弐弐 独眼の光
あらすじ
赤兌の祭壇から帰ってきたぼく達は、ぼくの地元の旅館に宿泊することになる。
シーズン外と言う事もあって空いていたから、ぼく達は広めの部屋を確保することができた。
それからぼくはシオンちゃんと一緒に、宿の大浴場で汗を流しに行く。
シオンちゃんの世界との違いに驚きながらそこに入ると、ぼく達はそこで伝説の種族って言われているラティアスに出逢う。
おまけにその人がししょーの姉弟子だったから、ぼくはでら驚いてしまった。
――――
[Side Kinot]
「らっ、ラティアスさんの弟弟子が、ウォルタさん? 」
「そうだよ〜。…それにしても久しぶりだね〜。シルク達は元気? 」
「うん! 元気といえば…、元気かな。ラテ君達はどう? 」
「最近忙しくて会えてないけど、三人とハク達も元気にやってるよ〜」
うーん、姉弟子っていうより、友達って言った方が近いのかな? 旅館の大浴場でラティアスさんと出逢って、そこでししょーとも合流した。ぼくはビックリし過ぎて何も言えなくなっちゃってるけど、シオンちゃんはそれほど驚いてないらしい。…っていうのも、まだシオンちゃんとも今日会ったばかりだけど…。
それで、ラティアスのライトさんがいるシャワーの傍で、ししょーは仲良さげに話している。久しぶりに会ったらしく、それぞれの知り合いの事を訊いてるみたいだった。会ってからずっと、右側から振り返ったままだけど…。
「そっか。早く会いたいなー」
「僕もだよ。…だけどライトさん? 今日はシルク達は一緒じゃないの〜? 」
「一緒だったんだけど…、シードさんの“時渡り”の時にアクシデントがあって…、はぐれちゃったんだよね…」
「しっ、シードさんが? 」
「あっ、アクシデントって、その人は大丈夫なんですか? 」
トラブルが? それにその人でもって事は、相当だよね? 会った事、無いけど…。ライトさん以外にも知り合いがいるらしく、ししょーはその人の事についても訊いていた。…だけど一緒じゃなかったらしく、ライトさんは少し俯いて、暗めの表情で首を横にふっていた。
ライトさんの様子でぼくは、何となくだけど大変なことが起きた、って事が分かった気がした。だからぼくは、心配そうに声を響かせているししょーに続いてこう訊いてみた。
「分からないけど…、シルク…、わたしの親友なら大丈夫だよ。パートナーもい…」
「らっ、ライトさん! その左目、どうしたんですか? まっ、まさか、“時渡り”のトラブルで…」
「ううん。左目は“時渡り”とは関係ないよ」
すっ、凄い事になってるけど、大丈夫なのかな…。ライトさんは心配しないで、っていう感じでぼく達の方に向き直りながら話してくれたけど、ぼくはずっと見れなかったライトさんの左目に、唖然としてしまった。左目の周りの羽毛が焼きただれていて、完全に生え揃ってない。その見えてる地肌も痣みたいになっていて、でら痛々しい…。その左目自体も閉じられていて、尚更その痛々しさが伝わってきてる…。そんな彼女にぼくもししょーと同じように、“時渡り”が原因、そう思った。けど、ライトさんはすぐにそれを否定していた。
「ほんの何週間か前なんだけど、任務中に焼かれちゃってね…。この火傷で左目が見えなくなっちゃったけど、その時に死にかけたから、失明しただけで済んだから、まだマシなのかな? 」
いや…、目が見えなくなってるんだから、ただ事じゃないでしょ…。
「任務中に? それにライトさんが失明するぐらいの炎って…」
「エンテイ、っていう伝説の種族。操られててダンジョンのひと達みたいに自我が無い状態だったけど…。…だけど、解放出来たから」
「そう、なんだ〜…。ライトさんの目も心配だけど、過去にそんな事があったんだ…」
「伝説って事は、もしかするとそういう伝承が残ってるかもしれませんね」
「…かもしれないね〜。エンテイが関わってる伝承は調べた事無いし、災害が落ち着いたら調査してみるのも、いいかもしれないね〜」
そうですね。今は最近起きてる自然災害の方がメインだけど、歴史的な事かもしれないし、丁度いいかもしれないね。ライトさんはこの左目の事を教えてくれたけど、その規模の大きさに、ぼくはまた言葉を失ってしまう。火傷って事は何となく分かってたけど、まさか伝説の種族から受けた傷とは夢にも思ってなかった。
「だね。…ウォルタ君、もし良かったら、風呂上がりにでも話すけど、どうかな? 」
「本当に〜? じゃあ、お願いしようかな〜」
「伝説の話し…、わたしもちょっと気になる、かな? 」
っていう事は、シオンちゃんって歴史とかに興味があるのかな? いつの間にか話が変わってたけど、さっきの様子とは違ってライトさんはにっこりと笑いかけてくれながら提案してくれる。その笑顔は作ったモノとか無理してるとか…、そんなんじゃなくて心の底から出てるように見えた気がする。確かにぼくもシオンちゃんと一緒で、知らない間に伝説の種族に何が起きてたのか知りたい。“時渡り”云々って言ってたから、考古学者見習いとしても気になる、ってのが表向きの理由、かな? …兎に角、ぼく達はこんな風に話し込みながら一日の汗と汚れを流していった。
――――
[Side Kinot]
「…よしっと。これで大丈夫かな」
「うん、ありがとう」
シオンちゃん、器用なんだね? 一通り汗と汚れを落としてから、ぼく達は一緒にロッカールームまで出てきた。ラティアスのライトさんも一緒に出てきたから、この時までに少しだけライトさんの事を教えてもらった。さっきも言ってたような気がするけど、ライトさんは伝説の種族だけど、ししょーみたいに伝承には直接関わってないらしい。だけど伝説の種族の能力は使えるから、シロさんみたいに他の人とはちょっと違うんだとか…。だけどシロさんと違う所もあって、ライトさんの種族は不老節不死とかじゃなくて、世代交代をするらしい。流石に何代目かまでは知らないみたいだけど、同じ代の中では下から二番目の歳なんだとか…。
…で話を戻すと、温風室で体を乾かしてからは、部屋に戻るための準備。…とは言ってもぼくは財布しか持ってきてないからほぼ手ぶらだけど、ライトさんとししょーはそうじゃない。ぼくは飲み物を買いに行ってたからその場を外してたけど、シオンちゃんはライトさんの左目に包帯を巻いてあげていた。パッと見火傷と失明したって事以外は何ともなさそうだったけど、まだ痛みは完全に引いた訳ではないらしい。焼かれた左目自体のメインの治療は終わってるけど、まだかなりの痛みが残ってるらしい。…だけど強力な鎮痛剤を投与してもらってるから、ちょっと違和感があるくらいで今は殆ど痛みはないらしい。…その効能はあとニ、三日もすれば切れるみたいだけど…。
「…あっそういえば、まだきみ達の事、何も訊いてなかったね? 」
「そうだったね」
「ぼくもうっかりしてましたよ」
言われてみれば、まだぼく達の事、全然話してなかったね? 体勢を低くしてシオンちゃんに包帯を巻いてもらってたライトさんは、思い出したように声をあげる。ぼく、たぶんシオンちゃんも、話しに夢中だったから、ついその事を忘れてしまっていた。彼女に言われてハッとなりながら、ぼくはこんな風に声をあげる。そのままぼくは、自分の事を順番に語り始めることにした。
「…じゃあぼくから。…ぼくはイワンコのキノト。歳は十五で、ししょーの下で学者見習いをしてます」
「見習い? …って事は、ウォルタ君の弟子なんだね? 」
「はい! まだししょーの弟子になって一か月ぐらいしか経ってないけど、いつかししょーみたいになって、この世界の成り立ちを歴史的な見方から解き明かしたい、って思ってます! 」
「世界の成り立ち? キノト君の夢って、何か凄く壮大だね」
「ししょーの本を読んで、ぼくもそんな事を調べてみたいって思ったんだよ! 」
他の大陸の事件の事だけど、歴史の事も書いてあったから、凄く面白かったんだよね! それにぼくが考古学者になりたい、って思ったのも、あの本がきっかけだし。ぼくは喫茶店で見かけたあの時の事を思い出しながら、ライトさんに教えてあげる。シオンちゃんにはついで、になっちゃったけど、まぁ、大丈夫だよね? 今日は持ってきてないけど、夢の始まりのソレも交えながら、こんな風に言い切った。
「本かぁー。わたしはあまり読まないからなぁ…。…んーと、わたしはスバメ…、で、いいんだよね? 」
「うん」
「人間? だったスバメのシオン。十五歳で…、学生だった…」
「人間? ってことは、シオンちゃんも過去の世界の出身なの? 」
「えっ? 驚くとこ、そこ? 」
ちょっ、ちょっと待って! 普通人間って事にビックリするはずだよね? ぼくはてっきり、ライトさんもぼくと同じように驚くかと思ってた。だけど彼女は、僕の予想に反して別の事が気になったらしく、シオンちゃんに思った事を訊く。予想外の事だったから、ぼくは思わず声をあげてしまった。
「わっ、わたしが、過去? 」
「うん。わたしも詳しくは分からないんだけど、この世界では二千年ぐらい前? に滅んでるみたいなんだよ。…だからわたしと同じで、過去の世界から来てるのかなー、って思っ…」
「らっ、ライトさんが? 」
「さっき言い忘れてたけど、そうなんだよ〜」
「そうそう。流石にシオンちゃんの年代までは分からないけど、わたしはこの時代から五千年前の二千年代の出身なんだよ」
「ごっ、五千年も? って事は、わたしも五千年前の出身って事だよね? 」
「僕の知り合いもそうだったから、多分シオンさんもそうだと思うよ〜」
五千年も前なの? それに…、シオンちゃんとライトさん、同じ時代の出身って事だよね? …もうビックリし過ぎて何が何だか分からなくなってきちゃってるけど、少なくともぼくはこれだけは分かった気がする。シオンちゃんが過去の世界の出身って事は何となく分かってたけど、まさか五千年も大昔だったとは思ってなかった。それにそのライトさん自身も過去の世界の出身、って言ってるから、尚更…。それならって事で、ぼくはまた別の事が気になり始めてきた。だけど衝撃の方が大きすぎて、一言も口を開くことができなくなってしまった。
続く