玖伍 邸宅での攻防
―あらすじ―
“ルノウィリア”の奇襲を受けたぼく達は、二手に分かれてそれに応戦する。
ぼくはシルクさんと組んで戦う事になって、ぼくが好きなように戦っていいって言ってくれた。
だからぼくは技と“術”の両方を使いながら戦い、シルクさんも“尾術”と技を同時に使って倒す事が出来た。
それで倒した後は“リナリテア邸”に向かい、ぼく達三人はダンジョン化しているそこに足を踏み入れた。
――――
[Side Kinot]
『…慎重に進みたいところだけど、そうも言ってられなさそうね』
「そうだな、うん」
建物の中のダンジョンなんてはじめてだから…、ししょーならゆっくり進みそうだよね? “リナリテア邸”の門をくぐったぼく達は、庭を通って玄関から中に入った。サードさんの予想では庭からだったけど、外れて野生も何も出来なかった。だからもしかすると庭は、他のダンジョンで言うなら中間地点とか…、そういう位置づけになりそうな気がする。門をくぐる前にシルクさんが、“エアリシア”のダンジョン化も進んでる、って言ってたから、多分ね…。
それで今さっき建物の中に入ったんだけど、パッと見た感じでは高そうな屋敷みたいな雰囲気がある。元々が歴史に出てくるような邸宅だからだと思うけど、床は石造りじゃなくて絨毯が敷かれている。薄いグレーの絨毯が一面に広がっていて、壁にも高そうな装飾とか家紋とか…、そういうのが施されてる。天井からは豪華なシャンデリアがぶら下がっていて、そのお陰で窓がないけど凄く明るい。…ここまでは普通のお屋敷と変わらないけど、ダンジョン化してるからなのか、おかしいところもいくつかある。シャンデリアを見た時に気づいたけど、普通と違って天井まで八メートル以上はあると思う。玄関から入って一歩も動いてないはずなのに、振り返った後ろにあるのは扉じゃなくて壁…。それに入ってすぐは階段とかがあるようなイメージがあるけど、装飾とか以外には通路が右に二本、左と正面に一本ずつ伸びているだけ…。
「そういえばここって、
未開のダンジョンって事になりますよね? 」
『そうね…。私は全く手つかずのダンジョンに潜るのは初めてだけど、調査の仕方ぐらいは心得ているつもりでいるわ』
「なら問題無さそうだな、うん。…しかし広さ、野生の強さ、環境の何一つ分からない状態だ、警戒するに越した事はないだろう」
「やっぱりそうですよね」
それで辺りの様子をうかがっていたシルクさんは、ぼくの質問にすぐに答えてくれる。未開の地の調査なんてした事ないけど、シルクさんがした事あるなら何とかなるような気がする。…だけど今回の目的はそれじゃないから、サードさんの言うとおり注意しながら進んだ方が良いと思う。ちょうど今シルクさんが腰を上げたから、今から出発、かな?
『ええ。…時間が惜しいから、いきましょ』
「はい! 」
「…ケホッ! 」
「シルクさん、大丈夫ですか? 」
『平気。少しむせた…、だけだから』
本調子じゃないみたいだけど、本当に大丈夫なのかな? 一番近い通路に向けて歩き始めた辺りで、シルクさんが急に咳き込み始める。ぼくとサードさんの方から顔をそらしてしていたけど、ぼくが聞いた感じだと痰が絡んだような…、そんな咳をしてた。一瞬間を置いてから答えてくれたけど、響いてきた声には心配しないで、そんな意味合いが含まれてるような気がした。
「…だが無理だけはするな、うん」
『…肝に銘じてお…』
「ガルルゥッ! 」
「――っ」
『まさかこんなに早く来るとは思わなかったわね…』
でっ、ですよね…。一直線の通路を進みながら話していたけど、ぼく達はその先で待っていたものに言葉を失ってしまう。サードさん三人分ぐらいの通路を抜けたその先は、入ってきた場所よりも少し広めの小部屋。…ここまでは良かったんだけど、運悪くそこはモンスターハウス。ソレがあるのは環境がプラチナレベル以上ってししょーが言ってたから、多分ここはそれ以上になるんだと思う。
…っとこんなのんびり語ってる時間なんて無さそうだから先に進むけど、パッと見た感じこの部屋には八にんぐらいの野生…。シルクさんが咄嗟に目覚めるパワーで飛んできたスピードスターを打ち落としてくれたけど…。
「そうだな、うん。種族はミニリュウが四にタブンネが二、ドレディアとファイアローが一匹ずつか…」
『ミニリュウ…。流石“リナリテア邸”って感じだけど、闘い辛いわね…』
「ガァッ! 」
「目覚めるパワー! サードさん! 」
「キノト、すまん、助かった」
種族はミニリュウが半分だけど…、甘く見ない方が良いかもしれないよね。サードさんがこんな風に言ってたけど、シルクさんはその前から凄く苦い顔をしてた。何でなのかは分からないけど、もしかするとここの家の人…、多分ハクリューかカイリューに知り合いがいるから、その人の事を思い出してしまってるんだと思う。どういう関係があるのかも分からないけど、シルクさんの言うとおり、“リナリテア邸”で野生のミニリュウがいるのも何となく分かる気がする。…だけどそう思ったのもつかの間、ドレディアが急に接近してきていたから、ぼくはそれに対して攻撃を仕掛ける。口元に炎のエネルギーを溜めて、サードさんがいる方に撃ち出した。
「どういたしましてです」
「っ――」
『っキノト君、これ使って』
「ええっと…」
何なんだろう、これって…。戦いやすいように真ん中の方に移動してからだけど、感謝の気持ちを伝えてくれたサードさんに頭を下げる。結局外れて攻撃できなかったけど、こう言われるとうれしいけど少し恥ずかしい。…だけどダンジョンではいつまでも浮かれてる訳にもいかないから、ぼくは無理矢理その感情を頭の中から追い出す。…かと思うとこの間にサイコキネシスで準備していたらしく、シルクさんがぼくに銀の針みたいな何かを渡してくれた。
『私のオリジナルの“依属の針”。フライが使ってる装備品って言えば分かるかしら? 』
「フライさんの…、はい! 」
あの、技を針状にしてたアレだよね? 右の前足で受け取ったのを確認してから技を解除してたけど、最初はいまいちピンときてなかった。…だけどすぐに語ってくれたから、どういうものなのか…、霧が晴れたみたいにすぐに分かった。“依属の針”ならフライさんが使ってて知ってるから、ぼくはすぐに大きく頷いた。
「特殊技を物理技にできるんですよね? 」
『そうよ。私は一本あれば十分だから、キノト君に一本あげるわ』
「本当ですか? ありがとうございま…」
「ガアァァッ! 」
「鎌鼬! フィフ、キノト、来るぞ! 」
「ふぁっ、ふぁい! 」
『ええ! 』
そっ、そうだよね? フライさんと同じ装備品をもらえてうれしかったけど、やっぱりそんな時間はくれそうにない。八体の野生が一斉に攻撃を仕掛けてきたから、ぼくは慌てて貰った“依属の針”を口に咥える。そのせいで声が篭っちゃったけど、サードさんが空気の刃を飛ばしてる間に何とか気持ちを切り替える事だけは出来た。だからぼくは頷いてから、口元にエネルギーを蓄えていく…。
「
ふぇふぁふぇふぁわーっ! 」
すると尖った針の先から、炎を思い出すような紅い、三十センチぐらいの長さのエネルギー体が形成された。
『成功ね』
できた…! 紅い長針の準備が出来たから、ぼくは真っ直ぐ相手を見据える。ぼくの目覚めるパワーは炎タイプだから、属性的にもドレディアを狙うのが一番良いと思う。だからって事でぼくは前足と後ろ足に力を込め、アクセルロックは発動してないけど一気に走り出す。標的まで五メートルの所まで近づけたタイミングで右斜め後ろを向き…。
「ガァッ? 」
すれ違う時に勢いよく左を向く。そうする事で針で相手を切り裂き、特殊技だけど物理的な攻撃を仕掛ける。咥える顎に力を入れたけど、慣れてないせいか凄く重い衝撃が紅い針を通して伝わってきた。
「…
ひへる! 」
凄い…。まだ効果が残ってる! 前足から着地してすぐに向き直ったけど、ぼくが創り出した紅い長針は未だ維持されてる…。特殊技に限らず技は一度命中したら消滅するけど、シルクさんがくれた針のお陰でまだ残ってる。だからぼくはすぐ前に跳び出し、連続でドレディアに斬りかかる…。
「ァッグルルァァッ! 」
「っくぅっ! 」
…けど流石に二回目は成功せず、空元気で防がれてしまう。おまけに相手の攻撃の威力が強すぎて、ぼくは派手に壁の方に飛ばされてしまう。維持していた紅い針も消滅して、受け身もとれず思いっきり叩きつけられてしまう。
「ガアアアッ! 」
『キノト君! 』
「キノト! 」
あっ…、これ…、マズイかも…。更に悪い事が重なり、ぼくが飛ばされたのはタブンネの真正面。派手に飛ばされたって事もあって、その相手の標的にされてしまう。一瞬クラッときた視界で見た感じだと、あの技は多分捨て身タックル。アクセルロックで逃げようとしても、一メートルも離れてないから間に合わないと思う。大ダメージを覚悟したぼくは、堅く目を閉じて衝撃に備…。
「
十万ボルト! 」
「…えっ? 」
衝撃に備えてはいたけど、いつまで経っても痛みが襲ってこない…。だから訳が分からないまま目を開けてみると、そこにはぼくにトドメを刺そうとしていたタブンネ…。だけどどこからか放たれた電撃でやられ、丁度崩れ落ちたところだった。
「カァッ! 」
「アイアンテール! 誰か知らへんけど、無事? 」
『えっ…、うっ、嘘よね? 』
「はっ、はい…」
…誰なんだろう? だけど偶然、だよね…? 電撃が放たれたその方向を見てみると、そこには一人のハクリュー。最初はダンジョンの野生かな、って思ったけど、よく見ると耳元にアクセサリーとかスカーフを身につけてるから、絶対に違う。それにこの人は、今ぼくに向けてリーフストームを放とうとしているドレディアに急接近し、硬質化した尻尾を思いっきり叩きつける。一発で気を失わせていたけど、その断末魔の代わりにシルクさんの唖然とした声が響いてきた。
『ハク、何でここに来…』
「後で話すで、シルク、サードさん、それにキミも、今はこの敵を何とかするで! 」
「そっ、そうですよね。…アクセルロック! 」
もしかしてシルクさん、この人と知り合い? ハクリューさんの一言で我に返ったぼくは、慌てて先制技を発動させる。これまでの間に野生の数は四にまで減ってるけど、ミニリュウが二匹とタブンネとファイアローが一匹ずつ残ってる。“依属の針”はしまったから、今から出そうとすると時間がかかると思う。だからって事でぼくは、相性的に有利なファイアローを狙って見る事にした。
「カアァーッ! 」
「アクアテール! 」
「ッ? 」
「キミ、何の技が使えるん? 」
「アクセルロックと目覚めるパワー、あと思念の頭突きと岩落としです」
四メートルぐらいの高い位置にいたから、ぼくは壁を蹴って三角跳びをする。そうする事で同じぐらいの高さまで跳んで、そのまま相手に正面から突っ込む。今度はちゃんと命中したけど、特性の効果なのか、ぶつかった時少しだけ熱かった。それでぼくの攻撃に合わせて動いていたらしく、ハクリューさんはぼくとすれ違うように攻撃を仕掛けてくれる。横目で見た感じだと尻尾に水が纏わり付いていたから、ハクリューさんはこれで倒すつもりなんだと思う。前足で着地の衝撃を逃がした時に衝撃音が聞こえたか、多分そう…。
「近距離型やな。…なら次、いくで! 」
「はい! 」
続く