオンちゃんは一番下のノブを右の翼で持ち、それを引いて扉を開ける。だけど海の上を早いスピードで進んでるから、開けた瞬間凄い風が入ってきた。それに煽られて、飛行タイプだけどシオンちゃんは煽られてしまう。だからぼくは咄嗟に、右の前足でシオンちゃんの背中を支えてあげた。
「どういたしまして。…一瞬だけだから、もう大丈夫だと思うよ」
「そうだね。…折角だからキノト君、前の方に行こうよ! 」
「いいね! 」
風が強いから行くのが大変だけど、その分遮るものが何もなくて、一番風をかんじれるしね! 飛ばされそうな風が吹いたのは一瞬だけで、ぼく、それからシオンちゃんも、これ以上風に煽られる事は無かった。すぐに甲板に出たけど、このままだと船の中に風が吹き続けることになるから、ぼくは目一杯の力で扉を閉める。危うく風の力に負けそうになったけど、途中からシオンちゃんが手伝ってくれたから、何とかなった。それからくるりと向きを変え、ぼく達は船首の方へ歩き始めた。
「うーんと、先に他のお客さんがいるけど、まぁいいよね」
「どいてもらう訳にも…、ん? 」
「あれ? あんな色だったっけ? 」
あの種族…、まさかね。あまり大きくない船だからすぐに分かったけど、ぼく達がいこうとしていた船首の方には既に先客がいた。その二人しかいないけど、そのうちの一人の種族はすぐに分かった。その一人は、遠いからかもしれないけど、少し小さめのブラッキー。ブラッキーといえばあの事が思い浮かぶけど、そんな筈は無いからすぐにその考えを頭の端に追いやる。それからもう一人は、多分ニンフィア。色が青かったから、すぐには分からなかったけど…。
「あのニンフィアさん、色違いなんじゃないかな? 」
「かもしれないね。うろ覚えだから自信ないけど、確かピンク色だっ…」
「あっ、ごめん。私達の話し声、うるさかったかな? 」
「ううん、そんな事無いよ」
気になったのは気になったけど、そういう事じゃないかな? シオンちゃんも似たようなことを考えてたらしく、ニンフィアさんの事を口にする。シオンちゃんの世界にはポケモンはいない、って言ってたけど、存在は知ってるみたいだから、多分その事を思い出していったんだと思う。潮風の中そんな事をぼく達は話していたけど、それがニンフィアさん達に聞こえたらしい。だけど嫌そうな顔は全然してなくて、むしろ明るい声でぼく達に訊いてきていた。
「それならよかったです。…ええと、きみ達も水の大陸に行くので…」
「えっ、うっ、嘘! それって…」
まっ、まさかとは思ったけど、本物だったなんて…! もう一人のブラッキーさんもホッとしたように呟いて、ぼく達の前に出て来てくれる。ぼくが思った通り少し小さめだったけど、ぼくはそれとは別の事で驚いてしまった。それは…。
「ぶっ、ブラッキーさんって、“導かれし者”、ですよね? 」
「えっ、そっ、そうですけど、何…」
「ししょーの本、読みましたよ! 向こうの諸島で、大企業の悪事を暴いたんですよね? 」
「シアちゃん? それって…、シルクが共同で出した、って言ってた本のこと? 」
あの紋章、絶対にそうだよね! ぼくが驚いたのは、そのブラッキーさん自身。ぼくの愛読書、ししょーがもう一人と共同執筆で出した本の記述の通り…。ぼくが異世界とか世界の成り立ちに興味を持ったきっかけでもあるから、間違うはずがない! ししょーの本にあった通り、ブラッキーさんの左の前足…? 二足で立ってるけど、そこには確かに二つの丸の間に線が一本入った紋章が刻まれている。この紋章はそういう人達の特徴の一つだから、ぼくはつい大きな声を出してしまう。そのせいで、ブラッキーさんを驚かせちゃったけど…。
「そうですっ! 急に当てられてびっくりしちゃったけど、あの事件のこと、知ってもらえてうれしいです」
「ぼくのししょーも関わっ…」
「あっ、いたいた〜。キノ…、えっ? 」
「うっ、うそ…」
「あれ? シアちゃん、知り合い? 」
本だけじゃなくて、ししょーからも直接聴いたからね! ブラッキーさんはぼくに言い当てられて凄く驚いてたけど、何とか立ち直れたらしい。ニンフィアさんはぼんやりとしか知らなそうな感じだけど、ブラッキーさんは少し恥ずかしそうにしながらも明るい表情でこう言ってくれる。ぼくは本だけじゃなくてししょー…、その事件の解決に関わった人物の一人から直接聴いたから、裏の事まで殆ど知ってる。…流石にプライバシーとかの関係で、どんな種族でどんな名前なのかまでは教えてもらってないけど…。
それでぼくとブラッキーさんのそれぞれで湧き上がっていると、船の中の方からししょーの声が聞こえてくる。パッと見た感じししょーだけみたいだけど、扉とか物陰で見えないだけで、一緒にいるのかもしれない。かと思うとししょーは、信じられない、っていう感じで言葉を詰まらせ、こっちに駆け寄ってくる。ブラッキーさんも、ししょーと同じ様な表情をしていた。そしてししょーとブラッキーさんは…。
「あっ、アーシア? こっちの諸島に来てたの? 」
「はい! 話すと長くなっちゃうのですけど、一回シルクさんの時代に行ってから、その友達と一緒に来てるんですっ! 」
仲良さそうに、そして再会を喜ぶように、手を取り合って話しはじめていた。
続く