玖参 開戦
―あらすじ―
朝早く起きたぼくは、サードさん主導の作戦会議に参加する。
前から計画されていた作戦らしく、ぼくとししょーが関わらなかった案件、“月の次元”からの侵入者を捕まえるのが目的らしい。
その途中で潜入する組み合わせが発表され、ぼくはシルクさんとサードさんと“ルノウィリア”に行く事になる。
他にも作戦に関していろんな事を話してもらってから、ぼくたちはミウさん達のテレポートで現地へと赴いた。
――――
[Side Lien]
「…さん、リアンさん? 」
「ん? あぁごめんごめん」
「凄く眠そうですけど、大丈夫ですか? 」
「徹夜明けやけど、慣れとるで平気やよ」
…けど流石に今回はきつかったよなぁ…。
「そう、ですか…。ですけどあんまり無理しないでくださいね」
「うん、まぁほどほどにしとくよ」
突貫で作ったけど、散々テストしたで大丈夫やろう。
「…あっ、そうだ。さっき“ワイワイタウン”から物資が届いたんですけど、どうすればいいですか? 」
「うーんと、そうやねぇ…。とりあ地下の方に運んどいてくれる? 」
今まで色んな属性を研究してきたけど、伝説の種族の能力は初めてやったなぁ…。マフォクシーのあの人の炎が混ざっとったで、純粋な能力って訳やないけど…。
「地下ですね? じゃあいってきます」
「頼んだで」
――――
[Side Kinot]
『…フライ、そっちは頼んだわ』
「うん。シルクも、無理せずほどほどにね」
『ええ』
…だけどどうなるか分からないよね。ミウさん達のテレポートで“ルノウィリア”…、“エアリシア”っていう街に来たぼく達は、すぐグループに分かれて行動を開始する。来たのは三十人ぐらいだから全員じゃないんだけど、ミウさんみたいな伝説の種族と、“パラムタウン”とかでシルクさん達が助けた人達が殆どみたい。その人達は今さっき出発して、今フライさんとかシャトレアさん達を見送ってるところ。前足を揃えて見送るシルクさんに、フライさんは恒例らしいセリフを彼女に言ってから羽ばたき始めた。
「あとはぼく達だけですね」
『ええ』
「彼らの組が最も心配だが、本当に大丈夫なんだな? 」
『問題ないわ。フライは普通のフライゴンだけど、何年か前に“光の雲海”を突破してる…。元の時代でもひとりだけでリーグを突破できるだけの実力はあるはずだから、彼の強さは私が保証するわ』
ぼくも何回か見てきたけど、シルクさんだけじゃなくてフライさんも凄かったからなぁ…。唯一残ったサードさんは、フライさんの背中を見送りながらふとこう訪ねてくる。一応フライさんも泉で少しだけ戦ってたけど、その時サードさんはその場にいなかった。だからフライさんの戦い方とか…、そういうのは知らないはずだから、それを確かめるためにも聞いたんだと思う。それにすぐシルクさんは答えてたんだけど、それはある意味ぼくの予想通りの返事だった。“光の雲海”は幻のダンジョンって言われてるけど、確か“星の停止事件”の時、フライさん達はシロさんとそこを通って“幻の大地”に行った、って言ってたような気がする。
「“光の雲海”を、か。ウォルタの師と聞いているが、それなら問題無さそうだな、うん」
『あっそうだ。色々あって渡しそびれてたけど、頼まれていたもの、預かってるわ』
「まさか間に合うとは思わなかったが、助かる」
『ルデラにいるエンジニアの親友がラスカに来ていてね、偶々頼めたのよ』
…ん? ルデラのエンジニア? ってことはもしかして…。
「もしかしてシルクさん。その人って、フィリアさんですか? 」
シルクさんが親友、って“伍黄の孤島”の時に言ってたから、多分そうだよね? ふと何かを思い出したシルクさんは、見えない力で鞄から何かを取り出す。それが何なのかは分からないけど、五センチぐらいで全体的に黒っぽい。シルクさんはそれを誰かから預かってきたみたいだけど、ルデラのエンジニアって聞いて、ぼくはある人の事を思い出す。その人もシルクさんの事を言ってたから、ぼくはエーフィの彼女にこう訊いてみることにした。
『そうだけど…、よく分かったわね? 』
「“伍黄の孤島”の時にご一緒したんですけど、そのときに言ってま…」
結局そこの“ビースト”は見てないけど、確かライトさんとシャトレアさんが倒…
「ラスターカノン! 」
「――――! ]
『不意打ちしたつもりかもしれないけど、残念だったわね』
「ちっ…」
えっ、なっ、何? そのとき言ってました、ぼくはそう言おうとしたんだけどその途中で誰かの声に遮られてしまう。油断していて全く気づけなかったんだけど、ビックリしながら振り向いたそこ…、ぼくの目と鼻の先まで銀色の球体が迫っていた。…だけどシルクさんが気づいてくれていたから、ぼくの一メートルぐらい手前の空中でピタリと止まってる…。その先では狙いを外したハッサムが、悔しそうに舌打ちしていた。
「狙いは良かったようだが、技までは考慮できてなかったようだな、うん」
「しっ、シルクさん、ありがとうございます」
『どういたしまして。羽音も気配も消してたから、気づけないのは仕方ないわ』
「女如きに止められるようじゃあ、貴様もまだまだだなぁ」
「うるせぇっ! んならお前はここまで近づけたか? 」
…もめてるよね、これって。危ないところを助けてもらったから、ぼくはサイコキネシスで止めてくれたシルクさんに頭を下げる。そのシルクさんも気にしないで、って感じで言葉を伝えてくれたけど、その途中で相手の方が小競り合いを始めてしまう。ぼくに攻撃しようとしたハッサムはアーマルドに棘のある言葉を言われ、癪に障ったらしく声を荒らげる。こんなに言い争ってると仲間なのかも怪しいけど、親しそうな感じでもあるから…、正直言ってどうなのか分からない。
「報告に無い種族となると…、ハッサムは“月”か」
『…となると、ハッサムのあなたは“太陽”ね』
「ご名答」
『…だけど私を見ても何も思わない辺り、最近来たばかりのようね』
ってことは、敵の中では下っ端なのかな? シルクさん、それからサードさんの予想があってたのか、アーマルドの方が感心したように呟く。シルクさんが伝えてきた言葉にどんな意味があるのか分からないけど、この感じだとサードさんは何か知ってるのかもしれない。一瞬上の方に目を向けて何かを考えていたけど、すぐになるほどな、って感じで頷いていた。
「それもアタリだな。…まぁ新参のコイツは末端の末端だけ…」
「末端? “太陽”如きが、“月”の俺に敵うとでも思ってるのかぁ? 」
この二人、絶対に仲悪いよね…?
「“太陽”だか“月”だか知らねぇが、そこまで言うなら俺がソコのデカブツをやってやろうじゃねぇか」
「面白い。そこまで言うなら殺ってみろよ」
「倒せねぇからって泣きついてくるんじゃねぇぞ! ラスターカノン! 」
「ドラゴンクロー。フィフ、キノト、“月”のアーマルドは任せた」
『ええ』
「はっ、はい! 」
何となくこうなるような気はしてたけど…、大丈夫かな? 小競り合いをしてた相手二人は、いつの間にかぼく達を倒すって事で意見が一致したらしい。敵の本拠地だから仕方ないけど、この感じだと戦闘になると思う。本当にそうなってしまって、ハッサムの方が今度はサードさんに向けて銀色の球体を飛ばしてくる。だけどそれは、青黒いオーラを右前足に纏わせたサードさんにあっさり切り裂かれていた。
『キノト君、サポートするから戦ってみて』
「えっ、ぼくがですか? 」
『そうよ。昨日の今日で急ごしらえだけど、並のチームぐらいには戦えるようになってるはず…。だか…』
「来ねぇなら俺からいくぞ! 」
「うわっ…! あっ、アクセルロック! 」
続く