玖肆 “技”に“術”と書いて“技術”
―あらすじ―
“エアリシア”に着いたぼくは、シルクさんとサードさんの三人で行動を開始する。
フライさん達と分かれて目的地を目指し始めたけど、早々に“ルノウィリア”の奇襲を受けてしまう。
シルクさんのサイコキネシスで何とかなったけど、“太陽”と“月”の連合で苦戦する事になりそう。
話した結果ぼくとシルクさんで“月”のアーマルドの相手をする事になり、今日最初の戦闘が幕を開けた。
――――
[Side Kinot]
「来ねぇなら俺からいくぞ! 」
「うわっ…! あっ、アクセルロック! 」
シルクさんみたいになってないから…、何とかなるのかな? シルクさんと作戦会議をしてたけど、そんな時間を相手はくれなかった。話している途中にぼく達に向けて走り始め、見た感じその鋭い爪に力を溜め始める。慌てて先制技でかわしながら見た感じだと、あれはミナヅキさんが使ってた“爪術”だと思う。
「ちっ、外したか…。だがこれならどうだ? 」
横目で見た感じでは、相手は一度舌打ちをしてから、突いていた右手を右に振り抜き、走るようにしてぼくを追いかけ始める。
『そうはさせないわ! 』
「――、――――! 」
「貴様…、さては魔術師か」
体を捻るようにして反転し、ぼくは走ってきている相手に向き直る。後ろ足が地面についたタイミングで見てみると、シルクさんは鞄からビンを取り出し、真上にこぼした液体を“チカラ”で使える冷凍ビームで凍らせる。
『“月の次元”ではそういう事になるわね。…キノト君』
「はい? 」
『私が合わせるから、思うように戦って』
「…はい! 」
アーマルドがどのぐらい戦えるか分からないけど…、シルクさんがこう言ってくれてるから、大丈夫だよね?
「もう一回アクセルロック! 」
それを三回ぐらい繰り返していたから、その間にぼくはもう一度先制攻撃を仕掛ける事にした。
「クソガキが…、“月”の俺に敵うとでも思ってるのかぁ? 」
まず始めに三メートルぐらい走って勢いをつけ。
『そう言ってられるのも、彼の目が緑のいまのうちよ? 』
攪乱するように左右に跳び、まだ十メートルぐらいある距離を詰めていく…。
「目の色だぁ? んなこと知ったことかぁっ! 」
シルクさんが語った事がどういう意味なのかは分からないけど、相手もぼくに向かうようにして走ってくる。
「ししょーの師匠に鍛えてもらったんだから、簡単にはやられません! 」
スピードに乗れたから技を解除し、そのままのスピードを維持。五メートルになったところから相手の動きに注意を向け、同時に頭の中を真っ新の状態にしていく…。
「んなら貴様の望み通り、その命刈り取ってやるぁっ! 」
…見えた! 爪の射程範囲に入ったところで、相手は鉤爪状の爪を振りかざしてくる。だけどぼくは…。
「そこっ! 」
「くっ…」
爪が掠めるスレスレで軌道を見切り、間一髪のところで攻撃をかわす。…だけどそれだけでは終わらせず、反時計回りに体を捻った勢いも乗せて、左前足の爪で斬りかかる。ミナヅキさんに教えてもらった“迎術”を発動させ、アーマルドの右腕に切り傷を負わせる事に成功した。堅くて少し痺れてきたけど…。
「“迎術”…。貴様…、“月”を裏切ったのか? 」
『裏切るも何も…、彼は“太陽”の住民よ? 』
成功したから、次は…。前足と後ろ足、同時に着地したぼくは、すぐにバックステップで距離をとり始める。普通なら相手が追いかけてきそうだったけど、シルクさんが黒い球体…、シャドーボールで牽制してくれたから、何事も無く退く事が出来た。そのままシルクさんが入れ替わるようにして、言葉を伝えながら駆け始める。
「目覚めるパワー! 」
「――…」
『…中々、っ難しいわね…』
だから今度はぼくが、シルクさんが攻めやすいように援護する。潜在的な力に意識を向け、それを口元に集めていく…。それをぼくが持つエネルギーそのものの性質である炎の属性に変換し、球状にして一発撃ちだした。
シルクさんはシルクさんで、走りながら攻撃の準備をする。目覚めるパワーを準備しながら見た感じだと、多分シルクさんは“尾術”を発動させてると思う。二股に分かれた尻尾に薄紫色のオーラが纏ってるから、多分そう…。更にその状態で技を同時に発動させているらしく、オーラ自体が暗い青色でコーティングされ始める。だけど結構際どい状態らしく、喋ってたら息切れしてそうな声が、ぼくの頭の中に響いてきていた。
「なっ…! “魔術”に飽き足らず…っぐぁぁっ…、“尾術”まで…使うか…」
両手の爪で抱きかかえるように切り裂いてきた攻撃を、シルクさんはその状態を維持したまま真上に跳んで回避…。着地と同時に左前足を軸にして、技と“術”が混ざった尻尾で相手の左足に向けて振り抜く。懐に潜り込まれたアーマルドはかわす事が出来ず、左側に体勢を崩していた。
「岩落とし! シルクさん! 」
『助かるわ』
この隙にぼくはエネルギーを送り込み、相手の真上に岩を出現させる。咄嗟に振り上げた右の爪で砕かれたけど、シルクさんが退くための隙だけは作る事が出来た。
「…クソガキが…、下等種族のクセに…図に乗るなぁっ…! 」
シルクさんの複合した攻撃が効いたのか、体勢を立て直したアーマルドは若干ふらついてきている…。何とか踏ん張って誤魔化してるけど、喋る声だけは嘘をつく事が出来ず、所々途切れてしまってる。
「“月の次元”の事は聞いてますけど、“太陽”の意地をみぐびらないでください! 」
「―――…―」
これは…、チャンスだよね? 殆どシルクさんのお陰だけど、弱ってきている相手に対して更に攻撃を仕掛ける。反時計回りに迂回しながら距離を詰め、相手の背後をとる。ちょうどシルクさんがさっき作ってた氷の破片を飛ばしてくれていたから、気が逸れた相手の背後を簡単にとる事が出来た。その状態でぼくは進路を九十度左に変え、相手の背中に向けて急接近。同時に全身に力を溜め、深呼吸しながらエネルギーを活性化させる…。エネルギーを力に変え…。
「…思念の頭突き! 」
シルクさんに教えてもらったエスパータイプの物理技を発動させ、大ダメージを狙う。
「ぐぅっ…! 貴…様…っ! 」
相手の背中を前足で押して跳び下がり、着地と同時に別の技を発動させる。
「これで最後です! 目覚めるパワー! 」
五センチぐらいの火球を口元に創り出し、振り向いて爪を振りかざそうとしてきたアーマルドめがけて解き放つ。
「っ…よく…も…っ! 」
狙い通りフラフラな足元に命中し、体勢を崩した相手は膝をつく。
「――っ」
「ぁぁっ! 」
そこへシルクさんの氷片が降り注ぎ、耐えられなかったらしく、アーマルドはソレで意識を手放していた。
「…フィフ、キノト、無事か? 」
「はい! 殆どシルクさんなんですけど、こっちは倒せました」
『その様子だと、サードさんも難なく片付いたようね? 』
「久々の実践で鈍ってはいるが、何とかな、うん」
そういえばサードさん、どんな戦い方するんだろう? ちょうど向こうも倒せたらしく、別のところで戦っていたサードさんがこっちに来てくれる。シルクさんは鞄から何かを取り出して作業し始めてるけど、横目でチラチラ見ながらしているらしく、テレパシーで会話に参加…。ぼくもサードさんの言葉に大きく頷き、一度シルクさんの方を見てからサードさんに戻した。
『流石保安協会の代表ね。…よし、と。ミウさん達のために目印もつけたから、次に進みましょ』
「そうだな、うん」
「ですけどシルクさん? 場所は分かるんですか? 」
そこに“月の笛”を盗んだ黒幕がいるかもしれない、って言ってたけど…。倒せたって事で歩き始めたぼくは、ふと思った事があってシルクさんに訊いてみる。ぼく達は古い貴族の邸宅に行く事になってるけど、シルクさんが知ってるのかどうか分からない…。保安協会代表のサードさんなら知ってそうな気がするけど…。
『ええ。“ルノウィリア”に潜入してたときに、場所だけは把握してるわ。…ほら、あの大きな屋敷がそうよ? 』
「あれがですか? でもあれって…」
学校の教科書で見た事あるけど…、絶対にそうだよね? 戦った場所からあまり歩いてないけど、近かったらしくシルクさんが右の前足で指して教えてくれる。だけどその先にあったのは、ぼく達の時代なら誰もが教科書で見た事があるはずの建物。それは…。
「“リナリテア家”の邸宅だ、うん」
“エアリシア”が王国だった頃からの古い貴族の、“リナリテア家”の屋敷だったから…。
「…ですけど何で“リナリテア家”の屋し…」
『結論から言うと、この街の市長、ジク=リナリテアも一連の事件の黒幕だからよ』
えっ…?
「くっ、黒幕って…」
「言葉の通りだ。これ以上自体が混乱しないよう情報は公開していないが、保安協会と一部のチームには零級のお尋ね者として通達してある。…俺がこの作戦に参加しているのは、ジク=リナリテアを確保するためでもあるな、うん」
『…だけどこの感じ、元凶はココで間違いなさそうね』
「やはりフィフもそう思うか…」
「ええっと…、何なんですか、その元凶って…」
『キノト君はまだ気づけて無いと思うけど、“エアリシア”は街全体がダンジョン化し始めてる…。このままいくと、今日の夕暮れには完全に呑まれてるかもしれないわね…。私が潜入してる時はそんな事無かったんだけど、この辺り…、“リナリテア邸”を中心に特に濃くなってきてるわ…。…親友の実家だから、信じたくは無かったけど…』
「…それも、目的の一つだ、うん。…フィフ、キノト。訊くまでも無いと思うが、行けるな? 」
『ええ。…私もあまり時間が無いから、最初からそのつもりよ』
「ぼくもです! コークさん達がする事になってるけど、“月の笛”を取り戻すためにも、ぼくは行きます! 」
「…では、行くぞ」
「はいっ! 」
『ええ! 』
続く