壱肆 弟子との合流
あらすじ
ギルド協会の使いで調査団の拠点を訪れた僕は、そこにいる考古学者、クチートのアリナさんと再会する。
アステルさんもその場にいたから、僕はすぐに用件を伝える。
それから僕は、砂の大陸にある史実遺産に関する予定を彼女たちに伝える。
帰省している弟子にとっては二度手間になってしまうけど、僕はひとまずその彼が来るのを待つことにした。
――――
[Side Wolta]
「…すみませーん! 」
「ん、お客さんかな? 」
この声は…、うん、そうだね。僕達がアリナさんの部屋で話していると、建物の入り口の方から誰かが呼ぶ声が聞こえてくる。僕はすぐに誰か分かったけど、面識がないアステルさんは首を傾げながらその方をチラッと見る。
「イワンコのキノトですけどー、ししょーって来てますかー? 」
「キノト君ね? ええ、今いくわ! 」
その声の主は続けて、ここにも聞こえるように大声でこう名乗る。それで気付いたらしく、アリナさんはすぐにそれに応え、彼のいる入り口の方へを部屋を出ていった。アステルさんはどんな子なんだろう、とでも言いたそうに、見るからにワクワクしたような感じでその彼が来るのを待ちわびているらしかった。
「ウォルタ君、キノト君ってどんな感じなの? 」
「うーんと、一言でいうなら、素直で親思いって感じかな〜。一応礼儀も…、あっ、来たね〜」
とりあえず、予定通りの便に乗れたんだね、この感じだと。アステルさんは待ちきれないっていう感じで、僕に彼について尋ねてくる。こんな彼をみるとトレジャータウンの親方を思い出すけど、流石にそこまで奔放な人じゃないのかもしれない。…兎に角僕は、ちょっとまでば済むと思うけど、スルーする訳にはいかないからすぐに教えてあげる。礼儀も身につけてるよ、そう言おうとしたけど、アリナさんの案内で来てくれたから、その途中で彼にこう呼びかけた。
「キノト君、久しぶりね。合うのは一か月ぶりぐらいかしら? 」
「はい! あの時の探検、でら楽しかったですよ! 」
「あれ以来、また行きたいって聴かないからなぁ〜」
それがキノトにとっては初めてのダンジョンだったから、思い出に残ってるのかもしれないね、きっと。彼を連れてきてくれたアリナさんは、そのままの流れで話しかける。それにイワンコの彼、僕の弟子のキノトは満面の笑みで大きく頷いた。
さっきも言った通り、彼は僕の考古学の弟子。初めて会ったのは一か月半ぐらい前で、僕が調査途中にラムルタウンに寄った時に知り合った。町の料理店に入った時に偶々会ったんだけど、彼は僕と僕の親友が共同で書いた本を読んでくれていて、それで僕の事を知ってくれていたらしい。本の内容は考古学関係の事じゃないけど、キノトは前から考古学には興味があったらしい。志した当時の僕とは違って、親御さんも賛成してくれていたみたいだから、それ以来慕ってくれて僕から色んなことを学んでくれている。もちろん考古学だけじゃなくて、バトルとか道具の使い方とか…、ダンジョンで必よなことも教えているよ。
「あはははー。あっ、そうだ。アリナさん、ぼくの故郷のお土産なんですけど、よかったらみんなで使って下さい! 」
「お土産? ラムルタウンのね? 」
「はい! 」
「ええっとこれは…、香辛料のギフトセットだね〜。僕も向こうに行ったらよく食べるけど、トーストとかにふりかけると凄く美味しんだよ〜」
「そうそう! 熱々に溶かしたチーズもかけたりすると、格別なのよね」
うんうん! キノトがお土産として持ってきたのは、彼の故郷では定番の香辛料。それも五種類ぐらいが小瓶に詰められた、贈答用。定番のお土産品っていう事もあって、ラムルタウンを訪れた人は必ずと言っていいほど買って帰るっていっても過言じゃないと思う。僕も頻繁にベリー達とシリウス達に買ったりもするくらいだから、たまに売り切れたりしてるね、向こうでは。
話に戻ると、キノトが買ってきてくれたお土産で、僕達は結構盛り上がる。僕もこれを使った料理は好きだから、贈り物としては凄く良いと思う。僕の見た感じだと、アリナさんはすごく嬉しそう。僕とは違う使い方も言いながら、その箱の中の小瓶を一つ、手に取っていた。
「へぇー。…じゃあ、今日の夜ご飯はこれで決まりだね」
「ええ! キノト君、ありがとね」
「どういたしまして! …ええっとししょー、ししょーの用事はもう終わったんですか? 」
「うん、キノトが着くちょっと前にね〜」
どれくらい話したか分からないけど、あまり経ってないね、たぶん。キノトのお土産で、ここの晩御飯のおかずが決まったらしい。アステルさんも楽しみ、っていう感じで、無邪気な声をあげていた。それにアリナさんにも褒められたキノトは、ちょっと照れて…、だけどすごく嬉しそうに満面の笑みで大きく頷く。それから彼は話題を切り替えて、僕にこう話しかけてくる。だから僕は、こんな感じですぐに答えてあげた。
「だからキノトと合流し次第、出発するつもりだったよ〜」
「出発ですか? って事はししょー、次はどこに行くんですか? 」
「キノトには二度手間になっちゃうけど、赤兌の祭壇だよ〜。キノトも、風の大陸で土砂災害があったのは知ってるよね〜? 」
号外が出たぐらいだから、流石に砂の大陸でも報じられてるはずだよね?
「はい。実家に着いた時に、新聞で見ましたよ。壊滅的な被害だ出たって…」
それなら、話が早いかな?
「その通りだよ。それに他の場所でも異常気象が起き始めてるから、天候が荒れやすい赤兌の祭壇の様子を見に行く、って感じだね〜」
それと、周辺に住んでる人達への聞き込みだね。詳しい事は端折ったけど、僕は弟子の彼にこれからの事を簡単に伝える。途中首を傾げながらだったけど、彼は僕を真っ直ぐ見つめて、真剣に聴いてくれた。向こうでもニュースを聴いてたみたいだから、この説明だけで何とか分かってくれた、と思う。
「そうなんですか。そういえば、向こうもいつもより風が強かった気がします。だからぼくも気になってたんですよ」
「それなら、適任ね。…だからウォルタ君、キノト君、向こうの事は頼んだわよ」
「はい〜」
それならそこまで気負う事も無かった、のかな? これって…。僕はてっきり、すぐ戻ることになるから渋ると思ってたけど、その予想はいい意味で外れてしまう。風が強かった、最近の事があるから心配だけど、キノトも気になってたなら丁度良かったのかもしれない。
「そういう事だから、アリナさん、アステルさんも、そろそろ行きますね〜」
「分かったわ。それじゃあ、下まで…」
「ううん、玄関じゃなくて上の方にお願いします」
「うっ、上? 」
外から見ただけだけど、ここの高さなら、大丈夫そうだね。一応用件が済んだから、僕達は次の目的地に行くためにここを発とうとする。アリナさんは玄関の方まで見送るって言ってくれたけど、出来れば上の方がありがたい。だから僕は彼女の言葉を遮って、出かけた部屋の左側を目線で示す。当然アリナさんは、意味不明な僕の言葉に素っ頓狂な声をあげてしまっていた。
「“飛んで”いくんですよね? 」
「そうだよ〜。その方が早いからね〜」
「飛ぶ…、あっ、そっか。レシラムに迎えに来てもらうんだね? 」
「すぐに分かりますよ! 」
そうだね、これは口で説明するより見た方が早いからね。キノトは訳を知ってるから、すぐにその事を話してくれる。その一言で何かを感づいたのか、アステルさんはパッと明るい声で僕達に訊いてくる。それにキノトが代わりに答えてくれたけど、それは正解じゃない。だけどそのまま建物の上層に案内してもらい…。
「そうだね〜。…うん、これくらいの高さなら、大丈夫そうだよ」
「えっ、ウォルタ君! キノト君も何考えてるの! 」
一番近い窓の冊子に跳び乗り、そこから真下を覗き見る。大体の目算だけど、これからアレをしても十分に間に合う高さはあると思う。こう判断したところで、キノトも遅れて同じように跳び乗る。事情を知らないと僕達はとんでもないことをしてる事になるから、当然アリナさんは慌てて駆け寄り、僕達を止めようとする。だけど僕は全く気にせず…。
「大丈夫ですよ! ししょーは特別ですから! 」
「キノト、いくよ〜」
「はい! 」
一切躊躇うことなく外に跳び下りる。キノトに合図を送ってから跳び下りたから、先を行く僕に彼も続いた。
このままだと飛行タイプでもドラゴンタイプでもない僕達は、自ら命を発とうとしている事になる。だけど僕は、その限りじゃない…。跳び下りるとすぐに、僕はある種族の姿を強くイメージする。すると僕は瞬く間に強い光に包まれ、すぐにそれが収まる。そこには…。
「キノト、飛ばすからしっかり掴まってて〜」
「はい! アリナさん、アステルさん、今日はありがとうございましたー! 」
元の姿と同じ白いスカーフを身につけている、ウォーグルが姿を現す。そのウォーグル、僕は後から落ちてくるキノトを背中で受け止めてから、力強く両前…、じゃなくて左右の翼で空気を思いっきり叩く。同時に体を逸らすことで、僕は一気に浮上する。僕が跳び下りた天文台と同じ高さまで浮上したタイミングで、多分キノトはその方を見、きっと唖然としているアリナさん達に手を振っていた。
僕が伝説の当事者、十七代目の“真実の英雄”として持っている“チカラ”の一つが、こうしてウォーグルに姿を変えれる、っていう事。僕が身につけているこの白いスカーフも、“真実の証”っていう代物。シロの話しだと使用者を“選ぶ”道具らしく、適合する人…、つまり“真実の英雄”じゃないとちゃんとした効果が出ないんだとか。それ以外の人が身につける…、触っただけでも大変なことになるらしいけど、まだ決心できてなくて聴けてないかな…。話をちょっとだけ戻すと、種族が変えれるっていう強力な効果があるから、それ相応のデメリットもある。就いている地位によってメリットも違うみたいだけど、僕の場合は、姿を変えれる代わりに技を合計四種類しか使う事が出来ない。二つの姿で合わせて四つだから、片方では半分の二つだけ…。その他にも、僕は他の他人と比べて、毒とか混乱とかの状態異常のへ耐性が極端に弱い。だから、戦闘向きじゃないのかな、僕の“チカラ”は…。
…兎に角、僕は弟子のキノトを背中に乗せて、水の大陸の上空を滑空する。もちろん目指すのは、砂の大陸にある赤兌の祭壇。そこへ向けて、僕は大きな翼を力いっぱい羽ばたかせた。
続く